- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488497026
作品紹介・あらすじ
死刑執行前夜、密室状態にあった別々の独房で、二人の囚人はなぜ斬殺されたのか――。世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄に収監された青年アランは、そこでシュルツ老人と出合う。明晰な頭脳を持つシュルツの助手となって、アランは監獄内で起きる不可思議な事件の数々に係わっていく。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する、渾身の本格ミステリ連作集。第16回本格ミステリ大賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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各国から死刑囚ばかりが集められた刑務所で起こる、奇妙な事件の数々を描いた連作長編ミステリ。この設定ならではの奇妙な事件の数々と、動機の謎が最大の読みどころだったと思います。
特に面白かったのは、連作の最初を飾る「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
捕まる前は奇術師として、活躍していたシャヴォ。彼ともう一人同じ日に刑を執行される男が、共に執行前日に密室だったはずの独房で死体となって発見される。その謎を老囚シュルツと、その助手に指名されたアランが解き明かします。
「英雄チャン・ウェイツの失踪」では、脱獄不可能と言われる監獄から唯一脱走に成功した男の脱走手段を推理する話。なぜ男は月明りで照らされる満月にあえて脱走したのか、その動機が事件のカギを握ります。
特殊設定のミステリは近年かなり増えつつある印象だけど、この作品も本格ミステリのために作られた終末監獄という設定が、存分に活かされていて面白い。世界中から集められた死刑囚、システム面、そして人的な面という二つの監視システム。
その設定ならではの動機であったり、トリックであったり、ロジックであったり。本格ミステリのために作られた舞台設定が、本格ミステリの面白さをより際立たせます。
自分が埋めた死体を掘り返し解体した男、女しかいない監獄の女性区域で妊娠したという女囚。終末監獄で起こる不可思議な事件の最後を飾るのは、語り手でワトソン役だったアランの過去。
ワールドワイドになっていく物語の展開に、なんとも言い難い読後感を残すラストと、最後までこの設定ならではのストーリーが展開されていきます。
閉鎖された環境が舞台な分、人間関係がやや作為的すぎるように感じるところもあったのですが、この設定ならではの本格ミステリで各話楽しめました。
第16回本格ミステリ大賞詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
中東の小国、ジャリーミスタンに終末監獄と呼ばれる監獄がある。現代社会では、死刑執行に対する批判が大きく、多くの国では死刑囚がいても刑は執行しにくい。こうした死刑囚を一手に引き受けて、刑の執行を代行しましょう、というのがジャリーミスタン首長の目の付け所。いわば、死刑執行ビジネスである。処置に困った死刑囚を抱えた世界各国から、何某かの対価を得て死刑囚を引き取る。そして自国の監獄で刑に処するというわけである。ジャリーミスタンにも死刑反対論はあるが、何しろ小国で首長の力が強いため、力技でねじ伏せることが可能なのだ。
全収容者6000人の監獄には、ひっきりなしに死刑囚が来るが、同程度の数が処刑されているため、全数はほぼ同じに保たれている。
ここに新たに収容されたのが日系人のアラン・イシダ。両親殺しと放火の罪である。牢名主格の長老、ドイツ系ルーマニア人のシュルツが彼の面倒を見ることになる。
さて、このシュルツは知恵者で、獄卒や看守にも一目置かれている。終末監獄で起こるいくつかの事件がシュルツの元に持ち込まれ、そのたび、シュルツはなぜか目を掛けているアランを助手に事件を推理するという趣向である。
変わった舞台設定がよく生かされている。
翌日には処刑を控えている死刑囚が密室で殺された。これはなぜか。
逃亡不能と言われる終末監獄から、これまでにたった一人、逃亡を成功させた者がいた。彼を捕まえることは可能か。
もうすぐ退官する監察官が視察の途中に殺される。こんな大それたことをした犯人は誰か。
誰もが嫌がる墓守の仕事を淡々とこなしていた無口な男。彼が墓を暴いて遺体を冒涜しているという噂が流れる。それは本当か。本当ならばなぜそんなことをしたのか。
終末監獄には女囚棟もある。男はいっさいいない監獄で1年数か月過ごした女囚がなぜか妊娠したという。果たしてその真偽は。
いずれも「監獄」ならではの設定である。
そんなことありえないだろうと思うような変わった事件にもすぱっと鮮やかに回答が示されるところが見事。
シュルツとアランの師弟コンビも事件の解決を重ねて、絆を深めていく。
そして期待通り、物語はアラン自身の死刑の理由となった事件へと向かう。
・・・個人的にはこの最終話がいただけない。ウイルスや生物兵器絡みなのだが、いくら何でも設定が雑だと思う。この最終話が別の展開なら、☆4つつけたかもしれない。この辺りは好みもあろうか。
ちょっと変わった設定のミステリとして楽しめると思う。 -
世界各国から集められた死刑囚を収容する監獄を舞台にした連作長編ミステリ。
こういう特殊ミステリは設定がぶっ飛んでた方が好きなので楽しめました!
あとラストええ話やなぁって思って読んでたらエピローグでずっこけた(褒めてます) -
本格ミステリ大賞受賞作にしては冴えない。閉鎖的な舞台ならではの謎を用意したのはいいが、真相は透け透けなものか、面白味に欠けるものばかり。一番良かったのが、第1話のワトソンのダミー推理というのが悲しい。
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手堅い。そして読み終わって反芻しているうち、タイトルに持たせた意味がジワジワくる。
連作短編集と銘打ってあるので、鍛えられた我々ミステリ読者は「だいぶ連作ミステリにも飽きてきた。で、これにはラストに向けてどんな芯が通されているのかな?」と用心しながら読み進めますが、……あああ。あぁ。あぁ。(あまり細かく書くとこれから読む人の興醒めになるのでココまで!) -
終末監獄という特殊な状況下だからこそ生まれる特殊なwhy 。興味を惹かれる謎に加えて、持ち上げて落とすエピローグの演出も心憎い。
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最初はいまいちかな、読んだらすぐ売ろう、と思ってたけど最後まで読んだら面白かった。
ある程度想像つくところもあったけどそれだけじゃなくて良かった。 -
砂漠の国ジャリーミスタンは他国から死刑囚を預かり、代わりに処刑することで外貨を獲得してきた。 死刑囚が集う終末監獄で不可解な事件に遭遇する青年と老人。 何故死刑執行前夜に殺されなければならなかったのか、何故態々不利なタイミングで脱獄を企てたのか、死に限りなく近い閉鎖状況下で起こる事件は常識に則っては解決しない・・・。
終末監獄を舞台にした連作短編集。 随所に逆説が施され、犯人の起した迂遠的な手法に迫る。 そして最後を締めくくるエピソードは予想もしえない終結を迎えるのだった。