影が行く―ホラーSF傑作選 (創元SF文庫) (創元SF文庫 ン 6-1)

制作 : 中村融 
  • 東京創元社
3.70
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488715014

作品紹介・あらすじ

未知に直面したとき、好奇心と同時に人間の心に呼びさまされるもの-それが恐怖である。その根源に迫る古今の名作ホラーSF13編を、日本オリジナル編集で贈る。閉ざされた南極基地を襲う影、地球に帰還した探検隊を待つ戦慄、過去の記憶をなくして破壊を繰り返す若者たち、19世紀英国の片田舎に飛来した宇宙怪物など、初心者からマニアまで楽しめる入魂のテーマ・アンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • 1930~1970年代英米の、恐怖に彩られたSF
    あるいは科学色の強い怪奇小説セレクション全13編。
    ホラーとSFという、別々に取り扱われる場合も多いジャンルが、
    実はメビウスの帯のような関係にあることを
    再認させてくれるアンソロジー。
    殊に1950~1960年代のアメリカでは、
    未曾有の経済的繁栄を謳歌する豊かな社会に、
    外部からの悪意ある侵入者が迫りつつあるのでは――
    という強迫観念を反映した文芸作品が持て囃された模様。
    そのココロは
    「“東側”のスパイが隣人に成り済ましていたらどうしよう」
    的な不安だったに違いないが、
    翻って、現代の我々にとっての仮想敵、
    恐怖の源泉とは一体何だろう……などと考えてみたが以下略(笑)。

    収録作は

    リチャード・マシスン
     「消えた少女」 "Little Girl Lost"(1953年)
    ディーン・R・クーンツ
     「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」 "Nightmare Gang"(1970年)
    シオドア・L・トーマス
     「群体」 "The Clone"(1959年)
    フリッツ・ライバー
     「歴戦の勇士」 "The Oldest Soldier"(1960年)
    キース・ロバーツ
     「ボールターのカナリア」 "Boulter's Canaries"(1965年)
    ジョン・W・キャンベル・ジュニア
     「影が行く」 "Who Goes There?"(1938年)
    フィリップ・K・ディック
     「探検隊帰る」 "Explores We"(1959年)
    デーモン・ナイト
     「仮面」 "Masks"(1968年)
    ロジャー・ゼラズニイ
     「吸血機伝説」 "The Stainless Steel Leech"(1963年)
    クラーク・アシュトン・スミス
     「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」 "The Vault of Yoh-Vombis"(1932年)
    ジャック・ヴァンス
     「五つの月が昇るとき」 "When the Five Moons Rise"(1954年)
    アルフレッド・ベスター
     「ごきげん目盛り」 "Fondly Fahrenheit"(1958年)
    ブライアン・W・オールディス
     「唾の樹」 "The Saliva Tree"(1965年)

    面白かったのは、これまで三度も映画化された表題作
    「影が行く」。
    南極の基地で強い磁力を探知した研究者たちは、
    原因を探りに行って氷漬けの異星船を発見。
    解凍されたエイリアンは犬橇の犬の姿を模倣して同化し――
    という『遊星からの物体X』なのだが、
    宇宙生物の不気味さよりも、隣にいる仲間が既に殺され、
    “それ”に成り替わられているのでは……と
    疑心暗鬼を生ずる閉鎖的空間におけるサスペンス感覚が
    素晴らしい。

    舞台が火星だからSF扱いだけど
    中身はクトゥルー神話じゃないかよ(喜)! な、
    遺跡を調査する考古学者チームが“おぞましいもの”に
    遭遇する、クラーク・アシュトン・スミス
    「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」 が、
    オチの付け方まで含めて好みのタイプだった。

  • 「影が行く」南極基地。調査隊は凍結した2千万年前の宇宙船と地球外生命体の死体を発見。死んでいるはずの生命体は他の生物に寄生し体を乗取り始めた。擬態を見破るのは困難で、隊員は疑心暗鬼になる。面白い。

  • 良いですねぇ、実に良い。良くも悪くも「古い」作品ばかりですが、独特のエレガントさを感じます。
    タイトル通り、ホラーテイストが強い作品を集めた短編集です。ただし、恐いかどうかは読む人次第。むしろ、「ホラーSF」の一語の下にこれだけ多様多彩な作品が集まるところに、ホラー/SFの懐の深さを感じました。中には「これSFじゃねーだろ」的な作品もありますが、そこはご愛嬌。

    不肖鴨、SFとホラーは親和性が高いと考えます。その理由は、どちらも「読者の想像力に全幅の信頼を置くことを前提とする」ジャンルであるから。作家が表現したいことを100%文章化するのではなく、何割かを読者の想像力に委ね、想像力を如何に喚起するかに心血を注ぐ、したがって読者の側にもある程度のセンスとスキルが求められる(だから決してメジャーになれないヽ( ´ー`)ノ)ジャンルだと鴨は思っています。だから、面白いSF/ホラーは読み進めると同時に物語のヴィジョンが映画のように目の前に広がりますし、音も聞こえてきそうな気がします。
    この本に収められた短編は、どれも鮮烈なヴィジョンが広がる「絵になる」作品ばかりです。中には最近とんと聞かなくなった作家の作品や埋もれた珍品もあったりして、一読しての印象は玉石混淆。訳調が時折妙に古臭いのも気にはなります。が、良い作品も多数含まれていて、全体的には「読む価値あり」と評価できるかと。

    鴨が気に入ったのはライバー、キャンベル、ディック、ヴァンス、ベスターの各編。
    ライバーの溢れる香気には痺れましたね!想像力の乏しい人にはこのエレガントさは全く伝わらないと思います。映画「遊星からの物体X」の原作として名高いキャンベルの作品は、サスペンスとしても一級品。SF文学史上におけるキャンベルの評価に照らして、こんなハイレベルなSFを書ける人だとは思いませんでした(^_^;何の解決策も見いだせないまま淡々と終わってしまうディックの不穏さ、孤高の雰囲気溢れるヴァンスの美しさ、ぶっ飛んだ文体でグイグイと押し進めるベスターの猥雑さ、どれも素晴らしい。

    何分にもホラーですから、アンハッピーで後味の悪い作品が多いです。まぁでも、物語に予定調和を求める人はそもそもSFもホラーも読まんでしょうから(笑)SF好き・ホラー好きどちらにもおススメです。

  • 久々にホラーが読みたいと思って借りたが、クーンツやフィリップKディックが入ってた割には…だった。悪くはないとは思うが、めくるめくわくわく感はない。王道の先ぶれ、という感じ?

  • 蔵書だと思っていたが見当たらず、買うとなったなら長らく店頭から姿を消し、一時はAmazonのプレミア価格もやむなしとした程に探していた本書。偶然にも表題作でもある『影が行く』がリメイク作品『遊星からの物体X・ファーストコンタクト』の原作として公開に合わせてジャケットデザインも一新されての再版となった。
    SFミステリーのアンソロジー集としても実に質が高く、作家と物語の選定のわびさびが効いており、リチャード・マシスン、アルフレッド・ベスター、フィリップ・K・ディックらの初期作品は非常にクセがあるものの、今となっては大変貴重である。

  • ホラー要素の強い海外SFのアンソロジー

    アメーバ、気持ちの悪い宇宙生物など映画にするとB級になりそうなものも、小説として読むとまた違った味わいがあっていいですね。

    印象的なのはそのアメーバ生物の出てくる『群体』
    人がアメーバに飲み込まれるというB級感満載の作品ながらも、描写やアメーバの科学的な記述が短編ながらもしっかりしているので、意外に引き込まれてしまいました。

    『探検隊帰る』は宇宙から帰ってきた探検隊を描く話。この話の著者フィリップ・K・ディックの話は何編か読みましたが、この後味の悪さはなかなかクセになりつつあります。

    『吸血鬼伝説』はSFと吸血鬼という二つのキーワードをどう組み合わせるのか興味があったのですが、そう書くのか、とこの二つを組み合わせたアイディアが面白かったです。

    一番は最終作の『唾の樹』かな。農場の近くに隕石が落ち、その日から農場の家畜や作物が異常繁殖をはじめて…という話なのですが、後半からの描写力に感服でした。映像化するとどんなふうになるんだろう、と嫌な想像をしてしまいます(笑)

  • 得体の知れないものと遭遇したときの恐怖が、これでもかと伝わってくる、秀逸なホラーSFのアンソロジー。別の作品を読んだことのある作家もいれば、初めての作家もいて、読書の幅が広がりそうだ。どれも面白かったが、個人的には『群体』『歴戦の勇士』『影が行く』『探検隊帰る』『ヨー・ヴォムビスの地下墓地』が特に好き。

    <収録作家>
    リチャード・マシスン、ディーン・R・クーンツ、シオドア・L・トーマス、フリッツ・ライバー、キース・ロバーツ、ジョン・W・キャンベル・ジュニア、フィリップ・K・ディック、デーモン・ナイト、ロジャー・ゼラズニイ、クラーク・アシュトン・スミス、ジャック・ヴァンス、アルフレッド・ベスター、ブライアン・W・オールディス

  • 全体的にセレクトが古すぎるのが気になるが、中村融編となればまあこうなるか。

    「影が行く」と「唾の樹」が良かったかな。

  • ホラーSFを集めたアンソロジー。ホラーSFが何であるかは解説を読んでもらうとして、私はホラーにもSFにも詳しくないけど、この本はなかなか面白かったな。

    表題作は南極で氷づけになった奇妙な生き物が発見される話。途中から、雪に閉ざされた山荘で事件が発生し、犯人は誰、みたいなことになってる。
    それに続くのは「探険隊帰る」という作品でこの並びはいいなと思いました。
    作者はフィリップ・K・デイック。この短編に描かれたものが後の長編にもつながっていくそうで、SFは短編だけで長編はいいかなと思っていたんですけど、長編も気になっています。

    「吸血機伝説」(吸血鬼ではなく吸血「機」)は古風でゴシックな世界が下敷きになってて、人間と吸血鬼(こちらは「吸血鬼」)とロボットの組み合わせが面白いです。
    「唾の木」は19世紀のイギリスの農場で起きた怪事件の話で、恐怖も悲劇もあるんですけど、同時にドタバタコメディみたいなカラーもところどころあるような…不思議な話。
    H・G・ウェルズが出てくるので彼の作品を読みたくなります。

  • トワイライトゾーンのテイストを懐かしく思い出させる時間だった。
    中村氏の解説を読んで納得~収録されている差k品の大半は1950年代。
    当時は急激な科学技術の発達と共に、原子力・核兵器・放射能・宇宙よりの侵略❔も含むと2度の大きな戦争を経て冷戦期に向かっている時間はひたすら「他者よりの襲撃」」を恐れる時間だったろう。その後仮想敵というフレーズが独り歩きして、現代に至ってはあの国を始めとして膨らむ一方の恐怖。

    この作品を読んでいると恐怖も幸せな形に思える。
    流石に表題作が一番の面白さ。

    SF+ホラー+ミステリーがどんどん形作られて行った20C後半の集大成という感じ。その後、マッドサイエンティスト的になって行ったのは好みじゃないけれど。パラノイア⇒ミュータント⇒ゾンビ⇒スティーブン・キングの世界になって行った流れを振り返らせてくれた。

    「ヨ―ヴォムビスの地下墓地」は短編だがマチュピチュ、ヨーヒ人?そして感染症と好みのテイストだった。

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