三鬼 三島屋変調百物語四之続

著者 :
  • 日本経済新聞出版
4.19
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  • Amazon.co.jp ・本 (572ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532171414

作品紹介・あらすじ

待望の最新作は冬に贈る怪談語り、変わり百物語。
鬼は人から真実を引き出す。人は罪を犯すものだから。不思議な話に心がふるえ、身が浄められる。

江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。訪れる客は、村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、山陰の小藩の元江戸家老、心の時を十四歳で止めた老婆。亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしの者を通して、せつない話、こわい話、悲しい話を語りだす。
「もう、胸を塞ぐものはない」それぞれの客の身の処し方に感じ入る、聞き手のおちかの身にもやがて心ゆれる出来事が……

第一話 迷いの旅籠
第二話 食客ひだる神
第三話 三鬼
第四話 おくらさま

感想・レビュー・書評

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  • 不可思議な体験を語ってもらう三島屋の代わり百物語。三島屋変調百物語の4巻目です。だいぶ後追いで入り、新刊本の横目で見ながら、4巻目。好きなシリーズなので、じっくりというのと、ちょっと前なので、いつでも借りられるかという油断で、やっとです。

    「迷いの旅籠」「食客ひだる神」「三鬼」「おくらさま」の4編。安定してきた面子に、三島屋の次男富次郎、古本屋瓢箪古堂の勘一が入ってくる。おちかさんの進め方も安定してきたところですが、やはりそこにちょっと変わった話が入り、1巻目を思い出させるようなところがありました。

    話としては、「迷いの旅籠」が好みでした。領主の不幸のため、豊作祈願の祭りを自粛することになった村。その代替案を行おうとしたところで、旅の絵師による企みに巻き込まれていく。亡くなった人への想いと、それを乗り越えていく展開がよいのですが、それだけでは終わらせないところが、なおよいです。

    繁盛する弁当屋が、夏の期間休むことが気になったことから話が進む「食客ひだる神」は、明るい感じで進むのですが、他3編は怖めの話です。「三鬼」はちょっと嫌な怖さですが、それでも、登場する武士二人の話など、少し救いを入れてあるのが、よいです。「おしらさま」は、怪異部分は、けっこう嫌な話なところを新面子でそうでもなくしていると思うのですが、逆に新面子やおちかの心象のための話でもあるかもと思ったり。最後のまとめ方もよかったです。

    どの話も語る人語られる人たちの想いが汲み取られることで、全てが幸せとはいえないかもしれないけど、落ち着くところに落ち着いたのでしょう。一筋縄ではいかない語りですが、救いがあるのが、やはり好きなシリーズである由縁です。

  • 三島屋変調百物語の4冊目。
    中編が4本入った充実した内容です。

    神田の人気ある袋物屋「三島屋」では、変わり百物語も評判となっていました。
    不思議な経験を語りたい人を一度に一人ずつ迎え、姪のおちかが一人で話を聞き、おちかが叔父に一通り話した後は、「話して話し捨て、聞いて聞き捨て」というお約束。

    第一話 迷いの旅籠
    名主と共に村から出てきた百姓の女の子が語ったのは、幽霊を見た話。
    先祖を迎える行灯祭りが禁じられてしまったため、村外れの空き家を行灯に見立てて飾る行事が行われました。
    ところがそこへ、亡くなった人が姿を見せてしかも留まり‥?

    第二話 食客ひだる神
    箱根の七湯巡りをした夫婦に、ひだる神が取り憑いた?
    商売は繁盛するが‥
    気のいい夫婦はついに?
    微笑ましい成り行き。

    第三話 三鬼
    お武家のしかもとある藩の江戸家老という大人の男性の訪問。
    若い頃に左遷されて北部の寒村へ赴任した。
    閑職のようだが、逃散もあったり獣害の危険もある土地で、腕が立つ侍がいる必要があったのだ‥
    貧しい郷の悲惨な現実を思わせます。

    第四話 おくらさま
    島田髷を結い、娘のような振り袖を着た老女が登場。
    生家では「おくらさま」に毎日捧げ物をしていたと。
    だがそのために、犠牲になり‥?
    姿の消えた老女が何者だったか、探し始めるおちか達。

    おちかの身の上にも変化が起きるかもしれない、という思わぬ出会いがあります。
    素直な若い娘には辛すぎる過去を抱えたおちか。
    作品も中編にしておくにはもったいないような重みがありますが、これぐらい世間の広さ深さを感じることでやっと、おちかも少しは気持ちを立て直せるのでしょうか。
    幸せを祈ります。

  • だるま屋さんの話が面白かったです。

    空弁や駅弁などを思い浮かべながら読んでみると、より一層物語が楽しめますよ(笑)

  • 今日も三島屋に客が訪れてくる。
    だが、買い物のためではない。

    黒白の間を訪ねてくる。
    だが、主人の囲碁の仲間ではない。

    言うに言われぬ話を抱えてやってくる。
    語る相手は、主人の姪っ子おちか。

    語って語り捨て。聞いて聞き捨て。

    それだけが約定である。

    「人は語りたがる。己の話を。
     だがそれは時に、その人生の一端に染みついて離れぬ何かを他者に見せることにほかならぬ。多くの耳に触れ回りたくはない。しかし一度は口に出して吐き出してしまわねば。その何かを墓の下に持って行くのはどうにも辛い。その何かが、いざとなったら墓石の下に収まらないかもしれぬという不安が胸を塞ぐ。
     だから、三島屋の変わり百物語は人を集める」(序 P6)

    「あの世から戻ってきた死人は、この旅籠の外に出られないのだ。生きていたときと同じようにふるまうことはできないのだ。
     それが、死ぬということなのだ」(第一話 迷いの旅籠 P140)

    「人の心は面白いもので、どんな贅沢よりも素朴な温もりが染みることもある」(第二話 食客ひだる神 P257)

    「弱い者いじめは世の常だ。上士なら平士へ。金持ちなら貧乏人へ。男なら女へ。大人なら子供へ。
     やるせなく煮えたぎるばかりの怒りや、身を腐らせる倦怠をいっとき忘れるために、人は弱い者を打ち、いたぶり、嘲る。
     その瞬間に、人でなしに堕ちるのに」(第三話 三鬼 P320)

    「鬼は、人から真実を引き出す」(第三話 三鬼 P413)

    「この世に、あのときの自分よりも恐ろしいものがいるだろうか。あのような無念よりも、悔しい想いがあるだろうか。あれは自分一人のことではなく、人という生きものは、誰でもああいう想いに囚われてしまう機会があるのか。それが煩悩であり、業というものか」(第四話 おくらさま P440)


    人は、宿命に翻弄される。
    もうだめだと、絶望の淵に立たされる。

    そんな時。

    誰かに話をきいてもらう。
    頷いてくれる。

    それだけでいいのだ。

    人生は、幸せになるためにあるのだから。

  • と言う事で先にあやかし草子を読んでしまい、慌てて三鬼を読んだ。
    なるほど、青野先生はこんな唐突に去っていったのね……
    富次郎登場の経緯もわかりました。

    お話しは「食客ひだる神」がとても面白くて心が温まる話だった。神様をダイエットさせるとは、さすが宮部さん!
    このだるま屋の夫婦がおおらかで欲が無く本当に気持ちがいい。そして出てくるお弁当がいちいち美味しそうで食べたくなって困る。そりゃ神様も太る訳だ(笑)

    「迷いの旅籠」はよくある話かなぁと思ったが、亡者と旅籠に現れた人影とは違うという事が気になる。そして迷う事なくあちらに行ってしまった貫太郎はどうなったんだろうか?
    「三鬼」は一番悲しい話だった。貧しさ故に鬼を呼ばざるを得ない境遇。そしてそれを変えようともしない上役。知ろうともしない殿様。胸が塞がれる。
    「おくらさま」恐ろしい。守り神と崇めていたと思ったモノがむしろ呪いであったと。そもそもの原因が中途半端にかけた温情がむしろ残酷な仕打ちだった事にあるとは、人生って難しい。色々考えさせられた。

  • 三島屋百物語の本も4巻目。
    シリーズ最初から読んでいるけどやっぱり新作も面白かった
    毎度何話か入ってるのだけど一番心に残るのは「食客ひだる神」
    以前のこの三島屋シリーズの中の一番好きな作品
    「あんじゅう(暗獣)」で号泣したのを思い出すような
    なんか笑えるのにラストすごく切なかった…
    ああいう座敷わらし的なものに私は弱いのかもしれない。
    今回のはおちかちゃんの片思いが終了…(というか好きな人がお国に帰る&妻子をもらう)したけど
    また新たに登場人物が出てきたのでそれも楽しみ
    従兄弟のお兄さんも貸本屋のあの人も。
    また続編が気になる

  • 安定して面白いけれども地面が揺らぐようなぞーっとする恐ろしさを感じることもあるシリーズ。起こったことは本当に怖いけれど語り手がいじらしい子供だったりしてその可愛さで恐ろしさとのバランスを取ったり。怖い話、怖い話、怖くて不思議な話、怖くて不思議だけれど起こったのはしばらく前という話、などなど。心底怖くなってきたかも、というようなタイミングで、ホッと一息ついて和めるような柔らかく調子のいい登場人物が新たに出てきたりして、とても満足して読了。続きが楽しみです。

  • 565ページ
    1800円
    9月15日〜9月20日

    黒白の間に来た13歳のおつぎは、自分の村で起きた不思議な旅籠について語る。あの絵師が来なければ、あんなことにはならなかったのに…と。だるま屋の主人は、夏しか商いをしない理由を語る。ひだる神と共に商いを大きくしてきたことを。お武家さまが語ったのは、ある村に現れる鬼のこと。そして、三島屋には次男の 富次郎が戻り、深考塾の若先生・青野利一郎が故郷に帰ることになった。貸本屋の瓢箪古堂の勘一と出会い、お近のご縁がつながる。

    どの話もおもしろくて、人の世は何とも不思議なものだと感じさせられた。死者を蘇らせるための旅籠を作った絵師の話。ひだる神がお店を繁盛させすぎて太ってしまい、家が傾く話。洞ケ森村での悲しい鬼の話。生き霊のお梅さんが語る 美仙屋のおくらさまの話。三島屋には富次郎も帰ってきて、おちかの心も少しずつ晴れてきたように感じる。今後はおちかと勘一の行く末も気になるところ。

  • ★今回も逸品揃い★生と死をつなぐ曖昧さが根底に流れる。「迷いの旅籠」では死者をむやみに呼び返しても半端な哀しみだけが戻ってくる様子を描き、「おくらさま」では拾われた恩義と呪いとがないまぜになった思いを美しかった老女から伝える。

    「三鬼」では貧しい集落で見込みのない病人を間引かざるを得ない苦しみを書くとともに、藩の苦境を吐き出して自らのケリをつける武士が登場。「食客ひだる神」でも、料理人がおちかに秘密を打ち明け江戸を去る。人は誰かに自分だけの話を伝えたい。何かのきっかけとするために。

  • 以前おそろし三島屋変調百物語事始を読んで大好きな本でした。
    なぜか四之続を読んでしまいましたが、やっぱりめちゃくちゃ面白いです。
    2・3も買ってこようと思います。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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