犯罪 (創元推理文庫)

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制作 : 酒寄 進一 
  • 東京創元社 (2015年4月3日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488186029

犯罪 (創元推理文庫)の感想・レビュー・書評

  • 著者は弁護士としても活躍するドイツ人。実際の事件に着想を得て、異様な犯罪の機微を描いた短編集。博物館の警備員として働く男が、「棘を抜く少年」という彫刻に魂を奪われ、棘が抜けたのかどうか気になって仕方がなくなる『棘』に、私も魅入られました。最終話の『エチオピアの男』には心を揺さぶられます。犯罪に走った人々の人生に触れる本作は全体的に暗く、えぐいシーンも結構ありますが、洗練された印象。

  • 11作品の中で「棘」が印象的。

  • ミステリーと思って読んだので、なんだかん?とポカンとしてしまった。

  • 誰だって魔が差すことはあるだろう。
    タイトルからクライムミステリかと読み始めたが、良い意味で違っていた。
    冒頭にもある通り、罪を犯すか犯さないかは薄氷の上にいるかのように、わずかな違いしかないのだと。
    なぜその出来事は起こったのか、一見冷めていると言えるくらい淡々と経緯が表される中に、普通に生きていた人たちへの痛みが沈んでいた。

  • 「犯罪」というタイトルに、ミステリーやサスペンスを読んだ後の重苦しさをイメージしていたのだが、まったく違った。

    この短編に登場する人々は、普通に生きる誰よりも「人らしく」生きてしまった者たちだ。
    そのはかなさや切なさ、愚かさが、なんとも愛おしく思えてくるほどだ。

    弁護士である著者のフェルディナンド・フォン・シーラッハは、あくまでも冷静に、公平に、穏やかに、犯罪を犯してしまった者たちの姿を描き出している。

    貧困、親の影響、精神のアンバランス。。。
    さまざまな理由で犯罪を犯す人々がいる。

    厳しい守秘義務があるから、すべてはシーラッハの創作であることはわかっているが、その姿のリアルさに、今でもあの犯罪者たちがドイツに実在するような気がしてしまう。

    三つの文学賞を獲ったのもうなずける。
    「犯罪」というタイトルだが、登場人物は「ただの人間」。
    実にクオリティの高い人間ドラマである。

    なお、読んでいるうちに、登場する人物の母国が非ドイツ語圏外であることに気づいた。
    それが不自然でないほどドイツに移民が多いのなら、なるほど、現在のドイツ社会の不穏な空気も理解できなくはない。

  • 誰しもが、罪を犯すかもしれない。
    昨日までの「日常」と今日の「異常」はつながっている。

  • 「エチオピアの男」の中で「ドイツの刑法は罪刑法定主義だ。罪の重さで罰せられる。自分の行為で生じた責任がどれだけ重いかが問われる。これを確定することは厄介なことだ。中世では,その行為だけをもとに罰せられていたので簡単だった。泥棒は腕を切られる。しかも常に。金銭欲から盗みを働いたのか,飢えていたからなのかは問われない。当時の罰則は数字のようなものだったのだ。…現代のドイツの刑法はもっと賢い作りになっていて,実情に対応できるが,判断ははるかに難しくなった。銀行強盗は,かならずしもつねに銀行強盗であるかは限らない。」

  • 今までに読んだことない感じのミステリーだった。
    短編集だがどの話も罪を犯す人間を描いていて、その人間が善人悪人に関わらず、何かの瞬間犯罪に走ってしまう可能性を書いていた。
    好きな話は「チェロ」「ハリネズミ」「幸運」「棘」「エチオピアの男」。
    「チェロ」は一番物悲しく美しい話だった。
    「棘」はある一点が気になり出したらそれだけしか考えられなくなりやがて侠気へと走ってしまう精神性を見事に描いていた。
    「サマータイム」のトリックはサマータイム導入国でも騙されるものなんだろうかと疑問だったけど、自分は見事に騙された。この話は唯一謎解きを楽しめる。
    「エチオピアの男」は所変われば人間こんなに変われるもんなんだなと。

  • 人が罪を犯す経緯を描いた短編集。
    なかなかへヴィな内容が淡々と語られる。魂が強い人向け。
    でも内容のわりに下品ではなく知的なので読後感はそんなに悪くない。
    これはリンゴではない。

  • 最初は淡々と変わった事件を綴ってるのかと思ったけど、急にちょっと謎かけになってる話もあったり、ドイツの刑事訴訟システムが垣間見えたりしてなかなか面白かった
    しかしあほなので、謎かけの意味が未だにわからない…

  • 読むのを悩んでいたけど、読んで良かった。
    『エチオピアの男』は噂通りいい話で、タイトルが『犯罪』なのに、心が温まった。
    全体的には、切ない話が多いし、きっと犯罪のきっかけは、こういうものなのかも。更に切ない。
    また、しばらくしたら読もう。

  • すごい弁護士!実話に基づいてるというけど、すごい法廷ミステリーの連続!

    耐え続けた夫婦生活の最後に壊れてしまった精神、耐えてきた悲しさ。

    謎の日本人の復讐の恐ろしさ。

    異常な育てられ方をした兄妹、愛する兄が壊れてしまった絶望。異常な父が二人のことを思っていた事実。

    愚鈍を装う移民末弟が鮮やかに兄の犯罪を無罪に導く。

    愛する人が殺人を犯したと思い込み、それを背負い込む男。

    自分のために売春をしていた恋人が浮気していると思い惨殺。客が冤罪に。

    おそらくプロの殺し屋の正当防衛。

    美術館の守衛として閉じ込められたしまった男の変調。

    狂いつつある顧客は治療のアドバイスを受け入れなかった。

    銀行強盗がエチオピアで人生を発見するドラマ。

    いずれも奇談。謎は永遠に謎であり、犯罪の陰にある人間の精神の異常とそれを生んだ環境が読後重く残りました。

  • 今年、というより去年も含めて一番面白い短篇小説集でした。
    人が罪を犯すに至る過程、事件が起こった背景を、加害者の人生を辿ったりしながら、時に冷酷に、時にユーモラスに描いています。
    "私"という、作者を思わせる弁護士の述懐で11の事件がまとめられています。全体的にとても淡々とした落ち着いた文章です。
    それでいて中には本格ミステリのような話もあったり、ピカレスク小説のような話もあったり。バラエティに富んでいます。
    作者が実際に見聞きしたことが多く引用されていると思うのですが、娯楽として安心して読めるように書かれているのがすごいです。
    私が好きなのは「ハリネズミ」と「正当防衛」です。

  • 刑事事件を扱う弁護士の視点から見た11の事件の物語。事件の背景、特に容疑者の事情を細かく描写していることで、この罪をどう裁いて良いのか、裁けるのか、考えさせられる。

    作者はドイツの弁護士らしい。実話なのか実体験をベースにした創作なのか知らないが、リアリティがある。

    ミステリー要素は1編を除いてほとんどない。原文が良いのか、翻訳が良いのか、軽快に読み進められた。

  •  2012年に読書界の話題を独占した短編集として知られている本書は、1994年から刑事弁護士として活躍しているシーラッハのデビュー作である。15年間の弁護士活動の間に書き溜めたものなのか、それまで溜め込んであった事件の裏にある物語を一息に短編として書き始めたものなのかは謎だが、事件というものが持つ多様性そのままに、語られる物語も多種多様である。

     どの作品にも作者は顔を出すが、それは極めて一部である。裁判にならなければ、あるいは弁護活動を引き受けなければ作者はこれらの物語中に顔を出すことはかなわない。犯罪に関わる人間のそれまでの物語は、生きている時間の分だけ長いけれども、弁護士である「わたし」が関わるのは事件を接点にした弁護活動のわずかな断面においてのみである。

     短編作品は、行間に多くの物語が詰まった印象を残す切れ味鋭い刃物で切り取られた非常に短いパラグラフ
    で構成される。リズムとテンポよく読めるが、内容は、血のごとく濃く深い。そこに人間という多様性が呼吸をして生きてきているからである。

     『罪悪』を読んでから改めて振り返ると、本書『犯罪』の方が少しアクティブで危険な要素が強いように思う。最初の短編集ということで力が入っており、『罪悪』では少々書き慣れてきたことによるのか、肩の力が抜けて少し余裕を持ったものが多いように思う。笑いの要素であるとか、寄り道とかそういったものが。だから『犯罪』の方が、毒が強く、少し危険な要素をはらむ。

     人間の正気と狂気の間を漂いながら、弁護士という仕事を通じて、非日常の分野に長けてきた作者シーラッハは、まさに同職と人生の先輩である自殺した叔父の影響を色濃く持つ。文庫版の本書には、単行本にはない作者の序文が寄せられている。そこで語られるのが、亡き叔父の謎の死と、彼の遺した言葉「物事は込み入っていることが多い」である。確かに、多い。どの物語も込み入った事件と、込み入った顛末を扱っている。

     すべての作品に「りんご」が象徴的に登場しており、物語によっては「りんご」は作中人物たちの人生を圧倒的に変える。「込み入っている」事情の代名詞のような存在が「りんご」なのかなと思えるような、本短編集のすべての物語の共通項である。それもまた罪や人生と同じく、不思議、としか言いようがないのであるが。

  • ミステリーではあるのだが、謎解きがメインなのではなく、この罪を犯した人をどう裁くのか?はたまた裁けるのか?「裁かれるのは、罪か?正義か?」と。そんな短編11編。

  • 吉行和子、橋爪が推薦。

  • 短編だけどどれも良かった

  • スタスタと歯切れのいい文章。
    大げさな装飾や凝った言い回しはなくて、何かの記事やルポを読んでいるよう。
    にもかかわらずなのか、だからこそなのか(たぶん後者)、そのままストレートに染みてくる。
    特に「フェーナー氏」や「チェロ」は個人的に胸が痛かった。

    登場する幾人かには、その後の幸を心から願いたい。
    「エチオピアの男」のあとの一文もお楽しみに!

  • 犯罪をめぐる11のミステリー。とても面白かった。翻訳も優れているのだと思う。

  • [罪がある、訳がある]表層上は何ということもない犯罪の内幕を丁寧に描いていくミステリー短編集。銀行強盗をしたにもかかわらず、公園で寝そべってすぐに逮捕された男の半生を綴った「エチオピアの男」、愛の契りの強さ故の殺人を描いた「フェーナー氏」などを収録しています。著者は、弁護士としても活躍し、処女作である本書で様々な文学賞を受賞したフェルディナント・フォン・シーラッハ。訳者は、ドイツの大学でも学んだ経験を持つ翻訳家の酒寄進一。


    トリック的な謎解き、というよりも「どう裁きますか?どう裁けますか?」という問いをどの短編も投げかけており、読者は読み進めるとともに法律や裁判の難しさを痛感させられること間違いなし。裁判員制度の導入と時を合わせるかのように日本でシーラッハ氏の作品が注目を集めたのも頷けるところといった感じでしょうか。


    本書をして優れているなと思わせるのが、どの短編もエッジが利いててエンタータインメントとして成立しているところ。難しい法律問題をミステリー、サスペンスという形に置き換え、良い意味で間口を広くしてくれているところに、本書の社会的意義もあるように思います。見事な日本語訳を届けてくれた酒寄氏にも感謝感謝です。

    〜ある警官がある裁判官に、弁護人は正義という車のブレーキでしかないといったことがある。その裁判官は、ブレーキがなければ車は役に立たないと答えたという。刑事裁判は、この力の綱引きのなかではじめて機能するのだ。〜

    それにしても描写の生々しさもこれまたスゴい☆5つ

  • 実際に起きた犯罪と犯人についての物語を記録した形の11篇の短編集。

    作家自身が弁護士であるので、物語ひとつひとつが現実めいている。
    海外と日本で法律が異なることは当たり前であるが、少し戸惑う部分もある。
    現実にあった事件をもとにしているので、物凄いトリックなどはなく、意外な真犯人もいない。それでもひとつひとつの作品を十分読ませる文章だった。

    弁護士なら当然なことだが、依頼人の利益が優先されるし、依頼されていないことはしない。
    どう見ても犯人に違いない人物や精神疾患などの重大犯罪予備軍のような人物であっても、警察に通報したりしない。その結果、犯罪を犯すことになっても罪悪感を特に感じない様子であるところが理解に苦しむ。
    明らかに犯行を重ねることなどが予測されるのに、それを止めようとしないでいられるなんて。自分が直接の被害者になりかねない場合や、自分の大切なひとが巻き込まれるかもしれなくても、依頼人の利益を優先させるのだろうか。
    もしそうならある意味たいしたものだけれど、きっとそういう場合は警察に通報すると思うので中途半端で身勝手だと感じたりもした。

    2012年の本屋大賞「翻訳小説部門」第一位に選ばれるだけあって翻訳が良かった。
    読みやすい文章だったので、この作家の他作品にも興味を持った。
    全ての物語に「リンゴ」が何らかの形で出てくる。それには気づいたけれど、作者がそこに秘めた思いをどこまで気づけたかは疑問だ。

  • 人が「犯罪」を犯す、様々な理由、生い立ち、環境。ミステリーの要素はあまりないけれど、独特の雰囲気が魅力的な短編小説集でした。

  • 私(弁護士)を語りべとし、いろいろな犯罪を示した短編集である。
    犯罪者が悪という訳でなく、ひとつ間違えれば誰もが犯罪者になる可能性がある事が示されている。
    有意義な人生はなんなのか、人生について考えさせる一冊。

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