- Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488696085
作品紹介・あらすじ
カリフォルニア州に建造された巨大な陽子ビーム偏向装置が突如暴走事故を起こし、八人の男女がまきぞえとなった。その一人、ジャック・ハミルトンは、ほどなく病院で意識を取り戻す。身体には何の異状もなかった。だが、そこは彼が知っている現実世界とは違った、奇怪な宗教に支配される世界だったのだ。八人はもとの世界に帰る方法を探り始めるが…。高名な傑作初期長編。
感想・レビュー・書評
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1959年、共産主義との確執もヒートアップした時代を舞台に、陽子ビーム変更装置の事故に巻き込まれた8人の人間が目覚めた世界は・・・
とっかかりのみSF的設定であとは、人は理解し合えるのか?をディックの異様なレンズを通してデフォルメして追求していきます。さらに出版された時期もいわゆる「赤狩り」真っ只中。周りの誰もが疑わしく信じられないという世界です。
ディックにしては珍しいほのぼのとしたラスト(でも、変だけどね)。やさしさを感じられます。
自分と違うことは悪なのか?理解できないからといってそれは悪なのか?今もハっとするということは、日ごろそのように考え勝ちということなんですね。
自分の頭の中も、こんなになっていないか注意しないと・・・詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夏のディック強化月間。当たりの1冊。
加速器?べヴァトロンの事故から覚めたら、現実にはあり得ないような宗教に支配された世界で、そこから逃げ出したはいいが、また違うパラレルワールドへ。実はその世界は、事故で気を失ってる人たちの意識の中だった。
という、筒井マニアには既視感を伴う狂った世界観。というか、フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」と入りも途中も同じだ。違うのは、同時に事故にあった8人のうち7人は正常なこと。この演出も憎い。
狂信的な宗教や綺麗事、逆にホラーの世界、ファシズムなど、絶望的な世界を飛び回り、逃げ道を探していくのは、短篇集のように緩急ができるので、読みやすい。また、基本的に現実の世界に沿っているところも、理解しやすいポイントであろう。宇宙戦争テーマなんかが読みにくいと思うのは、歳で頭が硬くなってきたからかね。いやだいやだ。
最後のオチがなあ、そこまで考えずに書いていたんだろうけど、それだったら誰かの意識の中のままでも良かったんじゃないのかなあ、ってことで☆1個減らす。訳もいい。
(追記) 現在は早川の新装版で『宇宙の眼』というタイトルで出ているらしい。初期発表時が「宇宙の眼」、サンリオ文庫と創元文庫版が「虚空の眼」、新装早川が「宇宙の眼」だそうだ。ややこしい。 -
他人の精神世界に入り込む
いまだよく使われるアイディアですよね
SFは1950年代に一気にアイディアが噴出して、その後は亜流ばかり・・というのは極論でしょうか? -
筒井康隆氏が自身の日記サイトでこれを読んでいて、そういえばまだ読んでないなぁと気になってamazonのマーケット・プレイスで購入。創元SF文庫のディックはかなり絶版になっているんですね。鴨が学生の頃はたくさん書店に並んでたけどなぁ。
陽子ビーム偏向装置の暴走事故に巻き込まれて意識を失った、生い立ちも肩書きも様々な8人の男女。ほどなく病院で意識を取り戻した彼らは、自分たちの目覚めた世界がこれまでの世界とは微妙に異なっていることに気づく。そこは古い価値観に凝り固まった宗教が支配する、息苦しい世界だった。元の世界に戻るため、この異質な世界の謎を解こうと奮闘する彼らだったが、実はこの世界とは・・・!?
ディック読むのは何年ぶりですかねぇ。本邦で刊行された短編集はほとんど読んでるつもりですが、長編はあまり読んでません。ディックの作品を一度でも読んだことのある方ならおわかりのとおり、かなり読む人を選ぶ作家ですからね(^_^;
しかーし、この「虚空の眼」は読みやすいです!普通にエンターテインメントしてるといったらコアなディック・マニアには怒られそうですが(笑)ディックをこれから読む人、あるいはディックと言えば「電気羊〜」か「ヴァリス」のイメージしかないわ〜、という人にはおススメかも。
これ、あらすじを読む限りではいわゆる「多元宇宙ものSF」なんですが、実は違うんだなー。種明かしは本編を読んでいただくとして、物語のテイストはSFというよりもちょっとペシミスティックな大人の寓話、といった方がいいかもしれません。この作品が書かれた当時のアメリカ社会を暗喩した、独特の雰囲気に溢れています。しかもかなり悪ノリ気味ヽ( ´ー`)ノ異世界に放り出された8人は都合4つの異世界を渡り歩かされる羽目になるのですが、次から次へと新たな異世界に放り込まれて右往左往するその姿が何というかこぅ「ドリフ大爆笑」を彷彿とさせるドタバタぶりで、まさにスラップスティック。しかも、さんざん悪ノリしたあげくによくわからん結末に至る(いや、後期のディックの作風もある意味悪ノリですからねぇヽ( ´ー`)ノ)のかと思いきや、鮮やかなハッピーエンドで綺麗に締めくくり、読後感の良さもバッチリ。読後感の良いディックって!(笑)いやー、ディックはこういう作品も書ける才能があるんですね。驚きましたわー。
一方で、いかにもディックらしい薄気味悪さも実はそこかしこに点在していて、決して「ディックらしくない作品」ではありません。裏返った猫が内臓剥き出しにしてもぞもぞ歩いているシーンは、鴨的には「あぁディック読んでるなぁ」と充実感を得られるシーンでもありましたヽ( ´ー`)ノそんな即物的な気味悪さの他にも、物語全体を貫く不穏で鬱屈した雰囲気が実にディック的。それでハッピーエンドに持ってけちゃうんだもんなぁ。強引というか何というか。でも面白いから許す。
ディックの長編は難解なイメージが強いですが、この「虚空の眼」を初めとする初期作品は意外と読みやすい、ということがわかりました。他の長編も気力が充実している時に挑戦してみたいと思います。「ヴァリス」はまだ読む勇気がありません・・・(^_^; -
とある事故にあった8人の人間たちが、それぞれの妄想世界に入り込んで苦労する。
どたばた喜劇タッチです。 -
ディックの超名作。平行世界の異常なお話。どうやら絶版になっているのか?