食料を読む

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532112158

感想・レビュー・書評

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  • 農政の専門家により、穀物をはじめとする食料について書かれた本。穀物市場、穀物メジャー、各国の農業政策など、興味深いテーマが多かった。アメリカ、フランス、オーストラリア等、主要食料輸出国の農家は、多額の輸出補助金により政府から守られていることがよくわかった。印象的な記述を記す。
    「どんなに努力して国産バイオエタノールの生産コストを引き下げたとしても、ガソリン税の二重課税が解決しないと、国産バイオエタノールが市場性を確保することは不可能に近いのが現実です」
    「アメリカは、食糧自給の問題を国家安全保障の問題として明確に位置づけており、国内食料生産を戦略的に非常に手厚く支援しています。アメリカの主要農産物の多くは、農家への所得補償や輸出補助のおかげで低価格での販売が可能になっているのです。その一方、自国の余剰農産物処理と食料による世界戦略を進めるため、他の国々に対してはWTO交渉などを通じて市場開放を求め、「非効率な」食糧生産をやめてアメリカから「安い」食料を買うように要求してきました」
    「食料自給率は高いに越したことはありませんが、現実的には、国産と輸入と備蓄をどのように組み合わせて不測の事態に備えるのが、最も低コストで大きな効果が得られるかという視点が必要でしょう。トウモロコシなど、今後とも相当部分を輸入に依存せざるをえないものについては、その安定確保のために、穀物メジャーやモンサント社のGMOに過度に依存しなくてもすむような独自の海外産地開発や調達ルートを強化することも重要です。これまでに何度も自給率目標が設定されてきましたが、それに向けて自給率が本格的に上がったことはありません。常に「絵に描いた餅」に終わっています。これでは意味がありません」
    「WTOは、全会一致ですから、日本がNOと言えば決まりません。インドは、最後の1国になっても、小規模農業に依存する発展途上国の国民の食料を守るためNOと言っていますし、アメリカは、自分の国益が世界のルールにならない限り、いつも拒否します。各国が、よくも悪くも国益のために譲れないものは譲れないと最後まで主張している中で、日本では「日本のせいで交渉がまとまらなかったと言われたくない」という話がよく出てきます」

  • 我が国の食料事情を理解するためには、経済学的な分析が不可欠であることを実践してみせてくれる。
    特に、消費者に届く場面での農産品や食品の適正価格がいくらかという議論は、安ければ安いだけ良いという世間の風潮に流されて、とかく置き去りにされがちであった。
    「食料生産への支援が農家のエゴのように言われて」きた歴史からの脱却をめざして進むべき道への第一歩を踏み出すための入門書。

  • TPPが話題になる中、日本の農業の状況を知る上で、参考になる一冊。

    「農」とは食を作るだけではなく、例えば水害から守り、生物多様性を維持し、水を浄化するのにも役立ちます。もし、日本中から水田や畑がなくなればどうなるのか。

    アメリカはいったい何をしようとしているのか、など様々な課題が見えてきます

  • 食糧・資源・エネルギーの争奪戦が世界で激しくなっていますが、食料問題が日本にとってどのように問題なのか、日本は単純に農業国である米国・豪州に劣っているだけなのかを論じています。

    米国・豪州は農家に大量生産させて、決して東南アジアと比べて安くはないその農産物に、様々な隠れた形での補助金支援を行うことで農業振興を行っている。余剰農産物は他国の食糧自給制度を崩壊させて市場の開放を迫り、消費しきれない穀物はバイオ燃料に転化させて需給を調整する。

    米国・豪州は隠れた補助金を温存させて、いまだに世界の食料事情を左右しようとしているが、すでにWTOによって新たな補助金を課すことのできない日本はハンデを負った上での勝負となっており、単純に日本の農産物が高かったり、日本の農業制度の問題だけではないことが読みとれる。

    2010年11月26日読了

  • 力作。

  • 近年、トウモロコシ由来のバイオ燃料への注目や中国の経済成長に伴い「食料危機」が懸念されている。本書は、シンプルな経済学的視点をこの問題に導入することで、この「危機」が、<u><span style='color:#0000ff;'><b>食料生産国による、国内農業を戦略的産業として扱う政策や国際交渉戦略に起因</b></span></u>する面が大きいことを示唆する。さらに日本の農業政策の貧困に警鐘を鳴らす。

    <span style='color:#ff0000;'><b>食料の輸入超過が続くことにより国土土壌の窒素含有率が上昇</b></span>することが問題たりえることを、初めて知った。

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著者プロフィール

1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教
授を経て、2006年より東京大学教授。1998~2010年(夏季)米国コーネル大
学客員教授。2006~2014年学術会議連携会員。一般財団法人「食料安全保障
推進財団」理事長。『食の戦争』(文藝春秋 2013年)、『亡国の漁業権開放~協
同組合と資源・地域・国境の崩壊』(筑波書房 2017年)、『農業消滅』(平凡社
新書 2021年)、『協同組合と農業経済~共生システムの経済理論』(東京大学
出版会 2022年 食農資源経済学会賞受賞)、『世界で最初に飢えるのは日本』
(講談社 2022年)、『マンガでわかる 日本の食の危機』(方丈社 2023年)他、

「2023年 『もうひとつの「食料危機」を回避する選択』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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