自傷行為の理解と援助: 「故意に自分の健康を害する」若者たち

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535562806

作品紹介・あらすじ

若者たちはなぜ自傷行為をするのか-自傷行為とは、「身体の痛み」で「心の痛み」にフタをすること。彼らが切っているのは皮膚だけではない。生き延びるために、つらい感情を意識から切り離しているのだ…。自傷行為の正しい理解と対応について具体的な提案をする実践書。

感想・レビュー・書評

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  • 読むのがけっこうキツイ。

    ただ理論的に自傷行為について書かれているので、自傷行為についての知識を得ることや理解するのにはよい書物

  • 『#自傷行為の理解と援助』

    ほぼ日書評 Day664

    連休中には、少し重めの本。年間3万人の自殺者を出している我が国において、少しでも、そうした人たちの苦しみを和らげることができるかを考える。

    "リストカットでは死なない"ことは多くの場合に当てはまるが"リストカットする奴は死なない"は間違いである。

    「誰かの真似」や「関心をひきたくてやっている」は、最大の禁句。

    自傷行為と自殺行為の違い。
    「死ぬためじゃなく、生きるために切っている」「自殺しないために切っている」と言う人もいる。
    「皮膚を切って、心の痛みを見える傷に変えている。心の痛みを堪えられないけど、身体の痛みならば耐えられるから…」といった切実な声を聞くことも多い。

    専門医の忙しさ。1日の外来患者が50人を超える。名付けて「ドリフターズ外来」、すなわち"夜、眠れたか?飯食ったか?顔洗ったか?歯を磨いたか?また来週…」と決まりきった応対だけに終始し、薬の処方だけが増えていく。

    対応・援助する側自身が"病まない"ようにする工夫も必要。

    対応にあたってはTALKの法則。
    T: talk 誠実な態度で話しかける
    A: ask 自殺についてハッキリと尋ねる
    L: listen 相手の訴えを傾聴する
    K: keep safe 安全を確保する

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  • 専門家の為の本ですがと言われたので当然ですが、学術的なことが多く難しい内容でした。理解でき、参考になりそうだと思えたのは後半で、半分より少なかったですが、読めたことには意味があると思えました。

  •  もとは薬物依存の治療を専門にしていた著者が、リストカットに代表される自傷行為について、どう捉えるべきか、周囲がどう対処すべきか、について述べた本。「自傷行為は自殺企図とは異なるが、自殺関連行動である」(p.229)、つまり自傷行為で死ぬことはないが、「将来の自殺に関連する危険因子」(p.237)であるということが繰り返し述べられている。さらには、「将来加害者になっていく可能性を示唆するサイン」(同)であったりもするので、援助者は自傷行為を無視せず、傾聴するという姿勢が大事だ、という内容。
     リストカットはアピールなんじゃないか、という考えをおれも少し思っていたり、おれはやらないけど「なんでそんなことやるんだ」、「自分を大切にしろ」とか問い詰めたり説教したりする人がいるのも分かるので、実際どう対処すべきか、あるいはどういうプロセスを経るのかということを知りたいと思い、読んだ。以下は気になった部分のメモ。
     自傷行為のうち、何回も単調な自傷行動を続ける、頭を何回も壁に打ち続ける、みたいな「常同的自傷行為」には、レッシュ=ナイハン病が関連しているものがあり、この患者は「ある遺伝子の欠損によって体内の尿酸値が上昇し、痛風の症状が見られるだけでなく、脳器質障害の症状として自傷行為を呈するようになります。レッシュ=ナイハン病患者では、自らの唇や舌を噛みちぎるなどといった重篤な自傷行為が高頻度に観察されます。」(p.29)というのは驚いた。尿酸値とか一見関係なさそうなものにも影響するのか、みたいな。あとは唇や舌を噛みちぎるというのも受け入れられない話だけど、「自分のことを『リストカッター』や『自傷ラー』などと呼ぶようになり、自己同一性の根拠を自傷行為に求めるようになる人がいます。」(p.32)というのも恐いし、さらにそのあとに紹介される「偽悪的趣味」というのが、本当に気持ちが悪くなる事例で、こんなことされたらうろたえてしまう。それとは変わって、「文化のなかのボディもディフィケーション」(p.52)の話は文化人類学的な話?で、さらに「ボディピアッシングにとどまらない、様々なボディもディフィケーションの普及に最も大きな貢献をした人物は、何といってもファキール・ムサファーでしょう。」(同)ということで、そういう人がいるらしい。「未開民族が行っていた身体を加工する様々な風習を追体験することで、現代人が失ってしまったものが何であるのかを振り返り、そういったものを回復すべきであるという思想を掲げて、『モダン・プリミティブ運動』を興し、様々な身体パフォーマンスをセルフポートレートとして発表してきました。」(同)ということらしい。ヒッピーみたいな感じ?
     リストカットについて、最初に書いた、「アピールなんじゃないか」ということについては、調査では2割弱はあるらしい。「『重要他者(家族や友人、恋人)に自分のつらさを分かってほしくて』(18.2%)という意思伝達、もしくは自分の要求を通すために、周囲を操作する目的から行われる自傷行為もなかったわけではありません。しかし、そうした意思伝達や操作を目的とする自傷行為(略)は、援助者が考えているようはるかに少なかったのです。」(pp.64-5)ということだから、ないわけではない、けれどほとんどは「不快感情の軽減」にその目的がある、ということが分かった。「一種の自己治療」であり、「『誰の助けも借りずにつらさに耐え、苦痛を克服する』ための孤独な対処法」(p.65)ということだそうだ。ただし、他者を操作する、ということでは、「自傷行為によって周囲に強烈な感情的反応を引き起こすことができるのを学習し、他者操作性を帯びてくることもあります。最初は誰もいないところで周囲に内緒で始めた自傷行為が、やがてそれの持つ重要他者に対するパワーを発見するわけです。」(p.109)ということもあって、その経過によって目的も異なってくる、ということはありそうだ。あとは教員として恐ろしいと思うのは、「クラスごとの自傷経験を調べてみると、クラスによって自傷経験者の割合が著しく異なり、自傷する生徒が非常に多いクラスがある一方で、まったくないクラスもあることが分かったのです。(略)クラス単位では自傷行為の『伝染現象』が起きている可能性がある」(pp.79-80)というのは恐ろしい。個人的には不登校や遅刻も伝染する、と思っているが、自殺まで伝染するというのは考えたくない。ただ確かに「毎回のように男子学生が鉄道自殺をするシーンが描かれ」(p.81)たドラマがドイツであって、その後「数週にわたって、ドイツでは鉄道自殺が増加したのです。特に注目すべきは、ドラマのなかで自殺したものと性別や年代が同じものが多く見られたという事実です。これらの自殺行動は、年代や境遇といったものが共通している者に対して、強い『感染力』を持つ傾向があるのです。」(p.81)という、ろくなドラマじゃないな、という感じ。
     そして、援助者の留意すべきこととして、援助者が「かかわりをはじめた当初、一時的に自傷行為が悪化することはめずらしくありません。回復するプロセスで一時的な悪化を呈するのは、こうした心の問題では時々見られる現象なのです。」(p.141)ということは是非知っておいて、冷静に対処しなければいけないと思った。それから「自尊心や自己効力感の乏しい若者は、たった1つの問題行動を『いけない』『やめなさい』と否定されただけでも、すぐに『人格を否定された』『全面否定された』と早とちりしやすいところがあります。」(p.155)というのは納得。みんなガラスのハートを持っているので。「そうした若者に『あなたがこれまで生きてきたということ、あなたという『存在』は正しい。ただほんの少しだけ改善したほうがいい問題点があるだけだ』というメッセージ」(同)を伝えるべきだそうだ。あとは「自傷する若者は、たとえ表面的には挑戦的な態度をとっている者でさえも、『愛されたがり』の傾向があるということである。したがって、彼らは何とかして援助者から『愛してもらおう』として、自分から『もう自傷しないって約束する』などと申し出てくることがあるのです。」(p.157)ということもあるらしい。みんな構ってちゃんで、ガラスのハートで、という感じなのだろうか。性被害など、重大な被害を告白してきた場合、まずは「一度に詳細をすべて聞いてしまうことよりも、告白に感謝し、その勇気をねぎらい『あなたは何も悪くない』ことを伝えることに主眼を置いた対応がよいと思います。初回面接で多くを語りすぎた人のなかには、次回の面接をキャンセルし、面接を中断してしまう人もいます。」(p.181)という、面接終了後のクールダウン、気まずい感覚にとらわれていないかどうか、という確認までしないといけない、というのは盲点だった。いっぱい話してくれたからいい、というものではないということが分かった。それから、自傷行為の「置換スキル」(p.195)というのはぜひ援助者としては覚えておきたい。中でも「氷を握りしめる」、「紙を破る」、「カラオケで大声で叫ぶ」なんて、出来そう。思いっきり皿を割るアトラクション、というのが昔どこかであった気がする。「筋トレに励む」というのは男子中高生におすすめできそうだ。そして「刺激的な置換スキルはあくまでも過渡的な対応であり、最終的には後述する『マインドフル呼吸』のような、鎮静的な置換スキルができるように導くことが目標である」(p.197)というのは忘れてはいけないと思う。「静かな一人きりになれる場所を確保」(p.199)して、「目を閉じて、ゆっくりと息を鼻から吸い、肺に空気を満たして溜めた後、次は吸うときの3倍の時間をかけて、口から息を吐き出します。これを数をかぞえながら繰り返します。1から数えながら呼吸を繰り返し、10までいったら再び1から数え直しながら呼吸を続けます。こうしたことを最低でも15分、理想的には20分以上繰り返す」(同)ということらしいが、これはうまくできるようになるには練習が必要らしい。慌ててこれをやってもうまくいかない、というのは想像できる。あとは、「自傷について正直に話せない面接は、時間と労力を無駄にするだけの虚しいものです。その意味でも、支持・肯定のメッセージはあっさり伝えるべきであり、ときには『本当は、最近自傷したくなっているんじゃない?』と、折に触れて援助者の側から聞いてみる必要もあるかと思います。」(p.207)ということで、「支持・肯定のメッセージがあまりにも過剰に伝えられてしまうと、そのことが彼らに援助場面への過剰適応を強いてしまう」(同)ということだから、自傷に限らず、中高生の対応というのは、押したり引いたり、本当に難しいものだなあと思う。
     著者自身の臨床の失敗体験も載っていたりして、色々この問題について考えることができた。(22/09)

  • #読了 様々な研究や調査の結果とその解説が淡々と書かれているわりに、著者さん自身が関わった患者さんの事例、著者さんが精神科医としてどう心境を変化させていったのかも書かれていて、とてもとっつきやすい本になっている。
    自分が自傷行為をする誰かの支援に回ることはないと思う。けれど、この本の内容のようなことを知る人が支援員さん以外にも一人でも多くなれば、救われる人もいるのではないだろうか。
    大変興味深く読みました。

  • 自殺・自傷・依存症の領域で八面六臂の活躍をする松本俊彦先生の自傷に関する網羅的な著作。

    自傷について理解し、なんらかの援助をしたいと思うなら、この本を一冊読めば、
    ・自傷関連の古今東西の研究を一望し、
    ・どのように考えれば良いか指針がもらえる。

    この本の立場は:
    ・自傷行為Deliberate self-harm syndromeを、自殺企図とは異なるが、長期的には自殺につながる自殺関連行動と捉える
    ・重篤な精神病(統合失調症)による病的な自傷行為(目をくりぬくなど)は含めない
    ・ボディモディフィケーション(ピアスやタトゥー)は、一般的には自傷行為には含めない(が、自傷行為の一環である場合もある)

    その上で、「自傷とアディクション」「自傷と解離性同一障害」などについて論じ、どうアセスメントするか、どう援助するかまで詳細に述べられている。

    例えば、「自傷する若者との初回面接で心がけること」(p.152)として、
    1. 頭ごなしに「自傷をやめなさい」と言わない
    2. 援助希求行動を支持する
    3. 自傷の肯定的な面を確認し、共感する
    4. エスカレートに対する懸念を伝える
    5. 無意味な約束はしない
    を挙げ、それぞれに具体的なやり取りまで記載しているが、これらは自傷のみならず、たとえば自殺企図を告げられた場合などにも当てはまる、基本的かつ「にもかかわらず一般的には全く誤った対応が取られがち」な、重要な援助者の態度だ。
    これらのことが広く知られるだけでも、社会の「生きづらさ」は大きく減じることができると思う。

    そんなに厚い本ではないし、専門書だが言葉はわかりやすくとても読みやすい。
    素晴らしい本!

  • 自傷行為は辛い瞬間を生き延びるためにあるが、繰り返されることで死をたぐりよせる可能性があること。
    自傷をする若者の一番の問題は、辛い感情を誰にも打ち明けずに一人で解決しようとする生き方にあること。
    自傷行為を叱責したり禁止したりするのではなく、本人の言葉に耳を傾ける必要があること。
    自傷行為についての理解が深まり、援助のヒントが得られました。読みやすく、おすすめです。

  • 自殺未遂を繰り返す人ほど死なないというのが都市伝説だということをできるだけ早く知ってもらいたいです。

  • 学校や医療機関での支援 その他自傷に関わるすべての人へ 具体的でとてもわかりやすい専門書 勉強になりました

  • 近くに自傷している人がいたら読んでみたらいい本。
    精神論や感情論など一切ナシ。本当に科学的なアプローチ海外の論文とかの引用も多くてなかなか納得感のあるものでした!
    自傷自体や、その対処だけでなく依存症というモノそれ自体にも理解ができた。

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著者プロフィール

医師、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所依存症研究部長。
主な著作に『自分を傷つけずにはいられない―自傷から回復するためのヒント』二〇一五年、講談社。『誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論』二〇二一年、みすず書房。『世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい? (一四 歳の世渡り術)』二〇二一年、河出書房新社。『依存症と人類―われわれはアルコール・薬物と共存できるのか』C・E・フィッシャー著、翻訳、二〇二三年、みすず書房。ほか。

「2023年 『弱さの情報公開―つなぐー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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