殺す (創元SF文庫) (創元SF文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488629144

感想・レビュー・書評

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  • 高級住宅地で大人32人が全員殺された。
    13人の子供は全員いなくなった。
    犯人は誰?

    子供以外の選択肢はないよなあ、と思いつつ読み、そのまま終了。

    ミステリーではないのだろうから、それは良いとして、動機がいまいちシンプル過ぎか。
    恵まれ過ぎた環境に息が詰まりました、と言われると、親世代としては辛いところだが、気持ちわ分かる。子供たちが全員一糸乱れずやり遂げた、という点、リアリティは無いけど、そういうお話。

  • 物騒な邦題だが、原題は “running wild”。
    最初からヒントが出ていた(笑)。
    SFではなくミステリ中編。
    異常な事件の発生から二ヶ月後、
    その分析を委ねられた精神科医の日誌という形式の
    フィクション。

    1988年6月25日(土)朝、
    ロンドン郊外の超高級住宅街で凄惨な大量殺人事件が起きた。
    居住者とハウスキーパーやガードマンら32人が惨殺されたのだ。
    リチャード・グレヴィル医師と、
    補佐役となったレディング署のペイン部長刑事が犯人像を推理。
    資料映像(防犯ビデオ他)を丹念にチェックし、
    現場に足を踏み入れることによって浮かび上がった
    可能性とは――。

    犯人にはすぐ見当がつくのだけれども、問題は動機。
    精神科医の目線で縺れた糸をほぐしていくと姿を現したのは……。

    あり余るほどの愛情が却って子供の首をジワジワ絞める
    真綿となってしまったのでは……というのが
    語り手の推測で、
    一読して、ああ、なるほどなぁ――と思ったのだが、
    「親ガチャ」論が話題となる現代の若者には
    ピンと来ない可能性もあるなと感じた。

    客観的な目線で“引いて”見たら楽園のような場所が、
    中にいる当事者にはまるで地獄という図式から
    ゴールディング『蠅の王』、
    夢野久作「瓶詰の地獄」を連想し、また、
    主人公がある程度真相に近づきはするものの
    全容解明に至らないところは
    スタニスワフ・レム『捜査』風だと思った。

    映像作品になっても面白そう(絵面がエグイだろうけれど)。

  • のっけから狂気パウダーが文面から立ちこめ、その芳香に酔いしれる。もうそれだけで十分だったが感想を。ロンドンの高級住宅10戸にて大人全員死亡、子供全員失踪。事件は憶測ばかりで解決に向かわないので、精神科医が派遣される。主役この人。部長刑事と共に現場を廻る。ほとんどが二人の会話。この刑事のにくにくしさがいい。酒場で酒飲んでから帰宅するタイプ。日本人なら焼酎派。物語はこの精神科医の立てた仮説にて終わるが、それが真相なのでしょうか。この作品はナイフで刺して無言で去っていくかのように、素晴らしく簡潔にまとめてある。

  • 多くの読者がそうであるように僕も序盤で犯人が分かった。でもきっとその展開は80年代であってもそれほど斬新なアイデアでもないと思う。この物語の斬新さというか面白いところは、真犯人の正体ではなくて、犯人を突き動かす動機が“完璧だと思われている社会環境”から産み出されているという点であって、そういう空間って今の社会にはたくさんあるよねっていう。

  • 何とも物騒なタイトルである。原題は「Running Wild」。「暴れ回る」という雰囲気だろうか。確かに本作で繰り広げられる32人の惨殺事件は何かが駆け抜けるように暴れ回ったかのような印象を受ける。しかも、そこに住む子どもが全て行方不明となっているのだ。この殺人と子どもたちの失踪事件はすべて朝のわずかな時間で行われたのだから、まさに何か恐ろしいものが疾風の如くやってきて、そして去っていったのだ。

    本作は殺人事件が起き、精神科医がその謎を解くという構成になってはいるが、ミステリに分類されるものではない。出版社も「創元”推理”文庫」ではなく、「創元”SF”文庫」としている。”SF”の定義が難しいところではあるが、ミステリでないことはハッキリしているのではないだろうか。けれど、未読の方で結末を知りたくないという場合には、読了後にこれ以降を読んでいただけると有り難い。結末に触れずに記事を書くのはかなり困難な作品なのだ。

    大量殺人の舞台となったのはロンドンの”超”高級住宅地。 この住宅地の入り口にはガードマンにより24時間監視されており、家の中でも様々な形で生活がコントロールされている。住むことができるのは、もちろん社会的地位の高い人ばかりだ。子どもたちも大人から守られるように大切に育てられている。大人が考える全ての「悪」から遠ざけられ、それはそれは大切に…。

    人は「ないものねだり」な生き物なのだろうか。大人は自分が子どもの頃に得られなかったものを、自分の子には与えようとする。自分のように得られずに悔しい思いをさせたくないという気持ちなのか、子どもをより幸せにしたいという気持ちからなのか。しかし、大人が考える「子どもの幸せ」と、子ども自身が感じる「幸せ」とはかなりの隔たりがある。

    この高級住宅地の子どもたちは「普通」の育てられ方をされなかった。読む本、観るテレビ番組、参加するスポーツの種類、考え方まで、全てを親に管理されていた。決して”強制”という形ではなく。大人たちは子どもを叱ることもなく、ただ巧みに自分の思うようにコントロールしているのだ。大人が考える「よい子」になるようにし向けられてきた。大人たちは自分は子どもにありったけの愛情を注いでいるのだ、できることを全てしてやっているのだと思っていただろう。けれど、それは結局のところ「自己愛」に過ぎない。そういう風に子どもにしてやれる自分を愛していたのだ。子どもたちの本当の幸せを考えていたなら、もっと子どもたちと本音で向き合っていただろう。建前だけじゃなく、心の底の声に耳を傾けていただろう。

    ここまで読んでいただければ、この殺人を行ったのは誰なのか、子どもたちが失踪した理由はなんなのか察していただけるかと思う。そうだ。これは、自然に抱く欲望を大人たちに巧みに抑制された子どもたちによる凶行なのだ。きっかけはなんでもよかったのだろう。ただそれ以上、精神的に自由のない生活を続けることができないまでに子どもたちは追い詰められていた。押しつけられる”愛情”で窒息死しそうになっていた。

    8歳から17歳までの13人の子どもたちが考え行動して、32人の大人を次々と殺して姿を消す。非現実的なストーリーではあるが、妙にリアリティがある。当事者ではない第三者の目線で語られる事件からは、冷たい恐怖を感じる。

    モンスター・ペアレンツと呼ばれる親が世界中で登場してからどのくらい経つのだろう。
    「子ども」を愛しているのか、それとも「子どもを愛している自分」を愛しているのか。
    「傷つけられた子ども」のための行動なのか、それとも「(自分のものである)子どもを傷つけられた自分の傷を癒す」ための行動なのか。
    両者を混同して混乱している子どもを取り巻く世界。
    1980年代後半に描かれた本書の世界がリアリティを持って身に迫ってくるように感じるのは、私自身も現状に対して危機感を持っているからなのだろうか。

  • 80年代の作品。

    ロンドン郊外、高級住宅街で起きた32人の大量殺人。ものの数十分で殺人は片が付き、未成年は殺されずに行方不明。迷宮入り直前に事件の分析を頼まれたドクターの推理は...。

    もはやこの手の動機なき殺人は「あり得る話」になってしまっており、目新しくも鋭くもない。不気味だなと思わせるのは、著者の結論「根絶できない、付き合うしかない」という見方。COVID19ではないが、もはや共存を意識するしかないのだとしたら、恐ろしさは増加する。

  • 積読SF消化キャンペーン中。
    子供たちが淡々と目的を遂行していく様子はスタイリッシュでかっこよかった。
    ただこのストーリーにあまりメッセージ性を求めるのはどうかと思うが。完璧主義な教育や環境が子供たちを追い詰めたとか、教育の効果なんてそんな単純に語れるものじゃないと思うし。ただ思春期に、反抗期&中二病のせいで恵まれた環境が欺瞞に思えるというのは、ありがちな心理かもとは思う。

  • パングボーン・ヴィレッジは壁に覆われた高級住宅街。
    外部から入るためにはガードマンのいる入り口を通らなければいけないほど厳重に警備された家々には、それぞれ10の家族が住んでいて、彼らすべてが裕福な暮らしをしていた。

    大量殺人が起こったのは6月の土曜日。パングボーン・ヴィレッジ内にいた大人全員が死体で見つかった。そして子どもたちは誰一人見つからず、誘拐事件なのか、軍事組織が絡んでいるのか、様々な憶測が飛び交ったが事実は不明。

    内務省に命じられたドクターが事件の真相を解き明かすが、事件の犯人は意外な人物だった!!

    (以下ネタバレ)

    大人たちに守られ、愛されることで不満を溜め込んだ子どもたちが共謀して、各家庭の親たちが全員家にいる(ドキュメント番組が取材に来るから)朝に大人たちを皆殺しにしたのだった。
    数年後、年齢を重ねた彼らは〈国家の母〉と呼ばれた元首相を襲撃したようだ。象徴としての”母”に対しても彼らは襲撃を繰り返す。

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    いやあ、どうなんだろうこれ。
    高い壁に守られた高級住宅街は、高い壁に覆われた刑務所のようで、子どもはそのなかで心の闇を育てちゃったっていうことらしいけど、そんなにうまくいかないんじゃないかなあと思ってしまった。
    SFにリアルさを求めるんじゃねえよ!と言われても、ありえなさすぎると物語に入り込むのは厳しい。

    主人公をサポートしてくれるペイン部長刑事が黒幕なのかなと思いながら読んだ。高級住宅街に住む家族を嫌った彼が、子どもたちを操って親たちを抹殺。子どもたちはペイン部長刑事の殺人兵器となって闇の世界で暗躍していく、みたいな流れを想像してたらぜんぜん違かった。ペインさんは普通にいい人だった。

    昔観てたドラマ『QUIZ』も一斉にではないけど、子どもたちが街からいなくなっていっちゃう話だった。どういうラストだったのは忘れちゃった。

    うーん、親に不満があるのはわかるけど、12人もいれば殺す以外の方法を選ぶ子どももいるんじゃないかな。家出とかさ。どうなのかな。

  • 1988年なら印象的かも?
    今読むとありえそうだが
    寓話的なラッキーなどが目について
    逆に気になった。

  • 若い精神は自由をみつける方法として、みずから進んで狂気に身をゆだねたのだ、と強く思った。

    バラードの悪夢の論理。

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