雪の断章 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M さ 4-4)
- 東京創元社 (2008年12月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488467043
感想・レビュー・書評
-
ブクログにてレビューを書く時、さっくり書ける時もあれば中々書けずにそのまま放置…という時もある。作品の読後感によるのだけど、やたら難しい詰め込みがされているモノでも自分の心にしっかり一つ訴えるモノがあればサックリいけるが、思うモノが多いと何に焦点を絞るべきか悩む。そのまま放置…となりがちである。いや、放置になっている。自分の本棚でレビュー無しは、①思うものが多すぎて書けない②完全に内容を忘れてしまっている、に区分される。
この「雪の断章」は思うモノが多すぎたのだ、割と時が過ぎてなんとなく書ける気になったので今こうして綴っている。
70年代の作品、孤児を主人公とした文学作品群に位置するようである。ヒロイン飛鳥の一人称で物語は語られる、彼女の心象、北海道の自然、雪、とても美しく抒情的な言葉で綴られており、「表現」という手法においては著者佐々木丸美氏の力量にただ感服した。さらにロシアの児童文学家マルシャークの『森は生きている』が引用され作品にファンタジー色を与える役目を担っている。
しかし、飛鳥のキャラ、幼い時分に廻りの人々の悪意に囲まれて育った所以だろうが、周囲を敵味方という括りでしか接することができず、時にやたら理屈っぽく万人に愛されるキャラではない。また幼児を20代の青年が引き取って養育する、という設定があまりに現実離れしていて、消化できないままに読んでいくと…
この物語がミステリーへと一大変化をしてしまうのだ!飛鳥の周辺でおきた毒殺事件、またその被害者が幼少時の飛鳥と関連していたものだから、当然容疑者にされてしまう。この犯人特定はラストにおいて伏線となるが、特定のプロセスはしっかりミステリーの定石を踏んでおり評価しうる。
ヒロイン飛鳥は美しく成長していくのだが、彼女を見守るのはタイプの異なるステキな大人の男性、という少女の妄想の具現化というか、よくわからない…その二人の間で揺れる少女の心…を、圧倒的に美しい文体で語り、実はよくわからないモノを日本語の美しさで押し切られてしまった、というのが正直な感想である。
読後に知ったのだが、映像化されている。1985年 監督相米慎二 主演斉藤由貴 なんと初主演作品。これも未見であるが、おそろしくぶっ飛んでいる作品のようである。ただ当時の斎藤由貴の可愛さ、愛らしさは悶絶級であった、そしてあの眼、得体の知れない力が宿るように見えるあの目力はヒロイン飛鳥と完全に重なったのであった。
最近不倫問題でメディア登場する斎藤由貴と、飛鳥が重なったことによってレビューが書けたということである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一気読み。
1975年の本ということで、時代的にこういうこともありえたのかな~。
人々は今よりすごく大人びている。
ラブストーリーとしては情熱に欠けるし、
ミステリーとしては、もう一ひねり欲しかった。
でも、自分も物語の一員になれそうな感じで、入り込みやすい。
先が気になり楽しい読書タイムでした。 -
最後の終わり方が、読者に根源的な問いを、投げかけているように感じ、静謐なもの哀しさを感じさせる。
心を傷つけた罪は、誰が裁いてくれるのだろうか、本当に。
飛鳥のように過激ではなくとも、私も私なりのルールで人をみるところがあるので、途中なんの抵抗もなくすっと行動に共感できるところがあった。 -
孤児、飛鳥の辛い境遇、祐也との奇跡的な再会。そして同居。守ってくれる人のいる安心感。しかし、毒殺事件によって揺らぐ飛鳥の心。
ミステリーであり、恋愛小説でもあり、飛鳥が成長するなかでの心の葛藤が痛々しい。 -
精緻で詩のような文章。大人びつつも、ところどころ幼気なヒロインの心情描写は、多感な少女時代を経験したからこそ書けるものに違いない。
ミステリーは本筋ではなく、かつて孤児だったヒロインの成長とそれを取り巻く大人たちの物語。少女漫画やら乙女ゲーム的と揶揄されかねない展開だが、散りばめられたリアリズムに胸が痛む。小説の登場人物に感化されたのは久しぶりの経験だった。 -
よ、よかった、最後に一気に収束した。あと残り数ページしかないとこまで来て、伏線回収できないんじゃないかとハラハラした。
-
いくら孤児とはいえ、あまりにも切ない純情物語。育ててくれた人を一途に愛し、守ってくれた人を一途に守る。入り乱れる心の果てに、最後は二つの愛を守り抜く。哀しいはずなのになぜかハートウォームな気持ちで読み終えた。
-
津原泰水の推薦で知り、結構期待して読んだのだが、どうにも合わなかった。
叙景の美しさはわかるが、言葉遣い、男女の性役割、養子?に関する常識、などが現在とかけ離れすぎていて。
全共闘、ロストジェネレーション、高野悦子、森田童子、あたりを連想しながら読んで、あとで調べると同年代。
またミステリでは、ないね、これは。
ミステリというのは基本的に読者へのサービス精神だと思うが、本書では中盤の何でもない推理がそのままどんでん返されない。
偏屈な少女が、決して成長するわけでもないし、理屈をこねてばかりで結局は幸せに向かっていく。
ああ、これは変型判「マイ・フェア・レディ」か。