- Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488465124
作品紹介・あらすじ
そのめざましい活躍から、1980年代には推理小説界に「新本格ブーム」までを招来した名探偵・屋敷啓次郎。行く先々で事件に遭遇するものの、驚異的な解決率を誇っていた――。しかし時は過ぎて現代、ヒーローは過去の事件で傷を負い、ひっそりと暮らしていた。そんな彼を、元相棒が訪ねてくる。資産家一家に届いた脅迫状をめぐって若き名探偵・蜜柑花子と対決から、屋敷を現役復帰させようとの目論見だった。人里離れた別荘で巻き起こる密室殺人、さらにその後の名探偵たちの姿を描いた長編ミステリ。第23回鮎川哲也賞受賞作、待望の文庫化。
感想・レビュー・書評
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鮎川哲也賞。
とても面白い。引き込まれるミステリ。
かつての完全無欠の名探偵が、歳を取りバブルで失敗し、30年経って衰えた自分と向き合いながら、名探偵のジレンマに苦しむ話。
明らかに本格がモチーフなのだが、長編とは思えないくらい事件が地味で、トリックも微妙だと感じたが、プロットが面白くて没入できる。
ニューウェーブミステリみたいな表紙なのですが、中身はハードボイルドに近い。正直、一発勝負の渾身のプロットですが、続編はあるみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
冒頭は、東京湾に浮かぶ島に新しく建てられた館での殺人事件。本土と島で交換殺人が行われていたというトリックの真相を、名探偵、屋敷啓次郎が解明する場面から始まる。
閉ざされた環境での事件の犯人が、本土から来たクローズド外の人物という発想は、そこまで新しくはないが、AのJという殺人のオマージュっぽい発想でもあり、これをメイントリックではなく、捨てトリックにしているのはちょっと大胆に感じる。
冒頭の50頁が過ぎた当たりで場面が代わり、約30年後。屋敷は、犯人に襲われ大けがをし、探偵を辞めてほしいと元秘書で妻の七星美雪と娘とは別居。探偵を引退はしていないが、引きこもり状態。蜜柑花子という大学生でタレントでもある新たな名探偵がいる。ずっと引きこもりだったが、最後に事件に探偵として挑み、解決できなければ探偵を辞める決心をする。
屋敷啓次郎が挑む最後の事件には、現代の名探偵、蜜柑花子も呼ばれていた。蜜柑花子に挑戦するという形で起こった密室殺人事件。実は、屋敷啓次郎のファンだった蜜柑と協力する形で、屋敷は真相に気付く。
トリックは、狂言を利用した殺人。被害者役が密室を作り、密室を突破した段階で犯人が早業殺人をするという古典的なトリック。動機は、蜜柑への復讐。
屋敷は、自分の推理が、先に真相を看過した蜜柑の誘導であることに気付き、引退を決意。事件は蜜柑が解決するが、関係者全員が、犯人である本尾和奏に殺害され、和奏は自殺するという形で幕を閉じる。
屋敷の引退後の場面が描かれるが、屋敷は人体発火事件やストーカー殺人事件等に見舞われる。ストーカー殺人事件では、ストーカーの加害者が、被害者を殺人犯に仕立て挙げようとした事件の真相を看過。そのとき、引退を決意した事件で真犯人の意図に気付く。
屋敷は探偵に復帰。引退を決意した事件の裏付け捜査をする。その後、蜜柑を伴い、事件の黒幕、古くからの屋敷の協力者である刑事、武富竜人が黒幕であるという真相を暴く。
真相は、屋敷が引退を決意した事件は、犯人、被害者、被害者家族が結託した芝居だった。本来は、芝居で屋敷を復活させようとし、復活を祝うパーティをしようとしていたが、武富はその機会を利用し、関係者を殺害。全ては、屋敷と蜜柑に誤った推理をさせるため。武富自身は癌で余命いくばくもなく、自身の死後、真相を明らかにし、屋敷と蜜柑にダメージを与えるつもりだった。
屋敷は、名探偵が犯罪の元凶と考える女性に刺殺される。最後は、屋敷の妻、七星と娘が会うシーンで終わる。
クローズドサークル物のように見えて、外から来た者が犯人、狂言と早業殺人と、古典的なトリックを利用して、「名探偵」の在り方の悲劇を描いた作品。シリーズものにして名探偵を作ると、しょっちゅう殺人事件に出くわすことになる。「作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できないこと」や、「作中で探偵が神であるかの様に振るまい、登場人物の運命を決定することについての是非」といった
後期クイーン問題をテーマにした作品ということもあって、本格推理好きのミステリ作家等に受けたことから、鮎川哲也賞を受賞したのだろう。
本来であれば、好みの作品になりそうなのだが、それほど好きではない作品。名探偵になる使命を帯びた人がいる、という世界観で、もうファンタジー小説のような設定でありながら、探偵の一人称で書かれていることもあり、ハードボイルドっぽい雰囲気もあって、ちぐはぐな印象がある。屋敷啓次郎、蜜柑花子という名探偵の造形もあまり好みでない。いっそ、もっとステレオタイプにした方がよかった。中途半端に現代っぽさを出していることで、リアリティの無さが際立っている。完全なステレオタイプの名探偵で描き、完全な作り物にした方が、リアリティの無さが際立たなかったように思う。
古典的なトリック、中途半端にリアリティを出そうとしてよりリアリティがなくなった陳腐な物語、キャラクターの魅力もイマイチ。ちょっと違ったキャラクターでこの物語を描いていれば好きになった作品のような良さ感じるだけに、そういった意味では惜しい。★2で。
サプライズ ★★★☆☆
実は、探偵のパートナーである警察の協力者が犯人でした。警察の協力者は探偵を恨んでいました…というオチは意外性がありそうだが、そうでもない。ミスディレクションとなる人物がいないからか。あ、そうなの。ふーん。という感じ。
熱中度 ★★★☆☆
なんとなく引き込まれるものはあり、最後までは読める。夢中になるというほどではないが。
納得度 ★★☆☆☆
名探偵の使命を帯びる人がいる。武富竜人は警察でいじめられていて、癌になったから名探偵に復讐したというストーリーが荒唐無稽。荒唐無稽なストーリーなんだから、いっそ、ステレオタイプの「名探偵」とし、ファンタジーっぽさを前面に打ち出せばいいのに、妙なリアリティを出そうとして、納得度がなくなっている。納得度の低さがサプライズの薄さにつながっている気がする。
読後感 ★☆☆☆☆
探偵が、ずっと信頼していた刑事に裏切られるので、読後感は悪い。あと、最後に屋敷が意味もなく死ぬのも。安易に感動を出そうとしているような感じになっており読後感は悪い。
インパクト ★★★★☆
妙なインパクトはある。名探偵が刑事に裏切られる話といった感じで印象に残る。
偏愛度 ★☆☆☆☆
名探偵、コテコテの本格ミステリといった好きな要素もあるが、それが完全に嫌いな方に転がった。
武富竜人
屋敷啓次郎
和歌森喜八
津嘉山日出子 -
名探偵の証明
191225読了。
今年117冊目今月16冊目。
#読了
#名探偵の証明
#市川哲也
切なく哀愁漂う名作。
かつての名探偵の能力低下、老いを描く。
パートナーの存在、
後継者となる探偵。
一度は身を引くが探偵としてしか生きられない。
家族は?日常は?
名探偵がいるから事件が起きる。
名探偵の光と影。
京極堂の後年を思い、感慨深いものが。
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読後感がひたすらに切ない。
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名探偵が自信をなくして、ひきこもりになるとか。
あり得ない頻度で事件に遭遇することに、葛藤するとか。
〈名探偵〉のお約束、存在そのものをぶち壊すようなスタイル。
本格推理小説好き向けの、メタミステリのよう。
軽いタッチの作品。
第23回鮎川哲也賞受賞作。