夜の写本師 (創元推理文庫)

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著者 : 乾石智子
  • 東京創元社 (2014年4月12日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488525026

夜の写本師 (創元推理文庫)の感想・レビュー・書評

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  • いやぁ~、面白かった!
    逸る気持ちを抑えながらページをめくり続けた。
    いわゆるファンタジー小説というジャンルが苦手な自分が
    コレほどハマったのはホンマ珍しいし、
    その新人離れした描写力と、物語が持つ力を読む者に改めて知らしめてくれる、ストーリーテリングの巧さよ。

    数千年の時を越え
    本の中の世界を行き来する主人公と同じく、
    読んでいる僕自身も緑豊かな海沿いの街を、彼、彼女らの生きた世界を、
    本を開くことで追体験できる至上の喜び。
    「ああ~、これが小説だ」と思える何事にも代え難い充実感に感謝!
    ( 開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんて本しかないし、極上のファンタジー小説があればタイムマシーンなんていらないのである笑)

    右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきた主人公の少年カリュドウ。
    14歳のある日、女を殺しては魔法の力を奪う大魔道師アンジストに
    育ての親である女魔道師のエイリャと優れた魔力を持つ少女フィンが目の前で無惨に殺され、
    不甲斐ない自分を呪い、復讐を果たすための孤独な旅を描いた
    大人のダークファンタジー。

    まったく何にもないところから
    新しい国や社会を創造し、読む者を今ある現実から異世界へと一気に連れ去るファンタジー小説という特殊なジャンルだけに
    そこに何がしかのリアリティがないとただの絵空事となって
    物語に入り込めなくなってしまう。

    けれどもこのファンタジー小説のスゴいところは圧倒的な描写力と緻密な設定によって違和感なく読む者を引きつけ、
    小説というただの紙束からまだ見ぬ新しい世界を出現させるのだ。

    主人公の少年カリュドウは
    大魔道師アンジストへの復讐のため、
    彼を倒す魔法を習得するのに必要不可欠な「写本師」の修業をしていく。
    印刷技術がまだなかった時代には、それぞれの本はこの世に一冊きりしかなく、古くなったから棄てるなんてことはできなかった。
    だからこそ古くなった本を新たな紙に書き写し、新しく蘇らせる写本の仕事はなくてはならないものだった。
    使いこまれボロボロになった本を一字一句同じ筆跡で書き写し、高品質で一生使用に耐えうるために紙の素材やインクにもこだわり、決められた期限内に仕上げる写本師という仕事のなんと高技術で魅力的なことか。(製本すれば隠れてしまうページの端には花や剣など写本師だけの好きな印を入れられる)

    そして写本師からレベルアップして「夜の写本師」になると、自分が書きしるしたもの自体に魔力を宿らせることができ、なんとその本を読んだだけで呪いがかけられるのだ。
    この力を使ってアンジストに復讐を誓う主人公の執念が切なくも胸に沁みる。

    写本工房での修行のパートは、本好きならヨダレタラタラになること間違いなし。
    装飾文字を書く者、細密画をほどこす者、本文を筆写する者、周囲に飾り模様を入れる者など仕事は分業化されていて、 
    一冊の書物が出来上がる過程が疑似体験できる。
    (印刷技術が普及する以前の本は
    宝石や貨幣よりも貴重な知的財産として大切にされていたことが解ります)

    修行が終わり成人になったカリュドウは自分の出生の秘密が記され、アンジストを倒す鍵となる深紅の革表紙の本「月の書」を手に入れ、
    逃れられない宿命の戦いへと誘われていく。

    この小説を読むと、物語が持つ力とともに「言葉の力」や「言霊」について改めて考えさせられる。

    愛情を持って育てられたペットは手並みの艶や目の輝きが違うように、
    ちゃんと一ページ一ページ、人の手と目が触れて、息がかかり可愛がられた本は、
    活字がやわらかくなり、そこに込められた人の思いをじかに感じられるようになる。

    今、簡単に死を選ぶ人や
    夢を信じられない子供が増えてるけど、
    そんな時代だからこそ、ファンタジーが必要だし、
    ファンタジーを信じることこそが悪意の拡散を防ぎ抑止する作用があるのだと思う。
    夢を信じる心をつくるのは
    ファンタジーの世界をいかに信じきれるかどうかにも通じると思う。

    たった一冊の小説が、ときには誰かを救うことがあるように、
    大好きな作家の小説の新刊が気になって今はまだ死ねないでもいい。
    そう思わせてくれる不思議な力が物語には確かにあるし、
    そんな小さなことで人生が繋がっていく感じが人間の一生であって欲しい。

    徹底的な闇を描きながら
    かすかな希望を見せて締めるラストも深い余韻を生む、
    物語の力を忘れた
    今の大人にこそ読んで欲しいダークファンタジーだ。

  • 表紙の美しいイラストに惹かれ購入した。千年の時を経て繰り返される魔導師の復讐の物語。
    壮大なファンタジーで、最後はきっと悪者が退治されるのだろうと解っていながらも、物語の世界にどっぷり入り込んでしまい、どう話が進んで行くのかハラハラドキドキだった。書籍によって繰り出される魔法という設定が、普通の魔法対決とは一風変わっていて良かった。ゲームのRPGになったら、かなり面白いかも!
    乾石さんの他の作品も是非読んでみたい。

  • 右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠を持って生まれた運命の子。
    幼いころに大きな喪失体験をした彼はやがて、<夜の写本師>として世界一の魔導師に挑む。これは、千年以上の時を経た壮大な物語です。

    ブクログのレビューを通して知ったこの本、ずっと気になっていたのですが、先日図書館で偶然見つけてすぐに借りてきました。これがデビュー作だなんて信じられないくらい濃厚なファンタジー小説です。ファンタジー好きにはたまらない、しっかりと確立された世界観、体系的な魔術の数々、運命的な巡り合わせ、深い闇などなど、心をひたすらくすぐります。

    夢あふれるファンタジー小説というより、これは「ゲド戦記」に近い闇の色が濃いファンタジー小説でした。なかなか残酷で、結構怖い。映像化したら美しい場面も数々あるけれど、ホラーになるかもしれない場面もあって、そのバランスがまた絶妙。

    嬉しいことに、どうやらこれはシリーズが出ているようで、この世界をまだまだ楽しむことができるよう。大人になっても一気に心を異世界に飛ばしてくれるファンタジーはやっぱりいいと改めて嬉しく噛みしめた1冊でした。写本をはじめ、本好きには嬉しくなる設定もたまらないですね。

  • こういう国産ファンタジー読みたかったんだー
    ! こんなにどっしりして読み応えのあるファンタジーが書かれたなんて、本当にすごいことなんじゃないか。

    翻訳物では味わえない、ストーリーと文章の確かな密着感が心地よく、何よりも話がおもしろい。翻訳ものだとこうはいかない。確かな言葉で確かな世界をどんどん構築していってくれる。所々で絵が見えてこないこともあるんだけど、充分自己補完が効くレベル。中東を思わせる乾いた空気と赤い岩壁を穿った人々の住居。そこに飾られた緑と花々の色彩は本当に美しい。

    魔法がただの添え物にならず、しっかりと世界に根ざしていて、異世界感を味わえる。魔法が結構邪悪で生々しい(笑)呪いやまじないとしての魔法の描写がインパクト強かった。

    終盤の一部はやや急ぎすぎて筆が滑り空回り、骨格が剥き出しになってしまった印象。でもちゃんと綺麗に話は閉じられてる。最後の最後でちゃんと救いのある、爽やかな幕引きだった。面白かった!

    キャラクターに魅力を見出すというよりは、ストーリーや文章、場面の美しさを楽しむ文芸的な本。ラノベではない。ジブリ調に人物を想像すると結構しっくりきておすすめ。

  • これは面白い!ファンタジーでありながらも、様々な謎が複雑な時間軸で流れていくので、最後の最後まで気が抜けないのである。その緻密な世界設計は、何かに雰囲気が似ていると思ったのだが、私の頭の中にはMYSTのような世界が広がった。
    魔術ファンタジーと言えば、使い古された手法であるが、これはデビュー作にもかかわらず、まるで大作家の作品のようである。思わず、これだけのストーリーを1冊にまとめてしまうのが勿体ない、と思ってしまうグインサーガ脳である。。。

  • めちゃくちゃ面白かったです。
    読み終わったときに肌が粟立ちました。

    こんなに上質なファンタジーを書ける実力者を知れてうれしいです。
    日本だと、上橋菜穂子さんや荻原規子さんが取り沙汰されますが、ベクトルは違うものの、まったく負けてません。
    ただ、この人の場合は「ファンタジー」に対して真摯に向き合ってはいるものの、「児童文学」とは遠いところにいる気がします。

    主人公はカリュドウという少年なのですが、彼は右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきます。
    キーナの村で魔女エイリャに引き取られ幸せに暮らしていたものの、大魔導師アンジストの魔女狩りによってエイリャと同胞のフィンを惨殺されます。
    雪豹に慰められながら、カリュドウは復讐を命の灯と決め、その身を闇に染めます。
    カリュドウが<夜の写本師>になるまでの成長を描く筆致が実に見事で、エイリャを失って最初に弟子入りしたガエルクのもとで、カリュドウは力を付ける一方で傲慢さも身に着けていきます。
    先輩にあたる女魔導師セフィヤをその傲慢により死に至らしめた、その瞬間から、カリュドウは頭を殴られたようにはっきりと外界を識別します。
    優しく温厚なだけだと思っていた先輩弟子ふたりが、自分が思っていたのとはまったく違っていたことに気付く。この描写がすぐれている。
    はじめカリュドウの主観で描かれる人物の描写は抽象的で、これがこの作家さんの特徴なのかと思っていましたが、それが復讐にとらわれ周りを知覚していなかったが故の表現だと気付いたとき、溜息が洩れました。
    それから彼は<夜の写本師>として修業を積むこととなります。

    そこからは冷徹に目的を遂行するために突き進んでいくのみ、なのですが、章の展開の方法もここから変わってきます。
    カリュドウは<月の書>をひらくことに成功し、月と闇と海の魔女とアンジストとの因縁が語られます。
    女だけがもつ力をねたみ、恐れ、シルヴァインを裏切ったアンジストへの復讐をとげようとして殺された魔女たち。その因縁を持って自分が存在することを知ったカリュドウは、文字通り「いままで奪われたすべて」を使ってアンジストと対峙します。

    決着のあと、語られるのはアンジストその人の物語で、アンジストからシルヴァインに向けられていたものはやはり愛情だったのだということが明らかになります。
    そしてそれを理解したカリュドウが、後継者にアンジストの本質たる紫水晶を含めてすべてを伝えようとするところで物語が終わる、クロージングまで含めて完璧に美しい。

    電子書籍で買ってしまったことが悔やまれます。
    紙で買い直そうかな。
    純粋に素晴らしい本と作家さんに出会えたことが嬉しくてたまらないです。

  •  大魔導師アンジストの手によって育ての親のエイリャを殺されたカリュドウ。カリュドウはアンジストへの復讐を誓いエイリャが生前言い残していた地へ向かう。

     魔法や呪い、魔法の力を宿した本や輪廻転生などの設定が練りこまれた王道ファンタジーです。

     そしてそうした設定を支えているのが美しい文章と魔法の描写。自然の描写はもちろんのこと魔法や呪いが使われた際の描写や設定の描写がとても書き込まれていて、設定だけに頼らない、文章の力でも勝負できるファンタジーになっています。

     ストーリーも復讐が一つのテーマになっているだけあって、カリュドウの運命のすさまじさが印象に残りました。辛いシーンも非常にしっかりと書き込まれているのが分かります。

     それだけにカリュドウの心理描写とラストの対決にもう少し読み応えが欲しかったかな、と思いました。

     ただ本当に文章が美しくて、評価の高さには納得しました。ファンタジー作品好きなら読んで損はないかと思います。

  • 千年もの時間を転生し、記憶を継ぎながら目指す強敵に復讐を仕掛ける。魔法が全面に繰り出され、しかも本や文字の神秘な力を元に編み出される魔法というところにも惹かれる。復讐は虚しいという意見も語られるが・・・。ラストには、ああ良かった、是非そうして欲しいと思える。大きなひねりがあるストーリーではないけれど、隠してある秘密を知りたくなる。人は大自然の一部と感じられる壮大な物語。

  • 久々にファンタジーらしい、ハイファンタイジーを読んだような気がした。文化風土が違うから無理なんだろうなと思っていたタニス・リー的なファンタジーを日本人が書けるようになったんやなぁ。

    井辻朱美が解説2本を掲載するぐらいの気合の入れよう、それに合いふさわしいボディのしっかりした内容。

    写本と魔術の関わりとか、ところどころ疑問符付くところもあるし、途中で人間関係(特に生まれ変わりの因果関係)が分かりづらい難点はあるものの、冒頭の登場人物紹介を都度見開けば思い出すレベル。

    ボディがしっかりしてる分、ボーッと読んでると置いてかれる感じがあるので、読むのに少々の集中力が必要だけど、しっかり読めば読んだ分の手ごたえは感じられる。この作者このシリーズ要注目だなこりゃ。

  • ファンタジーを読んで幸せだと思うのは「そうそう!こんなのが読みたかったの!」と、感じる時だと思うのです。千年にも及ぶ復讐と呪い。主人公は男性でありながら、女性性を強く感じました。月、闇、海は女性の持つ力。それを欲した魔道師アンジストに育ての親と幼なじみを殺されたカリュドウ。三人の魔女の因縁も絡み壮大な物語でした。けっこうグロい描写もあったので、正統派にみせて実はダークファンタジーかも。ラストがすごく好きでした。復讐の跡にもたらされるのは新たに踏み出される一歩。それが、赦しだと感じられたからです。

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夜の写本師 (創元推理文庫)の作品紹介

狙うは呪われた大魔道師。魔法ならざる魔法を操る〈夜の写本師〉。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションを巻き起こした著者のデビュー作待望の文庫化。

夜の写本師 (創元推理文庫)の単行本

夜の写本師 (創元推理文庫)のKindle版

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