森へ行きましょう

著者 :
  • 日本経済新聞出版
3.65
  • (42)
  • (90)
  • (83)
  • (15)
  • (4)
本棚登録 : 860
感想 : 120
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532171445

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まだ若くて、
    ささいな失敗でも
    人生の汚点!・・・くらいに感じていた頃は
    何か上手くいかないことがあると、
    『あっちの方を選んでいたら・・・』と
    後悔したり、
    『あの学校に合格していたら・・・』
    『あの人と同じクラスじゃなかったら・・・』と
    もしかしたらあったかもしれない人生に思い馳せてため息をつくこともあった。

    留津とルツ。
    同じ日におなじ『るつ』として生まれた二人は、
    自分だったかもしれないもうひとりの自分だ。
    だけど人生は全てが小さな選択や決断やささいな偶然に満ちていて、
    選ばなかった方の自分は
    流都、るつ、瑠都、る津・・・と無限に出現するのだ。
    たくさんの『るつ』たちと同じ年に生まれた私は
    今ならわかる。
    たとえどんな人生を選んでいたとしても、
    きっと人は日々小さなことにクヨクヨし落ち込み
    たまに他人をうらやんだりもしながら、
    それでもオリジナルな自分をせいいっぱい愛おしく思いながら生きて行くしかないのだ。

    『るつ』たちと同じように、森の中で
    迷ったり悩んだりもしながら
    それでも思い通りにならない人生の面白さを
    これからも味わい尽くすぞと
    心密かに決意するのでした。

  • 1966年に生まれた留津とルツ、2027年に60才になるまで、パラレルワールドに生きる二人の人生を交互に描き出す実験的な長編。ときおり流津、瑠通、琉都、るつ、など、二人以外のパラレルの存在もチラリと登場するけど、なんというかこれは、あくまでSFではないので、パラレルワールドのルールについては深く考えずに読むほうが良いかもしれない。

    かといって、よくあるような人生の岐路で選んだ道が違ったところから二人の人生が分かれていく・・・というのともまた違う。留津は若くして結婚し子供を持つが嫁姑問題や夫との不和に悩み、ルツは40代後半まで独身で不倫をしたりしつつ晩婚、子なし。ある意味対称的な人生と言えるけれど「もしあのときああしていれば」という明確な岐路のタイミングがあるわけではなく、両親の名前や、登場する友人、恋人などは結局かぶっていくけれど、留津とルツは性格も微妙に違うし、ただ二人の人生の「経路」は全然別のルートを辿るだけ、でも終着点はなんとなく近かったりもして、結局「人生いろいろ」としか言いようがないような。

    二人の女性の異なった人生を味わう、という部分ではあえてパラレルワールドである必要はなかったんじゃないかという気もしつつ、もしかして自分にも違う人生があったかもしれない、と読者に思わせるためにはやっぱりパラレル設定が必要だったような気もする。個人的にはシンプルに面白かった、というか、私自身がそこそこの年齢になっているため、年齢を重ねたなりにどちらのルツ(留津)にも共感できる部分が多くあるから、友達の愚痴を聞くような感覚で読めたのが良かった。

    自分自身の人生について、もっと別の道を選んでいたら・・・と後悔することは誰しもあると思うけれど、結局どの道を選んでも、この道だから楽、この道が正解、ということはなくて、だからタイトルは「森」なんだなあ、と腑に落ちる。そもそも人生には最初から道などなくて、手探りで暗がりをすすんでゆくだけということでしょう。

  • ルツと留津、生年月日が同じで、同じ時代を生きている。
    成人して方や研究に没頭する生活、不毛な不倫をしたりもする。
    方や子供ももうけるがこちらも幸せとはいいがたい結婚生活。
    二人の人生は決して交わることはないのだけれど、二人を取り巻く人々が二人の間を行ったり来たりする。
    あ~ややこしい、はては違う瑠津なんてのも出てきて、あ~むつかしい。

  • 高度経済成長時代に生まれたルツと留津。
    旧約聖書に登場する女性の名前を与えられたふたりの少女の成長を描いている。
    彼女たちの生まれた境遇は似通っているようで異なり、パラレルワールド、という言葉が浮かぶ。

    成長するに従い、ふたりの「るつ」の人生はまったく異なった軌跡を描く。
    友人知人として同じ名前の人物が登場するが、ルツにとって大切な友人が留津にとってはまったく違ったり、現れる人物とふたりの関係性がまるで違うのが面白い。

    ふたりの人生(時折、アクセントのようにそれ以外の「るつ」の人生も挟み込まれる)は決してドラマティックなものではなく、それでもそれなりに山もあれば谷もあり、悩みもあれば喜びもあり、一見幸福なようで不幸であったりもする。

    当たり前のことだけれど、それが「生きている」ことなんだな、と思う。どのような人生であっても、人はとにかく生きていかなくてはいけない。

    無数の選択肢があり、無数の人生があり、無数の「もしかしたら今とは違う自分」がいるけれど、そのどれがいいとか悪いとかではなく、ただ「生きていく」。
    尊かろうが、卑しかろうが、誰もが意識せずにそうやって日々を過ごしている。
    その人生に優劣はつけようがなく、判じることは誰もできない。ただ一回限りの、でもとりたてて特別でも何でもないもの、それが、生きる、ということなのかもしれない。

    そんなことをふと思った。

  • 題名から、自然に関係するものかと手にしたが、全然違った。1967年生まれの私としては同世代の話が交互に進行しそれなりに共感はいかないものの、すんなりと話しにも入っていけた。
    読破日の今日6/2それまで2人の話しかと思っていたが、違う表記のるつさんが6人いることに気がついてしまう。途中でも入り組んだ世界が開けていたのか?
    読書は楽しい。

  • 何かがひとつ違っていれば、また人生も変化していく。

    パラレルワールドの世界を留津とルツ、他のるつ達を通して感じる。

    本当に些細な選択や、自分の意思とは関係ないことでも、自分の人生はいくらでも変化していた可能性があるんだろうな。

    そしてこれからも日々変わっていく。
    そう思うと人生ってなんか凄い。

  • ドロドロした話。随所にいい言葉があって面白い展開もあるけど少し間延びした感じ。

  • もしかしたら、もう1人の自分がいるかもしれないパラレルワールド。
    主人公とともに、自分もその時代、その年齢を生きている感覚で読みました。
    読んでいるこちらも、森に迷いこんでしまう感覚が、心地よい混乱。
    どの「るつ」も「としろう」とつながっているように、私も、違う人生を選んでも、結局行き着くところは、ここなんだろうな、と思いました。

  • 1966年に生まれたルツと留津、ルツは公立の小中を出て理系の大学へ行きある研究所に就職する。留津は、私立の女子中高を出て文系の大学へ行く。裕福な家庭の俊郎と結婚し専業主婦になる。二人の「るつ」が平行して描かれる。周囲の登場人物もシンクロするが、関わりや性格は微妙に違う。この二人を軸に、パラリルワールドは二人が六十歳になる2027年まで続く。

    後半、もう三人の「るつ」も現れちょっと混乱した。とても不思議な小説だ。

  • 留津とルツという女性のそれぞれの人生が比較するように書かれていて、
    これは、一人の女性のパラレルワールド・・
    この本を借りたときには、登場人物が森へ行くのかな‥と思っていたのですが、
    一人の女性の生まれてから60歳までの人生を(男女、特に夫婦がテーマかな?)
    淡々と読み進めていくうちに人生は、森を歩くようなもの・・という言葉で、やっと気が付きました。
    森に入っていくときは、1本道だけど、目の前には幾本の道が伸びていて、どこへ向かって歩いていくか、その道がどうだったかなんて、その時はわからなくて、
    歩いて行ってみて、振り返り、あれこれと考えあぐねるもの。
    小説は、ほとんどが40代半ばまでにページが割かれていて、そのうちに第3、第4のルツが登場してくるので、多少整理が必要になるもの・・
    なんといいますが、人生50歳を前にすると、日常に起きることなんて大してなくて、特に男女の色恋なんて、到底、エネルギーも失われていく年代で(大方・・)
    少しずつ、森の出口に向かって(人生の終結)身辺を振り返って、少しあがいて見せて・・。
    この小説は、60歳で終わっているけれど、今や 人生100年時代・・健康寿命が80歳としても、
    このあと20年、健康でいられるという保険がないまま、ルツは、今後どうやって過ごしていくのか・・しら。

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×