効率と公平を問う

著者 :
  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535556799

作品紹介・あらすじ

効率性と公平性はしばしば主役と敵役を入れ替わり、せめぎあう。幕によっては、いずれかが脇役に徹することもある。この二人の役者を経済学という脚本家がどのように立ち振る舞わせているか。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、一般にトレードオフと言われている効率性と公平性についての経済学的知見を提示したものである。

     第一章では経済学から見た効率性と公平性についての考察について書かれており、第二章以降ではそれらに関連した最近の研究(例えば幸福について)や、効率性と公平性を伴う最近の話題(例えば再分配の問題や教育に関することについて)の解釈を提示している。

     本書は以下の点で有用である。
     まず、効率性と公平性という昔から重要な論点であるこの分野について真っ向から説明を試みた点である。今までこの分野に関してダイレクトに説明を試みた本は(私の知る限り)ほとんどない。同時に、この分野は(特に現代において)関心を集めている分野であり、そのような点でも価値あるものである。それだけではなく、この本はそのチャレンジングな説明を試みているが、明快且つ説得力を伴う説明を行っており、内容としても評価できる。
     次に、最新の研究の紹介や、筆者自身の(本書の分野に関わる)研究が多く紹介されている点である。一般向けに書かれている本でありながら、経済学を学ぶ者にとっても有益な情報が多くつまっているように思われる。

     一方で、以下の点に留意が必要である。
     はじめに、筆者自身の研究を至る所で紹介しているが、筆者である小塩氏の研究は、一般の研究に比べてやや極端な仮定を儲けた上で理論値を推定しているものが多く、そのようにして出た結果に関しての解釈は、幾分慎重になる必要がある。具体的には、①仮定が現実とどれくらいマッチしているか(あるいはかけ離れているか)を見定める必要が本来あり、②導きだされた理論値は設けた仮定によるものであるから、その仮定が現実から離れていれば定量的な解釈は意味をなさず、定性的な側面を知る事しか出来ない。本文ではそのようなリスクに関して(若干の言及はあるものの)あまり注視されておらず、特に定量的解釈に関しては果たして本当にそれでいいのかを見極める必要がある。少なくとも、鵜呑みは危険である。
     次に、第一章の内容と、第二章以降の内容の結びつきが些か不明確である点である。おそらく筆者の頭の中ではしっかり結びつきがある上で議論をしているため、内容としては整合的ではあると思われるが、明確な結びつきを表現できていない。従ってこの結びつきに関しても読者にゆだねられるものかと思われる。
     それから、本書はあくまで経済学的視点からの効率と公平の議論であって、効率と公平の総合的な議論ではない点は留意すべきである。

     以上のような留意点もさることながら、私の全体的な評価としては、とても面白く、且つ有益な一冊であったように思われた。ここ半年で一番面白い本だった。社会科学を勉強・研究されている様々な人に是非読んでいただきたい。

  • 【要約】


    【ノート】

  • 【書誌情報】
    著者:小塩隆士
    装幀:林 健造 
    定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)
    発刊年月 2012.01
    ISBN 978-4-535-55679-9
    判型 四六判
    ページ数 248ページ
    Cコード C3033

    効率性と公平性という二律背反に振る舞いがちな評価軸のバランスをとるにはどうしたらよいか。日本が直面する課題に沿って考察。
    https://www.nippyo.co.jp/shop/book/5803.html

    【感想文】
     簡潔な文と構成でわかりやすい。社会の課題に対して経済学はどう捉えるか、を本書で理解できる。


    【目次】
    はじめに(二〇一一年一二月 小塩隆士) [i-iv]
    目次 [v-x]

    第1章 効率性と公平性 001
    1 経済学はなぜ嫌われるのか 001
      評判がよくない経済学
      効率性という観点
      「制約条件付き」で考える
      損な立場に立たされている経済学
    2 効率性と公平性をどうバランスさせるか 006
      公平性という観点
      公平性のあいまいさと人間臭さ
      効率性と公平性のトレード・オフ
      経済学が重視する「インセンティブ」
      政策が生み出す予想外の効果
      少子高齢化時代の効率性と公平性
    3 世の中の幸せをどうとらえるか 016
      パレート効率的な資源配分
      効率性に対する2つの疑問
      社会的厚生のとらえ方
      所得が2倍になっても社会的評価は2倍にはならない
      「家計調査」で見た日本の幸せの変化
    4 なぜ人々は公平な社会を望むのか 027
      不平等回避をリスク回避として解釈する
      なぜ再分配政策が必要なのか
    5 「大きな政府」と「小さな政府」のどちらがよいのか 031
      政府の大きさをめぐる意見の違い
      日本は「小さな政府」か
      「高負担・高福祉」か「低負担・低福祉」かという選択は不適切
      私たちが行ってきた無責任な選択
      無責任な選択はこれからも続けられるか
    注 041


    第2章 公平性の受け止め方 043
    1 経済学だけで公平性は語れるか 043
      東日本大震災後に見られた人々の善意
      伝統的な経済学以外のアプローチの必要性
      所得格差・不平等そのものに対する忌避
      「他人の不幸は蜜の味」――幸せの相対性
      「相対所得仮説」の考え方
    2 人々は格差をどう受け止めるのか 052
      属性によって異なる格差の受け止め方
      階層意識・所得変化と公平性
      過去との比較、将来への期待も重要に
    3 格差拡大というイメージはなぜ定着しているのか 058
      所得格差は本当に拡大しているのか
      可処分所得のジニ係数はほぼ横ばい
      低いところで厚みを増す所得分布
      所得水準が低下すると格差拡大を意識する
    注 067


    第3章 日本の再分配の問題点 069
    1 再分配政策は機能しているか 069
      再分配政策で大きく低下するジニ係数
      年齢階層間の所得移転
      年齢階層内の格差是正は限定的
      日本の所得再分配の問題点
      国際比較で見た日本の所得再分配
      高齢層の所得格差をめぐる2つの重要な事実
      深刻な「子供の貧困」
      本来の所得再分配が必要に
    2 なぜ低所得層ほど高負担なのか 088
      社会保険料の逆進性の背景にあるもの
      非正規雇用者・無業者が流入する国保
      所得水準と保険料負担の関係
      大きく異なる正規雇用者世帯とそれ以外の世帯
      保険料不払い世帯の発生
      3つの解決の方向
    3 消費税率を引き上げて大丈夫か 101
      消費税の逆進性は十分処理できる
      複数税率の設定は必要か
      給付付き税額控除――税と社会保険料の一体改革
      所得税・住民税をどうするか
    注 112


    第4章 効率性と公平性からみた教育 115
    1 経済学は教育をどうとらえるか 115
      経済学から見た教育のおもしろいところ
      効率性と公平性の絡み合い
      教育の能力識別機能に注目するとどうなるか――思考実験 
      消費者が同時に生産者でもある教育
    2 教育に市場原理は導入できるか 124
      準市場という考え方
      これまでの調査・研究でわかったこと
      懸念される学校間格差の拡大
      誰が学校選択・バウチャー制度を好むのか
    3 学校は教育にどこまで貢献できるか 134
      教育成果のとらえ方
      中高一貫校に注目する理由
      データをどのように集めるか
      「出口」は「入口」で決まる
      学校の取り組みで意味のあるものは?
      要するに、成績を上げるには授業時間を長くすればよい
    4 子供の学力は家庭で決まる――中学2年生の数学の点数の決定要因 148
      TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)
      学力の決定要因
      それぞれの要因の効果を比較する
      どういう家庭に育つかで大きく差がつく
      本人・家庭要因の相対的重要性
    5 子供の人生は家庭でどこまで決まるか 158
      「生きる力」をあらためて考える
      子供の貧困への注目
      子供の貧困の直接的影響
    注 164


    第5章 世代間のゼロサム・ゲーム 167
    1 世代間格差はなぜ問題なのか 167
      高まる世代間格差への注目
      政府のバランスシート
      ゼロサム・ゲームとしての世代間問題
      世代会計が明らかにする世代間格差
      世代会計に対する批判はどこまで正しいか
      将来世代に先送りされる負担
    2 経済学者の年金改革論はなぜ批判されるのか 181
      なぜ経済学者は積立方式を望むのか
      積立方式に対する批判
      賦課方式は所得再分配の仕組み
      積立方式への移行に伴うコストをどう処理するか
      積立方式への移行は資本蓄積を促す――効率性の観点からの評価
      積立方式への移行だけでは世代間格差は是正できない――公平性の観点からの評価
      日本の年金改革は給付削減の歴史
      実はみんな同じ方向を向いている
    3 どうすれば社会保障を持続可能にできるか 197
      家族、地域社会、そして社会保障
      社会保障は自己破壊的である
      若い世代が持続できる範囲に
      世代内で財政的に完結する社会保障は拡充してかまわない
      そのままでは受け入れがたい「強い社会保障」論
    4 民主主義は機能し続けるか 205
      逆転する若年層と高齢層の政治的パワー
      代替的な選挙制度は可能か
      民主主義は人口が増加しなければ機能しない
      民主主義の生物学的限界
      高齢世代と若年世代は、対立ではなく協調している
      注目点は国全体の貯蓄の動き
      生物学的制約を克服できるか
    注 219


    おわりに――本書のメッセージ 221

    参考文献 [227-230]
    人名索引 [231-232]
    事項索引 [233-235]

  • 素人でも読めるよう分かりやすく、かつ手堅くまとめている。面白い!

  • 効率性と公平性について経済学の観点から論じている。豊富なデータに裏付けられた手堅い議論をしており、日本の所得再分配政策を考えるうえではずせない良書。特に、効率性と公平性の観点から教育を論じた第4章が興味深かった。

  • 効率と公平について経済学的な視点で解説した本。随所に著者などの実証分析の結果が示されており、経済学を勉強している人にとっては非常に勉強となるのではないか。
    我が国における社会保障等の再配分政策の限界点も指摘されており、制度の大幅な変更が求められるところである。

  • 素人でも興味深く読めました。
    特に税金や社会保障だけでなく、教育などの公共サービスも資産の再配分の一つとして効率性と公平性の観点で紐解いていくのがおもしろく感じました。
    税金や社会保障の話もたくさん取り上げられていますが、よく言われる先の世代に先送りという話も、様々な客観的根拠をもって説明されると、非常に納得すると同時に危機感を禁じえないですね。

  • 最初はいいけど
    途中から似た感じ
    教育の所はいいね

  • 初心者にもわかりやすい内容であり非常にわかりやすい。
    経済学を効率性と公平性をいう観点からひも解いており、教育、格差、社会保障、年金など様々な視点から切り取っている。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、3階開架 請求記号:331.85//O77

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著者プロフィール

小塩 隆士(おしお・たかし):1960年京都府生まれ。83年東京大学教養学部卒業。2002年大阪大学博士(国際公共政策)。経済企画庁(現内閣府)等を経て、現在、一橋大学経済研究所特任教授。主な著書に、『高校生のための経済学入門[新版]』(ちくま新書)、『再分配の厚生分析』(日本評論社、日経・経済図書文化賞受賞)、『社会保障の経済学(第4版)』(日本評論社)、『公共経済学』(東洋経済新報社)、『くらしと健康』(岩波書店)、『日本人の健康を社会科学で考える』(日本経済新聞出版)ほか。

「2024年 『経済学の思考軸 効率か公平かのジレンマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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