クリスマスのフロスト (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ウ 8-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (534ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488291013

作品紹介・あらすじ

ロンドンから70マイル。ここ田舎町のデントンでは、もうクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがる。日曜学校からの帰途、突然姿を消した八歳の少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物…。続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒にして下品きわまる名物警部のフロストが繰り広げる一大奮闘。抜群の構成力と不敵な笑いのセンスが冴える、注目の第一弾。

感想・レビュー・書評

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  • よれよれのレインコートにえび茶のマフラー、
    服務規定を遵守せず、大事なことはうっかり忘れ、
    悪びれることなく、本能とカンだけでずんずん進む。

    しつこく不器用でスケベな傍若無人。
    これだけの不名誉をしっかりと身に纏い
    人間臭さMAXの警部フロスト。

    真っ白な荒地、暗闇と荒廃の町デントンで
    日曜学校の帰りに少女が行方不明に…。
    その事件を皮切りに続々と続く事件の数々。

    フロストの部下として配属された不運なクライヴは、
    ワーカホリックのフロストに振り回されて、
    デートはおろか健全な睡眠をも確保できない日々。

    容疑者は巧みに嘘をつく。
    一時の感情や同情心に訴えかける
    見せかけの嘘に流されることなく、
    一見冷徹のようでいて心の奥は深く、
    悲しみも温かみも内包した不思議な魅力で
    いっぱいの憎めないフロスト。

    J.K.ローリングさんの「カジュアル・ベイカンシー」
    でも低く重く垂れ込めていた犯罪の奥にある深い闇が、
    特別なことではなく、そこここに広がっているということに
    恐怖と悲しみを感じながらも、フロストという
    突き抜けたキャラのおかげで次へ次へと、
    ページを繰る手を止めることなく一気に読み通してしまう。

    人間の業、塊となる欲望。
    悲しみや焦燥の中にいても、人間はその感情だけに
    沈み込んで生活しているわけでなく、
    お腹も空けば、明日の生活も心配する。
    人間とは良いだけの人もなく、悪いだけの人もなく、
    聖人君主も存在しない。

    リアルな人間像の切なさとフロストの弱さ、強さ、明るさ、苦しみが
    登場人物たちを生きたキャラとして心に残してくれる。

    フロストの次の事件と新たなるかわいそうな相棒に会うのが楽しみ!

  • 発刊当時に読了。

    今回フロストシリーズ(フロスト日和)を久しぶりに読んだので改めて登録。

  • 一応、「海外ミステリーもけっこう好き」と自認する以上は、以前から気になっていた一冊。読んでみたら、大当たり。2018年最高の発見かも知れません。
     イギリスの作家ウィングフィールドさんの著作。随所にやっぱりイギリスらしい「ちょっとひねくれた、皮肉な、ウィットに富んだ世界観」みたいなものがあって、それ自体が素晴らしい訳では無いですが、この作品の出来は極上。
     ジャック・フロストという、40代後半あるいは50代とおぼしきおっさんの刑事が活躍する、警察ものです。

     舞台は、どうやら「地方都市」という感じの架空の街。読んでいくと、日本に例えると「藤沢市」とか「高崎」とかそういうくらいのレベルの街なのか、あるいは「広島市」くらいなのか・・・。「東京」とか「大阪」という感じではありません。
     そして、警察モノとしてはレアだと思うのですが、「複数の事件が錯綜する」というのが特徴。その意味ではリアルなのかも知れません。そしていけ好かない役人根性丸出しの署長がいて、警察官刑事たちも、サラリーマン的な感性をむき出しにしつつ犯罪捜査に追われます。そういう意味では「踊る大捜査線」がこのシリーズの影響を受けているかも知れません。

     そして、主人公のキャラクターが秀逸。刑事物の主人公の中では圧倒的に、下品です。どうしようもないくらい下品で、死体と女性に関してのあけすけなジョークを連発。そして漫画的なまでに書類仕事が苦手で、でも書類仕事にも追われる様子は克明に描きます。そして、そんなキャラクターを含めて描かれる世界観は、どうしようもなく混沌として、階級社会の不条理の中で女性や子供など弱いモノが犯罪の標的になる、げんなりするような猥雑な社会のありさまです。そんなネガティブで陰性な世界観が、そんな世界の汚れた裏側を這いずる回るような主人公の下品さと、なんだけど同時に100%仕事中毒でタフで、そして直感職人のような犯罪捜査をマイペースで追求するヒーローが、オセロをひっくり返すように「げんなりする世界」を「痛快なダーティー・ヒーロー物語」に変換していきます。
    (と、書いていくと、これは実は「イギリス版中村主水(警察官バージョン)」と言って良いのかも知れません。殺し屋ではありませんが)

    そして、優れた世界観を堪能させてくれる犯罪捜査ヒーローモノの特徴ですが、「どんな事件だったのか」というのはすぐに忘れてしまいます・・・。
    確か、幼女が誘拐殺人されるという痛い事件が中心だったと思います。
    そして後半で、我らが主人公フロストが、かつて妻をガンで失ったこと、そのときの思いが語られます。
    汚れに汚れた主人公の、毒と愛と皮肉に満ちた心情が、グサリと突き刺さる。脱帽。

    作者のウィングフィールドさんは、どうやら放送作家さんとして一流だったようです。
    そして、10年以上もかかって、フロスト刑事物を世に出した。
    そのときにもう50代だったようで、以降、フロストシリーズだけを書き続けて、6作の長編を残して2007年に逝去されたそうです。
    6作しか無いのは悲しいことですが、6作も残してくれたのは、大変に嬉しいことです。

  • 1983年のイギリスはロンドンから100キロほど離れた田舎町デントンを舞台に、クリスマス10日前の日曜日から木曜日までの5日間にいくつかの事件を描いたのが本作です。捜査に乗り出すのは無作法でがさつだが仕事熱心な自由人、やもめのフロスト警部。そして日曜日にロンドンからデントンに到着し、新たに配属となった警察署長の甥で野心家でもありフロストを白い目で見る新米巡査クライヴ。偶然も重なってソリの合わないこの二人が相棒となり事件解決に挑みます。そんな二人のまわりには上昇志向が強く出世第一でフロストを忌み嫌う署長マレットをはじめとした署員たちと田舎町デントンに住む人々が配置されます。事件は行方不明となった娼婦ジョーンの娘トレーシーを捜索することにはじまりますが、捜査を進めるにつれて発生する少女失踪とは直接関係のない問題を、平行して解決に当たることになります。

    方向性としては、フロストたちとともに数々の事件を体験していくことに重点を置いており、謎解きを楽しむための作品としては作られていません。またミステリーといえば名探偵の推理力による鮮やかな事件解決によって読み手を楽しませるものが王道ですが、フロストはこのようなパターンには当てはまらず、独自の洞察力と直感を武器に強引な行動力で捜査を進め事件解決に至りはするものの、その推理が外れることも少なくなく、成功のほとんどは棚ボタの幸運なしでは成り立たないもので、主人公のずば抜けた能力に心を奪われるといった類のものでもありません。

    本作は主人公フロストの人物像を売りにした小説といえるであろうとは思いますが、わたし個人としてはキャラクターとして際立った魅力を感じることはできず、前述の通りフロストの能力や作品の方向性もあってミステリーとしてのカタルシスも少なく、かといって決してリアルさにこだわったものでもなくあくまで娯楽作品であり、全体としての印象は悪くないものの明確にその強みを語りにくい作品だと感じました。

  • 今は亡きR.D.ウィングフィールドのフロストシリーズの1作目。
    クリスマスを目前にした数日間の、様々な事件を綴った刑事ドラマ。
    主人公であるジャック・フロスト警部、下品だと言われている様だが、全然そうは思わず、味があって良いではないか!
    個人的にはジーン・ハックマンもしくはロバート・デ・ニーロに演じてもらえれば、バッチリハマるのではと思いながら読んでいた。
    ある事件が起き、並行してまた別の事件、田舎の警察署ならではの人の少なさでフロスト警部が全て捜査しなければならない。さてその結果は・・・。

  •  クリスマスが近いということで読んだ本。
     
     私は皆さんにお詫びしなければなりません。
     
     今から20年以上も前にこれほどの傑作が刊行されていたにも関わらず、今日までご紹介することをできませんでした。(だってさっき読み終えたんだもん!)
     
     自らの不明を恥じております。書店員として失格です!

      読んでいないのに知ったかぶって、ああ、フロストね、いいよね、あれ、なんて顔もできなくもないのです。それなりの読書修行も積んだつもりです。
     
     が!しかし、この作品だけはごまかせません!
     
     にやりと不敵な笑みを浮かべることは、この本を読み終えないとできないのです。
     
     一体どんな主人公なんだと疑問も浮かぶでしょう。
     
     表紙をご覧下さい。
     
     デスクの上をとっちらかし、くわえ煙草のむさくるしい風袋のおっさんが名刑事フロイトです。
     
     どれくらいの名刑事か。例えるなら、刑事コロンボとリーサルウェポンのリッグスと、フーテンの寅さんを足して3で割って中途半端にしたような刑事です。
     
     いいですねぇ、キャラがとっても際立ってますねぇ。
     
     ヘタこくこともたびたびですが、勘の鋭さはピカイチです。誰もが賛同しかねる迷推理も、すべてすりっとまるっとお見通しだったことが最後にはわかります。
     
     事件の内容には一切触れません。
     でも太鼓判を押します 

  • こんな楽しい本は久しぶり~。皮肉なユーモアが笑いを誘い頬っぺたが痛いほど!
    フロスト警部のキャラがめちゃいい。辛辣でお下品で、もしかしたら本当はシャイでいい人?と思わせておいて、本当は何も考えてないような感じがするの。これがR・D・ウィングフィールドの文章なのでしょう。
    小さい事件がごちゃごちゃ出てくるのに、プロットがとてもしっかりしているので、思考がアチコチに飛ばず、結構厚いのですがスラリと読めます。
    本当、楽しいしね。これだけの事件が一辺に起きたのに、最後の収まり方はお見事!と叫びそうになった私。文句なく私の5つ星となりました。
    でも、不眠不休のフロストに付かされた部下がかわいそう(笑)
    フロスト警部ってすご~く謎。確かUKでは5冊くらい出版されているはず。
    翻訳モノはその時の日本の情勢や内容が日本人に理解されるかを吟味しなくてはいけないと聞きます。今までは出版されたらベストセラー入りですもんね~。
    フロスト警部のプライヴェートにカナリ興味があるわ。もしかしたらまだ翻訳されていない本に書いてあるのかしら?あ~~読みたい!
    私はまだ3冊目までしか持っていないのです><
    日本ではどこまで出版されているのか調べてみよっと!
    厚くて、文字がぎっしりつまっている本ですか、きっと寝れなくなりますよ!あはは

  • ロンドンから来た新米警部デントンがいい。

  • すでに30年近く前に発表された作品とのこと。
    携帯の代わりに無線機が活躍してるのも時代を感じる。

    冴えない、よれよれコートの警部というと、コロンボを思い浮かべてしまう。
    本作を読んでいる最中、つい、ピーター・フォークの顔を思い浮かべてしまい、違う、違う!と別の顔、例えば表紙絵イラストの顔にしようと意識もしたが、やはりピーター・フォークが頭に登場してしまうのには困った。
    まあ、これは、シリーズ続編を読むにつれ、もう少しはフロストにふさわしいイメージができるかな?と思うが。

    真面目に仕事はせず、自分のカンに基づいて捜査をする。発言、行動は、口汚く卑猥?でもあり、めちゃくちゃなキャラクターだが、同僚たちからは慕われていて、登場人物たちとのやり取りが楽しく、飽きる事はなく読了できた。

    シリーズ2作目以降も、とても楽しみ。

  • イギリス北部の架空の田舎町を舞台にフロスト警部が次々起きる事件に奔走する警察小説。ハードボイルド小説特有のカッコよさは一切排除。個性豊かな警官の面々が楽しく、口は下品で傍若無人、いつもよれよれのスーツのフロスト警部は人間味溢れた愛すべきキャラクター。イギリスらしく紅茶を飲む場面がしばしば出てくるので、熱々の濃い紅茶を飲みながら読みたくなる一冊。

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