江神二郎の洞察 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
4.07
  • (59)
  • (88)
  • (41)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 895
感想 : 64
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488414078

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 有栖川有栖といえば「学生アリス」と「作家アリス」のシリーズが二枚看板であり、互いが互いの小説を執筆しているというパラレル設定である(それにしたら学生アリスは多作すぎ作家アリスは寡作すぎるのだがそういうことを気にしてはいけない)。
    「学生アリス」シリーズ初の短編集である「江神二郎の洞察」はもうタイトルそのまんま、謎の大学生名探偵江神二郎が深い洞察を披露してくれる短編集である。
    連作短編ではなく、書かれた時期も相当バラバラだが、最初から通して読むと有栖川有栖くんがEMCに入部したところから始まり、1年を経て有馬麻里亜が入部するところで終わる。
    短編はきちんと独立して謎を提示して解決しているものの「やけた線路の上の死体」(実質デビュー作)と「桜川のオフィーリア」の間に第一長編「月光ゲーム」の事件が挟まり、「桜川-」以降のアリスには常にその事件が影として差しているので、学生アリスの長編を全部制覇してからの方が多分面白いだろう(ちなみに「桜川のオフィーリア」は「女王国の城」と関連がある)。
    有栖川有栖の名探偵は江神二郎にしろ火村英生にしろ背景に謎が多いのだが、江神二郎は、火村英生よりも情が濃い...人間愛が深い気がする。恐らく有栖川有栖という作家が若くして生み出した探偵というのも影響しているが、常に思索的であって、しかしそれをひけらかすでもなく、後輩たちを見守りいざというときは引っ張るという感じ。ああいう先輩が欲しい。
    江神とアリスが延々ミステリについて語り合う「除夜を歩く」は、ミステリ研究の入口のようなテイストがある(それにしても望月作の短編は凄まじかった...)。
    望月、織田の両先輩も好もしい。あのふたりの掛け合いには味がある。そしてこのふたりが実は事件呼ぶ体質なんじゃないかと思わされる(でもまあ「孤島パズル」を考えるとEMC全員事件体質なんだろうなと思うが)。
    そして学生アリスの作品群には一種の青春小説的テイストがどこかある(長編は大学内で事件は起きないのだが)。EMCの面々のやり取りを見ていると「こういう学生時代って良いな」と思わされるし、勿論有栖川有栖が意識したわけではないのだろうが、昭和から平成への世相感をどことなく写した作品でもある。尤もその時代に書かれた作品は少ないのだが。
    学生アリスシリーズは長編1作と短編集1作で完結すると有栖川有栖は明言している。早く読みたいものである。

  • 学生アリスの短編集。
    アリスの大学入学から月光ゲームの事件を通し、マリアがEMCに入部して、後藤パズルの事件が始まる直前までの短編集。
    「ハードロック・ラバーズ・オンリー」みたいなキレの良い短編も好きなんだけど、やっぱりシリーズの読者としては、「桜川のオフィーリア」や「四分間では短すぎる」みたいな、夏の事件で塞ぎこむ後輩への温かい先輩たちの心配りが見えるものにじんときてしまった。
    EMC、ほんとに素敵。
    「四分間では短すぎる」は、先輩3人が実に格好良くて、アリスじゃないけど「お見それしました」って感じに脱帽。すごく優しくて、これが一番好きかも。
    「除夜を歩く」の中の「あまりにもいろいろなことがあった年を、同じ体験をした先輩とともに送りたかったから。そんな気持ちを、両親ぼんやりと察してくれたようだ。」という文章には本当にじんときた。登場人物たちには当然作者が多少は投影されるものだけれど、繊細なアリスと、彼への暖かく優しい眼差しが作者から生み出されていることに感動してしまう。シニカルで都会的でシュッとしてるけど、その中に若者への温かさ、人間讃歌みたいなものを感じさせてくれるから、私は有栖川作品が好きなんだよね。
    特に学生シリーズにはそれが顕著だと思う。
    「蕩尽に関する一考察」は初出が2003年ということで、近年よく聞く「無敵の人」の犯罪にいて考えてしまった。「孤島パズル」のとき、マリアは去年の事件について知ってるのかなと気になっていたので、答え合わせをしてもらった気分。
    それから、この短編集を通してアリスやマリアが呟くちょっとした言葉がとても好きだった。
    「名探偵も他人を信じることができる」
    「音楽は、いや、どんなものでも、僕が考えているよりもずっと広く、愛されることに向かって開けているのかもしれない。」
    「名探偵は、屍肉喰らいではない。」
    「名探偵がいても、やっぱり悲しい出来事は止められないんだ」
    「……名探偵が、悲劇を未然に防いだのね」

    ここから孤島パズルへシリーズが進むのだと思うと、胸が締め付けられるし、ここまできたのだと思うと月光ゲームで傷付いたアリスの心がここまで癒えたのかとホッとするしで、余韻がほんとに素敵な短編集だった。シリーズ読者が読むことを想定してる作品だから、そうじゃない人が読んだらちんぷんかんぷんかもしれないな。

  • 良かった!
    基本的には長編が好きなんだけど、このシリーズに関しては短編の方が好きかも!!
    望月と信長の会話が良いし、気負わず楽しく読める。
    どの短編も良かったし時系列なのがいい!!

  • あまりの懐かしさに涙した。
    いわゆる学生アリスシリーズなのだけど、ひと昔前にその長編を読んでいた。そして、この短編集。
    ドラマ化された『双頭の悪魔』の記憶も朧気だが、マリア役の渡辺満里奈のことがこの本の最後で、思い出された。
    それにても、悲しむべきか喜ぶべきか、再読したくなった学生アリスシリーズは手元にないので(実家にはまだあるはず)、電子書籍で購入してしまいそう。
    あ、そうそう、昭和から平成に変わる時に、次の元号は何かを推理する話がある、ある意味、これはグッドタイミングな話だと思った次第です。

  • 有栖川有栖さんの推理小説(短編集)。久しぶりの学生アリスシリーズだし、オイラにとって久しぶりの推理小説でもある。どの話も水準を超えていて面白かったけど、何より登場人物達の掛け合いが楽しかった。学生アリスシリーズは長編が4つあるんだけど、個人的には「双頭の悪魔」が今の所のシリーズベストかな、と思ってます。学生アリスシリーズも残りは長編と短編が1冊づつとの事ですが、残りも首を長くして待ちたいと思う。このシリーズの最大のテーマである江神さんの件が、どのような結末を迎えるのか、が今から楽しみでもあるし、怖くもある。

  • 学生アリス、初短編集。アリスと江神部長との出会いから、マリア入部まで。順に読んでいくと自分もEMCに入部し、アリスたちと一緒に過ごしてきたかのように感じる素敵な一冊でした^^ う〜 また一作目から読みたくなってきた!!個人的に『除夜を歩く』が一番好き。

  • 学生アリスの短編集。
    作家アリスよりもこっちの方が好きなんだけど、全然出るのが遅いのですぐ忘れちゃうんだよね。
    とは言え、あと短編と長編が1冊くらいで完結とか言う話だから待ち遠しくも、終わっちゃうのかあと言う喪失感もあったり。
    今回は昔のネタもてんこ盛りで、昔の本格だったり新本格だったりな感じたっぷりでありました。
    マリアとの出会いも、短編があるとは聞いていたので、それが入ってた事は嬉しかったです。
    しかし、江神さんは最後どうなっちゃうのか、実はシリーズ完結後には火村との共演もあるのかとか、色々考えちゃう部分ですが、楽しみに次作を待ちたいと思います。

  • 待ちに待った学生アリスシリーズの短編集の文庫版! ということで、買って2日で読了。
    長編のシリーズありきの、アリスの入部からマリアとの出会いまでを書いた1冊。
    これぞ本格ミステリ! という感じで、とても論理的で面白かった。書き下ろしの「除夜を歩く」は、有栖川有栖(作者)らしいミステリ談義が繰り広げられていてとても興味深い。
    ミステリ好きはぜひ。というか定番か。

  • ミステリ短編という感じがしなかった。
    学生アリスシリーズに肉付けをするための普通の短編小説といった感じ。
    もちろん全編ミステリ要素満載なんだけど、なんというか、弱い。

    数編を抜粋して雑感

    ・瑠璃荘事件
     自分のイメージする『有栖川有栖のミステリ』にぴったりな作品。
     ネタこそこじんまりとしているけど、推理の道筋は長編のそれと一緒。

    ・ハードロック・ラバーズ・オンリー
     とても短いけれど一番好き。
     「除夜を歩く」内で推理の補完がされていたけど、それを蛇足ととるかどうか。

    ・やけた線路の上の死体
     「点と線」は未読なので一部とばしました。気になる……
     鉄道マニアとのこぎりのエピソード、2022年の今だと笑い話では済まないのだろうなとか考えてしまった。

    ・蕩尽に関する一考察
     これも今でいう『無敵の人』的なネタで、初出2003年でこれはすごいななどと思ったり。

    学生アリスの長編はすべて読んでいるけれど、月光ゲームの記憶が脳内から消えているので再読したくなりました。

  • 有栖が入学してからの1年で起きた出来事を時系列順に並べた短編集。

    実際に作品が書かれた順ではなく、時系列順にしているのが良い。

    作品内の時期的には長編1作目と2作目の間にあたる。

    内容としては長編のように実際に殺人事件に遭遇して解決すると言うよりは、日常の謎であったり、殺人事件だとしても安楽椅子探偵的に推理していく内容なので、読者への挑戦状など長編作品のような内容はあまり期待しないほうがよい。

全64件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

有栖川有栖の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×