カフカ小説全集 1

著者 :
  • 白水社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560047019

作品紹介・あらすじ

これまで『アメリカ』として知られてきた作品がまったく新しい相貌で姿を現わす。カフカの手稿そのものをテキストとした新校訂版全集を池内紀による清新な個人訳で贈る。

感想・レビュー・書評

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  • ずっとカフカの小説を読みたかった。
    だから、大学生になって、大学の図書館でこの小説を見つけて、とても嬉しくなった。

    どうやって読んだか。
    たぶん私はとても険しい表情で読んでいたのだと思う。
    字が小さくて、視力が弱いから眉間に力が入ったとか、そんなのじゃない。
    気持ちの問題というか、なんというか。
    そういう険しい表情、険しい目つきでしか読めなかった。

    主人公はカールというドイツの少年。
    女中に子供を孕ませてしまって、家から追い出される。
    まあ、孕ませたというよりも、むしろ孕まさせられたというか、カールは無理やり女中に性行為を強要されたようなものだ。
    女中がいるくらいだから、多分そこそこ力のある家なんだと思うけど、そこまで裕福ではなかったんじゃないかな。
    義務教育は終えたけど、それ以上の教育を受けるような余裕はなかったみたいだから。

    話は大きく

    まず、カールがアメリカに到着したときのこと。
    船に乗っている間、肌身離さず守ってきたトランクを、うっかり忘れてしまった傘を探しに行くために、つい人の手に預けてしまった話。
    探しているときに、船の中で火夫に出会う。
    自称やり手で、今までの船ではかなりの評価を受けてきたというが、この船ではたいして評価もされずに、ふつう火夫がしないような仕事をさせられる。
    そんな愚痴をこぼしていた。
    初め、カールは火夫に傘を探していて、トランクは人に預けてしまったと言うと、火夫はもうトランクは戻ってこないだろうと言う……という風に、本来の目的をきちんと覚えていたのだけれども、いつの間にかカールの関心は火夫のこの船における待遇に移ってしまっていた。
    気が付けば、船の偉い人に、火夫と一緒に申し立てしていて。
    そしてどこからか、とても偉い人である、カールの叔父さんが出てきて。
    カールは叔父とともに暮らすことになった。

    それが次の話。
    叔父との生活。
    カールは英語を学んだり、叔父によって人と引き合わされたり、道楽息子的に暮らしていた。
    実に裕福だが、少しずつ叔父とのズレが生じてきていた。
    ある日、カールはある男の家に招待されるが、叔父はそれを快く思っていなかった。
    しかしその反対を押し切って、その男の家に向かう。
    向かうと、いかにも下心のありそうなクララという少女が下心を全開にカールに近づいてくる。
    ……が、カールにその気はなく、結局、クララのことだけでなく、色々なことがあって、帰りたくなる。
    だが、叔父は猛烈に怒っていたのかもしれない。
    叔父は初めて自分の意見を反対され、そのまま押し切られたといって、その初めて自分の意見を押し切ったカールを放逐してしまう。
    最初に失われた傘とトランクは戻ってきていて、結局、またカールは無職の、宿無しの少年となった。

    それからまた、出会いがあった。
    カールがあてもなく列車か何かに乗っているときに、2人の男と出会う。
    結構な腐れ縁になるのだけれど、ロビンソンとドラマルシュという男たちだ。
    2人は連れ立っていて……というか、ロビンソンはドラマルシュの腰ぎんちゃくのような存在で、しかもどちらにも気を許せそうにないし、なんというか、なってない。
    しかし、この2人と一緒にいれば職に就けるかもしれないなんて思って、2人と一緒に行動する。
    結局、あるホテルで、カールは2人に見切りをつけて、カールだけ新しい仕事につく。

    新しい仕事は、ホテルのボーイだ。
    エレベーターボーイ。
    調理主任が、カールを何かと気遣ってくれる。
    買っているというか、なんというか。
    もう1人、彼女の秘書の少女が、またカールを何かと気遣ってくれる。
    調理主任はカールに、エレベーターボーイからまた次の職への道を切り開くことができるかもしれないというようなことを言って、カールもまたそれもそのとおりだと納得して、そこそこ満足しながらがんばっている。
    しかし、ボーイの共同部屋の有様はひどいものだった。
    それでも、カールは頑張っていた。
    調理主任が、彼女の部屋を1つ分けようと言ったが、エレベーターボーイに共同部屋の苦労はつきものなのだと考えていたので、断った。
    まあなんというか、色々なことが悪い方向に作用した。
    ある日、ドラマルシュとロビンソンが現れた。
    どういうわけか立派な服を着ている。
    そのまま、カールは関わり合いになりたくなかったが、ロビンソンがカールに会いに来て、しかもホテルでわめきたてて、飲みすぎて動けないなどという。
    そこまでされると放置するわけにもいかないから、いやいやながら勤務時間中に、持ち場を放り出して、ロビンソンを部屋に寝かせてしまった。
    本当にまずかった。
    たとえば、勤務を放り出すときは、どういう理由があれ上に連絡を入れておかねばならなかった。
    それをしていなかった。
    カールはクビになった。
    目をかけてくれていた調理主任は、その偉い人といい仲で、そっちを信用した。
    ありもしない罪を着せられて、まるで泥棒のようにカールはホテルを追い出された。

    追い出されたカールは、今度はドラマルシュやロビンソンのところに厄介になる。
    というか、無理やりいさせられた。
    そこにはブレネルダという肥った有名人(?)がいて、どうもその世話をしなければならないらしい。
    嫌がっていたカールは、しだいにそうしたらいいのではないかと思うようになって、結局、世話をしようと決心する。
    ……が、ある日、カールはブレネルダをどこかに送り届けているときに、どこかの劇場のスタッフ募集の張り紙を見つけて、送り届けた後、そこに採用してもらおうと考える。
    未経験者歓迎、経歴不問。
    こういう文句がカールに関心をもたせた。
    カールは採用された。
    ネグロという偽名で、劇場の技術者をすることになる。
    そこで、かのホテルで働いていた、ジャコモという少年に再会する。

    ちょっとぐちゃぐちゃだけど、なんか、こんな流れだったと思う。
    なんだか、カールって、自分のしようとしたことをしてないんだよな。
    こう、したいことはあったんだけど、最終的に人の意見に押し流されるんだ。
    ああ、もしかしたら、そうしたほうがいいのかもしれない! といった感じに。
    あるいは、やったことが悪い方向に働くとか。
    アメリカに着いた時には、いつの間にか叔父とともに行くことになっていた。
    叔父から放逐されたのは、衣食住の危機という悪い方向に働いた。
    ホテルで働く気なんてなかったのに、結局はホテルで働くことになった。
    みなと同じように我慢して、人一倍努力して、エレベーターボーイを務めていたのに、ある出来事がきっかけで、結局、今まで我慢していたこととか、そういうことが悪い方向に働いて、ホテルを追い出された。
    こんどは、ロビンソンやドラマルシュに、働かされそうになった。

    たぶん、最後だけ、つまり劇場での仕事だけ、ちゃんと自分の意志でもぎ取ったんだと思う。
    というのが私の考えです。

    でも、そういうのってよくあると思う。
    きっと私も、日常生活で経験してるし、もしかしたらそういう風に生きてきたのかもしれない。
    いやでも、あんまりだよなって思ったから、険しい目つきで読んでしまったんだろうなあ。

    私の理解力が足りないのか、ちゃんと読めていないのか、それともカフカの想定内の結果なのか、よくはわからないけれど、とても流れるような話だった。
    流れるようにカールが流されていく様子を読んでいて、本当に流されていった。
    でも、あるいはだからこそ、目つきは険しくなっていった。
    とてももやもやとした話でした。
    話がもやもやとしているというか、読んだ後の私が、今もやもやとしています。

  • カフカの小説の中でも後回しにしていた本作。カフカのいずれも未完成に終わった一連の長編の中で一貫して扱おうとしていたものと同じテーマが随所に現れている。

    主観と現実のズレ、次第に見えてくる目標、目前の困難と格闘するうちにいつの間にか遠のいている本来の目的。見えているのに決してたどり着けないところ、実際の努力が結果に結びつくのかわからないもどかしさ。そこまでは現実の私たちが常に抱えていかなければならない生きて行くことの苦しさである。しかしカフカはその一歩先へ行っていると思う。それが何か、読者はそれぞれ見いだしていかなければならないし、見いだすことができる。そういうところに惹かれるのだろうと思う。

    失踪者(アメリカ)は審判とは異なり、城と同様結末がないけれど、断片として新たな旅立ちが語られる。カールは通り一遍の幸せとは縁遠いだろうけども、審判のように運命が決まってしまってはいない。それはカフカが決められなかったからなのであって、この違いは偶然ではない。幸せになるところが想像できなかったというよりも不幸になるところが思いつかなかったということではないだろうか。あるいはそういう尺度を物語に持ち込むこと自体がつまらないということか。

  • カフカを読むと、目の前にそそり立つ灰色の壁を見上げているような思いに駆られる。不条理とも、絶望とも、悲壮とも、それは解釈可能であるのだが、いずれにしても、その壁の向こう側に行くことは、とてもできない定めのような気がして、苦しくなる。若い頃には、その灰色の壁の冷徹さがクールであるようにすら感じたけれども、今は、むしろ冷たさがすしりと重く沁み入るようだ。つまり、いつの間にか、その年代が共通して抱く批判の対象であった年代に自分がなっており、矛先を自分自身にも向けていることを意識せざるを得ないということなのだろう。

    「失踪者」に限ったことではないと思うけれど、カフカの描く世界は、読む者の手を容易にするりと逃げていくような印象がある。それは、例えば、隅から隅まできちんと計算され、点と点が輻輳するようにエピソードが流れている話、いわゆるエンターテイメント系の小説、から感じるものとは全く異なる印象だ。一つのエピソードが別のエピソードへやっとのことで繋がっていくのを眺めているかのよう、といってもよい。その「辛うじてある繋がり」が、非現実的なエピソードの中にある人生の必然性のようなものを示唆しているような気がしてならない。

    「断片」として残された文章を読むと、カフカが書くことを「無から何かを絞り出す」ような行為として行っていたのか、という感慨が立ちあがる。そうして絞り出された断片をどう繋ぎ合わせるのか、それを苦心していたのだろうなと想像は広がる。それを都合のよい形で変形させればさせられるであろうに、一途に絞り出されたものの持つ本質を信じて繋ぎ合せようとする、そんなカフカを想像してみる。しっくりとする。

    人生の断片は、例えそれが現実にあった人のものであったとしても、バラバラに取り出して並べてみた時、やはりこの「失踪者」ように、それぞれのエピソードは辛うじて繋がっているだけのように見えるのだろう。それが現実であるとカフカは見抜いていたのだろうか。繋ぎとめられた断片群には、きれいな始まりもきれいな終わりもなく、ただただひらひらと細い糸で繋ぎとめられていることだけが、ある。その両端に更に続くものがあったのかどうか、自分たちは決して知ることができないのかも知れない。

  • 『アメリカ』から乗り換えました!


     何はともあれ、マックス・ブロートには感謝しなければならないでしょうね。友の遺言を無視してくれたことに対して★
     作者が死後の作品公表を望まなかったにもかかわらず、未完の長編『審判』『城』『アメリカ』が公開されたのは……、本好きとしては喜びたい事故なのです。
     ただ、同時に愛すべき友人は困ったこともしていました。問題は『アメリカ』。カフカは恋人フェリーツェに宛てた書簡で、この作品を『失踪者』と呼んでおり、題名まで違っています。さらに、ブロートは章立てにまで手を加えてしまったとか……★

    『アメリカ』ではなく、カフカが書いた状態に近い『失踪者』がこちらとのこと☆ 大筋は知っているつもりなのに、なぜ読後感が大きく違うの!? 若々しくリズミカルな池内訳が気持ちよく、こうもいきいきと輝く物語だったかと目を開かされる思いです。
     もともと、この小説は他の作品より軽やかなトーンだなと感じたし、主人公のカール君が魅力的なんだよな~♪ と勝手に楽しくイメージをふくらませていました。『失踪者』を読んだ日、小説のカールと想像のカールがスーッと重なって、「これがカール・ロスマンか!」と感じたのでした。

     分かりやすいところでは、年齢が違います。『失踪者』のカールは1歳若く、青年じゃなくて少年☆ まだ世俗の垢にまみれていない様子が、ひどくまぶしいのです。
     かなり年下の男の子を、女中は誘惑して子どもまでできてしまった(?)そうですが、誘惑したのか? されたのか? 自分でも訳が分からないまま世界を転がり、アメリカに向かうカール君なのです。

     それでも、一つのところにとどまりそうになると、カールの光は少しずつ薄れていってしまいます。落ち着くことが似合わない男の子……★ 彼が再び輝きを取り戻して旅立ったところで、鮮やかな幕切れ。『失踪者』が未完の大作であるのと同様に、カールの人格も未完成のままです。

  • 借り物

  • カールという青年がアメリカに来て、ホテルのボーイになったりいろいろするのだが、結局なんなのという感じだった・・・
    なぜこれをカフカの小説で最初に読んでしまったのか・・・。そのせいでカフカは私の中で「意味わからん人」になってしまった。

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著者プロフィール

ツイッターやインスタグラムで恋に悩む女性にむけて優しく背中を押す言葉を投稿している。著書に『だから、そばにいて』(ワニブックス)、『好きでいて』(セブン&アイ出版)、『何度も諦めようと思ったけど、やっぱり好きなんだ』(KADOKAWA)などがある。ツイッター @kafuka_monchi インスタグラム @kafuka022

「2020年 『だから、そばにいて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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