掌の中の小鳥 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M か 3-3)

著者 :
  • 東京創元社
3.56
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本棚登録 : 1483
感想 : 181
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488426033

作品紹介・あらすじ

カクテルリストの充実した小粋な店〈エッグ・スタンド〉の常連は、不思議な話を持ち込む若いカップルや何でもお見通しといった風の紳士など個性派揃い。そこで披露される謎物語の数々、人生模様のとりどりは……。キュートなミステリ連作集。

■目次
「掌の中の小鳥」
「桜月夜」
「自転車泥棒」
「できない相談」
「エッグ・スタンド」

感想・レビュー・書評

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  • レビューを開いていただいたばかりで恐縮ですが、ご一緒に『できる、できないゲーム』をしませんか?

    はい、ブクログのレビューの場で何やってんだ!とお叱りを受けそうですがそんなゲームをちょっとやってみましょう。

    ○ルール説明
    ・他の人ができないようなことを『宣言』します。
    ・その『宣言』が『実行されてしまえば、言い出した者の負け』です。実行できなければあなたの勝ちです。
    ・しかし、あなたはその『宣言』を実行できなければなりません。

    さて、勝負です。
    ・宣言1: 『近所の高い塀の上を端から端まで歩いてみせる』
    う〜ん、どうでしょう。一見難しそうですが、思った以上に簡単にできてしまいそうでもあります。

    では、
    ・宣言2: 『校庭で一番高い木のてっぺんまで登ってみせる』
    いや、これだって木登りが得意な人っていそうですからね。絶対勝てるとは言えないでしょう。

    じゃあ、これはどうでしょう?
    ・宣言3: 『ケーキを一度に百個食べてみせる』
    大食いの方でも流石に難しそうです。でも、そんな『宣言』をしたあなたはケーキ百個なんて食べられるのでしょうか?ここが、ポイントになりそうですね。ところが、そんな『宣言』をした少年はこんな風に答えたそうです。
    『それじゃあ、今から食べてみせるから、早くケーキ百個持ってきてよ』。
    あちゃー。一本取られましたね。ムキになって金の力に任せられる大人は別として、子供ならこんな風に言われたら流石にお手上げです。『まるで一休さんのとんち話』のようでもあります。

    さて、ここからは大人のあなたとの勝負です。いいですか?はい。あなたの前に一人の大人の男性が近づいてきて、亜希子さんという女性が暮らすマンションの七階の部屋を見せたとします。そこには沢山の家具の他、部屋の中央には立派なピアノが鎮座しています。そして、マンションを出たあなたにその男性はこんな勝負を挑んできました。

    『俺はあの部屋ごと、亜希子さんを消してしまうことができるぜ』。

    天才マジシャンならいざ知らず、家具やピアノもろとも今見た部屋を消し去るなんてそんなこと絶対にできっこないですよね。

    はい、でもそれができてしまうんです。えっ!と驚くまさかのトリックによって実現してしまうその『宣言』!この作品は”日常の謎”に挑む人たちの物語。血が流れたり、人が死んだりといったことのない身近な謎を解き明かす物語。そして、それは加納朋子さんの優しい眼差しの先に展開するミステリーな物語です。

    『歩行者天国の銀座』でふいに肩を叩かれ振り向いたのは主人公の冬城圭介(ふゆき けいすけ)。それは、学生時代の佐々木先輩でした。『スーツ姿のお前なんか、初めて見たぞ』と話す佐々木と『近くの喫茶店に入った』圭介は、『容子さんは…奥さんはお元気ですか?』と訊きました。それに『まあね』と答える佐々木。しかし、それを『はぐらかされた』と思う圭介は『ここひと月ばかりの間に計三度、僕は容子からの電話を受けていた』と内心思います。留守番電話に残されたその内容は『私よ、わかる?もう、忘れちゃったわよね』というメッセージは『私は…そうね、もう死んでいるわ。私…コ・ロ・サ・レ・タ・ノ』と続きます。そして、三度目の電話には『私、雲雀(ひばり)になれなかったの』という意味深な内容が残されていました。そんな『雲雀』という言葉を聞いて感情が揺り動かされた圭介は、『佐々木先輩は四年、彼女と僕が三年』だったという学生時代に思いを馳せます。『アートクラブ』という同好会に所属していた三人。『いい?コバルト・ブルー、セルリアン・ブルー、ウルトラマリーン』と絵の具の色の話をする彼女。そんな彼女の絵に『不思議な魅力』を感じた圭介。一方、彼女の『絵など、まるで見ようとも』せず、『ただひたすら、彼女だけを見ていた』佐々木。そんな佐々木がある時『あの子をイーゼルの前からひっぺがすには、どうしたらいいと思う?』と訊いてきました。一方で『ひたすら眼前の作品世界に没頭』する彼女。そして、出来上がったのは『まず目に飛び込んでくるのが、はっとするほど美しいブルー』という絵でした。そんな絵に『雲雀』というタイトルをつけた彼女は、『翌年行われるコンテストに出品する』と言います。そして、それを『アートクラブ』の『片隅に仕舞い』こんでしばらくクラブから離れた彼女。そして、しばらくして圭介は容子と二人で『アートクラブ』の部屋へと赴きました。『あの絵を見せてくれよ』と頼む圭介に、容子は絵を取り出します。その瞬間、『容子の小柄な体が、異常にこわばるのを目にした』圭介。そこには、『黒褐色とも、鈍色とも、暗灰色とも、表現しがたい醜い色』で『無惨に汚され』た『雲雀』の絵がありました。『みるみるうちに蒼ざめ』た容子は『駆け出して』出て行ってしまいます。そして、『絵を描くことをふつりとやめてしまった』容子。一方で『俺は青い鳥を捕まえたよ、幸せの青い鳥をな』と言う佐々木を見て、『胸に暗い疑いの影』が射す圭介。そして、四年ぶりの再会で佐々木が口にした言葉から、容子の『無惨に汚され』た『雲雀』の絵に隠されたまさかの真実が明らかになっていきます…という最初の短編〈掌の中の小鳥〉。物語への導入パートの役割も兼ねながら、そんなことがあるんだ!というまさかのトリックが明かされるミステリーな好編でした。
    
    1995年に刊行されたこの作品。加納朋子さんの作品群の中でも初期の作品の一つになり、流石に時代を感じさせる表現も散見されます。そんな加納さんの作風というと”日常の謎”に迫ったミステリーが定番です。この作品は五つの短編が連作短編の形式をとっていますが、そんな各短編では、まさしく”日常の謎”という感じで”ミステリー=殺人”ではない不思議を解決する主人公たちの姿が描かれていきます。そんな五つの短編から特に私の印象に残った三つをご紹介します。

    〈桜月夜〉: 『初めて目にしたのは、町外れにある河原の土手っぷちだった』と一人の少年に出会った泉。それは、泉の『彼の一人息子』との運命的な出会いでした。そんな少年に『ねえ、ボクを誘拐してくんない?』と言われて動揺する泉は、『ねえ泉さん。お父さんのこと、好き?』とも言われうろたえます。そして、『彼の計画の共犯者になる』と決めた泉は『百万円』の要求額が書かれた彼『自作の脅迫状』を目にします。誘拐を『ゲーム』だと答える彼。そして、計画はスタートしますが、その結末にはまさかの展開が隠されていました。

    〈自転車泥棒〉: 『駅前の自転車置場に停めといたのに、帰ってみたらなかったのよ』と言う紗英。しかし、同時に『見つかったわ、運悪くね』とも言う紗英は、買い物に出た時に偶然自分の自転車を目にし、『後を追って』泥棒を捕まえたと話します。そして、そんな自転車泥棒から取り上げた『学生証』を見せる紗英は、取り替えられていた鍵を元に戻すまで預かったと答えます。『前途ある青少年に、悪いことしちゃった』とも言う紗英。『その問題の自転車ね、どうやら私んじゃ、なかったみたいなのよ』という予想外な展開の先にまさかの真実が明らかになります。

    〈できない相談〉: 『子供の頃流行ったゲームでさ、〈できる、できないゲーム〉ってあったでしょ』と語る武史。そんな武史に連れられた紗英は武史の知り合いのマンションに赴きました。『アップライト型のピアノが据えてあ』る亜希子という女性の部屋。そして、その部屋を後にした時『よお、紗英。ゲームをやらないか?』と武史が言い出します。『俺はあの部屋ごと、亜希子さんを消してしまうことができる』という武史は、『十分後に上がってこいよ』と建物へと消えました。そして、EVを上がり先程の部屋へと赴いた紗英は空っぽの部屋を見て唖然とします。そこには、まさかのトリックが隠されていました。

    …と言った感じでいずれの作品も”日常の謎”が提示されて、その短編の中で鮮やかに解決されていくというパターンで物語は進んでいきます。そんな五つの短編を連作として束ねるのが主人公の冬城圭介の存在です。そんな圭介に事件を持ち込むことになるのが『紗英の日常は小さな事件に満ち溢れている。これはもう、一種の才能と呼んでもいいほどだ』と紹介される穂村紗英です。『第一回目のデートから、実に堂々たる遅刻魔ぶりを発揮してくれた』と始まった圭介と紗英の関係。それは、紗英に引っ張り回される圭介というイメージ、つまり、様々な謎の解決に圭介が巻き込まれていく、そして読者も一緒にそんな謎解きモードに入っていくというスタイルが一貫しています。そして、圭介と紗英が推理を行う共通の場が『EGG STAND』という店名のバーです。各短編で取り上げられるのは、”日常の謎”といっても内容は当然にバラバラです。しかし、このバー『EGG STAND』の存在が物語としての一体感を出していきます。特にそれを感じるのが店のカウンターの中央にある『博物館にでも展示されていそうな、やたらと時代がかった大きな』壺に生けられた草花です。二編目から四編目まで、それぞれ『見事な枝振りの桜』、『大きなヒマワリ』、『見事なススキの穂… 共にアレンジしてあるガマの穂』、そして『早咲きの梅』というようにそんな壺に季節を代表する草花が生けられている様子が描かれます。ちょうど四季を一周するかのようなこの表現が、それぞれの短編の季節感を見事に表してもいきます。そんな土台の上で展開される”日常の謎”を解いていく物語は、一方で単に軽いミステリーというわけでもないのがこの作品の魅力です。書名となっている「掌の中の小鳥」。それは、『手の中の小鳥は生きているか、死んでいるか?』という話が元になります。ある子供が賢者に『絶対に解けない問題を思いついた』と語るその問題。『もし賢者が「生きている」と答えれば、子供は小鳥を握り潰す。「死んでいる」と答えれば、小鳥は次の瞬間には空高く舞い上がる』というその問題。そんな問題から、

    『あなたがどんな人間なのか、決めるのはあなた自身なのよ』。

    という考え方を導き出していく紗英。しっかりしているようで、なんだか不思議感のある紗英と、抜群の推理を発揮していく圭介の関係は、短編を読み進めれば進めるほどに深まってもいきます。

    各短編の謎解きの面白さと、紗英と圭介の恋の行方、そして舞台となるバー『EGG STAND』に流れるゆったりとした空気感が魅力のこの作品。どこまでも優しい加納さんの眼差しをそこかしこに感じるこの作品。それは、デビュー作でもある「ななつのこ」をベースに、ちょっと大人の味を入れてシェイクした、優しい感情の中に爽やかな味わいを残すカクテルのような、そんな作品でした。

    • さてさてさん
      みたらし娘さん、こちらこそ、いつもありがとうございます。

      私の拙いレビューがお役に立てて光栄です。このレビューを起点にお読みいただけた...
      みたらし娘さん、こちらこそ、いつもありがとうございます。

      私の拙いレビューがお役に立てて光栄です。このレビューを起点にお読みいただけたということで起点になれてとても嬉しいです。
      加納朋子さんの”日常の謎”を扱われた作品、とても面白いですよね。私は血を見たり、人が死んだり…という怖い展開は好きではないので、加納朋子さんの作品を読むとホッとします。また、加納さんの作品を読みたくなってきました。

      今後ともよろしくお願いいたします!
      2022/02/06
    • みたらし娘さん
      返信ありがとうございます!
      私は割とグロテスクなミステリーとかも好んで読む方ですが、こういった日常ミステリー、とても素敵ですね✩.*˚

      こ...
      返信ありがとうございます!
      私は割とグロテスクなミステリーとかも好んで読む方ですが、こういった日常ミステリー、とても素敵ですね✩.*˚

      こちらこそ今後ともまたよろしくお願い致します。
      レビュー楽しみにしています♪
      2022/02/06
    • さてさてさん
      みたらし女さん、返信ありがとうございました。
      なるほど、私も読書の幅を広げるべく今まで手を出さなかった作家さんの作品にトライするようにして...
      みたらし女さん、返信ありがとうございました。
      なるほど、私も読書の幅を広げるべく今まで手を出さなかった作家さんの作品にトライするようにしています。レビューを参考にさせていただきますね!

      今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
      2022/02/06
  • 本書は、殺人事件等を扱った本格ものではなく、日常の謎を解き明かしていくミステリーで、これだけ書くと、地味な内容だと思われるかもしれないが、それでもストーリーにオリジナリティを感じられたのは、それぞれの謎に主要キャラが、どこかしらで関わっている点と、第1章の表題作が、まるまる主人公(後の探偵役)とヒロインの、シリアスなプロローグになっている点にもあるとは思うが、最も胸を打たれたのは、謎解き以上に、主人公とヒロインの物語だからである。

    ちなみに謎解きに関しては、専門的知識が要求されるものや、今となってはシンプルなものに、複雑にし過ぎた感のあるものや、人間心理の裏をついた渋いものと、様々ながら、私的には、あまりトリックに新鮮味を感じなかった。

    だが、それぞれの謎に必ずある、ホワイダニットの真相については、それぞれの人間の心の中に潜む、複雑でどうしようもない思いの葛藤に、やるせなさが窺えて切なく、また、それを物語の中でさり気なく補足していることで、より一層大きな余韻を残してくれて、そこには、謎解き+人間ドラマとしての意味合いもあるように感じ、私にはそれが、加納朋子さんならではのメッセージだと捉えられた。

    またメッセージといえば、本書のタイトルの裏に書かれていた『可愛らしくもしたたかな、女たちへ』も印象に残り、おそらく、本書のオリジナルが発売された1995年には、今ほどジェンダー平等が声高に叫ばれていなかった時代だと思うが、それでもきっと、心の奥底では同じものを感じていたのだろうと思わせるような、加納さんの創造したヒロインを始めとした、悩みや苦しみを抱えながらも、明るく愛らしく、シニカルながら憎めない、そんな思い思いに生きる女性キャラ達は、読んでいて痛快だった。

    『私は安っぽいフェミニズムで守ってほしいとは思いませんし、女だてらにとも言ってほしくないですね』

    『勘違いしないで。つまんない男になるくらいなら、つまんない女でいた方が百万倍もましよ』

    『私とその子では生き方も価値観もまるで違うみたいだけど、でも理解することはできるわ、女だから』

    おそらく上記の言葉たちは、今の時代でも変わらず通用するであろうと思わせる、そんな加納さんの世界の見方は、女性に対するものだけではなく、様々な状況に於いても、決して答えを一つにはせずに、向かい合わせで対照的な二つの要素を常に提示しているのが特徴的で、例えば、数羽の水鳥について、『彼らの日常は彼らなりに忙しく、それでいて、この上なくのどかだ』や、強さについて『どれだけの年月が流れようと変わらない強さと、反対に刻々と変わってゆける強さ』に加えて、当時のギャルの表現ですら、『無神経と無邪気との間を行きつ戻りつ』と表現しており、そこには、物事には決して一方通行の、つまらない価値観だけがあるのではなく、複数の面白い価値観や見方を知ることで、生きることには、自分の思い込んでいることばかりではない、夢や希望もあることを教えてくれる。

    それから、タイトルの『掌の中の小鳥』に籠められた意味は、「はたして掌の中に小鳥はいるのか、いないのか?」、それは誰にも分からないという可能性の持つ素晴らしさに加えて、その中の小鳥は、いつかきっと、多様なものの見方を身に付けて、逞しく巣立っていくのだろうといった夢や希望が、それを描いた「菊池健」さんの優しいイラストにも表れているようで印象的だったし、その素敵なものの見方を知ったことで、最後の章「エッグ・スタンド」に何度も現れたバイバイは、自暴自棄に悩み苦しんでいた、主人公の『自分を好きになれない』という思い込みとのバイバイだったのではないかと、私は思うのだった。

    そして、それはもちろん、ヒロインの理屈や論理じゃ分からない、一番大切で、一途な想いの強さが最も大きいことも、虚偽と欺瞞に満ち満ちているこの世の中から、本物であり真実なのだと見出した、多様なものの見方を表しているのである。


    《余談》
    加納朋子さんの作品に見られる、固定観念に縛られない多様なものの見方については、以前読んだ、「ななつのこ」も同様であり、本書の発表された1995年といえば、私が20代前半の、それこそ固定観念だらけの、目には見えない暴力に悩み苦しんでいた頃であり、後悔したところでどうにもならないとは思いつつも、思い続けるつもりは毛頭無いので、ここでだけ本音を言わせて下さい。あの頃の私に教えてやりたくて・・そんな時代にリアルタイムで出会いたかったよ、加納さん。

  • 以前、加納朋子さんの作品にハマり読み漁っていた時があります。全作品を読んでないし、その時読んだ作品を全部覚えてる訳ではないんですが、この「掌の中の小鳥」は他の作品とちょっと違う印象を受けました。何て言っていいのか丁度いい言葉が浮かばないけど、大人な感じがしました。連作短編なんですが主人公の一人、冬城圭介がそういう雰囲気を出しているからなのかな?

    冬城圭介がカッコいいです。無駄な事は言わず、恋人の穂村紗英を優しくそっと見守るという感じです。グイグイいくタイプではないと思うけど、紗英と出会って知り合いになりたいと思った時の圭介の行動力は素敵です。私はギャップにやられますね。
    もう一人の主人公、穂村紗英はいわゆるクールビューティーでサバサバしていて、言いたい放題な感じです。もちろん、圭介にも同じなんですが、乙女なところもあります。圭介の前では可愛い女です。『自転車泥棒』という話でデートで遅刻した時、全力疾走で圭介のところに駆けつける姿や、『エッグ・スタンド』という話でネクタイの事でやきもちを焼く場面がありますが、私も可愛いなーなんて思います。とにかく、お似合いの二人です。

    登場人物を好きになると読むのも楽しいです。ミステリも面白かったです。日常の些細な事が、実は大きな意味を持っています。だから、各話の最後で謎が解けた時、なるほど、そういうことかと感心してしまいました。色んなところに伏線があり、隅々まで読み込まないと最後でやられたーってなります。私は、どういう事?となり読み返す事の方が多かったです。そこが悔しかったです。
    共通して出てくる、エッグ・スタンドという名前のBARがあります。その店名の由来を店主の泉が圭介に教える場面はすごく良かったです。名前の由来が心に響きました。
    話が少しずつ"人"で繋がっている感じがまた良いと思います。

  • フォローさせていただいてる方のレビューが魅力的で読んでみた1冊。
    普段好んで読んでいるような事件があって謎を解くと言うより、主人公の2人の日常を読み進める中に色んな謎解きがあるような感じ?
    と、とても面白かった。
    圭介や紗英、泉さんや先生みたいな人と出会ってみたいなと思った。
    なんだか自分も泉さんのお店で隣でずっとみんなの話を聞いてるような感じで読めた。
    すごく読みやすかった。

    【あなたがどんな人間なのか、決めるのはあなた自身】
    背中を押された1文。

  • “日常の謎”系ミステリ連作短編五話が収録されています。

    傷心の圭介と、彼がとあるパーティーで出会った紗英。
    この二人の男女が「エッグ・スタンド」というカクテルバーで語らう“謎”の数々・・。
    表題作「掌の中の小鳥」は、前半で圭介(この時点では名前を明かされておらず一人称“僕”で展開)の想いを寄せていた女性とのほろ苦い謎から始まり、後半では紗英(彼女の名前も最初は秘されています)の祖母との思い出に絡む謎解きで、出会ったばかりの二人が意気投合(?)し始めて、以降の各話で謎解き話をしながら距離が縮まっていきます・・というか、いつの間にか付き合っていますww。
    各話の一人称が誰のことなのも、謎に含まれていてその辺りも楽しみながら読めます。
    かなり前に出版された本なので、結構“時代”を感じる描写もある意味ノスタルジーかもです。
    やたら自己肯定感が高い紗英の言動は、好き嫌いあるかもしれませんが、個人的にはちょっと見習いたいところです。
    私は下戸なのですけれど、「エッグ・スタンド」みたいなお店に行ってみたいな・・と思いました。“謎解き話”もあれば尚良しですね。

  • 【収録作品】掌の中の小鳥/桜月夜/自転車泥棒/できない相談/エッグ・スタンド

    「掌の中の小鳥」 大学時代の片想い相手が絵を辞めるきっかけになった出来事に思いを巡らせる「僕」のパートと、厳しい校則に反発して登校拒否をしていた高校時代、再び登校するきっかけになった出来事を語る「私」のパートで構成されている。それぞれのラストで二人の出会いが描かれる。
    「桜月夜」 通りがかりのEGG STANDという店に入った二人。「私」は、不倫女性が不倫を辞めるきっかけとなった出来事について語る。それを聞いた「僕」は「私」の名前を言い当てる。
    「自転車泥棒」 「私」こと紗英の自転車が盗まれる。その前に人助けをしたという紗英の話とEGG STANDの常連である老紳士の話を聞いて、「僕」こと圭介はその裏に隠れている事情を察する。
    「できない相談」 紗英は幼なじみの武史と再会。以前再会したときに、武史が見せた消失トリックについて、圭介の推理を話す。
    「エッグ・スタンド」 従兄の婚約者を品定めするため、従妹に連れられて大寄せ茶会に参加した圭介。そこで、婚約者の婚約指輪がなくなった。その場で、圭介は幼なじみの噓つきミチルに再会する。

    謎には人の思いが隠されている。表面の謎を解いておしまいではないと思わされる連作。

  • 圭介と紗英、ちょっと変わり者同士のカップルが語る、それぞれが出会った謎めいた話。
    汚された絵画、碁石を使った祖母とのゲーム、自作自演の誘拐事件、おかしな自転車泥棒、マンションの部屋ごと住人を消してしまう<できる、できないゲーム>、茶会での指輪の盗難事件。なんともとりとめもないつかみどころのない話だが、前振りから余分な要素はなくて、きっちり伏線が回収される。
    相変わらず巧いなぁと思ったが、よく考えると初期の作品だからこの頃から巧いなぁということかな。

  • 舞台はカクテルバー・エッグ・スタンド。
    男女が謎解きする日常のミステリー。
    掌に小鳥を隠し持ち、生きていると言えば握り潰す。小鳥の生死を問われ…「答えは汝の手の中に」賢者の答えが心に残る。

    • りまのさん
      あるさん、こんばんは!
      フォローにお返しいただいて、ありがとうございます!
      加納朋子さんの、この御本、読みたくて、積読中です。今は、「カーテ...
      あるさん、こんばんは!
      フォローにお返しいただいて、ありがとうございます!
      加納朋子さんの、この御本、読みたくて、積読中です。今は、「カーテンコール!」を、ゆっくり読んでいます。(遅読なのです。)
      いいね をたくさん、ありがとうございました!
      どうぞよろしくお願いいたします♪
      2022/02/26
    • あるさん
      はじめまして。りまさんの本棚は、見ているだけで癒されます。掌の中の小鳥は、ミステリー要素があり読み易かったです。これからも素敵な本を紹介して...
      はじめまして。りまさんの本棚は、見ているだけで癒されます。掌の中の小鳥は、ミステリー要素があり読み易かったです。これからも素敵な本を紹介して下さい。
      2022/02/28
    • りまのさん
      あるさんへ
      お返事ありがとうございます♪
      私の本選びは、ほとんどブクログの方の本棚や、レビューを読ませていただいて、読んでいます。すごく遅読...
      あるさんへ
      お返事ありがとうございます♪
      私の本選びは、ほとんどブクログの方の本棚や、レビューを読ませていただいて、読んでいます。すごく遅読の上、利用していた図書館が、6月まで工事のため、お休みしているため、レビューも ゆっくりになると思いますが、よろしくお願いいたします♪
      2022/02/28
  • 自信満々な主人公が苦手で、感情移入出来なかった。でも話し自体は小気味よくて、あんなバーがあったら良いなと思った。

  • 加納朋子さんの小説は、キュートやチャーミングという形容が浮かんできます。常にそういう話を書かれるわけではないのだけど、文体や語り口、登場人物の雰囲気なんかが、どこか加納さんらしいというか。

    連作短編となるこの作品ですが、最初の「掌の中の小鳥」はシリアスと、チャーミングが交互に訪れる短編。というのも、前半と後半で語り手が変わり、謎も変わるから当然っちゃ当然なのですが、これ一編で加納さんのシリアスとチャーミングな作風は伝わるのではないかなあ。

    収録作品を細かく見ていくと、ミステリとしては分かりにくかったり、登場人物の行動や思考にちょっと置いてけぼりをくらったり、ということも個人的にはありました。ただ、真相が分かるとともに明かされる、人の想いやサプライズといったものの節々で、加納さんらしさを感じます。特に表題作の後半部と二話目は、加納さんの優しさや茶目っ気が、存分に発揮されていると思います。


    この短編集の裏テーマは、女性の生きづらさというのもあるのかな。出版された時代背景(単行本は1995年出版)があるとはいえ、女生徒の身体検査をしようとする高校教師が出てきて、そのせいで高校と対立する女生徒がいたり、他にも不倫に悩む女性、結婚と女の幸せ、就活に苦戦する女性……。そんな上手くいっていない女性たちの姿が、各短編出てきたように思います。

    作中で手の中の小鳥というキーワードが出てくるのですが、それはそんな女性たちの姿を重ね合わせているのかもしれません。そして本のタイトル『掌の中の小鳥』も、そんな女性たちの不自由さというものから、つけられたような気がします。

    掌から飛び立つこともできれば、そうすることができなかった小鳥もいます。でもそれぞれの小鳥に加納さんは、愛情と慈しみを持って描いてる。そんな印象を受けました。

    そして物語のラストのキュートさは、言葉にしがたい! それでも喩えようとするならば、思わず物語を抱きしめたくなるような。あるいは「ティファニーで朝食を」のパイプを持っているヘップバーンの写真を、初めて見たときのような(映画・原作とも未鑑賞ですが……)そんな気持ちになりました。

    惜しむらくは「エッグ・スタンド」というバーが舞台の話なのですが、その女性店主の泉さんは格好良さがあって、好きなキャラでした。なのでこの作品だけにしか出ないのもったいないなあ……、ということでしょうか。

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著者プロフィール

1966年福岡県生まれ。’92年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。’95年に『ガラスの麒麟』で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2008年『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。著書に『掌の中の小鳥』『ささら さや』『モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』『少年少女飛行倶楽部』『七人の敵がいる』『トオリヌケ キンシ』『カーテンコール!』『いつかの岸辺に跳ねていく』『二百十番館にようこそ』などがある。

「2021年 『ガラスの麒麟 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

加納朋子の作品

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