「社会的入院」の研究―高齢者医療最大の病理にいかに対処すべきか

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492701249

作品紹介・あらすじ

全部で四部からなる。第1部で社会的入院の意味を、続く第2部でその実態を明らかにし、第3部で社会的入院の根本原因を追究し、第4部でその対策を考えるという構成である。

感想・レビュー・書評

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  • 日々臨床の現場での感情と、現状を整理して記載されていた内容が一致していて「そうなんだよなぁ」という感覚。行政、保険制度(介護も医療も)への提案は理解できる。ただ、私が現場で何ができるのだろうか、というヒントは得られなかった。

  • 社会的入院の発生原因とその解決策について述べらている本書。
    発生原因については、入院の出口たる在宅介護や介護施設の問題だけでなく、低密度医療が生み出す長期入院そのものに原因があることに言及。つまり、「病床過剰→病床あたりマンパワー不足→低密度医療→社会的入院の発生→廃用症候群→ADL低下、認知症の発症ないし悪化→要介護度悪化→社会的入院」という悪循環を生み出すと論じている。
    解決策については、①高密度医療実現のための病床再編と削減政策②在宅医療・介護を促進させるための保険の自己負担率の改革、医療&ケアの質を担保するための診療報酬支払制度の改革③入退院の適正化、患者教育の実施を行うための保険者機能の強化政策等の提言がなされている。
    社会的入院を俯瞰的に理解する上で非常に勉強になる1冊。

  • 意思決定論の専門家、印南一路氏による社会問題の分析。

    「高齢者医療費の伸びを放置すれば、国民皆保険制を財政的に維持できない」、この財政問題は二十年ほど問題視されているが、高齢者のQoLという観点からみても、高齢者を不幸にしていると指摘する。社会的入院によって引き起こされる廃用症候群。これはベッドで体を動かさないことが原因となり、関節が動かなくなる、床ずれができる、認知症や抑うつなどの精神症状が現れるなどの状況である。リハビリが効果的だが、現実には医療スタッフが不足しているため、効果的な医療がおこなわれていない。

    その原因はなにか。

    患者の側には、「介護のために仕事をやめることを含めた費用」よりも「入院させる費用」のほうが小さいことで、入院医療への重要が拡大していることを指摘。

    病院側は、医療スタッフに比べてベッド数が多すぎるため、低密度の医療しか提供できないにも化かwらず、重要が大きいため、収入が十分確保できるというインセンティブが働く。

    低密度医療は、廃用症候群につながり、それは症状の悪化と要介護状態の深刻化につながり、さらに入院需要が増えるという悪循環。

    著書の処方箋は、病院の機能分化(高密度医療とリハビリ医療)と在宅医療・介護を促す自己負担率のデザイン。これにより、一兆五千億円の医療費の適正化と、廃用症候群にならずにすみ高齢者のQoLを高められると指摘する。

    「介護のために仕事をやめることを含めた費用」の大きさが高齢者のQoL低迷の遠因であるならば、働き方の改善も大きな社会問題の解決に寄与できるはずである。

  • この本は慶応大学総合政策学部教授が、健康保険組合連合会より資金提供を受けて社会的入院の現状と対策についてまとめたものです。
    厚労省の現在行っている施策のベースになった研究だと思います。
    日本では、社会的入院の方が多く医療の問題点であり医療費増大の一因となっています。入院している高齢患者の1/3~1/2(総数約32万人)は、社会的入院患者であると考えられます。日本で社会的入院が増えた理由は、昭和48年に老人医療無料化政策が施行され老人病院が乱立したからです。社会的入院を解消させることにより1兆5千億円の資金が捻出できると試算してます。
    社会的入院の原因は、介護力不足、介護回避、介護施設不足の3つが主な原因です。
    政府は、平成12年から介護保険を導入しました。しかし現在でも一般病床から療養型病床への転院、療養病床めぐり、老健めぐりなどの社会的入院が見られます。
    病床数が多いと医師、看護のマンパワー不足のために低密度医療となり、寝たきり老人をつくることになります。すなわち社会的入院は、医療経済的な問題だけでなく、患者のための医療ではないのです。
    解決策としては病床数を減らすことで手厚い医療を行うことです。
    看護婦1人で患者5人を看るくらいにして高齢者を手厚くすることで自宅への早期退院ができるようにすることを勧めています。

  • 著者は社会的入院の定義を6ヶ月以上といった期間で決めるのではなく、治療が必要な段階が終わったのに一般病床に入院している患者を社会的入院と定義している。その結果、一般病床でもかなりの患者が社会的入院であることが判明する。例えば、施設待ちや在宅の準備待ち、などである。このような社会的入院が発生する要因として、まず日本では一般病床の数が他の先進国に比して過剰であること、その結果、病床あたりのマンパワーが不足し低密度医療が常態化しており、それが高齢者を寝たきりにしていると指摘する。また、患者や家族に過度の病院信仰(入院していれば安心)や、施設入所には様々な審査など手続きが必要なのに、入院は医師の裁量でおこなわれるため敷居が低く、過剰な一般病床を埋めておくために社会的入院が発生していると指摘している。日本のように、医師が自ら病院を経営するような形態は世界的には珍しいらしい。
    細かな部分では、ちょっと現場の感覚と違うと感じるところもあるが、概ね著者の指摘はあたっており医師にとっても耳の痛い(しかし傾聴すべき)内容だと思う。

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著者プロフィール

1958年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部教授。専門は、意思決定・交渉論と医療政策。東京大学法学部卒業、富士銀行(現在のみずほ銀行)、元厚生省勤務の後、ハーバード大学行政大学院で学び、シカゴ大学経営大学院でPh.D取得。シカゴ大学経営大学院助教授やスタンフォード大学研究員などを経て、2001年より現職。そのほか、株式会社キングジム社外取締役、厚生労働省中央社会保険医療協議会委員など。著書に『すぐれた意思決定』(中公文庫)、『意思決定トレーニング』(ちくま新書)、『人生が輝く選択力』(中公新書ラクレ)、『サバイバル決断術』(NHK出版)などがある。

「2018年 『交渉学が君たちの人生を変える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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