終わりなき危機君はグローバリゼーションの真実を見たか

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532354077

作品紹介・あらすじ

前例のない危機の連鎖は一体なにを意味しているのか。近代の終焉とグローバル資本帝国の興亡を一体として捉え、21世紀という未曾有の時代を鮮やかに読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 内容はおもしろい。経済学の数式がちんぷんかんぷんでも言ってることはわかる。

  • 経済の専門家による、歴史的に見た資本主義論。歴史的分析により、今の世界がどのような位置にあるかを論理的に述べている。完全には理解できたわけではないが、極めて学術的に論述されており説得力がある。ウォーラーステインの世界システム論に準拠していると思われる。
    「ローマ帝国の衰退が中産階級の疲弊に原因があったように、米国においても例外ではなかった」p25
    「70年代から、どの先進国も実物投資に対する利潤率の趨勢的な低下から脱却しようと「電子・金融空間」に競って入り、バブル依存症候群に陥ったのである」p31
    「(近代資本主義の)限界とは、資本の実物投資の利潤率が低下し、資本の拡大再生産ができなくなってしまったことである」p34
    「製造業に比べて非製造業の成長が鈍いのは、98年以降、海外売上比率が上昇している製造業にとって、国内での販管費(広告費)を増やすことは意味がなくなってきたからである」p61
    「近代資本主義にとって、交易条件の数世紀にわたる持続的な改善と海外市場の拡大こそが、資本蓄積の必要十分条件である」p63
    「日本では1997年10~12月に起きた景気と所得の遮断が、米国では日本に9年遅れて起きたことになる」p69
    「景気回復に生活水準の改善を期待すること自体、もはや幻想なのである」p72
    「90年代半ば以降になると、原油に象徴される資源価格が高騰し、交易条件の悪化を通じて先進国の低利潤率化に拍車がかかった。そして株主重視の経営がもてはやされ、一定の利益率の確保が要求されるようになると、人件費が変動費化するようになった。所得が恒常的に増えなくなれば、消費支出が伸びなくなるのは当然である」p72
    「(リーマン・ショックで米「金融帝国」があっけなく崩壊した理由)「暴走はなぜ止められなかったのか」という問いに対する回答は、もともと「暴走を止める意志はなかった」であり、米「金融帝国」は必要なマネーを十二分につくったから、その役目を終えたから、自己崩壊したのである」p87
    「米「金融帝国」の利益の源泉は、米家計の住宅価格の値上がりによる資産価値増加に支えられた過剰消費にあり、日本の輸出企業もその恩恵に与った。だから、米「金融帝国」が崩壊すると、2008年10月から09年3月の約半年間で、日本の大企業・製造業の資本の部が14.8兆円も減少してしまったのである」p87
    「先進国の内側では、1974年に①一人あたり粗鋼消費量がピークアウトし、ほぼ前後して②少子化が始まった。外側の世界では、73年に③石油危機が起き、太平洋、大西洋を横断するのに非常にコストがかかるようになった。二年後、④ベトナム戦争が終わって、西側世界からみればこれ以上外へ「膨張」することができなくなった。そして、①~④を集約するかたちで、⑤先進国の長期金利が歴史的な水準でピークをつけて、「利子率革命」が起きたのである。それを克服する手段として「電子・金融空間」がつくられ、「バブルの物語」が始まった。こうした事象は偶然が重なったのではない。①と②が生じたのは先進国がピークを迎えたからであり、外側から見れば③と④を仕掛けることで勝算があると判断したのである」p108
    「近代=膨張がすでに終わっているから、近代を象徴する自動車の販売台数はバブル期でないと増えない」p111
    「若者は過去の仕組みにおける過去の成功体験に縛られないが、成功した大人ほど過去にこだわる」p112
    「企業が利潤率を高めようとグローバリゼーションを一段と推し進めると、先進国では人件費の削減圧力が強まり、結果としてディスインフレは持続可能な状態としての均衡を維持できなくなる。企業が利潤極大化を目指してUPを高めようとすれば、家計の購買力が低下し、望むと望まないにかかわらず、結果としてデフレになるのである」p154
    「エンゲル係数の高い新興国の中間層にとっては、食料品やエネルギー価格の高騰は耐久消費財の購入を抑制させてしまう」p178
    「金利が低いのは、その社会がそれだけ巨大な資本ストックを蓄積したからであり、その経済がシステムに最もうまく適応した証である」p195
    「新興国の生活水準が先進国と肩を並べるのは20年後であり、先進国と途上国の内外価格差が2対1に縮まるのは13年後である。アフリカのグローバリゼーションを考慮すると、「価格革命」が収束するのは30年から40年後となるであろう」p217
    「世界総人口のうち豊かな生活を享受している人口の割合は、1870年以降、一世紀にわたって15%前後が上限となっている」p314
    「このまま行ったら『日本』はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。その代わりに、無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである(三島由紀夫)」p352

  • 【要約】


    【ノート】
    ・本書はなぜ歴史における危機が起きているのかを考察したもの。
    アドルノとか言ってる。

  • 著者の論旨には共感する部分が多いが本とは論部的要素が強く読み辛かったです。もう少し本として読ませる記述の仕方にしてくれたら敷居が低くなると思いました。

  • 了。

  • 行き詰る資本主義の現状を的確に説いている(と思う)。
    70年代に実物世界の成長が行き詰まり、その後金融空間の創造・拡大によって経済成長は維持されるも、リーマンショックでそれは破たん。今や成長の糧となるフロンティアの無い時代に突入した、というのが大まかな主張の流れ。
    特に資源価格が与える影響を強く見ており、経済成長すること=資源投入を増やすこと→資源価格が高騰し変動コストが増える→労働分配率を下げないと利潤が保てない→賃金は成長しても上がらない、というシークエンスが明らかに存在する。

    無理やりフロンティアを作り出そうという政策が今も少なからずあるが、本質的に今までの延長戦でフロンティアを見出すことは大きな誤りで、時代の過渡期でありこの先は現資本主義に拠らない世界が築かれていくべきだろう。

    今の閉塞感、過渡期感を的確に示していると思う。

  • 悲観的な評論が多いので避けていたが、失われた20年の背後で起きている大きな変化を説明とのことで手に取った。データを積上げた破綻のない説明はよいが、処方箋無いまま単に成長を否定し、人の気力を削ぐような内容は残念。例え表現が独特。

    利子率革命(実物投資の利潤率が低下し、資本の拡大再生産ができなくなる)という概念で中世以降の経済史を紐解く。陸の時代(スペイン)→海(空)の時代(英米)→電子・金融空間による延命(日米)と空間を広げてきたが、空間拡大の限界に達して各種危機が起こったとする説明。21世紀のグローバリゼーションは陸の時代に戻る大転換であり、空間が広がらないまま先進国の賃金デフレと新興国の資源・食糧インフレが進行し価格収斂が起こる、そして利潤極大化と成長を至上命題とする資本主義が袋小路に陥るとのこと。

    説明が一貫しており、社会・哲学にも踏み込んで説明するので経済史としてナルホドと思うことはある。ただ頭がいいのだと思うが、長い時間軸の考察で目先のことを説明しようとするので、自身も後書きに書いているが偏執的に映ることがあるかも。

    資本・民主主義とそれ以外の地域とは不等価交換、先進国の近代化にとって途上国の低開発化は大前提と始まり、先進国の近代化はメジャーが支配していたただ同然の石油のお陰であるが、陸からの反撃である石油危機の発生以降はGDP成長が鈍化。これは空間拡大の限界と交易条件の悪化が主因で、さらに陸の帝国への所得移転が起きたためGDP増と賃金増が乖離したといった流れは直感的に理解できる。

    要するに世界のフラット化とエネルギー安全保障の重要性を難しく言っているのだと思う。日本の不動産バブルによるデフレは2002年までで、それ以降のデフレは交易条件の悪化(石油価格、電機競争力)が原因。交易条件の悪化で製造業自体が割に合わなくなってきている上、90年代以降は製造業と非製造業の連動性が低下し、製造業が利益が出ても国内で販管費・人件費を使わなくなってきているというのは身近で悩ましい指摘。

    中産階級と共に歩んできた近代国家だが、国家・企業が資本家寄りになり、労働分配率の低下で一人当たりGDPはもはや生活水準を表さなくなりつつある。更なる近代化はむしろ中間層を衰退させるだけ。21世紀のグローバル化は16世紀のグローバル化と相似とまではよいが、宗教改革やプロテスタンティズムを引き出し、現代の「市場」をローマ教皇に例えてこれに反旗を翻す新興国とくる。眉をひそめたくなる表現も多いが、ここ数十年に起きていることの一貫した状況説明にはなっている。

    「バブルの循環」が「経済循環」を取って代わったというのはそうだと思うが、21世紀に入って米国でも貯蓄増加で魅力的な実物投資先がなくなってきているという指摘が本当だとしたらそこが最大の問題かもしれない。

    同じことを繰り返しているのだとは思うが、思考が深く、データを使って難しく説明を積み上げるので要約できず、いつになくレビューが長くなってしまった。

  • 納得出来る記述は多々あったが、処方箋についてはそもそも書く予定すらない、というスタンスかな。
    難解というか、読み難いが現状分析と大きな流れを掴むには良い本かと。

  • 毎度これ以上はないほど悲観的な未来を語ってくれる水野和夫。しかしいつも読後感はどこか明るいのは、「唯一助かる狭くて細い道」を指し示すことをしないからだろう。気が狂ったような失敗への猛進をすることが馬鹿らしくなることが本書を初めとする水野本の功徳である。

  • 経済の変遷の分析に超長期の視座を与えるという点では前作に続き優れものだが、本としては読みにくい。例えば「である」が多すぎてリズムが悪いなど、すっと読めない。

    といいつつ、論文集のようなものなので、読みやすさで評価されるべきものではないのだろうなとも思う。

    とかく目先の泡のような情報に右往左往する時代なので、火の鳥のように洋の東西を数百年単位で飛び回るのは戯曲を見ているようで面白くもある。

    あとがきに「シェイクスピアは経済学者だった」とあるが、筆者も金融業界を離れ大学人となり自由度が増しているのだろうか、という感じの内容になっていた。

    火の鳥として世界を眺める哲人は世の中に必要だと思うが、殆どの人は時代の矛盾を大きな鼻に詰め込んで猿田彦のように地上を這うように生きなくてはならない。さて。

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著者プロフィール

1953年愛媛県生まれ。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。現在、法政大学法学部教授。専門は、現代日本経済論。著書に『正義の政治経済学』古川元久との共著(朝日新書 2021)、『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書 2017)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書 2014)他

「2021年 『談 no.121』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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