縛り首の丘

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560045909

作品紹介・あらすじ

罠と知りつつ愛する女を救いに馬を駆る若き騎士ドン・ルイ。-途中、刑場の丘のかたわらを通りすぎるが、その時、縛り首の死体が彼に話しかける。「俺をつれていけ、何かの役に立つはずだ…」ポルトガル写実文学の先駆者エッサ・デ・ケイロースは鋭い観察眼、ユーモアと辛辣な皮肉を交えた重厚な文体でヨーロッパでは文豪として知られている。本書は彼の代表的な中編傑作「大官を殺せ」と表題作「縛り首の丘」とを選び、知られざる作家の魔術的リアリズムとも言うべき小説世界をはじめて日本に紹介しようとするものである。

感想・レビュー・書評

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  • ○「大官(マンダリン)を殺せ」と表題作「縛り首の丘」の2作品からなります。表紙からして何とも不気味ですが、よくみると写実的で幻想的(非現実的)な表紙は作者の作風を表しているように思えます。2作品ともに現実ではあり得ないお話なのですが、そこには人間を含めた現実への冷たい視線を感じるのです(ただでさえ長文のためあらすじは省略・・・)。

    ○この本のように、人間のどうしようもないところを描いた話は、ぼくの結構好みに合うようで、2時間ほどで読むことが出来ました。文章も読みやすいですし、そういう好みがある方にはおすすめです。


    * 大官を殺せ *

    ○感想をひとことでいえば、「人間ってどうしようもないな!」です。

    ○主人公の行動をごく大ざっぱにまとめるとこうなるでしょう。まず、呼び鈴を鳴らしてしまう。遺産を受け継いで遊び呆ける。大富豪の幻影(良心の産物?)に悩まされる。大富豪を弔い、また富豪の富を失って苦しんでいる遺族に遺産を分配しようと中国へ行く(ただ、大富豪の代わりになって、中国を立て直してやろうとかいってますけど)。中国でさんざんな目に遭う。逃げるように祖国へ帰る。結局、主人公は大富豪の幻影から解放されずに一生を過ごす。

    ○けっきょく人間は、(準学士の)主人公のように理性や教養ある人間であっても、目の前の莫大な利益が何の負担もなしに手に入るとなれば目がくらんでしまう。人間のどうしようもない業。そのダメ押しともいえるのが主人公の最後のセリフです。「美味しいパンは、自分の手で日々稼いだパンだけである。大官(マンダリン)を殺すなかれ (p. 111)」。彼は、放蕩から善行までいろいろ試みたうえで、死の間際にようやくそれを本当の意味で理解するのです。

    ○また、主人公が住まう下宿の女将やマスコミ、はては聖職者までもが主人公の変化にいともたやすく手の平を返す。つまり、主人公が大富豪になると彼を称え、意図的に以前の生活に戻ればふたたび彼をけなす。終盤にはこの様子が滑稽に描き出されていますね。

    ○主人公と周囲の人々、この両側面から見ても「ああ、人間ってどうしようもないな」と思わずにはいられません。


    * 縛り首の丘 *

    ○感想をひとことでいえば、「恋ってどうしようもないな!」です。盲目すぎる。

    ○主人公は人妻に惚れ込んだ青年騎士。主人公は、彼女をひとめ見ようと思って彼女の家の周りをうろうろするありさま。しかし、彼女にその気がないと悟るとすぐさま諦める。けれど、彼女にその気があると知るや否や、謀略かもしれないと思いつつも一目散に駆けつける。

    ○いっぽうで、その謀略の張本人である(その人妻の)夫も、みずからの妻の行動を自邸から逐一監視し、主人公が妻に熱い視線を向けていることをいち早く察知して激怒する。そして、青年騎士(主人公)が彼女から離れたことについて「かくも巧みに無関心を装うとは、なにか途方もない策略を巡らしているに違いない (p. 124)。」と、とんでもない想像を繰り広げる。そして、その疑心暗鬼から計画した謀略が、主人公の情愛に再び火を付ける。

    ○と、これだけなら単に「あー、恋ってどうしようもないよなぁ」という話なのですが、その謀略に嵌まろうとしている主人公を救うのが縛り首の死体というのがこの物語の異常なところです。その死体は、いわば主人公が信仰していた聖母さまの使いであり、死人にとってはそれが聖母さまへの奉公となって、自分が慈悲を受けることができるという訳です。

    ○さらに、この設定をうまく使ったオチが見事。嫉妬深い夫にも、きちんと天罰が下るわけです。ただ、主人公と人妻が結ばれてよいのかという疑問と、「盲目すぎてみてられない!」という感が残った話でした。

  • セゴビアなどを舞台とした作品です。

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