夜の写本師 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 171
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488525026

作品紹介・あらすじ

狙うは呪われた大魔道師。魔法ならざる魔法を操る〈夜の写本師〉。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションを巻き起こした著者のデビュー作待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  •  ブク友さんの本棚で見つけた、細密画のような表紙の絵、「夜の写本師」という何とも引き込まれるタイトル。気になってしようがなかった。

     右手に月石。
     左手に黒曜石。
     口のなかに真珠。
     カリュドゥは三つの品を持って生まれてきた。

     と始まる。これはもう読み進めるしかないでしょう。
     そんな意味有りげな不気味な状態で生まれてきたカリュドゥ。怯える親から産婆でもあり、女魔道師でもあったエイリャがカリュドゥを引き取り、育てる。
     ある日、エイリャの前に悪名高き魔道師長アンジストが表れ、エイリャと女友だちのフィンをカリュドゥの目の前で無惨に殺してしまう。
     エイリャとフィンの仇を撃つことを生き甲斐とし、カリュドウは魔道師の修行を始めるが、余りに魔力が強すぎるために写本師への道を勧められる。
     カリュドウが写本師の修行を積んだパドゥキアという国は世界一の写本師のいる国。魔道師同等の魔力を持つ本を作ることができる。それが出来るのは「夜の写本師」。
     カリュドウはパドゥキアでの修行を終えると生まれた国、エズキウムで「夜の写本師」になる。アンジストに仇を撃つために。
     カリュドウは写本師として働きながら、書庫でせっせとある本を探す。エイリャに、全ての秘密が隠されていると言われていた「月の書」という本。やがてその本を見つけると、その本の中に取り込まれ、500年前、千年前の自分に関係するある三人の魔女たちの悲しい運命を体験する。

     この本で、何より魅力的なのは、写本師の仕事の描写だ。まだ切り取られていない、一枚の仔牛皮紙を広げて、写本達はページのとり方を考えて書いていく。使うインク、ペン…写本達それぞれにこだわりの道具がある。文字の書き方や装飾模様にも写本師によって拘りがある。特に魔力をもった本を作るには、インクも何かの鳥の血となにかを混ぜたものとか、特別のものを使わねばならないのだ。そして、本の背の閉じられた部分で読者の目に入らない所(ノドのところ)の一枚一枚に写本師それぞれの印章みたいなものを書いておく。
     魔道師という言葉もいい。魔術では“魔道”。“道”なのだ。何十年、何百年の修行が必要。そして、魔力を発揮するには、魔法のバトンのようなものではなく、生き物の血や骨や時には死にゆく人間の怨念までが必要なのだ。魔道師になるということは“闇”を支配するということで、“闇を支配する”ということは“闇に飲まれる”ことと隣合せであるということだ。
     深い。そして文字より構築された文学の世界も救いでもあり、闇にもなる。深い。


     


  • 表紙とタイトルがええんでゲット!

    何か久々やなぁ〜現実の世界以外を舞台にした話読むのは。
    ここは、魔法が繁栄している世界。
    ええ感じの世界や!
    魔法使いやなく、魔道師だ響きが良いな。

    その魔道師に師匠を殺されて…
    魔道師としてではなく、夜の写本師として、復讐を果たそうとする。
    転生を繰り返し、長い時間を経て、クライマックスへ。
    魔道師vs写本師の闘いは、ハラハラして面白かった!

    壮大な話やったけど…
    けど…近場で首飛んで、血がドバドバの方が性に合ってるかもしれん…(−_−;)

  • 魔術師アンジストに育ての親エイリャと村の幼馴染フィンを殺された主人公カリュドウが「夜の写本師」になり復讐を果たすファンタジー。

    カリュドウが写本師になるまでの出会いと別れが辛かった。とりわけ魔術師として修行していたときの。結構インパクト強くて、人の闇、自分の闇との付き合い方。覚悟。

    後半は「月の本」。千年もの因縁、3人の魔女の話は、ずっとクライマックスなので息を呑む展開。魔術師アンジストの若き日の話もあり、最終的に救済へ。カリュドウを見守っている魔導師ケルシュがいい。続き読みたい。

  • いやぁ~、面白かった!
    逸る気持ちを抑えながらページをめくり続けた。
    いわゆるファンタジー小説というジャンルが苦手な自分が
    コレほどハマったのはホンマ珍しいし、
    その新人離れした描写力と、物語が持つ力を読む者に改めて知らしめてくれる、ストーリーテリングの巧さよ。

    数千年の時を越え
    本の中の世界を行き来する主人公と同じく、
    読んでいる僕自身も緑豊かな海沿いの街を、彼、彼女らの生きた世界を、
    本を開くことで追体験できる至上の喜び。
    「ああ~、これが小説だ」と思える何事にも代え難い充実感に感謝!
    ( 開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんて本しかないし、極上のファンタジー小説があればタイムマシーンなんていらないのである笑)

    右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきた主人公の少年カリュドウ。
    14歳のある日、女を殺しては魔法の力を奪う大魔道師アンジストに
    育ての親である女魔道師のエイリャと優れた魔力を持つ少女フィンが目の前で無惨に殺され、
    不甲斐ない自分を呪い、復讐を果たすための孤独な旅を描いた
    大人のダークファンタジー。

    まったく何にもないところから
    新しい国や社会を創造し、読む者を今ある現実から異世界へと一気に連れ去るファンタジー小説という特殊なジャンルだけに
    そこに何がしかのリアリティがないとただの絵空事となって
    物語に入り込めなくなってしまう。

    けれどもこのファンタジー小説のスゴいところは圧倒的な描写力と緻密な設定によって違和感なく読む者を引きつけ、
    小説というただの紙束からまだ見ぬ新しい世界を出現させるのだ。

    主人公の少年カリュドウは
    大魔道師アンジストへの復讐のため、
    彼を倒す魔法を習得するのに必要不可欠な「写本師」の修業をしていく。
    印刷技術がまだなかった時代には、それぞれの本はこの世に一冊きりしかなく、古くなったから棄てるなんてことはできなかった。
    だからこそ古くなった本を新たな紙に書き写し、新しく蘇らせる写本の仕事はなくてはならないものだった。
    使いこまれボロボロになった本を一字一句同じ筆跡で書き写し、高品質で一生使用に耐えうるために紙の素材やインクにもこだわり、決められた期限内に仕上げる写本師という仕事のなんと高技術で魅力的なことか。(製本すれば隠れてしまうページの端には花や剣など写本師だけの好きな印を入れられる)

    そして写本師からレベルアップして「夜の写本師」になると、自分が書きしるしたもの自体に魔力を宿らせることができ、なんとその本を読んだだけで呪いがかけられるのだ。
    この力を使ってアンジストに復讐を誓う主人公の執念が切なくも胸に沁みる。

    写本工房での修行のパートは、本好きならヨダレタラタラになること間違いなし。
    装飾文字を書く者、細密画をほどこす者、本文を筆写する者、周囲に飾り模様を入れる者など仕事は分業化されていて、 
    一冊の書物が出来上がる過程が疑似体験できる。
    (印刷技術が普及する以前の本は
    宝石や貨幣よりも貴重な知的財産として大切にされていたことが解ります)

    修行が終わり成人になったカリュドウは自分の出生の秘密が記され、アンジストを倒す鍵となる深紅の革表紙の本「月の書」を手に入れ、
    逃れられない宿命の戦いへと誘われていく。

    この小説を読むと、物語が持つ力とともに「言葉の力」や「言霊」について改めて考えさせられる。

    愛情を持って育てられたペットは手並みの艶や目の輝きが違うように、
    ちゃんと一ページ一ページ、人の手と目が触れて、息がかかり可愛がられた本は、
    活字がやわらかくなり、そこに込められた人の思いをじかに感じられるようになる。

    今、簡単に死を選ぶ人や
    夢を信じられない子供が増えてるけど、
    そんな時代だからこそ、ファンタジーが必要だし、
    ファンタジーを信じることこそが悪意の拡散を防ぎ抑止する作用があるのだと思う。
    夢を信じる心をつくるのは
    ファンタジーの世界をいかに信じきれるかどうかにも通じると思う。

    たった一冊の小説が、ときには誰かを救うことがあるように、
    大好きな作家の小説の新刊が気になって今はまだ死ねないでもいい。
    そう思わせてくれる不思議な力が物語には確かにあるし、
    そんな小さなことで人生が繋がっていく感じが人間の一生であって欲しい。

    徹底的な闇を描きながら
    かすかな希望を見せて締めるラストも深い余韻を生む、
    物語の力を忘れた
    今の大人にこそ読んで欲しいダークファンタジーだ。

  • 表紙の美しいイラストに惹かれ購入した。千年の時を経て繰り返される魔導師の復讐の物語。
    壮大なファンタジーで、最後はきっと悪者が退治されるのだろうと解っていながらも、物語の世界にどっぷり入り込んでしまい、どう話が進んで行くのかハラハラドキドキだった。書籍によって繰り出される魔法という設定が、普通の魔法対決とは一風変わっていて良かった。ゲームのRPGになったら、かなり面白いかも!
    乾石さんの他の作品も是非読んでみたい。

  • 右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠を持って生まれた運命の子。
    幼いころに大きな喪失体験をした彼はやがて、<夜の写本師>として世界一の魔導師に挑む。これは、千年以上の時を経た壮大な物語です。

    ブクログのレビューを通して知ったこの本、ずっと気になっていたのですが、先日図書館で偶然見つけてすぐに借りてきました。これがデビュー作だなんて信じられないくらい濃厚なファンタジー小説です。ファンタジー好きにはたまらない、しっかりと確立された世界観、体系的な魔術の数々、運命的な巡り合わせ、深い闇などなど、心をひたすらくすぐります。

    夢あふれるファンタジー小説というより、これは「ゲド戦記」に近い闇の色が濃いファンタジー小説でした。なかなか残酷で、結構怖い。映像化したら美しい場面も数々あるけれど、ホラーになるかもしれない場面もあって、そのバランスがまた絶妙。

    嬉しいことに、どうやらこれはシリーズが出ているようで、この世界をまだまだ楽しむことができるよう。大人になっても一気に心を異世界に飛ばしてくれるファンタジーはやっぱりいいと改めて嬉しく噛みしめた1冊でした。写本をはじめ、本好きには嬉しくなる設定もたまらないですね。

  • 王道のファンタジー。
    清濁合わせのみながら、ファンタジーらしく勧善懲悪を推し進める。最後に過去の話で救いが見つかり大団円へ。
    続けて読む気配濃厚なシリーズファンタジー。

  • いや、すごかった。確かに今まで読んだファンタジーとは一線を画す世界。一気に読んで読み終えて、でも離れがたくて3回くらい読み返した。
    シリーズを順に読み進めるのが楽しみな作品です

  •  大魔導師アンジストの手によって育ての親のエイリャを殺されたカリュドウ。カリュドウはアンジストへの復讐を誓いエイリャが生前言い残していた地へ向かう。

     魔法や呪い、魔法の力を宿した本や輪廻転生などの設定が練りこまれた王道ファンタジーです。

     そしてそうした設定を支えているのが美しい文章と魔法の描写。自然の描写はもちろんのこと魔法や呪いが使われた際の描写や設定の描写がとても書き込まれていて、設定だけに頼らない、文章の力でも勝負できるファンタジーになっています。

     ストーリーも復讐が一つのテーマになっているだけあって、カリュドウの運命のすさまじさが印象に残りました。辛いシーンも非常にしっかりと書き込まれているのが分かります。

     それだけにカリュドウの心理描写とラストの対決にもう少し読み応えが欲しかったかな、と思いました。

     ただ本当に文章が美しくて、評価の高さには納得しました。ファンタジー作品好きなら読んで損はないかと思います。

  • 右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠をもって生まれてきたカリュドウ。育ての親と友人を目の前で惨殺した大魔導士アンジストに復讐を果たすべく<夜の写本士>となる。

    世界観、雰囲気がとても好きだった。ため息がでる素敵さ。
    冒頭から「右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠」と、おしゃれ…!
    実は、アンジストに力を奪われた女(たち)の生まれ変わりだったカリュドウ。月と闇と海の力は既に奪われ、カリュドウが持っているのは闇の月のみ。オサレすぎる…。しびれる。終始、雰囲気が素敵。

    カリュドウはなぜ男として産まれかわったのか、アンジストは幼きカリュドウの力をなぜ見破れなかったか(ガエルクのもとで魔導師の修行をしている時に、魔導師としての才能が爆発していたのに…)などなど、腑に落ちないところもあった。
    魔導師の道が閉ざされ途方に暮れていたカリュドウに声をかける兄弟子たちの言葉や、アンジストとの戦いに向かう前のヴェルネ(同僚の写本士)の言葉が好きだった。アンジストは孤独だが、カリュドウには助けてくれる仲間が多くいて、カリュドウはそれを受け入れることができたのだ。
    あと、ケルシュが悪戯好きのおちゃめなお爺ちゃん(実は強い)という感じで、好き。

    カリュドウの修行の話や、カリュドウの前世の女性たちの話は壮大で読み応えがあった。逆に、その後のアンジストとの戦いはあっけなく終わったように感じる。
    結局、アンジストを救う形で決着がつくが、そのことがラストのカリュドウが涙して受け入れるシーンと、最後の締めの言葉につながり、千年もの戦いに終わりがあってよかったと思う。

    ”時はめぐり、やっと満ちた。
    月の光と闇と海のように。”(p334)

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著者プロフィール

山形県生まれ。山形大学卒業。1999年、教育総研ファンタジー大賞を受賞。『夜の写本師』からはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズをはじめ、緻密かつスケールの大きい物語世界を生み出すハイ・ファンタジーの書き手として、読者から絶大な支持を集める。他の著書に「紐結びの魔道師」3部作(東京創元社)、『竜鏡の占人 リオランの鏡』(角川文庫)、『闇の虹水晶』(創元推理文庫)など。

「2019年 『炎のタペストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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