夜の夢見の川 (12の奇妙な物語) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488555054

作品紹介・あらすじ

その異様な読後感から〈奇妙な味〉と呼ばれる、ジャンルを越境した不可思議な小説形式。本書には当代随一のアンソロジストが選んだ本邦初訳作5篇を含む12篇を収めた。死んだ母親からの晩餐の誘いに応じた兄妹の葛藤を描くファンタスティックな逸品「終わりの始まり」。美しい二頭の犬につきまとわれる孤独な主婦の不安と恐怖を綴った「銀の猟犬」など、多彩な味をご賞味あれ。

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭から文章がスッと入ってきて馴染む感じ。
    いわゆる「奇妙な味」に属する英米の短中編集だが、
    予想外にモヤモヤせずストンと胸に落ちる話が多かった。
    以下、特に印象的な作品について。

    ■ファウラー「麻酔」
     初っ端から悶絶するほど面白かった!
     痛いところを治してくれる頼りになる人であるにもかかわらず、
     何となく誰もが嫌だ、怖いと思っている歯医者さん。
     その恐怖をグロテスクに戯画化した一編。

    ■リード「お待ち」
     高校卒業記念に車で旅に出た娘と母は
     アクシデントに見舞われ、
     ある田舎町に逗留を余儀なくされたが……。
     閉鎖的なコミュニティの狂った風習に巻き込まれる恐怖。
     旅人が父と息子、または母と息子だったら、
     こんな展開にはならなかったに違いないし、父と娘なら、
     父は殺人を犯してでも娘を守ったろうと想像する。
     支配的な母と従順な娘だからこその悲劇とも言える。

    ■アイゼンシュタイン「終わりの始まり」
     誤りようのない自己の記憶と周囲の認識の食い違い――という、
     個人的に最も怖いタイプの話で、
     動揺した語り手がどこに着地するのかドキドキしながら読み進めた。

    ■スタージョン「心臓」
     愛する人との幸せな暮らしの障害になるものを憎み、
     呪った結果、訪れた悲劇。

    ■ワグナー「夜の夢見の川」
     護送車が事故で転落、
     辛くも脱出に成功した女囚は対岸へ泳ぎ、
     身ぐるみ剥がされたヒッチハイカーを装って、
     ある屋敷に助けを求めたが……。
     架空の戯曲を軸にしたエロティックなホラー。
     ラヴクラフト好きには堪らない筋立て。

  • <奇妙な味>と呼ばれる不可思議な小説たち。
    これはかの江戸川乱歩の造語だそうだ。
    このなんとも言えぬ読後感のある12の小説。
    ホラー、ミステリー、SF......。
    その隙間を縫うようにある小説。
    あなたのお好みの味は、どれ?

    『麻酔』
    歯医者での話だ。
    とにかくぞっとする。
    昔は歯医者が嫌いだった。
    あの音と言ったら!
    そのせいで乳歯がぐらついてなかなか取れないのに行きたがらず、結果として歯列がよくない。
    その反省から子供には定期的に歯医者に行かせているというのに!
    ああ、この話のせいで私自身は、また行きたくなくなってきた!
    ぼんやりとしたその時から、覚醒していくに従って、見えてくる光景。
    ああ、ああ、ああ!

    『夜の夢見の川』
    その女は護送車に乗っていた。
    しかし彼女の乗った車は事故に遭った。
    女は、牢獄になど戻るものかと逃げた。
    逃げて、逃げて、その先。
    ヴィクトリア朝様式の館。
    これは夢なのか、幻なのか。
    過去か、現在か、物語か、現実か。
    絡め取られていく主人公と読者。
    屋敷の中に、物語の中に、引き摺り込まれた先には、真実という名の「藪の中」があった。

  • 「麻酔」がテンポよく落としてくれて、快調に始まる。
    「バラと手袋」はちょっとブラッドベリのような。
    「お待ち」はシャーリイ・ジャクスンのような風味。
    「心臓」も「アケロンの大騒動」も◎、曖昧さが肝?のようなエイクマン。
    後半にいくほど、奇妙さよりも怖さが増大していくような。

  • じわじわと不穏な感じのアンソロジー。テーマに沿ったアンソロジーは当然似た系列の話の寄せ集めになってしまうものだけれど、これは意外とバラエティに富んでて、いろんなタイプの怖さを楽しめました。

    単純に、うわ、これ絶対無理!って思ったのはしょっぱなのクリストファー・ファウラー「麻酔」。ある意味シンプルなオチなのだけど、万人が嫌だと思うわかりやすい怖さ。

    キット・リード「お待ち」は、シャーリィ・ジャクスン的な不穏さ。たまたま立ち寄った町を支配している奇妙な風習に逆らえない母娘。この母親がそもそも一種の毒親なのも効いている。モヤモヤ感では、ロバート・エイクマン「剣」もかなりの気味悪さ。エイクマンは以前短編集を読んだけれど、何が起こったか基本説明してくれないのでモヤモヤ感はんぱない。

    フィリス・アイゼンシュタイン「終わりの始まり」は、導入はすごく怖いのだけど(自分の記憶が自分で信用できないなんて!)、まさかの、オチがほのぼの(?)で、結果一種のジェントル・ゴースト・ストーリーと言えるかも。フィリップ・ホセ・ファーマー「アケロンの大騒動」も、死者を甦らせる云々は不穏なのだけど、手品のタネを明かしてしまえば、なんてことはない。結果ハッピーエンドなのは気持ちいい。

    シオドア・スタージョン「心臓」短いけれどインパクト大。なぜかジルベールの名セリフ「憎しみで人が殺せたら・・・!」を思い出した(笑)G・K・チェスタトン「怒りの歩道──悪夢」も、意外と「ありそう」なところに共感。私は結構家電に話しかけるタイプなので(笑)

    犬もの2作のうちケイト・ウィルヘルム「銀の猟犬」はさすがにちょっと意味がわからなかったけど、ヒラリー・ベイリー「イズリントンの犬」は、単純に楽しく読めた。

    トリを飾る表題作カール・エドワード・ワグナー「夜の夢見の川」が一番怖かった。怖いという言葉で表現していいのかわからないけれど、悪夢すぎてこっちまでうなされそう。元ネタであるところのロバート・W・チェンバース『黄衣の王』を知らないけれど十分怖い。本家を読みたい気もするけれど、ラヴクラフトも1冊で挫折した(怖くて)私なので、読める自信がない・・・。


    ※収録作品
    クリストファー・ファウラー「麻酔」
    ハーヴィー・ジェイコブズ「バラと手袋」
    キット・リード「お待ち」
    フィリス・アイゼンシュタイン「終わりの始まり」
    エドワード・ブライアント「ハイウェイ漂泊」
    ケイト・ウィルヘルム「銀の猟犬」
    シオドア・スタージョン「心臓」
    フィリップ・ホセ・ファーマー「アケロンの大騒動」
    ロバート・エイクマン「剣」
    G・K・チェスタトン「怒りの歩道──悪夢」
    ヒラリー・ベイリー「イズリントンの犬」
    カール・エドワード・ワグナー「夜の夢見の川」

  • 前作よりも理不尽な怖さがある。出来ることならもう一冊くらい読みたい。
    『麻酔』読んでいて痛い。嫌すぎる。歯医者特有の「自分の口の中で何が起こってるんだろう」という不安感をこれでもかと抉ってくる。
    『お待ち』知らない土地の意味不明な慣習ほど怖いものもない。『くじ』に通じる、誰もが知っているらしいのに自分だけ分からない疎外感もある。母親との会話もリアル。
    『終わりの始まり』珍しく爽やか。死んでも死にきれないお母さんのお節介を思うと胸があたたかくなる。
    『心臓』重すぎる愛。ラストの喪失感もいい。
    『怒りの歩道』短いけど面白い。いつかバチが当たるってそういうこと?
    『イズリントンの犬』動物を飼っている人はペットが話せたらな、と思ったことがあるだろうけど、実際いるとこうなるだろうと納得。相手が話せないからこそした話とか沢山あるし。サンディの子供も喋り出すだろうか。
    『夜の夢見の川』読んでいてドキドキした。「彼女」や「若い女」表記だったのが「カッシルダは」と変化したのを見て鳥肌。『黄衣の王』読んでみたい。

  • 短編集。アンソロジー。
    ホラーっぽい、奇妙な作品たち。
    12作あって、面白くないと感じた作品は一つもなかったのは素晴らしい。
    スタージョン「心臓」、チェスタトン「怒りの歩道ー悪夢」の2作が、短くても刺激的で好み。

  • 前回のアンソロジー『街角の書店』よりもホラー色が強い。
    冒頭の「麻酔」が痛くて痛くて読むのがとても辛かった。
    一番好きなのは「お待ち」。田舎怖いとかじゃなくて母がしんどい系のホラーだと思う。

  • 気持ち悪さがマシマシ。歯医者の話はトラウマをほじくり返して抉り取るような話。要注意。

  • 奇妙な味過ぎる!へ?な、話もあったけど面白かった。

  • <奇妙な味>をテーマにしたアンソロジー第二弾。
    しょっぱなの「麻酔」からかなり厭なスタート。丁度これを読んだ後歯医者の定期検診が入っていたので恐ろしかった。「怒りの歩道ー悪夢」が短いけど一番好き。星新一のショートショートでありそうな。「イズリントンの犬」カタコトで喋る犬のサンディが可愛い。ビスケト、プリーズ。
    どれも奇妙で厭~~な後味が残りました。満足です。

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著者プロフィール

シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon):1918年ニューヨーク生まれ。1950年に、第一長篇である本書を刊行。『人間以上』(1953年)で国際幻想文学大賞受賞。短篇「時間のかかる彫刻」(1970年)はヒューゴー、ネビュラ両賞に輝いた。1985年没。

「2023年 『夢みる宝石』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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