誰から取り、誰に与えるか: 格差と再分配の政治経済学

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492395172

作品紹介・あらすじ

個人勘定賦課方式の導入、地方交付税を地域住民に直接配分せよ、今後30年かけて地方交付税を廃止、公的年金支給開始は男性80歳・女性85歳に、子どものいる世帯には給付付き税額控除を、などなど、不公平・非効率な再分配政策をただす。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の主題である『再分配』とは、いわゆる格差社会を是正する行政の持つ本質的機能であり、貧富の差を緩和、階層の固定化と社会の硬直化を阻止し、社会的公平性と経済活力をもたらすための政策を指す。世代間再分配(高齢者と若年者の格差是正)、地域間再分配(都市と地方の格差・他の先進国と日本と発展途上国の格差是正)、個人間再分配(貧富の格差・男性と女性の格差・正規雇用者と非正規雇用者の格差是正)などに分類される。

     政府が所得や資産を再分配するとき、受給者と負担者が生じる。負担と受益のリンクが乏しい場合、例えば、農業政策を行うことによって、農家の利益よりもはるかに大きな損失を一般消費者が被るというようなケースでは、再分配政策はマクロ的に非効率となる。全員が一致できる公平性の基準などないことは自明であり、負担者と受益者とを分断する線をどこに線を引くか高度な政治的判断が求められる。

     財源は広く薄く確保されることが望ましいのに対して、給付は選択と集中が望ましいとされる。自前(住民の税負担で住民の行政サービスを調達する)で効率的な行政サービスを供給するには、基礎自治体の人口規模でほぼ30万人が目安となるといわれている。国家・自治体レベルで財政状況の厳しいわが国では、既存の補助金の削減なしに、新しい補助金を生み出すことは困難であり、すでにおおかたの国民は消費税率の引き上げが長期的にはやむを得ないことと理解しているが、その財源が特殊法人などに流れ有益な再分配政策に使われないことへの危惧からくる抵抗感は根強い。給付面では、再分配3原則(①対象を特定する、②期間を特定する、③経済的制約を考慮する)が重要とされる。例えば、期間が特定されることによって、近い将来に受給が打ち切られるかもしれないと受給者が心配すればそれが受給者の自助努力を引き出す効果に結び付く。給付の効果を押しのけるような作用(クラウディングアウト:たとえばより少ない労働時間、より少ない教育投資、より多くの自分の子孫への遺産など)を考慮したシミュレーションが必要である。

    「再分配」の概念は、会社や家計のバランスシートと同じであって私達の日常生活にとても身近なものであるとともに、常に意識下に置いておくと有益であろうことが直感される。本書を読んでいて、所得(ある期間に稼ぐおカネの大きさ)と資産(ある時点で持っているおカネの残高)の関係は、薬剤反復投与時の血漿中薬物濃度推移(トラフとCmaxの関係)に似ていると感じた。実際に経済状態の豊かさや貧しさは、所得の面から判断するより消費行動など支出の面で判断するのが適当であるという点も、クリアランスが重要とされる薬物動態の本質と類似している。

    「人は長期的に理性重視であっても、短期的には感情重視で行動しがちである。長期的視点で考えると、短期の視点とは逆の結論になりやすい」
    筆者の井堀教授は、具体的には誰から取り誰に与えよと提言しているのだろうか?本書第三章「再配分のすすめ」に示されている『公的年金の個人勘定賦課方式』を紹介したい。要約すると次のような年金制度だ。

    勤労世代の保険料がすべて同時点の老年世代への一般的な給付に回る制度を改め、保険料を収める人ごとに、その報酬比例部分(いわゆる2階部分)については自分自身の親だけに限定した給付とする。

    自分の親や配偶者の親が生存する限り、子が収めた保険料の報酬比例部分は自分の親へと均等に配分される。親が死亡すれば子は2階部分の保険料支払いを免除され、また、子のいない親はこの勘定からの給付はなく基礎年金のみの給付となる。自分の親に給付される財源に回ることで、勤労世代の子の自主的な納付意識が向上することが期待される上、親は自分に子供がいてその数が多ければ、将来の自身への給付額が増加することから、多く子どもを産み育て、熱心に教育する誘因となる(子の賃金が増加すれば親の給付額も増加する)ことから、中長期的には小子化対策や教育水準の向上にも有効な制度と考えられる。

    子どもがリストラされてこの勘定の給付がゼロとなるようなリスクヘッジをどうするかなどの課題も残るが、勤労世代の保険料を同時点の老年世代の給付に充てるという現行の賦課方式を基本的に維持しつつ、受益と負担の関係が明白することで無駄を削減し社会的公平性を醸成し、かつ、少子化対策にもなるという名案といえよう。

  • 編集が悪いのか、同じ記述が何回も出てきて読みにくいです。
    まとめますと、再分配のためには
    ①再分配の対象を特定する。
     納税者番号が無い日本では、誰が弱者なのか特定することはなかなか難しいです。番号制にはかなりの抵抗が予想され、ずるずると先延ばしにされそうな印象ですが・・
    ②再分配の期間を特定する。
     生活保護の年数を期限を決めて切ろう、という議論は始まlっていると聞きます。
    ③再分配を評価するにあたっては、表面的な金額だけではなく、再分配によるクラウンディング・アウトなど人々の行動の変化も考慮に入れないと見誤る、と。
    ④最終的にどの程度の再分配を行うかは国民の選択
     政党の政策や投票結果が中位投票者に収斂してしまうという公共経済学的知見も参照すると、なかなか抜本的な改革は難しいのでは。日本の現在の中位投票者はいわゆる団塊の世代であるという記述を見て、暗澹たる気持ちになってしまいました。。
    編集に難ありですが、内容的には面白いです。OECDの「格差」統計(ジニ係数の改善)などの読み方もあり、政権交代後の情勢も踏まえた最近の著者の見解も読んでみたいです。

  • 僕みたいな初心者には、ちょっと難しいです。
    というか1文を理解するのに何度も何度も同じところを読み
    時間がかかったこともありました。

    ■再分配政策のあり方
    1.対象の特定:個人の経済力を把握する
    2.期間の特定:給付に期限があることで、自立を促す
    3.経済的制約の考慮:情報の非対称性

    ■世代間の再分配
    年金生活で暮らすおじいさんの方が、
    無職で暮らす青年より所得が大きい。
    →それでもさらに老人を優遇した政策を取るのはおかしい

  • 再配分政策のメリット、デメリットを整理し、公平性、効率性の両面から今後の再分配政策の在り方を論じた本書。極端過ぎるかなと思う部分もありますが概ね同意。総論賛成、各論微妙です。世代間の再配分で裕福な高齢者への再配分を疑問視している点、民間との役割分担の再検討の必要性を訴えている点には納得。高齢者を十把一絡げに捉えるべきではない。

  • 課題だからよんだけど、まーわかりにくいし、読みにくい。

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著者プロフィール

井堀利宏(いほり・としひろ)
1952年、岡山県生まれ。政策研究大学院大学名誉教授。東京大学名誉教授。専門は財政学・公共経済学・経済政策。
東京大学経済学部経済学科卒業、ジョンズ・ホプキンス大学博士課程修了(Ph.D取得)。東京都立大学経済学部助教授、大阪大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授、同大学教授、同大学院経済学研究科教授を経て2015年同大学名誉教授。同年4月より政策研究大学院大学教授、2017年4月に同特別教授、2022年4月より現職。
著書に『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)、『政治と経済の関係が3時間でわかる教養としての政治経済学』(総合法令出版)『入門経済学』(新世社)など多数。

「2022年 『サクッとわかるビジネス教養  経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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