タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M マ 13-8)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488209094

感想・レビュー・書評

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  • ヘニング・マンケルの警察小説ではあるが、〈刑事ヴァランダーシリーズ〉ではない。

    舌ガンが見つかった主人公の刑事ステファンは、放射線治療開始まで数週間の休暇をとり、域外で起こった元先輩刑事の惨殺死の理由探しを始める。

    物語は、第二次世界大戦の戦後処理から始まり、当時ヨーロッパのみならず北アメリカ大陸まで吹き荒れた「ファシズム」「ナチズム」の影響をちらつかせながら進む。

    人間蔑視、人種差別、優越民族思想などの、決して過去の問題とは言えないことたち……。

    主人公ステファンが感じる疎外感。

    現在、さまざまなニュースを聞くたびに、民族主義と称した排他意識に対して、「間違っている」と思うことを声にして言えない風潮が、もうそこまできているような気がする。

    この物語を最後まで読んで到達する「エピローグ」、マンケル自身の思いの詰まった語りが胸を打つ。

  • 作者独特の叙情的ミステリー。

    主人公の心情にたゆとう内に状況は動き、結末に向かう。

    戦後50年のスウェーデンにナチズムが生きてるというのか、反共の切り札としての浸透がそれほど徹底していたということか。

  • 読み終えるのにものすごく時間がかかってしまったけれどすごく面白がった!

  • ヘニング・マンケルこそ社会派推理作家の名称にふさわしいのかもしれない。この小説でナチスの信奉者はそれによって幸福や心の平安を得られたとはとても思えないが、現実のファシストはどうなんだろう。人種差別主義者はその主義を奉じることで幸せになれるんだろうか。スウェーデン人なのに、イタリア系のファーストネームを持つラーソンのキャラがよかった。

  • スウェーデンの作家「ヘニング・マンケル」の長篇ミステリ作品『タンゴステップ(原題:Danslararens aterkomst)』を読みました。

    『目くらましの道』、『背後の足音』に続き「ヘニング・マンケル」作品です… 読み始めると北欧ミステリは続いちゃいますね。

    -----story-------------
    〈上〉
    男は54年間、眠れぬ夜を過ごしてきた。
    森の一軒家、ダークスーツを着て、人形をパートナーにタンゴを踊る。
    だが、ついに敵が男を捕らえた……。
    「ステファン・リンドマン」37歳、警官。
    舌ガンの宣告に動揺する彼が目にしたのは、新米のころ指導をうけた先輩が、無惨に殺害されという記事だった。
    治療を前に休暇をとった彼は、単身事件の現場に向かう。
    CWA賞受賞作『目くらましの道』に続く、スウェーデン推理小説の記念碑的作品。

    〈下〉
    殺された元警官の住んでいた場所を訪ねた「リンドマン」は、独自に捜査を開始する。
    だが、調べを進める彼の前に、新たな死体が。
    殺されたのは「モリーン」の隣人だった。
    次々とあきらかになる、先輩警察官の知られざる顔、そして意外な過去。
    自らの病に苦しみ、迫り来る死の恐怖と闘いながら、「リンドマン」は真実を追い求める。
    「ヘニング・マンケル」が、スウェーデン社会の闇と、一人の人間としての警察官「リンドマン」の苦悩を鮮やかに描き出す。
    訳者あとがき=「柳沢由実子」
    -----------------------

    「ヘニング・マンケル」作品ですが、これまでに読んだ警察小説「クルト・ヴァランダー」シリーズではなく、初めてのノンシリーズモノ(「クルト・ヴァランダー」シリーズのスピンオフ作品、番外編と呼ばれているようです)です… でも、作品全体に感じられる暗く、陰鬱な雰囲気等は、「クルト・ヴァランダー」シリーズと共通していましたね。

     ■プロローグ ドイツ 一九四五年十二月
     ■第一部 ヘリェダーレン 一九九九年十月から十一月
     ■第二部 ブエノスアイレスから来た男 一九九九年十月から十一月
     ■第三部 石の下の虫ども 一九九九年十一月
     ■エピローグ インヴァネス 二〇〇〇年四月
     ■訳者あとがき 柳沢由実子

    1999年10月19日早朝、ヘリェダーレン地方の森で隠遁生活を送っていた元警察官の「ヘルベルト・モリーン」が殺害された… ウステルスンド警察の「ジュセッペ・ラーソン」が現場を検証すると「モリーン」の家の床には被害者の血染めの足でタンゴのステップを踏んだ跡があった、、、

    ボロース警察署で「モリーン」の同僚だった「ステファン・リンドマン」は医師から舌癌の宣告を受け病気休暇をとる直前に新聞で「モリーン」が殺害されたことを知った… 常に何かに怯えていた「モリーン」の姿を思い出した「リンドマン」は休暇を取得して事件現場へ向かい、「モリーン」の過去を調べたところ、「モリーン」は1950年代初めに軍隊を辞め、名前、住居を変え、結婚して2人の子供を儲けた後1957年に警察に事務員として勤め始め1960年代に警察官となっていたことが分かった。

    その後離婚し警察を退職したあとでヘリエダーレンに転居してきたが、そこでは隠れるようにひっそりと生活しており、その住居も数少ない友人の「エルサ・ベリグレン」を介して購入していた… 管轄外の場所で一個人として「モリーン」の周辺事情を探っていた「リンドマン」は「モリーン」の隣人でヴァイオリン奏者の「アブラハム・アンダソン」が殺害されているのを発見した、、、

    再び「モリーン」の家を訪れた「リンドマン」が「モリーン」の隠していた日記と手紙を見つけ出したところ、その中には若い頃の軍服姿の「モリーン」が写った写真が含まれていた… しかし、その軍服は「モリーン」の経歴に記されていたスウェーデン軍の物ではなくナチス・ドイツの親衛隊の制服であった。

    二つの殺人事件は同一犯の仕業として捜査が続けられ、休暇中の「リンドマン」は管轄外での事件に否応なしに巻き込まれていき、歴史の巨大な闇を知ることになる…  次々と明らかにになる、「モリーン」の知られざる顔、そして意外な過去、、、

    自らの病に苦しみ、迫り来る死の恐怖と闘いながら、「リンドマン」は真実を追い求める… 現代スウェーデン社会の闇と、一人の人間としての警察官「リンドマン」の苦悩を鮮やかに描き出された作品でした。

    「モリーン」を殺した「アーロン・シルベシュタイン」の正体は最初に明かされているのですが、第二の殺人犯は終盤まで伏せられているので、「リンドマン」等が同一犯の仕業として捜査を続けることにやきもきしつつ、一緒にもう一人の殺人犯を推理していくことが愉しめる作品に仕上がっていましたね… 暗く陰鬱なスウェーデン北部を舞台にした息詰まるような緊張感とハードな展開、、、

    第二次世界大戦でのスウェーデンとナチス・ドイツの関係や、現代社会におけるナチズムの台頭等、社会の暗部を抉り出す筆致は単なる警察小説には留まらない、社会小説として雰囲気を感じさせますね… 濃密で重厚な作品でした。

    そうそう… 本作品には、「クルト・ヴァランダー」シリーズ第5作『目くらましの道』で、最初に被害者となった元法務大臣「グスタフ・ヴェッテルステッド」の兄「エミール・ヴェッテルステッド」がナチスを崇拝する肖像画家として登場しています。



    以下、主な登場人物です。

    「ステファン・リンドマン」
     ボロース警察署の警察官

    「ヘルベルト・モリーン」
     定年退職した警察官、リンドマンの元同僚

    「ヴェロニカ・モリーン」
     情報通信のコンサルタント、ヘルベルトの娘

    「エルサ・ベリグレン」
     ヘルベルトの友人

    「アブラハム・アンダソン」
     モリーンの隣人

    「ハンナ・ツンベリ」
     モリーンの家の清掃人

    「エレナ」
     ステファンの恋人

    「ハンス・マークルンド」
     不動産業者

    「ビュルン・ヴィーグレン」
    エルサの隣人

    「エミール・ヴェッテルステッド」
     肖像画家

    「マグヌス・ホルムストルム」
     ヴェッテルステッドの護衛

    「ハンス・ヤコービ」
     老弁護士

    「ジュセッペ・ラーソン」
     ウステルスンド警察署の警察官

    「ニッセ・ルンドストルム」
     ウステルスンド警察署の警察官

    「エリック・ヨアンソン」
     スヴェーグの警察官

    「オラウソン」
     ボローズ警察署の捜査課長

    「アーロン・シルヴェシュタイン」
     ブエノスアイレスから来た男

    「マリア・シルヴェシュタイン」
     アーロンの妻

    「フルナー」
     ブエノスアイレスのドイツ人

    「スタックフォード」
     戦犯処理担当の英軍人

  • おそらくは日本でこのテーマでミステリを書く日本人作家はいないと思うが、それでも面白い展開であった。

  • 読み終わりたくないほど好きな世界観だった。全体にスモーキーなスクリーントーンを貼りつめたみたいな。

    警察小説としてのクライマックスについてはちょっとあっけない感じもしたけれど、それがスウェーデンのリアルなのかも。

    父よりもさらに内省的で死に親しい感情を抱いている娘が主人公となって、これからいくつも作品が生まれてもよかったのに。作者の早い死が本当に惜しまれる。

  • なんだろう、このスッキリとしない感じは・・・ 「自由」や「信条」 許されるのはどこまでなのだろう
    マンケル氏から大変な問いを突き付けられたような気がしてならない そして自分にはおそらくその答えは出せないだろう・・・

  • (上巻より続く)

    そこらへんの肩の力が抜けているせいか、
    途中で犯人がある意味、捜査を助ける筋書きのためか、
    結構面白かった。
    もしくは、
    ナチスへのスウェーデン義勇軍の参加といった歴史を知らなかったかもしれない。

    最後に
    被害者の日記に意味ありげに書き込まれたスコットランド旅行が、
    横恋慕の相手を訪ねるためだったことがわかったのはすっきりしたが、
    ストーリーにはなんの関係もない話でがっかり。
    そういえば、ダンス教師が殺された動機もいまひとつはっきりしないし。

  • ノンシリーズの北欧ミステリーの下巻。

    舌がんを宣告された主人公ステファン・リンドマンの絶望感と次第に姿を見せる過去の亡霊が全体の雰囲気を重苦しいものにしているようだ。

    主人公の警察官ステファン・リンドマンは舌がんの宣告を受け、不安の中、かつての恩師で定年退職した警察官ヘルベルト・モリーンの惨殺事件の真相を追う。少しずつ事件の真相は見えて来るのだが、主人公を見舞う不幸と予想だにしない真実…結末に待ち受けるのは…

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