古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫 (406‐1)) (創元推理文庫 406-1)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (661ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488406011

感想・レビュー・書評

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  • 昭和50年後半、神保町の古本屋街のビルの4階にある古本屋「書肆・蔵書一代」。
    店主の須藤康平は集客のために本を探す「本の探偵」を始めるが。
    ・稀覯本蒐集に手段を選ばない津村が私立図書館に寄贈した本が雑誌にすり替えられていた。
    ・本の探索依頼に訪れた女性と、ステッキの印まで本を積み上げ、闇雲に購入する老人、目録販売で送付した本の代金が支払われない詐欺事件が絡んで。
    ・和本の芯紙に幻の本が使われているという尾崎の依頼で本の探索に乗り出すが。
    ・戦後の混沌とした時代、地下出版に関わった、謎の人物、森田を探す依頼を受ける。

    クリスティはハヤカワの赤い背表紙のあのシリーズで、とか横溝正史は角川のあのシリーズで、とか捨てられないし、集めたい本はうちにもあるけれど、稀覯本蒐集家の殺気立つような狂気を感じるようなお話に唖然とする。
    古本屋、稀覯本が詳しく語られる中編?3篇と長編1篇と読み応えガッツリ。
    とくに「夜の蔵書家」は長くて重いお話。
    これだけで1冊でよくない?ってくらい。
    戦後の出版業界や印刷工の厳しい労働環境が描かれていて、ジョバンニも活字を拾っていたなとふと思う。

    「古本屋の棚にある本は、新刊書店とちがって、すべて店主のものである」
    の言葉に、これから古本屋を覗くのが楽しみになってきた。そうか、他人の本棚を覗きに行ってるんだなって。知人の本棚を見るのは遠慮がちにチラ見になってしまうけど、こちらは堂々と眺められるし。BOOKOFFとかは別としてね。

  • すごい昔に読んだ本だけどまた売ってたので買ってしまいました。りなちゃんがおそらく30代前半の女性をオバンていうのが衝撃的ですね。何で「オバン」は定着しなかったんでしょうね。

  • 神保町の古書店「書肆・蔵書一代」主人である須藤康平のもとに持ち込まれる事件をえがいたミステリ作品です。「殺意の収集」「書鬼」「無用の人」の中編3編と、長編「夜の蔵書家」を収録しています。

    「殺意の収集」は、津村恵三が図書館に寄託した幻の稀覯書『ワットオの薄暮』が図書館から盗まれた事件を追う話。「書鬼」は、戦前に出版されたシートンの『動物記』をさがしてほしいという風光明美の依頼を受けて調査を進めるうちに、古書店主たちのあいだで「ステッキの爺い」として有名な愛書家の矢口彰人と、須藤の店に現われる北見圭司との複雑な関係に巻き込まれていく話。「無用の人」は、和本の芯紙に成島柳北の『柳橋新誌』第三編が用いられているという尾崎朋信の依頼を受けて、「幻の本」が存在するという夢に須藤が振り回される話。「夜の蔵書家」は、戦後まもない頃に地下出版に携わりその後失踪してしまった森田一郎という人物をさがす話。

    「古本屋探偵」というと、ビブリア古書堂の栞子さんを思い出す読者もすくなくないと思いますが、こちらの著者は当代有数の愛書家として知られる紀田順一郎で、「限りなく現実に近い創作」という「書痴」たちの生態が見られるのが、本書の一番の読みどころであるように思います。デパートの古書即売展の様子は聞きおよんでいたものの、大雪の日に古本屋に出かけて、郵便受けに入っていた注文書と思しき速達の封筒を川に投げ捨てたというエピソードには驚かされます。

    そんな愛書家たちを相手にする古書店主も、一筋縄ではいかない濃いキャラクターばかりです。とくに「新聞を死亡欄から読むのが古本屋、本の広告から見るのが、シロトの愛書家」という小高根閑一の台詞がふるっています。もっとも、登場人物がそんなむさ苦しい男たちばかりというのはさすがに気が引けたのか、アルバイトで須藤の助手を務める短大生・小高根俚奈が一片の華やかさを添えてはいるものの、この方面の期待をするのはお門違いでしょう。

  • 文庫の帯に『「ビブリア古書堂の事件手帖」の出発点!!』と書いてあり、「ビブリア古書堂の事件手帖」の側に置いてあったので手に取ってみました。

    深い。愛書家という人種の想像を絶する世界を覗かせてもらった気がする。勿論フィクションであるのだろうけど、愛書家をを取り巻く世界が凄すぎる。「事実は小説よりも奇なり」の言葉通りに、この物語を超える現実が存在するとすれば恐ろしいとしか言いようがない。ある意味「ビブリア古書堂の事件手帖」はまだまだ表の世界しか描いていないとさえ思えてくる。

    もともと「ビブリア古書堂の事件手帖」が面白かったから、その派生として読む本が広がるというのは、読書の醍醐味でもある。「せどり男爵数奇譚」も「ビブリア古書堂の事件手帖」が教えてくれた世界観であった。

    この本を読んだ後で神保町にいったら、古本屋の主人を今までとは違う目で見てしまいそうである。

  • 『11枚のとらんぷ』が非常に面白かったので創元推理文庫は私にとって信頼のブランドとなった。したがってまたムラムラと読書の虫と収集欲が頭をもたげてきて、とりあえず当時出ていた創元推理文庫の日本人作家の作品を手当たり次第、手をつけることにした。
    その頃の日本人作家の文庫は今と違ってさほど点数も少なく、だいたい一作家一作品ぐらいの冊数だったので比較的容易に揃えることが出来た。まず手にしたのが本作。\1,000近くもする分厚い文庫本に怯んだが、古本屋探偵という魅惑的なタイトルに惹かれて読むことにした。

    本書はその名の通り、神田神保町で古本屋を営む主人公が、仕事の傍ら、顧客が求める古本を探す探偵業も行っており、古本に纏わる色んなエピソードがふんだんに盛り込まれた好作品集となっている。とにかく何事も収集家の世界というのは一種の狂気を孕んでいるが本もそれに洩れず、とにかくすごい話ばかりだ。古本で家庭崩壊した者、幻の古書を求めて、終いには気が狂ってしまった者、本の重みで家が倒壊してしまった者などなど、世の読書家には身につまされる話もあり、他人事と思えず、一歩間違えば、これは自分かも?と妙な親近感を抱いたりもする。しかもこれらのエピソードは実際のモデルや実話も少なからずあるというのだからまことに本の道は奥深い。
    また博学の紀田氏によって織り込まれる稀少本の逸話も興味深い。本書で挙げられる探索本はミステリの類いは確か1冊もないのだが、それでも本好きならば興味を持たずにいられない魅力を備えており、一体どんな本なんだろう、一度見てみたいと思わずにいられない。そしてそれらの本の来歴なども紀田氏の含蓄ある説明で面白く読め、こういう未知の知識を得ることを至上の悦びとしている私にはご馳走以外何物でもなかった。

    本書の主人公が経営する古本屋の名前は「書肆・蔵書一代」という。これは古書収集というのは家族の理解を得られることは絶対になく、その蔵書は一代限りであるというところから来ているが、まさしくこれは私にも当てはまるなぁと思った。私が自分の読書量を度外視して次々に本を買うのを呆れて家内が見ている風景が目に浮かんだ。また新聞を読むときに必ず死亡欄から読むという話も面白かった。そこにもし名の知れた古書収集家の名があれば、家族はその書物の処分に困るだろうからお悔やみを云いがてら、引取りの約束を取り付けるというのだ。いやあ、もうこれは収集家の性ですな。
    他にもデパートでの古本市の内輪話や神保町の古書店組合内で開催される競りの模様など、古書に纏わることなら満遍なく盛り込まれた作品群に、お値段以上、本の厚み以上の満足感を得ることができた。これをきっかけに紀田氏の古本ミステリを私は買い続けることになる。

    多分創元推理文庫で出ていなかったら、紀田順一郎という作家の作品も決して手にしなかっただろうし、またこのシリーズとも無縁だっただろう。島田氏から新本格作家と、新進の作家の方へ向けられていた私の目は創元推理文庫によって、ベテランの作家たちにもまだまだ面白い作品があることを知り、私のミステリ道はさらに深く深く潜っていくのであった。

  • 紀田順一郎が1982年に第1弾を発表した古書の世界を舞台としたミステリである須藤康平もの4編を1冊にまとめたもの。神田神保町が古書街として活気があった頃の様子がうかがえます。ミステリとして楽しむには少し辛いかもしれないです。それよりも、出版業界の裏側を垣間見ると思って読んだほうが楽しめそう。それにしても、古本屋、印刷家、愛書家、蔵書家…怖い世界もあるもんですね。ビブリア古書堂の原点的な感じで販促されてるんだけど全然違う。そして、その売り方はもったいない。もっと俚奈ちゃんを全面に出していこうよ(オイ

  • 初読みの作家さん。本の探偵なんて、ちょっとおもしろそう!と思い、半分くらいまでは良かったんですが…最後の「夜の蔵書家」が長い!そして出版界や文学界等のウンチクが長い!わけわからん。人の名前が多すぎて、実在の人物の話なのか、登場人物なのか混乱しました。嫌いではないけどその部分は飛ばして読んでしまった。なんでその人に会いに行くの⁇てか、この人誰⁈でした。そこそこ楽しめましたけどね。

  • 短編集。
    「殺意の収集」感想
    稀本収集家の津村恵三は、手に入れた「ワットオの薄暮」の私家版を図書館に寄託する。
    津村が事前に許可した者だけが閲覧できることになっていた。
    厳重に管理されていたはずの「ワットオの薄暮」が、いつの間にかゴミ同然の雑誌とすり替えられる。
    古書店「蔵書一代」の店主である須藤康平は、津村から誰がすり替えたのか調べてほしいと依頼される。
    恥も外聞知ったことか。とにかく目的の本さえ手に入れば他のことはどうでもいい。
    稀本収集家の執念には恐れ入る。
    きっかけは自分だけが楽しむために始めたちょっとした思いつきだったのだろう。
    だが、どんなに小さな情報も収集家たちは聞き逃さない。
    何故事実を打ち明けなかったのか。
    許されない領域にまで踏み入ってしまった収集家の狂気が理解できない。
    度を超した執着心は身を滅ぼす・・・。

    巻末の収録されている対談も面白い。
    古本屋にはふた通りのタイプがあるという話。
    ひとつは古書売買を生業としているタイプ。
    もうひとつは愛書家から転身したタイプ。
    また「古本屋の棚にある本は、新刊書店とちがって、すべて店主のものである」という一文もなるほど・・・と感心してしまった。
    手軽に中古本を手にすることができるチェーン店が身近にあり、古本屋を利用することはめったになかった。
    少し前に唯一利用したことのある古本屋が店を閉め、それからはすっかり縁がない。
    古本屋の独特の雰囲気が、一般の客をやんわりと拒絶しているように感じるのは私だけだろうか。

  • 神保町の古本屋店主が探偵仕事をする話。いわくありのお客からの依頼は様々。

  • 自分に関わりがなかった、愛書家の世界というものが見える。ミステリというより探偵小説だった。

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著者プロフィール

評論家・作家。書誌学、メディア論を専門とし、評論活動を行うほか、創作も手がける。
主な著書に『紀田順一郎著作集』全八巻(三一書房)、『日記の虚実』(筑摩書房)、『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)、『蔵書一代』(松籟社)など。荒俣宏と雑誌「幻想と怪奇」(三崎書房/歳月社)を創刊、のち叢書「世界幻想文学大系」(国書刊行会)を共同編纂した。

「2021年 『平井呈一 生涯とその作品』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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