卯月の雪のレター・レター (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488423131

作品紹介・あらすじ

両親を亡くした後、就職を機に「わたし」は妹を引き取る。ふたりで懸命に生きてきたが、最近になって妹が不可解な行動を取るようになり……。姉妹のあやうい関係を描く「小生意気リゲット」。教育実習先の小学校で出会った、“嘘つき”と呼ばれる少女の言葉の真意を、実習生が読み解く「狼少女の帰還」。祖父宛に届いた、六年前に亡くなった祖母からの手紙。それに込められた秘密を女子高生が追う表題作など、揺れ動く少女たちの心と、暖かさや切なさに満ちた謎を叙情豊かに描く全5編。青春ミステリの名手が贈る珠玉の短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 傷つきやすかったり、不安定だったり。
    そんな少女や女性たちの心理を、叙情豊かに淡く静かに描きつつ、作中の温かい視点にほっと安心できる短編集だったと思います。一人静かに勉強していたら、そっと後ろからホットミルクを差し出されるような、そんな感覚。

    相沢沙呼さんといえば、青春小説+ヘタレ・陰キャ男子の印象が強かったけど、この短編集だとその年代よりちょっと年上の女性が主人公の話が好きだった。

    両親が他界し社会人の姉と、高校生の妹の二人で暮らす姉妹。ある日から妹が、姉に冷たくあたるようになったわけを描く「小生意気リゲット」

    姉の妹に対するもどかしさ。それは苛立ちでもあり、そして自分がちゃんと妹の面倒を見てあげられていないのではないか、という不安や申し訳なさでもある。

    怒りと申し訳なさ、そうした相反した感情から姉の揺れる心理を描く筆勢がとても巧みでした。妹の行動の意味が明らかになったときの、温かい感情もほっと癒されるように思えます。

    クラスで嘘つき呼ばわりされ、担任からも諦められている少女。教育実習生の琴音が一人、少女が見たという、窃盗事件の真相を推理する「狼少女の帰還」

    琴音自身の生きづらさの描写が、とても感情移入してしまう。他の教育実習生たちにうまく溶け込めず、なんとか笑って見せたり、クラスから嘘つきとされている少女を思うあまり、ほかの子どもの心情に心配りが行き届かず、自信を失ってしまったり。

    彼女の優しさや繊細さ、寄る辺のなさ、孤独感、それぞれが生きづらさを抱える人、特に子ども時代にどこかで疎外感を感じたことのある人には、刺さる部分が多いと思います。

    そんな生きづらさを抱えた琴音が、傷つきながらも必死に考え窃盗事件の真相に気づき、決心を新たにし、初めての教育実習に挑む姿は感動的。不器用かもしれないけど、彼女の教師としての第一歩は、そのまま疎外感を感じたことのある人たちに対してもきっとエールになるはず。

    少女を中心にした短編も、心理描写の繊細さが光りました。事故のため視力を失った少女と、言葉を話すことのできない少女の関係性を描いた「チョコレートに躍る、指」

    収録されている短編の中でも、特に筆の勢いは抑えられていて、物語全体に今にも壊れてしまいそうな膜が張っているかのような不安定な感覚があります。
    一方でその不安定さが相手を思う少女の気持ちをより淡く、美しく繊細に表現します。耽美な雰囲気もありつつも、一方で哀しさや切なさが文中全体に漂う、どこか文学的な雰囲気も漂う一編。

    表題作「卯月の雪のレター・レター」は祖父に届いた数十年前の手紙の謎をめぐる短編。
    手紙の謎をめぐるかたわら、語り手である少女の劣等感の描き方が、これまた上手い。自分とは正反対の明るく活動的な姉や従妹に対する劣等感。目標が見えない高校生活に対するモヤモヤ。
    手紙の謎が解けるとともに、そうしたモヤモヤや劣等感に対しても、自分なりに区切りをつける少女の心情の変化も、見事でした。

    派手さや語り口は抑えられて、その分少女や女性たちの細やかな心理描写が心に残る一編ばかり。そして、そんな彼女たちにエールを送るかのような結末の数々は、作中の彼女たちのように繊細で、どこか生きづらさを抱える人にとっても、きっと味方になってくれるものだと思います。

  • 人生に"if"はないと言う。その時その時で精一杯の選択をしてきた結果、今の自分があるのだから。その線の上で、生きてゆくしかない。
    そのことを悟ってから、私はとても楽になったように感じています。自分の生き方に自信がついたというか。若い頃は、選択する場面はたくさんあるのに、選択の根拠に自信がなくて、疲弊していた気がします。
    相沢沙呼さんの作品に出てくる少女たちは自己肯定感の低い子が多いけれど、それはこういうことなのかな? とこの作品を読んで感じました。

  • 日常の謎系本格ミステリ×悩める若い女性 からなる短編集。「巧い」と思うことしばしばも、青春要素にやや飽きも来たり。ただ1番後ろの話がええ話なので、読後感はなかなか良い。

    ただ同じ青少年を主人公にしたミステリですと、どちらかというとデビュー作のシリーズのほうが、私は好き。本短編集は主人公の感情が語られ過ぎるきらいがあるかなぁと。デビュー作や『小説の神様』ではそれが魅力の肝になっていると思うのだけれど。

  • 4月に降る雪のように、
    思いもしない瞬間にふとフラッシュバックする少女時代の思い出がある。
    それはその時思い出としてではなく、もっと強いものとして浮き上がってくるかもしれない。
    あの悩みはあの瞬間は切実だった。
    時を経たらそんな切実さは無くなるかと思ったけど、決してそういうわけでもない。

  • ≪運命の赤い糸が結ぶものは何だろう.赤の鮮やかさ,糸の強度.運命の材質は,どんなものだろう.≫

    「少女」が主人公の5つの短編が収録されている.
    紅玉いづきさんによる解説がネタばれなしで上手にまとめられているので,気になった人はまず解説を読むのもいいかも.

    個人的には「小生意気リゲット」が好き.
    僕には年の近い兄・弟・妹がいるけれど,なんだかわかるなぁ.
    姉妹っていいなぁ.
    いや,僕は男なんだけれど,なんだか憧れる.
    「卯月の雪のレター・レター」の小袖ちゃんのような気持ちもわかる.
    自分の存在と,家族や周りとの付き合い方というか,違い,というほど大仰なものではないけれど,どこか重荷になっているんじゃないかとか,憧れとか.

    つまり,何が言いたいかというと.
    「少女」が主人公の本だけれど,男性が読んでもすっごく楽しめるし,共感できるということ.
    だって,著者の沙呼さんも,男性だよ.
    男も,どこかで「少女」なのだ.

  • 閉塞感のある少女たちの物語が好物です(´・ω・`)

  • よく読書する子=頭がいい、賢いってイメージなくなってほしい。決めつけないで。
    あと暇だから読書してるわけじゃない、読みたいから読んでるの。

    それぞれに生き方の違いがあることを理解して、押し付けずに生きていきたいな。

  • 【再読】少女たち、少女だった女性たち五人の女性が抱える悩みや不安、喜びや悲しみ、揺れ動く感情や想いを繊細に描き出した青春ミステリ短編集。標題の物語に出てきた『背表紙の森を探索する』という表現がとても素敵だと思いました。どのお話しも読み手の想像に任せられるエピローグになっていて、その後少女たちがどうなったか、色々と空想してしまいますね。何度読み返しても切なさと暖かさを感じる名作と思います。

  • 何気ない日常のちょっとした違和感や事件とも言えないくらいの出来事を、関係者の心情とともに描いた短編集。
    中学生か高校生の時に読んでいれば、少女たちが持つ悩みや将来への不安に、もう少し共感できただろうか。

  • 5人の少女たちが過ぎていく日常の中で悩んで考えて、楽しいことも苦しいことも乗り越えていく話。

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著者プロフィール

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。本作で第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得。さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となった。本作の続編となる『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)も発売中。

「2022年 『medium 霊媒探偵城塚翡翠(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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