死と砂時計 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.63
  • (16)
  • (36)
  • (32)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 379
感想 : 36
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488497026

作品紹介・あらすじ

死刑執行前夜、密室状態にあった別々の独房で、二人の囚人はなぜ斬殺されたのか――。世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄に収監された青年アランは、そこでシュルツ老人と出合う。明晰な頭脳を持つシュルツの助手となって、アランは監獄内で起きる不可思議な事件の数々に係わっていく。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する、渾身の本格ミステリ連作集。第16回本格ミステリ大賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 各国から死刑囚ばかりが集められた刑務所で起こる、奇妙な事件の数々を描いた連作長編ミステリ。この設定ならではの奇妙な事件の数々と、動機の謎が最大の読みどころだったと思います。

    特に面白かったのは、連作の最初を飾る「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
    捕まる前は奇術師として、活躍していたシャヴォ。彼ともう一人同じ日に刑を執行される男が、共に執行前日に密室だったはずの独房で死体となって発見される。その謎を老囚シュルツと、その助手に指名されたアランが解き明かします。

    「英雄チャン・ウェイツの失踪」では、脱獄不可能と言われる監獄から唯一脱走に成功した男の脱走手段を推理する話。なぜ男は月明りで照らされる満月にあえて脱走したのか、その動機が事件のカギを握ります。

    特殊設定のミステリは近年かなり増えつつある印象だけど、この作品も本格ミステリのために作られた終末監獄という設定が、存分に活かされていて面白い。世界中から集められた死刑囚、システム面、そして人的な面という二つの監視システム。
    その設定ならではの動機であったり、トリックであったり、ロジックであったり。本格ミステリのために作られた舞台設定が、本格ミステリの面白さをより際立たせます。

    自分が埋めた死体を掘り返し解体した男、女しかいない監獄の女性区域で妊娠したという女囚。終末監獄で起こる不可思議な事件の最後を飾るのは、語り手でワトソン役だったアランの過去。
    ワールドワイドになっていく物語の展開に、なんとも言い難い読後感を残すラストと、最後までこの設定ならではのストーリーが展開されていきます。

    閉鎖された環境が舞台な分、人間関係がやや作為的すぎるように感じるところもあったのですが、この設定ならではの本格ミステリで各話楽しめました。

    第16回本格ミステリ大賞

  • 中東の小国、ジャリーミスタンに終末監獄と呼ばれる監獄がある。現代社会では、死刑執行に対する批判が大きく、多くの国では死刑囚がいても刑は執行しにくい。こうした死刑囚を一手に引き受けて、刑の執行を代行しましょう、というのがジャリーミスタン首長の目の付け所。いわば、死刑執行ビジネスである。処置に困った死刑囚を抱えた世界各国から、何某かの対価を得て死刑囚を引き取る。そして自国の監獄で刑に処するというわけである。ジャリーミスタンにも死刑反対論はあるが、何しろ小国で首長の力が強いため、力技でねじ伏せることが可能なのだ。

    全収容者6000人の監獄には、ひっきりなしに死刑囚が来るが、同程度の数が処刑されているため、全数はほぼ同じに保たれている。
    ここに新たに収容されたのが日系人のアラン・イシダ。両親殺しと放火の罪である。牢名主格の長老、ドイツ系ルーマニア人のシュルツが彼の面倒を見ることになる。
    さて、このシュルツは知恵者で、獄卒や看守にも一目置かれている。終末監獄で起こるいくつかの事件がシュルツの元に持ち込まれ、そのたび、シュルツはなぜか目を掛けているアランを助手に事件を推理するという趣向である。

    変わった舞台設定がよく生かされている。
    翌日には処刑を控えている死刑囚が密室で殺された。これはなぜか。
    逃亡不能と言われる終末監獄から、これまでにたった一人、逃亡を成功させた者がいた。彼を捕まえることは可能か。
    もうすぐ退官する監察官が視察の途中に殺される。こんな大それたことをした犯人は誰か。
    誰もが嫌がる墓守の仕事を淡々とこなしていた無口な男。彼が墓を暴いて遺体を冒涜しているという噂が流れる。それは本当か。本当ならばなぜそんなことをしたのか。
    終末監獄には女囚棟もある。男はいっさいいない監獄で1年数か月過ごした女囚がなぜか妊娠したという。果たしてその真偽は。
    いずれも「監獄」ならではの設定である。
    そんなことありえないだろうと思うような変わった事件にもすぱっと鮮やかに回答が示されるところが見事。

    シュルツとアランの師弟コンビも事件の解決を重ねて、絆を深めていく。
    そして期待通り、物語はアラン自身の死刑の理由となった事件へと向かう。
    ・・・個人的にはこの最終話がいただけない。ウイルスや生物兵器絡みなのだが、いくら何でも設定が雑だと思う。この最終話が別の展開なら、☆4つつけたかもしれない。この辺りは好みもあろうか。
    ちょっと変わった設定のミステリとして楽しめると思う。

  • 世界各国から集められた死刑囚を収容する監獄を舞台にした連作長編ミステリ。
    こういう特殊ミステリは設定がぶっ飛んでた方が好きなので楽しめました!
    あとラストええ話やなぁって思って読んでたらエピローグでずっこけた(褒めてます)

  • 本格ミステリ大賞受賞作にしては冴えない。閉鎖的な舞台ならではの謎を用意したのはいいが、真相は透け透けなものか、面白味に欠けるものばかり。一番良かったのが、第1話のワトソンのダミー推理というのが悲しい。

  • 探偵とその助手が、日々舞い込んでくる日常の謎を軽妙に解決していく連作集、と言ってしまえばそれまでだが、この作品では、その舞台は中東にある架空の首長国に造られた死刑囚専用の監獄で、探偵役すらも死刑囚である、という設えがまず読者の興味を惹くから上手い。
    実際、各小話のレヴェルは決して粒揃いとは言えないと思うが、限りなくヘヴィでシリアスな状況に置かれた登場人物たちが、いささかバカバカしくもあるライトな謎に取り組んでいくミスマッチぶりがなかなか面白い。
    最終話、比較的早めに真相の骨子は予見可能で、ややダークな結末もまあ没個性的と言えるのかもしれないが、あの後味の悪い締めは嫌いじゃなかったりする。

  • 手堅い。そして読み終わって反芻しているうち、タイトルに持たせた意味がジワジワくる。
    連作短編集と銘打ってあるので、鍛えられた我々ミステリ読者は「だいぶ連作ミステリにも飽きてきた。で、これにはラストに向けてどんな芯が通されているのかな?」と用心しながら読み進めますが、……あああ。あぁ。あぁ。(あまり細かく書くとこれから読む人の興醒めになるのでココまで!)

  • 終末監獄という特殊な状況下だからこそ生まれる特殊なwhy 。興味を惹かれる謎に加えて、持ち上げて落とすエピローグの演出も心憎い。

  • 最初はいまいちかな、読んだらすぐ売ろう、と思ってたけど最後まで読んだら面白かった。
    ある程度想像つくところもあったけどそれだけじゃなくて良かった。

  • 個人的に超気に入った作品、主人公の人生を諦めていたところから希望を見出す流れ。のはずが、最後の最後にひっくり返された。くそ親父この野郎!ってなったのが痛快だった。

  •  砂漠の国ジャリーミスタンは他国から死刑囚を預かり、代わりに処刑することで外貨を獲得してきた。 死刑囚が集う終末監獄で不可解な事件に遭遇する青年と老人。 何故死刑執行前夜に殺されなければならなかったのか、何故態々不利なタイミングで脱獄を企てたのか、死に限りなく近い閉鎖状況下で起こる事件は常識に則っては解決しない・・・。 

     終末監獄を舞台にした連作短編集。 随所に逆説が施され、犯人の起した迂遠的な手法に迫る。 そして最後を締めくくるエピソードは予想もしえない終結を迎えるのだった。

  • こういったタイプの結末が嫌いなわけでもないけれど、この本は自分の好みにははまらなかった。
    振り返ってみても、決定的な原因はなく、舞台設定、トリック、ハプニング、動機等に対する細かい好みのズレの積み重ねなのだろうと思う。

  • 目次
    ・魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室
    ・英雄チェン・ウェイツの失踪
    ・監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦(とうかい)
    ・墓守ラクパ・ギャルポの誉れ
    ・女囚マリア・スコフィールドの懐胎
    ・確定囚アラン・イシダの真実

    各事件の一つ一つが面白いのだけれども、最後まで読んだらとてもじゃないけどその面白さは比べものにならない。

    最後のアラン・イシダの真実を読んで、やっぱりねって思ったあさはかな自分を笑ってやりたい。
    そうかそうか、最初に感じた違和感の正体はここに繋がるのか。
    どんでん返しの妙といい、障害を持つ人への逆説的視点といい、以前に読んだ「激走!福岡国際マラソン42.195キロの謎」を彷彿とさせるなあ。
    なんて、のんきに思ってたんだよ、最後の最後まで。

    読後感、全然違いますやん。
    ゾゾ~っとしたわ。

    で、改めて本を手に取り、タイトルと表紙絵がストレートに作品を表現していたことに気づく。
    騙される快感。
    やっぱり上手いなあ、鳥飼否宇。

  • 一つ一つの話は「そんなのありか」みたいなものも含みつつ(特にシャヴォの密室)、歯切れ良く解決する。ところどころに、謎の口調が入る。特にシュルツ。「ござる」とか言い出した時はずっこけた。明らかな殺人鬼だけでなく、政治的に抑圧された人間がいるところも闇が深い。
    公開処刑を楽しむ富裕層の設定はとてもよく見るパターンなので逆に白ける。一方で、アランの真実は感動的だけどもありがちだな、と思っていたために最後の一文にゾクッとした。なんだかんだでシュルツ老のかっこよさに痺れていただけに。

  • 終末監獄っていう特殊設定が面白い連作短編集。
    各話のホワイダニットもまた興味深い。
    ラストですべての予想を裏切るっていうの、あながち間違いじゃない。
    最終話で「あーやっぱりそんな気がしたわー」と思って読んでたら、最後の最後で「えっ」ってなった。

  • 「プロローグ」★★★
    ごく平凡なプロローグ。
    「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」★★★★
    凶器に関する伏線が見事。
    「英雄チェン・ウェイツの失踪」★★★
    考えてみれば皮肉な展開。
    「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」★★
    微妙。
    「墓守ラクバ・ギャルポの誉れ」★★★
    ある知識がないとすっきりしないかもしれない。
    「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」★★
    魅力的な謎の割には、うーん・・・。
    「確定囚アラン・イシダの真実」★★★
    これまでの話から真相の予測は容易い。この話はむしろエピローグのためにあるのでは。
    「エピローグ」★★★★
    エピローグの有無で、登場人物への印象が180度変わるのではと思うくらい重要。個人的にはアリ。

  • おおうそうきたか?!っていう面白さはあったかな。まあでもそもそも舞台がファンタジーで、だから動機もファンタジー。説得力に欠けた感じ。

  • 世界中から死刑囚のみが集められた終末監獄を舞台に、そこで起こった不可思議な事件を老囚人と助手の青年が解き明かす連作。事件の舞台も、ひとつひとつの事件の内容も設定がすごいとしか言いようがない。さらに最終話では大きな秘密が暴露され、なんというか、科学者とテロリストの狂気を心底感じて怖ろしくなりました。最後の一行のどんでん返しコワイ…!!

  • 設定が突飛で面白かった。最終章は、ちょっと展開が読めてしまうというか何と言うか。悪くは無いんだけど。

  •  死刑囚ばかり集められた監獄を舞台にした短編集。不思議な特殊な環境で起こる事件を、名探偵のような老人が少ない情報から解き明かしてゆく、安楽椅子探偵の物語。奇抜なトリックに重きを置きすぎているような感じはあるが、今まで見たこともないような設定はなかなか面白い。

  • 【砂も時間も戻せない】
    中のタイトルをみて、読み始めて、なんだかブラウン神父の雰囲気と思っていたら、やはり意識されているそうな。
    ラストもゾクッとしてグッド。

  • 終わり方好き

  • バカミスというほどではないがどこかリアリティの希薄な数々の謎が、終末監獄という不思議な舞台の雰囲気をより色濃くしている。
    死刑囚たちの日常の謎、数々の何故?には
    死刑囚たちには他人事と断じきれない狂気と死の気配が漂う。
    そして一番狂っていた、衝撃的なラスト二行。

  • 最後、怖っっっ!
    こうじゃない方が好きと言うか、すごく後味が怖いんだけど、でも、物語としてこの方が素晴らしいというか…。
    一つ一つの話が囚人だけに変人だらけで面白かった。

  • どの話もすごいなぁ、面白いなぁと思うのだけれど、表紙とかタイトルでイメージした雰囲気と違ってなんとなく読むのに時間がかかってしまった。
    そしてこの話の最後がこれかぁ、とちょっとしょんぼりしたけど、最後の最後にやられてしまった。面白かった…。

    最後はとても好き。

  • 読み終わった瞬間、震えた。これはネタバレせずにこの本のすごさ、というか怖さを説明できない。が、すごい。(語彙力が…)
    世界各国の死刑囚を収容した特殊な監獄に入れられた青年アランと、監獄の牢名主シュルツ老人と共に、監獄で起こる謎を解明していくというミステリ。設定が独特で、惹かれる。
    6編から成るけど、最後の特別な1編を除くと、私は「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」が一番好き。ギャルポの理解されないけれど、尊い行動…切ない。
    いやー、しかしラスト1編ですべて持ってかれた感がある。あわわわわわ。

  • 架空の国の監獄内で起こる様々な事件が描かれた短編集。それぞれの短編集の出来も良くテンポよく読める。ハズレがほぼないと言っていい短編集。

  • 設定や序盤の引き込み方、雰囲気などは好きなのだけど、推理パートが弱い印象…

    最後の最後、終わり方は好きだった!

  • 終末監獄で起こる様々な謎を師匠のシュルツと共に解き明かす日本人の血を引くアラン青年。彼らもこの監獄に収監されていて、行動も自由とはいかないなかなで、推理を巡らせる。
    そして、衝撃のラストへ。

  • てがたい短編連作かなーと安心感をもって読み進めていたので、最後の一行でぞくっときたし、思わずアランの年齢を確かめた。彼は三十歳ぐらいだと書かれていた。まもなく潜伏期間が過ぎるのか…。

  • 第16回(2016年)本格ミステリ大賞受賞作。

    世界各国から死刑囚を受け入れ、死刑執行を執り行うジャリーミスタン終末監獄。
    そこへ新しく収監された若者アランと、棟長であるシュルツ老人が、監獄内で起こる数々の事件を解決していく、という連作短編。
    読み進めていく内に、登場人物に愛着(?)が湧いてきたり。
    そして、最終話。
    悲しくも美しい物語で終了かと思いきや。
    まさかのエピローグ。
    えええぇぇ!! そっちーっ!? ・・・みたいな(笑)。

全36件中 1 - 30件を表示

著者プロフィール

1960年福岡県生まれ。九州大学理学部卒業。2001年『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。主な著作に「観察者」シリーズ、「綾鹿市」シリーズなど。碇卯人名義でテレビドラマ「相棒」シリーズのノベライズも執筆。2016年『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞【小説部門】を受賞。

「2021年 『指切りパズル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

鳥飼否宇の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×