空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M き 3-1)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413019

感想・レビュー・書評

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  • 漫画版を読んだのを機に原作再読。漫画版と原作の違いを読み比べるのも楽しく。それ以外では「砂糖合戦」での、マクベスへの見方がおもしろく。マクベスの立場にたち、一番気に入らないのは三人の魔女、次にマクベスを倒す連中。そそのかすだけそそのかして途中退場のマクベス夫人は許せない。マクベスはバンクオウを養子にしちゃえばいい、あるいはマクベスがバンクオウの養子になればいい、と。また「胡桃の中の鳥」の引用合戦も。「世の中の人は、男のペダンティズムは許容してくれる。老人の醜さを許容するように。でも女にはそのどっちも許さない」(アルベール・ティボーテ)/「どうです、人間というのも捨てたものじゃないでしょう」(円紫)/小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います。(北村薫)

  • 楽しく読ませて頂きました。殺人だけが推理では無いんです。「天の配剤」覚えておこう。やはりミステリーは面白いな!

  • '比喩や抽象は、現実に近付く手段であると同時に、それから最も遠ざかる方法であろう。現実の苦しみに思いを致す時、そう考えないわけにはいかない'


    目の前にあるものを定義しなければならない。

    世界は自分が飲み込みやすい姿に変換してからでないと、この体に取り入れることができない。全部が全部、その処理を通さなければいけないとそういう自分を決めつけている。本当に面倒臭くて、いつだって疲れ果ててしまって、ほとほと嫌気がさしてばかりだっていうのに、そんな煩わしいだけの自分を捨てることができない。きっと意味を見出してしまっているんだ、そんなものが無かったとしても。

    その結果やってくるのは、どんなこともすべてどうでもいい、どうだっていいという厭世的な気分。そんな遣る瀬無い感情に落としどころを付けることしかできない、どう見たって救われない帰結しかないと分かっているのに、そんなことから逃れることができなくて、ずーっとほーっと深く長い溜息をついている。

    何故なんだろう。これは辞めることができそうにないんだよ。

    どんなことだって存在していてよい、すべてを受け止めなきゃならないと思えることが、自分というものを成り立たせる最後の砦のように思えるからこそ、どんなに苦しくても手放すことはできない。手放してはいけない。

    そうやって抱え込んでいくものの重たさをわずかだとしても軽くしてくれる。自分があると思い込んでいる重たさなんて本当に存在しているのかい?と、根底をふっと笑い飛ばしてしまうような軽やかな意識だってあっていいんだと気づかせてくれる。そんなきっかけを手渡してくれる物語という存在がある。

    北村薫の物語、世界、そこに表れる主人公たちはまさにそれなのかもしれない。

    学生の頃、この物語を読んで手に入れたものと、いま再び手に取って見つけたものは、似ているようでたぶん似ていないのに、それでも変わりなく存在しているものに貫かれているんだってことも一緒に信じられるのだ。

    私と円紫師匠が見ているものを感じているものをいまの自分は同じように味わえるだろうか。

    同じなんてものが存在しないことは知っている。それでも、ここに実際に存在しているような空気を纏いながら、その空気を通して世界を見ることができたならば、いま抱え込んでいる苦しさなんてもっとはるかに小さなものにできるんだろうって思えるんだ。

    2016年の大晦日に来年の自分を設定しようとする。それは希望を抱くということときっとイコールだ。

    面倒臭いものが存在したままでいい。どうせ失くすことなんてできないものなのだから。そうだとしたって、そんな真ん中を内に抱え込んでいたとしても、世の中と接触する表側にはあたたかなやわらかな空気を纏って、そのために生まれてくるものを身体に取り込んでいくことだってきっと出来るはず。そんな並び立たないもの同士だって一緒に居座ることは出来る。

    いまはない、やわらかでなにものにも捉われることがない自分をそばに置いてみる。

    そんなことを来年のミッションにしてやろうと誓いを立てているのだ。


    '天の配剤ということをあなたは信じますか'

  • 読みやすい。そんで些細なことなんやけど謎解きの過程が面白い。

  • 地味な、人の死なない、生活の謎系ミステリー短編集。
    ワトスン役は文学部の女子大生。ホームズは彼女が好んで寄席などにいって聴いていた落語家の円紫さん。彼女から聞かされる不思議な出来事について、円紫さんは話を聞いて、鮮やかに、しかし力の入らないやんわりとした口調で解いていく。
    老教授が幼い頃に既視感を覚えた絵、喫茶店で紅茶に何杯も砂糖を入れる女性客たち、駐車していた車からシートカバーだけを盗んでいった理由、夜の9時に公園に現れる赤頭巾、そして、一度消えてまた戻ってきた木馬。普通の生活の中で遭遇する謎や秘密を解き明かす連作。
    10年くらい前に一度読んだのだが、懐かしくなって再読。

  • 読み出すまでに時間がかかるかも。

  • 好きだなぁ。先が気になる!という読み味ではないと思う。でも優しげというか品があるというか、そういった文章で、ふとした時に読みたくなる。日常の謎もの、という枠組みのなかで、人の心の機微を描く。
    書かれたのは30年近く前で、当時の社会文化が反映されてるのも面白い。女子大生2人の旅行の仕方とか。主人公は純粋な女性で、いまでは考えられないほど清純だ。いっそ幻想的ですらある。当時の価値観から見ても幻想的だったのだろう。
    そういえばはやみねかおるから僕のミステリは始まったのであった。さまざまな系譜をたどるつもりでシリーズ続編も読んでみよう

  • 博覧強記の落語家が、少し変わった賢い女子大生の「私」の説明だけで、日常に存在する謎を解いていくミステリー。

    落語や、多くの書籍、物語のイメージが、登場人物の口から重層的に語られ、それらが「事件」を、彩っていく。

    思えば、落語とは一つの物語を、読み込むことで立体的に肉付けし、表現していく芸能ともいえる。その表現者である落語家は、状況を的確に整理し、話せる「私」を得ることで、「名探偵」たり得るのだと納得がいった。

  • 再読。
    文章の周りくどさに少し抵抗を感じてしまった。

  • 覆面作家シリーズで北村先生の作品を知って好きになり、続いて円紫シリーズに手を出すことに。

    主人公が見つけた日常のちょっとした不思議を、円紫さんがするすると紐解いていく。いやいや、現実にこんな奴いねーよと思わず言いたくなる頭脳明晰さ。
    ちょっとした落語の噺もでてきてテンポが良い。ミーハーだから直ぐに聴きたくなる笑
    1話70pくらいで中だるみせずとても読みやすい。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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