七つの会議

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532171162

作品紹介・あらすじ

『下町ロケット』の池井戸潤 さん最新作!

トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を“パワハラ”で社内委員会に訴えたのは、歳上の万年係長・八角だった―。いったい、坂戸と八角の間に何があったのか?パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した不可解な人事。急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男、原島であった。どこにでもありそうな中堅メーカー・東京建電とその取引先を舞台に繰り広げられる生きるための戦い。だが、そこには誰も知らない秘密があった。筋書きのない会議がいま、始まる―。“働くこと”の意味に迫る、クライム・ノベル。

感想・レビュー・書評

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  • 社員の動きが生き生きと、魅力的に描かれた群像劇
    居眠り八角、ねじ六奮闘記、コトブキ退社、経理屋家業、社内政治家、偽ライオン、御前会議、最終議案の8話構成の連作短編集。
    総合電機メーカーのソニックの子会社で、中堅電機メーカー東京建電を舞台として行われる組織の醜悪な物語に立ち向かって、清々しく生きて行く社員の物語です。

    【読後】
    15日間にわたり、毎日音読後に物語と感想を書いて来ました。読んでいて山場山場でテンションが上がって行きます。そして社員の歓びと苦しみがヒシヒシと伝わって来ます。登場する社員は、その家庭の話と、生い立ちを語りながら現在の話へと丁寧に書かれています。それが物語の中に、私をのめり込ませていきます。怒り、喜び、しんみりと感情が激しく出てきます。素晴らしいです。毎日音読で読む時間が延びて、舌が痛くなるほどでした(笑)
    字の大きさは……大活字版
    2021.08.13~27 15日間 音読で読了

    【居眠り八角】
    中堅電機メーカー東京建電の若く営業成績のいい営業一課の坂戸課長を、部下で万年係長の八角民夫50才がパワハラ委員会に、パワハラだと訴えた。そうすると営業部長の北川誠が、坂戸を課長から人事部付きに左遷する。その後任として、万年二番手の営業二課長の原島万二(ばんじ)45才が就任する。
    ――― どうも納得できない人事だ。仕事をしない部下を叱責して。左遷…?
    そこには、何か、会社という組織の醜悪(しゅうあく)な舞台裏が隠されているようだ…?
    それを八角から聞いた、原島課長は、これからどうするのか。そして何を聞いたのか…?
    音読時間55分

    【ねじ六奮闘記】
    大阪西区で三代にわたって品質を大切にして堅実にネジを作って来た従業員20人の中小企業の「ねじ六」の社長・三沢逸郎は、新たに東京建電の第一課長に就任した原島が、2年前に競り負けたネジをねじ六に慌てて発注に来た。三沢は、原島がたまたま残したネジを、ネジ用の引張試験機に掛けたら、本来そのネジが持つべき強度をはるかに下回ったところで折れた。
    ――― 前任の坂戸課長の営業拡大は、品質ではなく価格であった、そこに何かがあった? 
    サラッと書いて有るが、もしかして、この事は大事ではないのか? 
    音読時間66分

    【コトブキ退社】
    大学を卒業して東京建電に勤めて5年目の浜本優衣27才は、妻も子も居る恋人・新田経理課長代理と別れたことで会社を辞めることを決意する。優衣は、振り返ってみると何も残っていないことに気が付く。そこで退職までの2ヶ月間で何かを残したくて、社員の残業時などの空腹を癒す目的で、社内で無人のドーナツ販売の企画書を出す。その企画を出し、社内の折衝をし、ドーナツを納入してくれる業者を探し、その後の無銭飲食を捕まえ……
    ――― 会社の歯車だと気が付いた優衣が、自我に目覚めて動き出します。その躍動感が素晴らしいです。いい話だ、読後感が良く、元気になる。
    音読時間91分

    【経理屋家業】
    経理課長代理の新田は、営業1課の課長が坂戸から原島に代ってから利益が毎月数百万円落ちているのに気がつき指摘すると。社長からその件には触れるなと言われる。それを聞いた新田は、納得せず調べだした。そして坂戸が仕入れ先を「ねじ六」から「トーメイテック」に変更したものを、原島が戻した事によるものである事を突き止めたが。唐突に、左遷される。
    ――― まさに今回の件が新田の人生の岐路だったのか? 組織の理論に反して余分なことをした新田は、排除され。大阪に行って3ヶ月後に妻とも離婚する。人生が逆回転していく。
    音読時間81分

    【社内政治家】
    2年前まで営業部次長であった佐野室長は、従業員2人のカスタマー室に追いやった北川営業部長と稲葉製造部長に復讐を考えていた時に、3年前から椅子のクレームが多い事に気が付く。トーメイテックから仕入れたネジが強度不足であった。このネジは、東京建電が製造した列車の、飛行機の、世界中の高速鉄道の椅子に使われている。この事実を知ったとき。
    ――― 閑職に追いやられた佐野が、復讐で調べていたクレームが、東京建電を潰すほどの大きなことになっている事に気が付いた所で終わっています。佐野は、これからどう動くか。この先が楽しみになってきました。
    音読時間90分

    【偽ライオン】
    佐野が、ネジの強度不足を書いた告発文を北川、稲葉、宮野社長に提出した。北川は、佐野に強度不足に最初に気が付いたのが八角係長で。この時に北川は、稲葉と一緒に社長に報告して、社長から隠蔽の指示を受ける。そして北川が、八角に坂戸課長をセクハラで訴えさせ。坂戸に代って原島を課長に据えて事態の収拾に乗り出した。その事を佐野に話して納得させたと思った北川に、親会社のソニックから出向してきている村西副社長が、告発文を持って北川に内容を糺す。
    ――― 北川が、佐野に隠蔽は、社長の指示だ。表沙汰になれば会社が潰れて、我々は路頭に迷うから黙っているようにと説得したが。告発文が、村西副社長の手からソニックに伝わろうとしている所で終わっています。いままでの物語が、やっと繋がりました。モヤモヤしていたものが、スッキリしました。さあ、これから終盤に入ります。これからどのような展開になるか、目が離せません。
    音読時間52分

    【御前会議】
    村西副社長は、古巣のソニックに告発文の内容を伝える。ソニックから東京建電へ調査が入り損害賠償額1800億円。その報告の席上、徳山社長は、公表せず闇改修を指示する。闇改修を初めて1年。ほぼ三分の一の改修が終わったころ、新聞紙上に「ソニック子会社東京建電が巨額リコール隠し。交通の混乱必至の情勢」と。
    村西は、15年前に定年退職した増谷製造部長が、二十数年前に新規取引先としてヤマト製作所を獲得する時に、担当営業部員の北川(いまの営業部長)に、見積もりは正規のネジで、受注後の量産時には強度不足のネジを納入する方法を話す。このヤマト製作所の獲得が黎明期の東京建電を支えた。この事は、当時の産業課長でソニックの梨田常務も知っていた節がある。村西は、唖然とする。
    ――― 東京建電が隠蔽。親会社のソニックも隠蔽と。その隠蔽が新聞紙上で白日の下となる。これからが大変です、どうなるか楽しみになってきました。
    音読時間73分

    【最終議案】
    売上1000億円の中堅企業の土台など、有って無きがごとしだ。信用は金と同じ。いや、それ以上かも知れない。得るには苦労するが、失うときはあっという間である。
    調査委員会の調べに、強度不足のネジを製造したトーメイテックは、坂戸課長から指示されて作った、不正とは気づかなかったと。坂戸は、トーメイテックから提案があってつい安いので仕入れたと。社長の宮野は、一社員がしたことで気が付かなかったと。だれも責任を取ろうとしない。
    最後には筋を通した男が登場した。それは、なんと、この物語によく登場している万年係長の八角である。八角が、坂戸の心情に触れ、本当に不正を指示したのが誰かを見つけて行くくだりは、息を飲む様な驚きがある。坂戸を不正へと誘導し、トーメイテックに社内の内情を教え、自身は背後に隠れて、もし万一の時に不正が発覚しても罪に問われないように証拠を残さないように動く。そして会社の業績を上げることによって最大の恩恵をこうむる社長の宮野が確信犯であった。
    ――― 業績拡大が欲しい宮野が、今回の不正の全ての絵を描いたと知ったとき。そして証拠を残さないようにトーメイテックに指示していたことを知ったとき、私は、怒りに震えました。本当に、これでいいのか(怒)
    音読時間110分
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    【音読】
    2021年8月13日から8月27日まで、大活字本で、音読で読みました。
    大活字本の底本は、2012年11月日本経済新聞出版発行の「七つの会議」です。
    このため登録も同本で行います。
    【名言集】
    従業員30人の金属加工を生業にする会社を営む父は、優秀な村西が就職を探す時に「仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔見るのは楽しいものじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる。客を大切にせん商売は滅びる」と。この父の教を信条として仕事をしてきた。
    【連載、単行本、ドラマ、映画化】
    2011年5月から2012年5月まで「日本経済新聞電子版」に連載され、単行本化の際に1話を加筆し、8話構成の連作短編集として、2012年11月に日本経済新聞出版社より刊行された。2013年に東山紀之主演でテレビドラマ化、2019年に野村萬斎主演で映画化された。
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  • 池井戸さんと言えば、勧善懲悪がテーマのばっさばっさと悪役を斬りつけ、最後はめでたしめでたしで終わるのがほとんど。
    しかし今回の作品はひと捻りきかせているようで、そうは問屋が卸さない。

    舞台は中堅メーカー。出世頭の営業課長がパワハラで更迭されるところから物語は始まる。
    その真相はどこにあるのか、本当の正義とはどこにあるのか。
    このあたりの話の運び方のうまさはやはり池井戸節。安心して読める。

    章ごとに人物の視点が切り替わり、それぞれの人物の背景を丁寧に描いているところはさすが。
    それぞれがそれぞれの悩みを抱えており、悪人とも善人とも取れない描き方をしているのがいつもの池井戸作品と違うところか。

    決して爽快になれる読後感の良い話ではなかったけれど、やっぱり面白いです。満足。

  • 中堅メーカー・東京建電でやり手の課長の坂戸が、万年係長の八角からパワハラで社内委員会に訴えられる。
    ろくに仕事をしているとは思えない八角の訴えは、取り上げられないだろうとの大半の予想とは異なり、更迭された坂戸。
    坂戸のあとを任された原島は、この裁定に納得のいかず八角を問いただす。「知らないでいる権利」もあると言う八角から、その裏に隠された事実を聞き、「知ってしまった責任」を果たすことになる。


    子どものとき、父親が会社でどのように働いているかについて、
    考えたこともなかった。何の仕事をしているかについて、詳しく訊ねる事もなかった。
    ただ社会科の宿題で勤務先の会社について、質問したことはあった。
    自分の仕事に対する自負のようなものがあったのか、その後、会社が社員に渡していたダイアリーをくれたのだった。
    きれいな写真が添えられたカレンダーやら、国内にある工場や営業所の描かれた地図。会社の沿革。ビジネスに関するページ。
    厚めのなめらかな紙を使ったそれは、子供心にとてもきれいで、眺めているのは楽しかった。興味は長続きはしなかったけれど。

    「働く」とは、どういうことなんだろう。
    「傍を楽」にすることだと、聞いたことがある。
    人の役にたつこと、誠実に仕事をすること。
    決して会社に目先の利益をもたらすことではないはずだ。
    顧客を裏切り、社員を追いつめ、一部の人間だけが得をするようなやり方がまかり通る企業はいつか綻びが現れると信じたい。

    「客を大事にせん商売は滅びる」(P296)

    顧客が満足し、働く人が少しでも自分の仕事に対して自負を持てるwin-winの関係というのは、誰もが破たんに追い込まれない目指すべき関係なのではと改めて思う。

    「ロズジェネ」シリーズのようにヒーローが出てくるわけではないし、オセロで黒が白にひっくりかえるような鮮やかな解決もない。
    起死回生のカードが切られて解決するようにと願いながら、息を詰めながら読んだ。

    現実の企業では、どうなんだろう。

  • 『空飛ぶタイヤ』や『鉄の骨』と並んで、
    この『七つの会議』においても、

    池井戸潤が描く物語のストーリーには、
    現代社会において多かれ少なかれ組織に縛られて
    働いているかもしれない読者ひとりひとりに対して、

    「本当の意味での正義とは何か?」

    を心の底から訴えて考えさせる一貫性があって、
    それがまた、池井戸潤が描く物語の魅力なんだと私は思います。

    それと、
    『七つの会議』の第三話以降にちょくちょく出てくる
    「ドーナッツ」の話しは、読者にとっては、
    ここでちょっとブレイクができて、これがまた良いです。

  • お金の為でなく人の役に立つ為に仕事をする。万物の真理だと思います。東京建電の面々はその道を外れ迷走します。そこにはただの虚しさしか残りません。下町ロケットのようにスカッとした展開にならず。本筋ではない方のネジ六とコトブキ退社の短編が良かった。大好き度❤️

  • 次から次へと嫌な奴が出てくるな〜
    上がひどいとどんどん捻じ曲げられてしまうのかな

    自分が好きな池井戸作品に必ずある爽快感が全くなかったので…評価低めです

  • 映像化されるということで購入。
    連続ドラマの前に読んだので、ドラマを見たときには、こんな暗い感じ、シリアスに仕上がるんだなという印象でした。小説で読むと、女子社員の章やエンディングなどでは明るい仕上がりだったなと記憶していました。どっちかというと、映画版の方が自分が読んだ印象に近いなと思いました。ただ、映画版は、よりエンターテイメント性が強い印象でした。
    本の話に戻りますが、七つの会議ということもあり、七つの章に分かれていて、短編かなと思いきや、それぞれの話が一つになっていき、読み進めるごとに様々なことがわかっていく様はグイグイ引き込まれ、読みやすく面白かったです。
    メディアでは、リコール問題を表面的にしか報じられません。しかし小説では、フィクションなんだけれどもこうして読むことで、リコールまでに至った経緯、背景を知ることができ、人物の行動や心情を読むと、他人事ではないなと実感させられました。臨場感があり、半沢直樹のような痛快とまではいきませんが、リアリティがあって、深みのある作品でした。

  • 八角さんに共感。そして原島さん村西さんが凄く気の毒・・。
    上に立つって大変だよね。
    八角さんの奥さんがいい人だから出来る選択かも。
    新田と梨田と江木は同情の余地なし。
    名前からか八角さんは六角さんのイメージ。

  • ブクログレビューを拝見して読みたくなり、図書館で7ヶ月待っている間にテレビドラマを先に観ることになった。
    原作の方がシンプルで良い。
    池井戸作品は本当に不思議だ。
    男臭い企業モノなのに、キャリアウーマンならいざ知らず、主婦でも面白くて夢中になり途中でやめられなくなる。

    池井戸さん、是非今後もこの調子でお願いします。変な恋愛要素とか入れないで欲しい(本書では少しだけ入っていたけど)。
    ひたすら男臭いままでも女性の支持者は多いと思います!…って池井戸さん見るわけないか。

  • とても読み応えがあって ラストにもホッとするところがあり
    結果的には安心出来るのだけれど
    そこに至るまでがとにかく辛い。
    常にノルマに追い立てられるような企業人達。ノルマ達成したいがためにやってはいけない一線を越えてしまったり
    私利私欲のために腹黒い登場人物もたくさんいすぎてムカムカしながら読んだ。
    池井戸さんの企業小説を読むといつも弱者が陥れられて
    にっちもさっちもいかなくなるという苦しさを感じずにはいられない。
    とても痛々しいけれどこれが現実だったりもするなと。
    いろいろ考えさせられた。

    • honno-遊民さん
      「いつも弱者が陥られ」るけど、最後は勝つ、読後感は爽快。だから池井戸潤の小説はやめられない(笑)
      「いつも弱者が陥られ」るけど、最後は勝つ、読後感は爽快。だから池井戸潤の小説はやめられない(笑)
      2013/02/09
    • ねこにごはんさん
      >hongoh-遊民さん
      そうですね、池井戸さんのインタビューで聞いたことがあります。ラストの爽快さはずっと追求していきたいことなんだそうで...
      >hongoh-遊民さん
      そうですね、池井戸さんのインタビューで聞いたことがあります。ラストの爽快さはずっと追求していきたいことなんだそうです^^
      2013/02/10
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著者プロフィール

1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。98年『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を、11年『下町ロケット』で第145回直木賞を、’20年に第2回野間出版文化賞を受賞。主な作品に、「半沢直樹」シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』『アルルカンと道化師』)、「下町ロケット」シリーズ(『下町ロケット』『ガウディ計画』『ゴースト』『ヤタガラス』)、『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』『陸王』『アキラとあきら』『民王』『民王 シベリアの陰謀』『不祥事』『花咲舞が黙ってない』『ルーズヴェルト・ゲーム』『シャイロックの子供たち』『ノーサイド・ゲーム』『ハヤブサ消防団』などがある。

「2023年 『新装版 BT’63(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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