綺譚集 (創元推理文庫)

著者 :
制作 : 20081219 
  • 東京創元社
3.82
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本棚登録 : 808
感想 : 80
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488542023

作品紹介・あらすじ

天使へと解体される少女に、独白する書家の屍に、絵画を写す園に溺れゆく男たちに垣間見える風景への畏怖、至上の美。生者と死者、残酷と無垢、喪失と郷愁、日常と異界が瞬時に入れ替わる。-綺の字は優美なさま、巧みな言葉を指し、譚の字は語られし物を意味する。本書収録の十五篇は、小説技巧を極限まで磨き上げた孤高の職人による、まさに綺譚であり、小説の精髄である。

感想・レビュー・書評

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  • 奇譚:世にも珍しく不思議な物語や伝説。

    本書は奇譚集、すなわち世にも珍しく不思議な物語や伝説を集めた一冊。

    私にはまだ早かった。


    天使へと解体される少女に、独白する書家の屍に、絵画を写す園に溺れゆく男たちに垣間見える風景への畏怖、至上の美。生者と死者、残酷と無垢、喪失と郷愁、日常と異界が瞬時に入れ替わる。――綺の字は優美なさま、巧みな言葉を指し、譚の字は語られし物を意味する。本書収録の15篇は、小説技巧を極限まで磨き上げた孤高の職人による、まさに綺譚であり、小説の精髄である。解説=石堂藍

    内容(「BOOK」データベースより)

    天使へと解体される少女に、独白する書家の屍に、絵画を写す園に溺れゆく男たちに垣間見える風景への畏怖、至上の美。生者と死者、残酷と無垢、喪失と郷愁、日常と異界が瞬時に入れ替わる。―綺の字は優美なさま、巧みな言葉を指し、譚の字は語られし物を意味する。本書収録の十五篇は、小説技巧を極限まで磨き上げた孤高の職人による、まさに綺譚であり、小説の精髄である。

    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

    津原/泰水
    1964年広島県生まれ。89年より津原やすみ名義で少女小説を多数執筆。97年、現名義で『妖都』を発表、注目を集める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 例えばこういった感想のようなものを書いていると、自分の文才の無さに絶望的な気持ちに陥ってしまうのですが、津原泰水は文章を綴ることが楽しくて仕方がなかったのだろうなと思わせるような多様な文体で楽しませてくれます。
    幻想小説というのは、ストーリーよりも、その文体が持つアトモスフィアによって成り立つものだと常々思っていたのですが、まさにその通り。どの作品も作品の中に溢れる空気がもう違います。
    ただ、興味深く読んだのは、「赤仮面傳」「玄い森の底から」「ドービニィの庭で」。僕自身はストーリー重視のようです。


    津原泰水は川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が本書収録の「黄昏抜歯」からアイデアを盗用していると指摘していたそうです。真偽は判りませんが両作品とも面白かったです。

  • 氏の逝去の報に接して再読、やはり素晴らしい。綺羅を尽くした文体で紡がれた15の短編。「小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない。」と言ったのは中井英夫だったか、その言葉そのものの一冊。作者自身は「一冊だけ残せるなら、これ」と言ったそうだが、「一冊だけ無人島に持て行くとするなら、これ」かもしれない。もっと書いてほしかった。ご冥福を。

  • 15つのお話からなる短編集
    日常に潜む狂気みたいなものが、色々な話の中に隠れている。
    「いや、こんなのなんでもないですよ、普通です普通」みたいな感じで書かれているから、こっちも「そうなのか」と思ってしまうけど、読んだ後に得体の知れないものが、じわじわとにじり寄ってくる。そんな感じ。

    私は「夜のジャミラ」「赤假面傳」「玄い森の底から」「脛骨」「ドービニィの庭で」が特に好き

    もし、グロテスクな表現が平気な人だったら、読んでみることをおすすめします。

  • エロ(生)と死。パンチがあり過ぎて、侵食されて精神をやられています。どの短篇もすごいです。
    たとえば恒川光太郎さんの幻想はファンタジー寄りの性善説に対して、津原さんはホラー寄りの性悪説みたいな感じ。この世とあの世の境界線がそこ彼処にあって誰しもに起こり得るっていうのは同じだけど、津原さんの人物たちは特に元々その境界が曖昧な人物(アーティストや子供やトランスジェンダーや精神疾患者など)が多く、敏感ゆえに圧倒的な力で悪とか美とかに飲み込まれてしまう。抗えないし抗うという発想すら持ち得ない。むしろそれが自然なことだと。だから怖い(苦笑)足下がぐにゃりと溶けて恐怖と不安に襲われてしまう。
    ただ、美しいものが持つ力についてはとてもよく分かります。
    私がいちばん好きなのは『脛骨』です。最も普通に感じる作品かも知れないけど、生きている人の切断されてしまった脚はその人のものなのか屍なのか否かなど考えだすと確かに気になります。その視点が面白いと思いました。

  • 大傑作。
    幻想文学に惹かれる人は残酷さの中にある美しさを探している人だと思うのだが、本著にはそんな残酷さの中の美に溢れている。
    その残酷さも即物的なもの(それはそれで好きなのだが)とは違って美学がある。腐臭があっても、どこか目を離すことができない。
    更にその美しさを然るべき文章で記すことが出来る作家である。
    津原泰水さんの記す文章をもっと読みたかった。

  • どの作品にも惹き付けられるが、一際美しく思ったのは「脛骨」だった。舞台となった場所が近いので、たまに行く。ここでね…と水辺につい目をやる。
    津原氏が亡くなられたことを、悲しく、悔しく思う。

  • 短編集。
    面白かった。
    人ではないものと人であるものの、それぞれのこわさが味わえる良作。
    高評価のルピナス探偵団が、まったく楽しめなかったので、同じ作者の作品を手に取るのが不安だったが杞憂。
    (短編集好きなので)

    各話の扉絵(なのかな)のデザインがそれぞれ違って、それがまた凝ってて素敵。

  • 「天使解体」
    ……何をやっとるんじゃ……。

    「サイレン」
    何やってんの、と思ったら、妄想?
    お姉さんの方が???

    扉絵の模様、全部違うんだね。

    「夜のジャミラ」
    あっちゃ~……
    何で私これ夜中に読んでんだろ。

    「赤假面傳」
    麗人のエナジーだか血を吸う画家の話。と思ってたら、さらにその上をいくものも。

    何となくこの本の方向性が見えてくる。

    「玄い森の底から」
    ぞぞぞと虫で体を成して先生のもとへ駆けつける様、「、」がなくて鬼気迫る感じだった。
    ラストの皓い空がタイトルと対をなす。

    「アクアポリス」
    彼女は船に乗ってニライカナイに行ったのね。
    もしかしたらありそうな、貯水池の話。

    「脛骨」
    これは結構好き。
    若い日の屍、か。
    真っ白い、脛骨。

    「聖戦の記録」
    カオス。
    名前が分かりやすいイメージに繋がるのかと言われるとこれが何がなんだか。意外なことに。
    犬対兎。の飼い主達の話なのかと思いきや、彼ら自身の戦いなのか?

    「黄昏抜歯」
    「歩みは、蒼い闇を泳ぐようで」この表現が好き。
    遠いところでわざわざ抜いちゃうかなぁ。
    抜いたあと、しばらくごはん食べられなくて大変だったなぁ。口は麻酔でしまらないし。
    こんなきれいにいくかしら。
    というか、本当に抜いたかな?抜かないで別なことしてたんじゃないの?

    「約束」
    おお、確かに美しい話だった。

    「安珠の水」
    ホックニー色。なんかべたっとした平板なグラデーションでない色使い。暑苦しくもあるし密閉感がある。

    「アルバトロス」
    目覚めさせられて目覚めちゃった感じ。
    見て見ぬふりって、もうしょうがないのかな、この状況では。

    「古傷と太陽」
    吾郎の腹は本当に石垣島の海岸に繋がっていたんだ。

    「ドービニィの庭で」
    庭にとりつかれた三人の男と、巻き込まれた主人公の片割れでありなりたかった姿を持つ一人の女。
    絵を現実に完成させようと躍起になるうちにここは絵の一部なのか現実なのかわからなくなり、呪われるように命は失われ、女は庭の怪を産み落とす。

    「隣のマキノさん」
    マキノさん、やべぇ。多重人格の変わり者。
    でも一番ヤバイのは、ヤバイマキノさんに日々話しかけてる主人公じゃあるまいか?

    いくつかのものがたりでおなじ単語を繰り返す特徴あり。()と「」を連打で使って声の大小表現したり、音楽のクレッシェンドでクレッシェンドみたい。
    年始に読むにはエログロな感じでしたが、なぜかすらすら読めてしまった。
    見える景色が綺麗だったりして。
    ごちそうさまです。

    なお、私はこの本を表紙にそそられて買いました。
    解説を読んで、あながち間違いではなかったということを確信しました。
    幻想のカテゴリーもまずまずあっていたようですね。

  • 津原泰水の短編はどれも素晴らしいのだけど、どの作品も読み始めはややうんざりする。自分の中の見たくない自分や忘れかけていたものなど、なんというかそういう朽ち果てようとしていたものに不意に出くわしてしまう感じ。ダメージが大きい。綺譚集では、自分の残酷さと薄さに向き合わされた。「聖戦の記録」、血が滾った。

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著者プロフィール

1964年広島市生まれ。青山学院大学卒業。“津原やすみ”名義での活動を経て、97年“津原泰水”名義で『妖都』を発表。著書に『蘆屋家の崩壊』『ブラバン』『バレエ・メカニック』『11』(Twitter文学賞)他多数。

「2023年 『五色の舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津原泰水の作品

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