イン・ザ・ペニー・アーケード (新しいアメリカの小説)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560044629

作品紹介・あらすじ

現代のロマン主義者ミルハウザーが紡ぎだすミステリアスなガジェットの宇宙。傑作中篇「アウグスト・エッシェンブルク」を含む巧緻極まりない作品集。

感想・レビュー・書評

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  • アウグスト・エッシェンブルクの半生は、彼の人生を辿りたながらあるく、玩具と芸術の軌跡をみる愉快な博物館のよう。"下人"(ウンターメンシュ)に支配された哀しき宿命の芸術の真意とは。下卑た流行と欲にまみれながらあらゆる闘いをやめなかった芸術家たちの悲哀と愉楽は、いつだってわたしを虜にさせる。
    「その時だ、僕が理解したのは。芸術とは畢竟、熱い陰部に置かれた一人の女の冷たい手にすぎぬ、と。」

    アウグストが取りこぼした青春の欠片みたいだったあの夏の休暇の浜辺では、すべてが瑞々しくやわらかで、ふいに漂う暗澹もまとめて、わたしもあの砂浜に寝そべってねむっていたみたな刹那、それは "完璧"だった。

    そして夢はうつりゆき、あの湖畔の、黄色いまんまるの月に心乱されてしまった。彼女の底なしの哀しみに同調して彼女の涙の海で溺れた。なにを思い出したのだろう。でも知っている。このどうしようのない悲しみを。それは何処へもいってくれなくて、きっとずっと抱えてゆかなくちゃいけない。それを思い出してしまったから。いつまでたっても、慣れやしないから。さびしい。

    雪の降りつづく日には、世界の理を想い描く。
    どの物語にも索漠たる郷愁が滲んできてさびしいけれど、とっくにしまわれたわたしの記憶と感覚にも触れてきて、なんだかうれしかった。そう。はるか昔に立ち寄った、ペニー・アーケードを高鳴る胸のざわめきいっぱいに楽しんでいた、あのころのようなじぶんを。遊園地の空飛ぶ絨毯の遊具と夜空のおおきな花火が、たまらなくこわかったころの純真さを。
    甘美な倦怠に浸ってめをとじて、心躍る焦燥を待ち望む。

    「これらすべてが静謐と調和を語り、魂の苛立ちと焦燥を鎮めてくれる」~夏の夜~

  •  全三部・七つの短編からなる短編集。
     三部構成といっても、それぞれの部・短編に内容的なつながりはなく、どれも単独で楽しめる作品となっている。
     第二部に収録されている三短編は、いつものミルハウザーと少し異なり、かなりリアリティを追及した内容となっている。
     だからつまらないか、というと、これがまた非常に心にグイグイと食い込んでくる内容となっていて、三短編とも女性が主人公であるにも関わらず、男性である僕の心もかなり揺さぶられる内容だった。
     第三部が最もミルハウザーらしい、ちょっと不思議なテイストが加味された内容となっている。
     そうはいっても、けっしてその不思議テイストのみを売り物にしている訳ではなく、やはり読む人の心にグイグイと揺さぶりをかけてくる。
     どの短編も素晴らしのだが、僕にとって、第一部(一短篇のみが収録されている)である「アウグスト・エッシェンブルク」がとびきりに面白い内容だった。
     一人の天才的からくり人形作りの男性を通じ、芸術と経済、夢と現実、そして人生とは? といった深い内容を見事に描いていると思う。
     喜びや感動とは違った種類の感慨深い気持ちに満たされる。

  • ミルハウザーの第一短編集。雰囲気の違う三部に別れていて、短編を書き始めたのでいろいろやってみました、という趣がある。一番好みなのは自動人形作家の話である第一部の「アウグスト・エッシェンブルク」。一心不乱な芸術家のモチーフが最初からここにある。

    第二部はすべて主人公が女性だけれど、どうして女性で書きたかったんだろう? ふつう。第三部はいわゆるミルハウザーっぽさがあるけれど、「東方の国」はあんまりかな。日本にいると同じような東方趣味でもっとおもしろいのが読めるからかも。

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著者プロフィール

1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)(以上、白水Uブックス)、『ある夢想者の肖像』『魔法の夜』『木に登る王』『十三の物語』『私たち異者は』『ホーム・ラン』(以上、白水社)、『エドウィン・マルハウス』(河出文庫)がある。ほかにFrom the Realm of Morpheusがある。

「2021年 『夜の声』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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