国家の崩壊: 新リベラル帝国主義と世界秩序

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532353155

作品紹介・あらすじ

EUが外交と安全保障政策の基盤にすえる新しいグローバル戦略-「新リベラル帝国主義」とは、どんな思想で、世界の国々をどのように色分けするものなのか。日本や中国、北朝鮮をどう捉えているのか。武力衝突やテロの温床となっているアジアやアフリカの「プレ近代国家」に対して、どのような行動をとろうとするのか。単独覇権主義をかかげる超大国アメリカと、どのように向き合うのか…。この思想の提唱者で、英ブレア前首相の外交ブレーンとして活躍した著者が、21世紀の世界秩序を構築するための現実的な方策を、数多くの史実と鋭い政治的洞察を織り交ぜながら説く。世界18カ国で出版され、英国で政治に関する優れた著作に与えられる「オーウェル賞」を受賞した話題の書が、日本の読者向けに全面改稿されて、待望の邦訳。

感想・レビュー・書評

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  • ブレア政権で外交ブレーンとして辣腕を振るった著者。かなり難解な本であり,ローマ帝国以降の世界史や経済学,近代外交などあらゆる知識が総動員されている。

    国家の状態を3種類に分類して議論が始まる。スーダンやソマリア,アフガニスタンなどの実質的に国家として統制されていない状態の国をプレ近代国家とし,ロシアや中国,インドなどを近代国家,そしてアメリカ,日本を初めとする西側先進諸国のポスト近代国家である。ポスト近代国家は,その存在を領土拡大や国益を目的としている段階である近代国家の次の段階として,現代の平和の均衡状態を維持するために世界平和への責任を積極的に担う国家群のことである。

    そして,冷戦の終結に伴ない,核戦争の脅威が退いたと同時に,核兵器が近代国家へと拡散することが,国際社会における最大の脅威となっている。つまり,プレ近代国家は,世界の安全と平和に対しての責任を共有しておらず,場合によっては自らの信念を守るためには命まで犠牲にする人々さえもいる。現代において,国の正規軍同士が戦闘を行うような戦争が起きる可能性は極めて小さい。むしろ現代の軍事的な脅威は,こうしたプレ近代国家の一部狂信的な集団の手に核兵器や生物化学兵器が渡り,テロによって世界の安全が脅かされることである。

    現代の世界において,国益を最大化することそのものを目的として外交を行うことは出来ないという。実際,国益にも増して外交戦略の目的や動機となり得るのは,国としてのアイデンティティであるという。つまり,自分の国は,どういう国なのか,どういう国でありたいのか,さらには世界がどういう世界であってほしいのかということを選択するための手段が外交なのである。既に,領土拡大や支配を目的とした外交政策は行われることはない時代であるが故に,武力行使つまり戦争を選択するにおいても,それはアイデンティティこそが最も重要な動機となる。しかしながら,それは政治家の個人的な信条などではなく,当然その国の国民の意思であるのである。第二次世界大戦終了と共に,そういう時代へと移行しているのである。

    秩序ある世界に責任をあまり持たない不安定な小規模国家へ権力が再分配される。

  • 日本はアジアに対して大きな影響力を持っている。アメリカと比べた場合、軍事的に弱体なだけ。
    かつて国際秩序は覇権もしくは均衡の上に成り立っていた。
    新興国は苦労して手に入れた独立についての警戒心が強いから内政干渉を受け入れない。
    アメリカの安全保障のもくてきはテロとの戦争と大量破壊兵器拡散防止。
    重要なのはアメリカが持つ戦争の経験。アメリカのみの国益というよるも人類全体の大義に従い、そのアイデンティティを確固たるものにした戦争経験と重ねて持つようになった革命の国アメリカという理念がアメリカの外交政策を他国と違うものにしている。

  • 『新しい中世』のモトになった本。細かいところで気になるのところがたくさんある。
    多分、『新しい中世』を読んだほうが三つの圏域についてはよく分かると思う。

  • 「友好も敵対もない、国益だけが永遠だ」《赤松正雄の読書録ブログ》

     今回の尖閣諸島を巡る日中の衝突によって、中国が21世紀の超軍事国家として世界に台頭しようとしているとの警戒感が漂ってきている。ロバート・クーパー『国家の崩壊』はそのあたりの問題を考える上で大変に参考になる。筑波大の古田博司教授から勧められたが、一読して虜になってしまった。

     この書は世界を三つのカテゴリーに分類して考える独自の世界観が最大の特徴だ。国家としての発展度・成熟度に基づいて国家以前の混乱状態にあるプレ近代、国民国家で構成される近代、さらにはその進歩形であるポスト近代にグループ分けされる。これを北東アジアにあてはめると、北朝鮮はプレ近代、中国、韓国は近代、日本はポスト近代と言うふうに分けられる。大事なのは、全ての国家がその属する枠組みを越えて、ポスト近代的関係を構築していくことが世界の望ましい姿だとする考え方だ。

     いま日中関係に当てはめれば中国をポスト近代に引き上げる努力をする事が大事で、日本がその努力を怠って軍事的対立の観点から角突き合わせる事態になれば、近代に逆戻りすることになるといえよう。日中関係をポスト近代的なものとして長期的に築いていくには「中国が法に従う完全にオープンな社会になることが必須条件である」が、前途は多難だ。

     「真摯な軍人たちはみな軍事史を研究するが、外交史については、学者による学者向けのものしか研究書は見つからない」ので、この書は珍しい。「イギリスは永遠の友好国も敵対国も持たず、ただ国益のみが永遠である」(元英首相・パーマストン)と言ったような示唆に富む表現や引用が満ちていて極めて刺激に富む。なにかと外交案件で騒がしいいま、腰を落として読むべき本だと思う。

  • 著者は英国外交官。

  • ブレア政権で外交ブレーンとして辣腕を振るった著者。かなり難解な本であり,ローマ帝国以降の世界史や経済学,近代外交などあらゆる知識が総動員されている。<br /><br />国家の状態を3種類に分類して議論が始まる。スーダンやソマリア,アフガニスタンなどの実質的に国家として統制されていない状態の国をプレ近代国家とし,ロシアや中国,インドなどを近代国家,そしてアメリカ,日本を初めとする西側先進諸国のポスト近代国家である。ポスト近代国家は,その存在を領土拡大や国益を目的としている段階である近代国家の次の段階として,現代の平和の均衡状態を維持するために世界平和への責任を積極的に担う国家群のことである。<br /><br />そして,冷戦の終結に伴ない,核戦争の脅威が退いたと同時に,核兵器が近代国家へと拡散することが,国際社会における最大の脅威となっている。つまり,プレ近代国家は,世界の安全と平和に対しての責任を共有しておらず,場合によっては自らの信念を守るためには命まで犠牲にする人々さえもいる。現代において,国の正規軍同士が戦闘を行うような戦争が起きる可能性は極めて小さい。むしろ現代の軍事的な脅威は,こうしたプレ近代国家の一部狂信的な集団の手に核兵器や生物化学兵器が渡り,テロによって世界の安全が脅かされることである。<br /><br />現代の世界において,国益を最大化することそのものを目的として外交を行うことは出来ないという。実際,国益にも増して外交戦略の目的や動機となり得るのは,国としてのアイデンティティであるという。つまり,自分の国は,どういう国なのか,どういう国でありたいのか,さらには世界がどういう世界であってほしいのかということを選択するための手段が外交なのである。既に,領土拡大や支配を目的とした外交政策は行われることはない時代であるが故に,武力行使つまり戦争を選択するにおいても,それはアイデンティティこそが最も重要な動機となる。しかしながら,それは政治家の個人的な信条などではなく,当然その国の国民の意思であるのである。第二次世界大戦終了と共に,そういう時代へと移行しているのである。

  • EUが外交と安全保障政策の基盤にすえる新しいグローバル戦略―「新リベラル帝国主義」とは、どんな思想で、世界の国々をどのように色分けするものなのか。日本や中国、北朝鮮をどう捉えているのか。武力衝突やテロの温床となっているアジアやアフリカの「プレ近代国家」に対して、どのような行動をとろうとするのか。単独覇権主義をかかげる超大国アメリカと、どのように向き合うのか…。この思想の提唱者で、英ブレア前首相の外交ブレーンとして活躍した著者が、21世紀の世界秩序を構築するための現実的な方策を、数多くの史実と鋭い政治的洞察を織り交ぜながら説く。世界18カ国で出版され、英国で政治に関する優れた著作に与えられる「オーウェル賞」を受賞した話題の書が、日本の読者向けに全面改稿されて、待望の邦訳。

  • 良くも悪くもヨーロッパ人の考え方。

  • (2008/9/13読了)国家を「プレ近代」「近代」「ポスト近代」の3つのカテゴリに分け、21世紀の国際関係は国民国家の勢力均衡システムを超えるものになるべきだ(なるだろう?)と論じる。そのモデルはとりあえずEUなわけだが、日本が「ポスト近代国家」扱いしてもらえてることが、光栄ではあるが、いまいちピンと来ない…

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