犯罪 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488186029

作品紹介・あらすじ

【本屋大賞翻訳小説部門第1位】一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作! 解説=松山巖

感想・レビュー・書評

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  • 「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
    序章の一文が象徴するように、この短編集は、いろいろな出来事が積み重なっていき、後戻りできない犯罪を犯す人々を描いている。
    犯罪を犯す刹那は、今まで踊っていた薄氷が不意に割れて、冷たい氷の下に落ちてしまう瞬間のようだ。誰だってそうなる可能性はある。
    作者も言う。「幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば」。

    あくまで淡々と事実を積み重ねるクールな筆致ながら、行間に溢れ出すようなやるせなさや、切なさや、時には幸福感などの叙情を感じざるを得ない文体、ものすごく好みだった。
    例えば最初の『フェーナー氏』、フェーナーの心情は一度もはっきり書かれない。フェーナーは、ラストに「しわくちゃになった封筒」から出した新婚旅行の写真の、妻の顔を親指でなでる。その写真は「保護膜がはがれ、彼女の顔はほとんど真っ白になって」いるのだ。
    その描写で、フェーナーのいろいろな込み入った思いが伝わってきて、胸がいっぱいになる(読めば分かります…!)。

    特に好きなのは『タナタ氏の茶碗』『チェロ』『正当防衛』『エチオピアの男』。
    『チェロ』の最後、『華麗なるギャツビー』からの引用の「さあ、櫂を漕いで流れに逆らおう。だけどそれでもじわじわ押し流される。過去の方へと」も、胸が締め付けられる(こちらも読めば分かります…!)。
    『エチオピアの男』は、泣ける!!

  • 大好きな本屋大賞、2012年の翻訳小説部門第1位作品、このミス第2位等々、多くの賞の受賞作ということで手にした一冊です。

    著者の作品は初読みでしたが、著者がうまいのか、訳者がうまいのか、やはり両者がうまいんでしょう。
    ※翻訳がうまいと感じたのは「獣どもの街(ジェイムズ・エルロイ)」の田村義進さん以来です。

    11の短編は全てが刑事事件の弁護人として罪と犯罪者に向き合います。

    1話あたりざっくり20P程度なんですが、なにせ描写がうまい。

    特に印象に残ったのは「棘」、精神が崩壊していく様、そしてそこから立ち直るラスト、なるほど。

    これってあり得なくないよなぁ...って思いながら、この時の犯罪者の心理って...なるほど、こんな感じなんだ...

    ってな感じでサクッと読み終えました。

    特に改行の使い方は計算されているなぁと感じた作品。

    機会があれば他の作品も手にしてみたいと思います。


    説明
    内容紹介
    【本屋大賞翻訳小説部門第1位】一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作! 解説=松山巖
    内容(「BOOK」データベースより)
    一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。―魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    シーラッハ,フェルディナント・フォン
    1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年最高指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍する。デビュー作である『犯罪』が本国でクライスト賞、日本で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を受賞した

    酒寄/進一
    ドイツ文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • これは絶品の短編集。

    一生愛し続けると誓ったはずなのに。
    盗みの代償は、予想外の恐怖?
    兄のためにチェロを弾く妹。
    愛する人のための秘め事が。
    正当防衛でここまで??

    犯罪を犯すとは、ある種の悲しみや不条理を伴うものなのかもしれない。

    訳も読みやすい。

  • 2020年9月9日読了。

    弁護士としても活動する著者が、実際の事件をモチーフに描いた11編の短編集。

    『フェーナー氏』
    『タナタ氏の茶盌』
    『チェロ』
    『ハリネズミ』
    『幸運』
    『サマータイム』
    『正当防衛』
    『緑』
    『棘』
    『愛情』
    『エチオピアの男』

    どの作品もタイトル通り、犯罪について描かれている。
    だがミステリー小説における犯罪の謎解きやどんでん返しがあるわけでは無く、犯罪が起こってしまった動機や、犯人の心理、罪を犯した全ての者が罰を受ける事の是非を問うような、弁護士である著者らしい観点からの作品集だと思った。

    『フェーナー氏』『幸運』『エチオピアの男』では、何が善で何が悪なのか考えさせられるようなテーマの内容。
    『チェロ』では、悪者は誰もいないはずなのに、浮かばれないラスト。
    『棘』『愛情』では、精神異常者、カニバリストの話があったり、
    『タナタ氏の茶盌』『緑』のようなちょっとよく理解出来ない話があったりと、
    その内容は多岐にわたって楽しめた。

    やはり翻訳ものは少し読みづらさを感じてしまうが、これはまたもう一度読み直したいと思わせてくれる作品だった。

    巻末に『これはリンゴではない』という意味深な言葉がある。
    全ての作品にリンゴが登場していたり、装丁の絵がリンゴだったりと、そういう遊び心?もあり面白い。

  • 本屋大賞一位ということで、初めて読んだ。
    面白かった。

    刑事事件専門の弁護士の著者が語る「犯罪」。
    罪は、ときに救いようがなく、とんでもなく不可解で、あるいは何がいけなかったのかと、どこで間違えてしまったのかと思うような危うさの上に、淡々と揺るがずにのっかっているというか…
    大袈裟な表現もなく、ただ淡々と、嫌悪感も同情もすこし離れたところにおいたまま。
    不思議な読後感だった。
    味わったことのない、辛いとか甘いとかもはっきりしないような、うま味?のような満足。

    「序」にある、著者のおじがいう「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」という言葉がストンと落ちてくる。


    11篇の短編の中では、「フェーナー氏」「幸運」「正当防衛」「エチオピアの男」が良かった。

  • 2012年の本屋大賞、翻訳小説部門一位だったんですねー。
    自分の中では、現在シーラッハの波が来ていまして、新しい作品から原点回帰している最中です。

    ある人が「犯罪」に至る過程を辿る、のは勿論よくある構成なのだけど、その契機というのか、ターニングポイントのようなものに、重きが置かれている印象を受ける。
    「フェーナー氏」のような、妻からの度重なる罵倒の末、殺してしまった、というような「見える」筋の作品はまだ安心して読んでいられる(笑)

    ホテルで美女が殺されていた「サマータイム」と、統合失調症の羊殺しの「緑」については、これで解決かーと思いきや、ラスト一ページに、「ん?」と思わされる展開が含まれていて、しばらく考えたり、読み返すも、謎が解けなくてもどかしい……。

    個人的には「ハリネズミ」が好き。
    犯罪者一家に生まれた異色の弟が、機転を効かせて、捕まった兄を助けるお話。
    「サマータイム」にも通じるのだけど、先入観で「コイツは悪いことをしている」と読んでいる所を覆されるのは、恥ずかしいけれど、好き。

    一つの「犯罪」に対して、自分は勝手な物語を付け加えていることをきっと否定出来ない。
    小説を読んで、その読み方や解釈が分かれるのと同じことだと思う。
    何を当たり前のことを、と思われる方には当たり前の話で申し訳ないけれど、自分が想像する以上に、世の中で脚色された「物語」を読まされているんじゃないかと考えると、割と気持ち悪くなる。

  • 「物事は込み入ってることが多い。罪もそういうもののひとつだ」。当事者でない人たちがいくら物語を作ろうともそれは真実ではない。。
    それでも、作者は現役の刑事事件弁護士なので(こういうこともあるかも…)のリアルさがあります。冷静だけど冷徹ではなくて、情緒もあるけど大仰ではない文章、好きです。
    お話は特に「ハリネズミ」「緑」「エチオピアの男」が好き。
    怖いのは「正当防衛」「愛情」。「愛情」には佐川一政の名前が出てきてタイムリーでした。世界的にも有名なんだな。
    「棘」も、一人の人が壊れていく過程が描かれててゾッとしました。職務怠慢だ。。
    “弁護人が証人に尋問する場合にもっとも重要なのは、自分が答えを知らない質問は絶対にしないということだ”…これにはしびれました。裁判は検察と弁護人どちらが場や流れを支配するかバトルもあるのだろうからそれはそうなんやろけど。
    「タナタ氏の茶椀」(わんの字が出ない)も、、5人よりタナタ氏側の方が裏社会って事だったんだろうな。チンピラ3人が小心者で良かった…一人、ギリシア人なのにフィンランド人だと言い張ってる人はどうかしていて面白かったです。「家族はみんなギリシア人だけど、俺まで一生ギリシア人になってうろつきまわることもないだろ」(???)

  • 小説とルポタージュの境目を漂い、不思議な読書感を味わう。

    作者は弁護士という職業から見た、様々な刑事事件を小説にしたという。
    (守秘義務から実際に担当した内容は用いていないとあとがきにあったけど)
    そこには大掛かりな組織犯罪や陰謀もなく、サイコキラーなどの強烈な犯罪もない。
    一歩逸れれば誰にでもありうるところから、「少し」異常な犯罪に至る状況を淡々と描くことで、かえってその人物の心情を読み手に想像させる、または、時には読み切れない状態で謎を残す。

    読者は、そのあやふやさもまた現実であろうことと、感じとることになる。

    日本の裁判判例は、ネットで内容を検索することができる。
    かつて、仕事上の必要から、民事事件のいくつかを読み込んだことがあった。
    文章構成などに読み慣れて、それほどの苦もなく理解できるようになると、中には「名文」と思えるような「判例」に出会うことがある。

    人が生きていくと、そこには必ずドラマがある。
    そんなことを思い出した。

  • 評判通りのすごい短編集だ。
    犯罪にいたるまでの経緯を事細かに描写したもの、事後の顛末を描いたもの…どの話も興味深く、かといって興味本位だけで終わらず、何かしら考えさせられる。
    犯罪の内容も様々、中にはショッキングなものも出てくるが、最後の「エチオピアの男」のおかげで読後感はいい。

    残念ながら誤訳が多いようで、「シーラッハ『犯罪』の誤訳」というサイトで補填しながら読むのがよさそう。
    (文庫版ではほとんどが修正されていたが、一部まだ残っている)

  • タイトルからは想像できない、不思議な感覚。
    これは気になるなぁ。
    また読みたくなる一冊です。

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