空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

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著者 : 北村薫
  • 東京創元社 (1994年3月27日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413019

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空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)の感想・レビュー・書評

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  • 「おれもばかだが、おまえもばかだね。
     そうやって浮世のつらさを笑い飛ばす。それが落語なんです」
    これは大好きな落語家、立川談春さんの高座で聴いた言葉。

    幼い頃たまに家族で連れ立っていく親戚の家が、まあ退屈で。
    それで、年の離れたいとこの姉ちゃんの部屋にもぐり込んで、隠れて『少女フレンド』を読むのが唯一の楽しみ。
    いまとなっては時代を感じさせる、白地にオレンジのトランプのスート柄の壁紙。そしてたくさんのぬいぐるみやファンシーグッズの数々。くまさんやうさぎちゃんに埋もれながら『はいからさんが通る』や『生徒諸君!』を読み耽る幸せ。
    まあ、表面上は「しょうがなく読んでやってる」ポーズを取っていたけど。

    北村薫さんの連作短編ミステリ『空飛ぶ馬』を読み始めた時、そんな懐かしさや若干のこそばゆさが蘇ってきた。

    主人公の女子大生「私」(あっ、この印象的な女の子の表紙イラストは高野文子さんなんだ!)と探偵役の噺家春桜亭円紫師匠との洒落たやり取りと謎解きが面白い、いわゆる「日常の謎」系ミステリ。

    しかし「日常の謎」系、などと簡単に言ってしまったが、北村薫さんの『空飛ぶ馬』こそ日本におけるこのジャンルのエポックメイキングな存在なのだろう。
    「日常の謎」というと、人が死なないミステリ=ライトで軽いミステリを想像してしまいがちだが、殺人事件がないからといって明るく楽しいばかりでもない。いや、むしろ人が生きているからこその仄暗さというものもある。

    『織部の霊』で薄ら感じた蔵の雰囲気。
    『砂糖合戦』で象徴的に引用されるマクベス。
    のどかで能天気な日常にときおり影が差す。

    『胡桃の中の鳥』では、あっと言わされた。
    それにしても円紫師匠、いや北村薫先生のやさしさ。
    つらい浮世を噛みしめながらも、それをまるごと包み込むような温かさ。
    キラキラしたお仕着せのハッピーエンドではない、不安な夜道を照らす蕎麦屋の提灯のような丸く柔らかいともしび。

    そしてそんな蕎麦屋にやられたのが『赤頭巾』。秀逸。

    学食でカレーライスを食べていたら、ふっと左の下の歯が浮くような感じになった。
    こんな「まくら」から、歯医者の待合での世間話へ。
    蕎麦屋の明るい提灯に誘われ、ふらふらと屋台へと吸い込まれる。
    コミカルな『時そば』を注文して「いま何刻だい?」なんて言おうと思ったら、店の親爺がつるりと顔をなでて「おまえさんが見たのはこれかい?」とのっぺらぼうの顔をだす。
    背筋がひんやりする転調。
    人物造形が素晴らしく、ビジュアルイメージも鮮烈で切れ味鋭い「落ち」は見事。

    表題作『空飛ぶ馬』はラストに相応しい。美しい締めくくり。

    短編どれもが粒ぞろいの逸品だが、通して読んでいっそうふくらむ豊かな作品世界。
    架空の存在であるはずの円紫師匠の襲名の縁起や芸談がとても興味深く、話(噺)をもっと聴きたくなる。
    それから今作を含め五作ある、シリーズでの「私」の成長をもっと見守りたくなる(表紙イラストの変化も気になるところ)。

    いちばんの謎はやっぱり人間。
    織部嫌いも砂糖の大量摂取もあれが無くなるのも赤頭巾の出現も。
    そして空飛ぶ馬も。
    えっ、そんな理由でわざわざ? いや、そんな理由だからこそ。

    「おれもばかだが、おまえもばかだね。
    だから浮世は面白いし、人間ってぇのは愛おしいもんだね」

  • 恥ずかしながら北村薫さんを読むのは本作が初めて。
    ミステリーと言えば、殺人事件が起きて、謎に挑む刑事ないしは探偵が出てきて…というお話を想像しますが、全然そんなことはありません。
    日常生活の中で起こり得る(起こらないけど)不思議な出来事を描き、その謎を解いていく「日常ミステリー」なんです。
    主人公は女子大生、探偵役は春桜亭円紫さんです。
    女子大生は変に女女していなくて、そこが逆にとてもリアル(北村薫は当初は覆面作家で、本物の女子大生が書いているのだと勘違いした人が続出したそう。さもありなん)。
    それに何と言っても円紫さんです。
    個人的に落語が大好きですから、この設定は堪りません。
    本筋とは関係ないですが、円紫さんの高座や落語に関して薀蓄を傾ける場面が、私としては読みどころでした。
    たとえば、「鼠穴」という演目があります(私は談志のしか聴いたことがありません)。
    田舎から兄を頼って出て来た弟が、たった3文の銭を渡されて、そこから身を立てていく噺。
    3文を6文にし、6文を12文にして…と財産を増やしていくわけですが、円紫さんは「その間にだって食べるものは食べるだろう。別に金があるなら、三文から始める必要もない」と疑問を挟みます。
    いや、言われてみれば、なるほど、その通りです。
    落語ファンには、いろいろ気付かされることが多いのではないでしょうか。
    もちろん、謎が提示されて、それを快刀乱麻で解決し、大団円に至るというミステリーの醍醐味は十分に味わえます。
    パターンは概ね同じでも、1話ごとに趣が異なるのも魅力。
    たとえば、「赤頭巾」はシリアスで読後感も重いですが、表題作「空飛ぶ馬」は気持ちが晴れやかになる快作です。
    個人的には、「砂糖合戦」が気に入りました。
    冒頭にカッコ書きで「起こらないけど」などと書きましたが、これは十分に起こり得る日常ミステリー。
    卑小な人間の些細な悪意について書いていて、「あるある」といちいち得心しながら読みました。
    いろんな愉しみ方が出来る、実にお得なミステリーと言えましょう。

  • ほとんど純文学を読んでいるかのような心地だった。

    主人公の19歳の文学少女(敢えてそう呼ぼう)の、大人になりきる少し手前の繊細な感性が、淀みない文章で丁寧に表現されてゆく。
    日常のふとした出来事で、彼女の中にこれまで読んできた物語の一節が思い起こされ、重ねられていく。主人公が趣味で見に行く落語の物語も、日常の諸処でいろいろなことを教えてくれる。
    最も感動的だったのは、主人公が友達と夏の蔵王に旅行した際、深緑の山を見ながらまだ見ぬ錦秋の頃を想像し、かつて読んだ本の中にその風景を見いだし、疑似体験をする場面。
    物語は知らない風景だって見せてくれるのだ。
    読書はこうも人生を豊かにするのだ。
    主人公と同じくらいの時にこの本に出会いたかった。そうすれば若い頃もっと読書したのに!

    …で、矛盾するようだけど、私は純文学にちょっと苦手意識があって、この本も読むたびに居住まいを正さなければならない気分になって、引き込まれるように読むのとは違った関わり方をした本だった。
    でも、一度読んで終わりにするのは勿体無い。再読することで気づかなかった発見がある本だと思う。

    落語家の円紫さんが、類い稀なる洞察力で、日常に起こる謎な出来事を、状況を聞いただけで解決しちゃうライトミステリです、本来は。

  • 日常ミステリーだけど、主人公が文学・文芸好きということもあって、いろいろな文学の引用がされていたり、謎解き役が咄家さんなので、落語のお話が要所要所で登場し、そちらの方にも興味がわきました。大学生の主人公のまだ少女らしさが残る感じだとか、円紫師匠の知的な優しい雰囲気が好ましく、シリーズを読み進めたいなと思いました。円紫師匠の落語を聞いてみたいです。

  • 北村薫のデビュー作。「人が死なないミステリ」の代表格とも言える(思い込みに基づく断定)作品です。

    どろどろとしたサスペンスとは無縁の、暖かな作品群…ってあれ、この本ってこんなに黒かったんでしたっけ?(汗)
    久々に再読してみて、ちょっとだけビックリしました。多分、加納朋子とイメージ混同してます(苦笑)。円紫さんの軽妙さに惑わされた面もあるかもしれませんね。

    改めて今更思うのは、ああこのシリーズって「私」の成長記録なんだなあと。「赤頭巾」を読んだ時に、「山眠る」(「朝霧」所収)をしみじみと思い出しました。

    「父の心が本当にそれを~」のくだりでゾクッとしました。北村さんって、時々何食わぬ顔で物凄い球を放ってきますよね…。

  • 読み始め…16.5.20
    読み終わり…16.5.23

    女子大生の私と、落語家円紫師匠の名コンビが人の死なない日常ミステリの謎を解き明かす「円紫さんと私」シリーズの第一作目「空飛ぶ馬」

    私は古本屋さん廻りが大好きな読書家で落語好き。なかでも円紫さんのファンという私は、ひょんなことから円紫さんと対面する機会に恵まれ以後知り合いとなり、私の出来わした日常のどこにでもありがちななにげない謎が、円紫さんの冴えた頭脳でみごとに解き明かされていくというほのぼのミステリ。。

    主人公の女子大生、私の趣味としている古書と落語がとにかくたくさん登場します。ことに落語は私の趣味でありながら、もう一人の主人公である円紫さんのお仕事でもありますからそりゃぁもう...。。

    落語には今までそれほど興味はありませんでした。ですけどこれもまたひとつの出会い。幸いにも登場するのが古典落語なら伝統的なもの。さすれば検索検索っとググってみれば、容易く動画でお噺を聴くことができました。

    「織部の霊」
    円紫さんはマジシャン??まるで手品の種明かしを見せられているようなみごとな謎解き。
    古典落語《夢の酒》円紫さんの解説があったおかげかとてもわかりやすくて、はじめてちゃんと聴いた落語にすんなりと大笑い♪

    「砂糖合戦」
    人間ウオッチングが招いた謎でした。こんな悪戯ありそでなさそな、なさそでありそう?
    古典落語《強情灸》こちらも単純でわかりやすくて笑えまました♪

    「胡桃の中の鳥」
    この謎だけはあまりにもすんなり解いてしまった円紫さんにえ~~っ!と疑念の一声。円紫さんはやっぱりマジシャンじゃないのかしら....
    古典落語《五人廻し》ひとつ前に読んだ本が遊郭のことだったから興味津々。専門用語にもほうほうとうなずけて、やっぱり読むということは読めば読んだだけの価値があるものだなぁとつくづくしつつ大笑い♪

    「赤頭巾」「空飛ぶ馬」
    こちらはブラックユーモアからのほのぼのおとぎ話。
    古典落語《一眼国》ミイラ取りがミイラになっちゃった~というお噺でした。(文中解説あり)

  • 面白かったけど、ちょっと文章が…
    後半の2編はあまり違和感なく読めました。

  • 初北村。日常の謎と言われるものを初めて読みました(^^ 主人公の女子大生わたしと落語家の春桜亭円紫師匠との掛け合いが心地よいカンジで心温まりました!いつものミステリにちょっと飽きたら、こういうのを挟むと良いかも...(^^*

  • 最初からクセのある内容が続き、取っ付きにくい印象を持ったが、私の好きな落語の「鼠穴」が出てきてから俄然興味が湧いてきた。

    次回作も挑戦したい。

  • およそ十年ぶりの再読。北村薫さんのデビュー作にして円紫師匠シリーズの第1作。
    文学的、知的好奇心、向上心を刺激される。同時に自分のあまりにもの知識のなさ、今までの不勉強を痛感させられる。
    感情表現も情景表現も豊かというか巧みというか、読むことが楽しく感じられる。

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空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)の作品紹介

女子大生と円紫師匠の名コンビここに始まる。爽快な論理展開の妙と心暖まる物語。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)の単行本

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