コリーニ事件 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488186043

作品紹介・あらすじ

新米弁護士のライネンは、ある殺人犯の国選弁護人になった。だが、その男に殺されたのはライネンの親友の祖父だったと判明する。知らずに引き受けたとはいえ、自分の祖父同然に思っていた人を殺した男を弁護しなければならない――。苦悩するライネンと、被害者遺族の依頼で裁判に臨む辣腕弁護士マッティンガーが法廷で繰り広げる緊迫の攻防戦。そこで明かされた事件の驚くべき背景とは。刑事事件弁護士の著者が描く圧巻の法廷劇、待望の文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • 2013年日本刊行、シーラッハの初長編作品とのこと。
    『禁忌』は読んだことあったけど、あれよりもこちらの方が前だったとは。

    やっぱりこの文体は好き。
    どこか不穏でぴりっとした緊迫感が終始漂う。
    決して奇をてらった表現や独特な言い回しがあるわけではないのだが、何がどうしてこの著者特有の雰囲気が生まれているのだ。
    すごく物語世界に没入させられる。
    訳者、酒寄さんの力量、推して知るべし。

    ある夜ホテルで一人の大物実業家ハンス・マイヤーが元自動車組立工の年老いたイタリア人コリーニに殺される。
    そこには強烈なまでの憎しみがあった。
    殺害後自ら警察を呼ぶが、その後は黙して何も語らない。
    新米弁護士のライネンは、コリーニを弁護することを決意するが、その後殺された実業家が幼なじみの祖父であることがわかり心が揺れる。
    だが、原告側弁護士であり、この道の大先輩であるマッティンガーに「依頼人への責任」を諭され、全力を尽くすことに。

    最終的に明らかになる真実は、その題材とミステリを絡ませる趣向は数多くあるため、そこまで意外ではないのだが、著者自身の家系の来歴やハンスの孫ヨハナが語る「わたし、すべてを背負っていかないといけないのかしら?」の名言、現実のドイツ政界をも動かした糾弾姿勢でくるまれたこの物語は、その月並みとすら思える展開に比して奥深い。

    今年『珈琲と煙草』、『神』と2作も出版されている著者。
    改めてミステリベスト10を賑わすことになるのか。

  • わずか190ページの長編(?)だが、重い。
     
    舞台はドイツ。
    新人弁護士の主人公が担当してしまったのは、家族同然の友人の祖父を殺害した男の弁護だった。

    ネタバレになるのでこれ以上は慎みますが、付いている帯を読むと予想できてしまう。
    が、分かっていてもおもしろい。
    いや、おもしろいなどという感想は不謹慎かな。
    腹にズシンとくる重みがあります。

  • 前情報なしで読み始めたので、そんな話だったのか!と驚き、あとがきで作者の出自を知ってさらに驚いた。
    知らないまま読めてよかった。
    知ったうえで読み返すと、最後のヨハナとライネンのやり取りがますます胸に迫る。
    淡々とした語り口なのだが、続きが気になってスルスル読めてしまう不思議な魅力を感じた。他の作品も読んでみたい。

  • ヨーロッパの負の遺産がこんな風に現れるとは。冗長なところが全くなく、一気に読了、これは面白い。

  • 以前の職場でお世話になったS先生は、刑法の研究者で現役の弁護士。囲碁とジャズをこよなく愛し、時おり絵筆も握られる、文人とお呼びするにふさわしい方です。仕事で研究室にお邪魔したときも、趣味の話で盛り上がることがしばしば。今は数年に一度お会いするくらいですが、フェイスブックを楽しく読ませていただいています。

    本書は、先生がFBで推薦されていたドイツのリーガルミステリー。
    作者のシーラッハは著名な刑事弁護士。短い文章をテンポよくつなぎ、結末まで一気に読ませます。

    ベルリンの高級ホテルの一室で、高名な老人が命を奪われます。容疑者として逮捕されたのは、イタリア人の元職人コリーニ。
    国選弁護に指名された新米弁護士ライネンは、被害者が幼馴染ヨハナの祖父であることを知り、個人の感情と職業的使命感の板挟みになりつつも弁護を決意します。状況からコリーニの犯罪は決定的。にもかかわらず動機について硬く口を閉ざすコリーニ。被害者遺族側には辣腕弁護士マッティンガーがつく圧倒的に不利な状況の中、ライネンは真相を追います。

    背景には第二次大戦時の出来事がからみ、ドイツ刑法学の権威ドレーアーが大きな鍵を握っています。物語は裁判を縦糸に、ヨハナとの葛藤を横糸に展開します。ミステリーとしても一級品で出版後たちまちベストセラーになりました。また、本作がきっかけでドイツ政府が調査委員会をもうけるなど、実際に社会を動かす結果となりました。シーラッハ自身、祖父が戦争に関与していて、過去の戦争とどう向き合うのか問う側面もあり、多面的な読み方ができます。

    S先生とは、ある規制を巡って長時間議論させていただきました。守るべき法益は何か、安易に規制を持ち出していないか。趣味の話と打って変わって、学者としての厳しい問題意識を教えていただいたのが懐かしい思い出です。久しぶりに一献傾けながら、お話をお伺いしたいものです。

  • 200ページぐらいの本なのだが…日本では、こんな本は書けないんじゃ無いかと思うかな。
    無益な戦争、ナチス時代を背景にした悲劇。そして法律の落度…歴史に翻弄される人々…中々難しい本だと思う。

    小説には、内面的な描写はあるけど、なんだろう著者の描写は、読者側が読んで想像するような書き方が、とても印象的だったので、深読みしてしまった…嫌いじゃないし、著者が何となく答えを教えてる、ちっとな文章と中々良かった!

    読んだ事の無いタイプの本。外国作品は、登場人物ごちゃごちゃになるので、あんまり読まないが、この作品は数人だけで読みやすくて良い。

    気になったら読んでみてください!

  • このドイツ人著者の作品を読んだのは「犯罪」に続いて2作目。この作品をきっかけにドイツ政府も動いたというから衝撃作ですね。殺人事件の裁判を通して、過去のナチ時代と向き合った今作は、ページ数も少ない分内容も凝縮されている。

  • 映画が先か原作が先かいつも悩むところではあるけれど
    フェルディナント・フォン・シーラッハの世界は昔から好きなので
    原作を先に読んでみた。
    いつもどおり一筋縄では解決しない事件。
    戦争犯罪・愛憎・過去・現在、そして法律が込み入った世界を作り出していく。
    そして作者の視線は常に弱者に温かい。
    読了して映画はもういいかな?と思ったが訳者のあとがきを読んで思い直した。
    事件の背後にあるドイツの歴史をまったく知らない私は小説の細かい伏線が読めていなかった。あとがきを参考に映像でさらに奥深い世界を体験してみたい。

  • フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』創元推理文庫。

    著者にとっては初の長編であるが、200ページ足らずの作品なので、中編だと思えば間違いないだろう。簡単に内容を紹介すれば、新米弁護士が殺人犯の弁護を引き受けるのだが、その被害者は少年時代の恩人だったことから、苦悩しながら旗色の悪い過酷な裁判を闘うというストーリーである。

    冒頭に描かれる殺人の場面は『犯罪』『罪悪』に描かれたような淡々とした無機的な感じである。ところが、新米弁護士のライネンが登場するや場面に彩りを感じるのだが、どうにもしっくり来ない。所々に淡々とした無機的な場面が登場し、例えるなら演歌とジャズをアレンジ無しに無理矢理継ぎ接ぎしたように感じるのだ。

    結末もそうなるであろうなという所に落ち着き、無難と言えば無難なのだが、『犯罪』や『罪悪』に比べると心に響くものが何もないという作品だった。

    嫌いな作品ではないのだが、難しい…

  • 中編ほどのページ数で、わずかな登場人物。それでいて、ちょっと何かを触れるとネタバレになりそうなくらいの緊張感を含んだ良質のミステリー。

    これは素晴らしい!しかもこの本が売れたことで、本国ドイツでは現実が動かされ始めているという。

    こんな本、日本では絶対出ないだろうなぁ。書ける作家は要ると思うが、大手出版社は絶対躊躇する(統一教会がらみですらもあの朝日が汚れるんやで)やろし、まして現実が動くなんて根性座った政治家も法律家もちょっと見当たらへんなぁ。

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