ミクロ経済学の力

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535557567

作品紹介・あらすじ

『経済セミナー』の人気連載が単行本として登場! 書籍化にあたり、理解を深めるための補論を大幅に追加。ミクロ経済学の本質がわかる。

感想・レビュー・書評

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  • 中級以上で避けては通れない数学的な証明が出てきますが、他の中級書を読んでいて感じる「だから何?」という素朴な疑問に先回りして答えてくれているため、とても学習のモチベーションが保ちやすい教科書だと思います。
    また、数式だけでなく言葉による直感的な説明もふんだんに盛り込まれているため、数式を多少読み飛ばしてもそれぞれの定理や証明のニュアンスは理解できます。
    ただ、この本の真骨頂は、一般均衡理論について上級への橋渡しのためさらりと重要な留保条件や仮定、定理に触れてくれているところだと思います。初学者に気配りしつつも、発展的な内容も盛り込んであり、読み返すたびに新しい発見がある素晴らしい教科書です。

  • 東京大学の教授が学部生に行う科目を一般の方へ向けて説明する本。多数の実践的例を出しながら、いかにミクロ経済学が様々な分析や調査に役立つかも述べている。経済学の考え方を知ることができるが、根気のいる1冊である。しかし、経営には必須の、利潤最大化や工場規模最適化、人件費率等の分析方法が説明されているので非常に有益な本でもある。

  • ミクロ経済学入門には最適。
    数式はもちろんあるが、言葉による説明が丁寧なので、直感的に理解できるようになっている。
    ・生産関数
    ・限界代替率
    ・需要供給曲線
    ・所得効果、代替効果
    ・一般市場均衡
    ・ゲーム理論
    ・ナッシュ均衡
    ・外部性、公共性
    ・独占寡占
    などなど、網羅的にカバーしており包括的な理解ができる。

    一年ぶりに再読したが、読み込めば読み込むほど良い教材と言える。

  • ミクロ経済学の基盤ともいえる一般均衡理論に加え、比較的新しい学説であるゲーム理論や情報の経済学等も記載、幅広く網羅しており、この一冊だけで中級程度のミクロ経済学をカバーすることが出来るのではないだろうかと感じました。実例も多数紹介されており、抽象的な理論でも把握しやすい構成となっています。
    難点を挙げるとすればページ数の関係等で仕方ないのかもしれないが練習問題が少ない(殆ど皆無に近い)ことです。経済学だけでなくあらゆる学問は練習問題を解いてくことで理解が捗るものだと思われるため、この練習問題の少なさはこの本一冊だけでミクロ経済学を学ぶということを難しくさせているのではないかと思いました。
    折角、内容も丁寧で分かりやすい構成にしていたのに、この点は非常に勿体ないように感じました。

  • 基本的なミクロ経済学の概念をきちんと数式とグラフの意味を説明しながら解説した本。変数を変えることでグラフが変わることが現実に意味することまで解説してくれるので、とても親切。
    高校程度の微積分でいけるそうなのだけど、そちらを頑張って解読する根気は無かった。それでも楽しめました。

    ・原油価格が高騰した時に消費者への価格転嫁は可能か。
    「激しい競争にさらされている中小企業は力が弱く、価格転嫁ができずに困っている」と言われれば、「そんなの当たり前だ」と思えるし、また「激しい競争にさらされている中小企業は余力がほとんどなく、小売価格に転嫁せざるを得ない」と言われればやはり「そんなの当たり前だ」と思えてしまうのではないでしょうか(実際には前者がマスコミ多数の意見で後者は読売北海道版の少数意見)。
    常識的議論が100あったら、そのうち90はどこかおかしいものと思って差し支えない。

    ・重要なのは効用の大小であり、効用の絶対的な大きさには意味がありません。
    u(ウーロン茶)=2,
    u(ビール)=1

    であると経済学者がいうとき、これが意味するのは、ウーロン茶の満足度はビールの満足度の2倍であるということではなく、単にウーロン茶のほうがビールより好きだという事なのです。
    別に
    u(ウーロン茶)=1000000000,
    u(ビール)=1

    としてもよいわけです。注意してほしいのは、「満足度の大きさ」は、温度や物価水準のように客観的に計ることは不可能だが、「どちらが好きか」という選好は調べることができるということです(ウーロン茶とビールのどちらが好きか聞けばよい。あるいは、実際に二つのうちどちらを選ぶかを見ればよい)。このように、効用を、(原理的には測定できる)人々の好みを表す便利な工夫とみなす考えを「序数的効用理論」といい、現代の経済学はこの考えに従っています。
    これに対し、19世紀の経済学では効用を「満足の大きさ」と考え、その大小関係だけでなく本来は測定できないはずの絶対的な大きさにも意味があると考えていました。こうした、今では過去のものとなった考え方を「基数的効用理論」といいます。

    ・現在、コメの輸入には1kgあたり341円の関税がかかっています。これは国内価格(241円程度)のはるか上なので、たとえコメの輸出価格がゼロ円であってもまったく輸入が起こらない水準になっています。
    …私のアメリカ滞在経験からすると、現地の日本人が買うコメで有名なのは「錦」と「田牧米」でしょう。どちらも日本のコメと同じ短粒米です。錦は値段は安いのですが、日本米に近い味がするのは田牧米のほうです。留学生が食べるのが錦、駐在員の奥さんが買うのが田牧米という感じです。また、これよりも安い短粒米を食べている日本人は私の周りにはいませんでした。そこで、現在のこれらのコメの値段を日本のスーパーでよく売っているコメと比較すると、おおむねつぎのようになります(1kgあたり)。

    錦価格/日本の安めのコメ価格=237円/400円=59%
    田牧米価格/日本の安めのコメ価格=349円/400円=87%
    田牧米価格/日本の普通のコメ価格=349円/500円=70%

    農林水産省は、TPPの影響を試算した資料で、中国短粒米の価格を根拠に「自由化するとコメ価格は1/4になる」としていますが、これは価格の下落を過大に見積もっているように思われます。

    ・一人だけが意思決定する場合には、選択の幅は広いほどよいのに対し、複数の主体(人・企業・政府など)が、相手の出方をうかがいながら行動する場合には、選択の幅を狭め、自分にとって最適な行動がとれないようにする(これを、「コミットする」という)と、かえって得をすることがある。
    →囚人のジレンマでは相手が黙っていても自白しても、自分が自白すると得(刑期が短くなる)。そのため、両者が黙っていると全体としては一番利得が大きいのに個々でそれを選択できない(ナッシュ均衡)。その場合、自白すると後で組織に報復されるなど、自由を制限することでしか状況をコントロールできない。

    ・市場に(政策変更や技術革新などで)変化が起こるとき、得をする人が損をする人に補償をすることで全員が得をすることができるなら、そのような補償が“実際に行われなくても”、その変化を認めるべきである(補償原理、ヒックスの楽観とも)。

    ・自分の職業が何であっても、3世代先(ひ孫)の台になると職業の分布はほぼ同じ、つまり、社会全体の職業分布にほぼ等しい。したがって、社会全体のパイを大きくする市場の恩恵は、現在の職業がどんな人の子孫にも等しく行き渡る可能性がある。

  • 伝統的な(一般均衡分析に至るまでの)ミクロ経済学と新しいミクロ経済学の領域(ゲーム理論や情報の経済学)をバランスよく融合した良書。邦書にはあまり見られないある種の「冗長さ」も良い。レベル的には入門レベルをやや超える程度なので、ミクロ経済学の入門書を一通り終えた後で取り組むと、理解が早まると思われる。社会人にもお薦め。

    なお、補論D 「厚生経済学の第2基本定理の証明」は、凝縮された経済学のエッセンスを(証明を通じて)分かり易く記述しており、非常に参考になった。

  •  圧倒的に面白くて分かりやすいミクロ経済学の本でした!!
     入門のミクロ経済学の本では、難しくならないために、本来重要であるはずの仮定や数学による証明等を避けているのが多いです。この本では、それらを避けないでしっかり説明していて、そのうえで初学者にとって分かりやすくなっていると思いました。初学者が難しいと感じる、または疑問に感じるであろうところを、あますことなく会話形式で丁寧に解説してくれているからだと思います。
     また、理論だけでなく、それが現実社会でどう役に立つかを説明してくれるので、楽しみながら学べました。
     この本を読めば、中級程度のミクロ経済学を学べます。はじめて学ぶ人、初級を終えた人に、オススメです。

  • 中級クラスの経済学となると使う数式も増えてくるので直観的な理解が難しくなるが、本書では数式も高校レベルの数学の範囲に収め繰り返し読めば数学を苦手にしている読者でも理解出来るものになっている。

    巷に溢れるミクロ経済学の教科書と同様に価格理論を中心に著者の専門であるゲーム理論の触りまで範囲にしているが、価格理論の記述に対して感想を述べたい。

    本書が価格理論の説明において特に強調してるのは、一般均衡理論においてあきらかになった厚生経済学の基本定理に関してである。だが、そこに至るまでに供給に関する理論で重要な記載がされているのでそれを先に触れておく必要がある。

    所得分配に関する基本的な定理(完全分配定理)の解説に置いて市場で高い所得を得る方法を理論的に明らかにしている。以下にそれを転記するがこれは直感的で皆が共感できるだろう。

    市場経済で高い所得を得るのは
    ①市場で高い価格がつくものを生産するのに役立つ生産要素(土地や専門知識?)を持ち
    ②その生産要素を持っている人が少ない
    ような人たちであるということである。

    以上のことから導くことが出来るのは市場経済を突き詰めると金持ちになることが出来る人は必然少なくなり、所得が低い人が過半を占めることになるということである。

    それでは市場主義経済の採用は多くの人にとって不利益になるのであろうか?

    それに対する答えが厚生経済学の基本定理にある。

    基本定理には2つある。詳しい説明は本書を読んで理解してもらうとして、その定理の概略を説明すると、第1基本定理は完全競争市場均衡は常にパレート効率的な資源配分(誰の効用も犠牲にすることなく誰かの効用を上げることができる)を達成するというものである。第2基本定理はいかなるパレート効率的な資源配分も適当な一括固定税と一括補助金を使って行えば、完全競争市場均衡を通じて達成できる…というものである。

    専門用語が羅列して辟易とするが、要は市場経済を採用して格差が開いても、政府が税の徴収などを通じて(基本定理においての徴収方法は専門的であり困難であるが)金持ちから低所得層に所得を移転したら、市場は全体の効用を下げることなくいい状態に落ち着くことが出来るのである。

    長い前置きだが以上を踏まえて現在の日本経済をネタに雑な考察をしてみよう。

    小泉政権の聖域なき構造改革により市場を重視した経済政策が採用された。そのひとつに04年の派遣法改正がある。これにより低スキル(と考えられている)ワークを正社員から派遣へと代替が進み、当時の若手世代が浮上することができないきっかけを生み出すことになった。これに対して政策を主導した竹中氏はそれ以前から派遣社員は増加しており、またこの政策によって失業率を押し下げる効果があったと成果を強調している。

    確かに竹中の当時の日本経済の認識は正しいものであるだろうし、政策はある程度、有効性のあるものだっただろう。しかし、その政策による潜在的な課題は放置され低賃金で専門性も得られない不安定な身分の労働者が量産された。彼らは当然低所得である。

    一方、海外の税制に合わせるため、高所得者への段階的な所得税率の引き下げ、小泉政権以前の97年に行われた消費税増税により、政府の所得の分配機能が失われて、格差の拡大を招いたと言われている。

    一連の政策は市場経済の採用をうたいながら第2基本定理である所得分配を行わなったことにより中間層の没落を招き既得権力者のますますの力の増大をもたらしたと言えるのだ(言える?)。

    竹中等政策関係者はインサイダーとしての旨みを利用し多額の富を蓄財しただろう。彼らは経済学を自分たちの都合の良いように解釈して悪用し、自分たちへの利益誘導を行ったのである。経済学は金持ちがますます金持ちになるための学問では無い。適切な資源分配の方法を考える学問である。

    小泉政権は熱狂的な期待によって迎えられマスコミも肯定的な報道を多くしていたと記憶している。昨今においてもインターネット空間に置いて、権力者に有利になるような扇動行為が益々盛んである。彼らは自分たちへの不満を逸らすため外敵など様々な不安、不満を煽って自分たちに批判を向かわさないようにするだろう(古典的である)。それが多くの市民にとって最終的に悲惨な結果を招くことがないように願う。

  • かなり具体に沿った解説がなされており、理解し易い上、ミクロ経済の知識をどう扱えばいいのかが理解できる。良書。

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著者プロフィール

東京大学大学院経済学研究科教授

「2018年 『ミクロ経済学の技』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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