こころの旅

著者 :
  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535981034

作品紹介・あらすじ

人のこころのたどるはるかな旅路には、たちむかわなければならない嵐があり、越えなければならないいくつもの峠がある。本書はひろい視野をもつ体験ゆたかな一精神科医が、あたたかい筆致で人のこころの一代を語る。「結婚を決意させた運命の一冊」として、テレビや週刊誌で紹介された、いま、話題の本。紀子さんの愛読書。

感想・レビュー・書評

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  • 神谷美恵子の「生きがいについて」を読み終えたのは2009年6月。読後尋常ではない衝撃を受けたが、兎に角モチベーションがとても上がったことをよく覚えている。読んだ本の中でも重要本ランキングがあるとするならば上位にあると思う。しばらく積読状態であった神谷美恵子「こころの旅」を読んだ。

    本作は、人生の生から死までの成長の各段階に於ける要諦を10章に分けて書かれている。「こころの旅」というのは、人生を旅に例えている。

    「生きがいについて」のインパクトが強いため本作は物足りなく感じてしまうけれども、引用したくなる箇所もあり良い。

    また、帯にあるように皇室の女性の方々に支持されているようで、私は読まなかったけれども育児日記もついているので、作者の人生論と子育て法を主に女性を意識して書かれたのだと思う。

    男性が本文を読んでも、納得のいく内容であるが、38年も前に書かれていたので現状とは多少違和感を感じる。

    こころの旅に出て、帰って来られるかなとは思ったが、無事帰って来れました。

    下記引用、数字はページ数

    68人間は過去からの蓄積なしには新しいものを創り出す素材にさえこと欠く。

    69学ぶということはただのものまねとはちがい、たくさんの新しい概念をとり入れ、たくさんの概念のあいだの新しい結びつきをつくり、それらをしっかりと記憶の中にきざみこむ、という複雑な作業である。それによって、こころの世界をひろげ、自分のあたまでものを考える基盤と習慣を養うことである。このことがうまくできるためには、心身ともに充実し、しかも生理的激変や情緒的不安定からできるだけ解放されている必要がある

    69もっとも知的能力のきわめて高い人は、この能力を使うことによって、たとえば情緒的不安を克服することもできるらしいし、あるいはむしろそれに押しやられて、知的作業が促進される人もある

    70一生ひとりで学びつづけられる

    95しかしもし若き日に一生をつらぬくほどの友や師とのこころの交わりが与えられたら、それは人生の最大の幸福の一つにちがいない

    101人間の生き方考え方は時間的空間的にそれほどちがったものはない

    101抽象能力のある青年は価値の中で何が自分にとって相対的で何が絶対的かを選択し、決定することができる。相対的なものについては角をたてず、絶対的なものについては大いに自己主張する、といった人生の知恵を身につけることができるであろう

    109「死ぬほど」やりたいことがないためか

    126壮年期を思い浮かべるときただちに「はたらきざかり」ということばが出てくるのはごく自然のことだろう。20年以上もかけて育まれて来た心身の機能をフルにはたらかせて人生ととりくみ、歴史と社会とのかかわり合いの中でなんらかの足跡をのこして行く時期である。

    141あまりにも能率よくすらすら生きてしまうよりも、生命をひとこまずつ、手づくりでつくりあげて行くような骨折りを重ねて生きて行くときのほうが、こころのゆたかさというものも現われやすいだろう。



    美智子さま、紀子さまの愛読書
    いのちの芽生えから終章まで。
    ひとが生き抜くすがたを、温かな視線でたどる。
    付・神谷美恵子の「育児日記」

  • 精神科医である著者が、人の一生を「こころの旅」と題し、乳幼児期から老年期、死に至るまで、それぞれの過程で起こる発達や課題について、専門的で客観的ながらも誠意を持って分析している。
    読んだ後、あたたかい気持ちになった。人の一生は困難の連続であるが、生きることをより前向きに捉えさせてくれた。

  • 人間のそれぞれの成長時期について。
    老齢期に過去を捨ておく気概はできるのかな。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/471945

  • 2021I179 143/Ka
    配架場所:C3

  • 人生は「よどみにうかぶうたかた」というが、人ひとり育つこと、生き抜くことの複雑さを思えば、人生は奇跡のようなものにも見える。この重みは、生命に「こころなるもの」があまりにも発達して具わってしまったから。人生とは「こころの旅」である。人がたどる「こころの旅」の足跡を、乳幼児、児童、青年、壮年、老年各期ごとに考察。

  • まともな人の心の成長過程が知りたくて読んだ。
    人生を何回やり直したってこんな順調に道を歩める気がしない。けれどもなんの参考もなしに生きていける気もしないので。

    ーーー以下、引用ーーー
    つまり、からだもこころも充分発達していると、親密な友情や性的結合など、自己放棄を必要とするような状況において、自己を失う恐れ(があってもそれ)に直面することができる。」(かっこ内筆者)
    友情の場合もそうだが、結婚においてはエリクソンのいう自己放棄がいっそう多く必要とされる。そこが単なる性的結合ともちがう重要な点の一つであろう。これをあえてひきうけるには「放棄しうる自己」がそれまでに育っていなければならない。その場合にのみ、相手との結合において自己を放棄すべきときは放棄し、しかもなおそれぞれの配偶者が独立人格でもありつづけるという奇跡的な柔軟性が現われうるのであろう。54%

    成人は自分の生み出したものに対して責任をとり、これを育て、まもり、維持し、そしてやがてはこれを超克せねばならない。」
    つまり、老年になってからは、自分が一生のあいだに「世話をし」、守り育ててきたものをも相対化し、客観視しなければ「人間の諸問題を全体的に眺める」ような「統合」に達することができない、というのが彼の考えかたなのだろう。70%

    ミンコウスキイの名著『生きられる時間』には「年をとるという感情」について次のように述べてある。
    「若いということは、二〇歳であるということよりも、自分の力の横溢を感じ、前進感に満ち溢れていることである。それは未来の時間によって制約されない計画が立てられる時期である。
    これに反して年をとるということは停止することであり、後に留まることである。それは〈私にはもはや人生に於て何もする時間がない〉という反省をさせられることである。」72%

    動物は人間のように「自分が感じている痛みについて悩みを感じることはできない」と言い、これは人間が自分に対して「中心を逸れた立場」position excentriqueに立っているからであるという。つまり、人間は動物と同じように直接的に痛みをおぼえると同時に、自我との関係において、間接的に
    もこれを感じるからだという。…ある児童心理学者は「子どもは痛みによって自我への認識を得る」とさえ記している。79%

    安らかな老いに到達した人の姿は、あとから来る世代を励ます力を持っている。彼らはおだやかなほほえみを浮かべ、ぐちも言わず、錯乱もしていない。有用性よりも「存在のしかた」そのものによってまわりの人びとをよろこばすところが幼児と共通している。89%

  • 神谷美恵子の著作はこの「こころの旅」の他「人生を見つめて」「生きがいについて」を折りにふれて読み返してきた。行き詰まりを感じたときや節目のときなどにふと手にすることが多く、その度に何らかの示唆を得て心を落ち着かせたり勇気を得てきたように思う。

    この本は題名のとおり人生を「こころの旅」になぞらえ、誕生から死に至るまでのステージを第一章から第十章に立てて人生を俯瞰したものである。

    学問的見地から客観性、普遍性を重視して特殊なケースはあえて捨象していることが多いので、千差万別な個々人の悩みやニーズにすぐに効く特効薬のような実用書とはいえないが、大きく人生を俯瞰することで、今いるそれぞれの人生の立ち位置から、越し方行く末を本書に重ね合わせることにより共感や反省や希望など多くのヒントが得られるように思う。還暦を機にふと読み返してみてそんなことを感じた。

  • 私が尊敬する精神科医の神谷美恵子さんの著書。

    本書は、1973年1月から8回にわたって「からだの科学」誌に連載された「こころの旅」という文章をまとめ直したものだそうだ。

    人間がこの世に生まれ落ちてから、この世を去るまでの道のりにおいて、直面する課題や心の変化について、広い視点で書かれている。

    人間の発達段階の考察について、有名な心理学者である「フロイト」「エリクソン」「ピアジェ」の3人の考え方を比較しつつ、神谷さんの考察も加わり、より実感が湧きやすい内容であった。

    乳幼児期の心の成長に関しては、物心つく以前のことで実感が湧かないが、小さい子どもと親の関わりなどを見ているとすごく理解を寄せられる。

    学童期や思春期、青年期の内容では自分と重ね合わせながら読んでいた。

    現在の成人期の内容を噛み締めながら、今後経験していく壮年期や老年期での心構えが出来た。

    各発達段階で直面する課題や、神谷さんなりにその課題との向き合い方の考察なども優しく書かれているので、人間の心の成長(変化)について知りたい人にとてもおすすめ。

    本書に書かれている「宇宙的時間」の考え方はマルクス・アウレリウスから来るものであると思うが、その考え方は著者が影響されたように、私もかなり影響されるものであった。

  • ずっと名前は聞いてたけど初めて読んだ、神谷さんの本。
    1970年代に書かれたことに驚くくらいの中身で、根本は変わってないんだなと思う。
    「人間の発達が各年代を通じて順調でなくても、その欠陥はのちの段階で補われたり訂正されたりしうる」という文で発達障害のことを思った。
    人生はこころの旅。人生や生き方に対して、"正しい""成功"とか使うのに違和感があったけど、結局人生は第一に本人のもので、次点で家族や近しい周りの人のもので、それも最期にならないと、本当の意味での評価はできないからだなと気づいた。

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著者プロフィール

1914-1979。岡山に生まれる。1935年津田英学塾卒業。1938年渡米、1940年からコロンビア大学医学進学課程で学ぶ。1941年東京女子医学専門学校(現・東京女子医科大学)入学。1943年夏、長島愛生園で診療実習等を行う。1944年東京女子医専卒業。東京大学精神科医局入局。1952年大阪大学医学部神経科入局。1957-72年長島愛生園精神科勤務(1965-1967年精神科医長)。1960-64年神戸女学院大学教授。1963-76年津田塾大学教授。医学博士。1979年10月22日没。

「2020年 『ある作家の日記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

神谷美恵子の作品

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