いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (438ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488206048

作品紹介・あらすじ

映画『赤い影』の原作となった表題作をはじめ、日常を歪める不条理あり、意外な結末あり、天性の語り手である著者の才能を遺憾なく発揮した作品五編を収める粒選りの短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 5つの短編集。いずれも見えないはずのものが見えたり、霊感とか、そういう感覚が書き込まれている。「いま見てはいけない」「真夜中になる前に」あたりがよかった。

    「いま見てはいけない Don't look now」1970
    ベネチアに旅行に来た夫婦。そこで双子の老夫婦に出会う。夫妻には男と女と子供がいたが、幼いうちに女の子を失っており妻はいまだ喪失の絶望から立ち直っていない。寄宿舎にいる男児が盲腸だとの連絡を受け、妻はイギリスに戻るが、夫は戻ったはずの妻の姿を水路に見るが・・ 表紙の絵はこの情景を描いたものだろう。「赤い影」として1973年に映画化。

    「真夜中になる前に Not after midnight」1971
    寄宿学校で古典を教えていた私。教師をやめ趣味の油絵を描くためにクレタ島にやってきた。バンガロー形式の宿ですぐ隣の小屋は日に焼けた男と耳のきこえないという妻。毎朝海に釣りにでかける。岬で二人を見つけた私は二人がやっていたのは釣りではなかったのが分かるが・・

    「ボーダーライン A border-line case」1971
    突然亡くなった父の死の謎を解くために、ダブリンから百キロ、湖の点在するバリーフェインにに住む父の旧友をたずねたシーラ。荒涼とした風景を想像しながら読む。着いてみると、さらにトラー湖のなかの小島に住んでいるという。


    「十字架の道 The way of the cross」1971
    急病に倒れた牧師のかわりにエルサレムへの24時間ツアーの引率者に次々と降りかかる災難。多様な参加メンバー。

    「第六の力 The break through」1966
    ロンドンから遠く離れた研究所で行われていた研究とは?

    原題:DON'T LOOK NOW AND OTHER STORIES

    2014.11.21初版 図書館

    「真夜中すぎでなく」三笠書房1972刊と収録作は同じ。今見てはだめ、真夜中すぎでなく、シュラの場合、十字架の道、第六の力

  • 課題本候補の1冊としてピックアップ。

    どの短編も描写と展開の上手さに「ああ、文章が巧みということはこういうことなんだなあ」としみじみ思いながら読んだ。舞台設定や人物描写、配置がうるさからず足りなすぎずで、とても配慮が行き届いていると思う。どれもすぐに映像化できるほど(表題作は映画化されている)のハイクオリティだが、最初に映像イメージありきでそれを文章によってクリアに描き出していくのではなくて、発端となる会話や場所、人物関係がていねいに描かれ、読んでいくにつれてはっきりと像をむすんでいく。だからといって無駄に明快な結論を与えず、不穏な空気を漂わせながら最後まで引っ張るので、1編が80ページ程度でも、中編以上の厚みの読後感があるように思う。

    個人的には、人の死が差し挟まれる短編で編まれた中で、唯一人が死なない『十字架への道』が面白かった。クルーズ船から一時下船して、エルサレム観光のオプションツアーに参加した一行の陥る混乱を描いた短編なのだが、ひとつひとつの要素は、観光地で普通の人が出会うありきたりないらだちや迷い、摩擦である。それなのに、これだけ不穏なテンションで最後まで引っ張っていくんだから、この人はミステリが巧みというだけではなく、全方向で上手いということだと思う。

    選書のポイントをチェックしながら(そうでもないけど)手早く読み進めていこうと開いたが、1編ずつの巧みさにじっくり読んでしまった。最後に配された『第六の力』の肝となる「力」とその機能がよくわからず、何度も読み返してしまったのも一因かもしれない。いまでもよくわからないので、どなたかご教授いただければ。

  • 中学生の時に河出の世界文学全集でレベッカを読んだ。とりこになった。10代の間に何度読み返しただろう。あの頃の気持ちを思い出した。忘れていたぞくぞくするような感覚がよみがえってきた。レベッカしか知らなかったがこれ!!!な作品だ。すごいなデュ・モーリア!まさに物語世界に心がもっていかれる感じ。他の傑作集2冊も読まねばなるまい。

  • やっぱり期待を裏切らず。
    何度でも読みたい、読む度に感想が違う、発見がある良書です。
    東京創元社さん、
    もっとデュ・モーリアさんの作品を再販してください!
    じゃんじゃんお願いします!
    そして翻訳はやっぱり務台夏子さんがいいです!
    ありがとうございました(^^)

  • いま見てはいけない、というタイトルに惹かれて手に取りました。
    全体的に不穏な雰囲気の漂う短編集でした。旅先で出会う奇妙な人物、奇妙な出来事…ホラー?ミステリー?分類が難しいので奇妙な味のカテゴリに入れておこう。
    「いま見てはいけない」「真夜中になる前に」「ボーダーライン」の3編は、ラストにズドンと落とされる感じが良い。
    エルサレムを旅するご一行の群像劇「十字架の道」は表面上はうまくやっている面々が、水面下ではお互いを軽蔑しあっているというところがリアルで、イヤミス的な面白さもあった。
    ラストの「第六の力」はSFチックで他作品とはちょっと毛色が違う感じ。
    「いま見てはいけない」は「赤い影」というタイトルで映画化されているらしい。他にも映画化されている作品がいくつかあるようです。次は「鳥」を読んでみようかな。

  • 全5編あるなか、まず、先陣を切っている表題作の『いま見てはいけない』から。ヴェネツィアに観光旅行に来ている、水難事故で幼い娘を無くしたばかりの夫婦の夫が主人公です。旅先で出会った、霊感を持つらしい老姉妹に、夫は不信感を持つのですが……。エンタメの神髄的な、語りのうまさ、構造や設定の巧みさ、そして、終わり方の見事さに、もう舌を巻きました。読了した瞬間、あっ、と思ったら頭が真っ白になり、しばらく放心したため、その次の作品を読むのをあきらめて寝たくらいです(まあ、すでに夜中でしたが)。続いて、『真夜中になる前に』。ギリシャのクレタ島へ休暇にやってきた美術教師の男性が主人公。なにげないところで生じる奇妙さの連続が、それを気にすることでどんどん日常を歪めていくような話。人間心理の怖さとしても読めるし、神話を織り交ぜているので、祟りだとかそういうオカルト的にも読めます。次に、『ボーダーライン』。父の死の瞬間にひとり立ちあう事になったまだ20歳の役者志望の娘が主人公。父の旧友に会いにいくことからドラマが始まっていきます。世界の表裏をつうじて、進行するラブストーリー的なところがありますが、主人公の女性の冒険というか、彼女が個人的に探偵ごとをするので、サスペンス形式みたいになっています。ちょっとしたハードボイルドとも言えるんじゃないだろうか、女性が主人公でも。敵対しながらも惹かれあう、っていうところがよかったです。そして、『十字架の道』。急きょエルサレムのガイドの代役をまかされることになった若き牧師を中心とした群像劇です。群像劇ものってたぶん読んだことがなかったですから、新鮮でした。こんなに複雑になるものなんだ、と。登場人物がみんな独自の世界観のなかで生きていて、違う方向を向いて生きています。それをちまちま克明に書いていったら、たぶん読み手は面倒くささを感じると思うのですが、作者はちゃんと踏みとどまって、物語的な佳境にもっていく。ちゃんとエンタメにしています。最後に、『第六の力』。これはSFです。主人公が出向を命ぜられた先が、政府筋の、あやしい研究をしているらしい研究所なのです。まず、そこまでたどり着くまでの描写で何度も笑えます。作者の力量ですね。デュ・モーリアという人は、こういう技術もあるんだなあ、と。物語の終わりにむけて、だんだんシリアスにもなっていきますが、その高低差は計算されているんでしょうね。科学面での細かいところの設定では、とりあえずの説得力をもっています。作者がいろいろな知識をそれなりの深さで取り入れる力量があるからですね。さすがの知的体力。そして、その裏付けとなるような設定を読者の腑に落ちる段階に作り上げたならば、そこから壮大な幻想の影を持った現実的物語はすすんでいきます。そういう構造を見つめてみると、やっぱり序盤にいくつかの笑い、滑稽さを持ちこんだのは、全体のバランスのとり方として上手だなあと思えます。というような、5編です。いろんなことをやっています。そりゃあ、5編だけを集めているわけですから、その他の作品を読んでみない分には断定できませんが、焼き直し的なものは一切ない。すべてまっさらなところから作り上げた、オリジナリティー十分の、独立した5編でした。肝が座っているというか、体力があるというか、姿勢が違うというかで、すばらしいです。

  • 五篇からなる短編集。

    「いま見てはいけない」
    映画「赤い影」の原作。
    幼い娘を亡くした夫婦がヴェネチアで老姉妹に会う。
    妻は、亡くなった娘さんがあなたのそばにいると言われ、悲しみに暮れていたところを救われるが、夫はそんなことを言う老女を胡散臭く思う。

    「真夜中になる前に」
    絵を描くことを趣味とする教師が、ギリシャに旅行に出かける。
    泊まったホテルでいかがわしい夫婦に出会う。

    「ボーダーライン」
    病床の父のもとに見舞いに行った娘の前で、突然父が亡くなった。
    娘は、父と最後に見ていたアルバムに写っていた旧友を訪ねることにする。

    「十字架の道」
    エルサレムのツアー引率をする予定の牧師が病に倒れたため、代理を務める牧師をはじめとして、旅行客たちに次々と起こるハプニング。

    「第六の力」
    知能障害のある少女を使い、白血病で死期の近い青年の生命エネルギーをコンピューターに取り込もうとする研究者の物語。

    翻訳が良くないのか、少し読みにくいがよく出来た短編だった。
    映画にもなった「いま見てはいけない」は、不思議な雰囲気が漂い面白い。
    是非、映画も観てみたいと思った。

    「十字架の道」では、様々なハプニングも去ることながら、登場人物が特徴があり面白い。残念なのは、司祭と牧師がごっちゃになっているとしか思えない残念な翻訳。

    「第六の力」は、揺れる心を描く作品が多い作家さんには少し異色な作品とも言える。サイエンスミステリーとでも言うのだろうか。

    何となく不思議だったり嫌な感じだったりする作品集。

  • 古いファンタジー短編集

     新刊で登場しているが、1960年代の古い作品だ。悪い意味ではない。十分に新鮮な物語fである。

     普通の夫婦を襲う悲劇のきっかけが近未来の透視であったという「いま見てはいけない」。なかなかにおもしろい。どうなるんだろう?とワクワク感が先行する。

     二番目の作品はイマイチわからない。「真夜中になる前に」というサスペンス調のタイトルだが、内容も含め意味がわからない。

     驚きのラストという意味では「ボーダーライン」は傑作だなぁ。父親の驚愕の真相がラスト数行で明らかになる。ラブロマンスを交えなければさらによかったと思うけれど、すばらしいオチで満足。

     交互に変な作品が出てくる気がするんだが、「十字架の道」は登場人物が多いからか、読むのに苦労した。人物像が脳内に結実しないから、だれがだれかわからなくなるという(日本人が読むときの)海外小説にありがちな混乱の中で物語が終わってしまった。

     短編中唯一のSF色を持つ「第六の力」は楽しいけれど、オチがオカルトになってしまい楽しくはないな。

     1960年代の作品という意味ではとてもすばらしいと思う。そうだなぁ、そこまで古くはないけれど、シャーロック・ホームズの色かなぁ。

  • この中には5編の短編がおさめられているが、一番好きなのは「十字架の道」。好みで評価は別れると思うけど、すべて私は好みです。この人の作品はもっと読みたい。

  • 『レベッカ』が大好きなので短編集も読んでみた。日常の生活や人間関係における心の機微や、ありきたりなようで意外な人間模様を、鮮やかにまたシニカルに描き出す傑作揃いだった。「十字架への道」で前歯が折れてしまった夫人をいたわる大佐が印象的。日々の生活をこうもドラマチックに描かれると、私の人生もそう捨てたものではないような気がしてくるから不思議だ。

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