- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560070710
感想・レビュー・書評
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「シャンパヴェール悖徳物語」の「狼狂シャンパヴェール」
が収録されているので一緒に消化。古典ホラーからSF、
実験小説を思わせるような作品まで様々。思うに、全体を
通してひとつの特徴だったりテーマだったりを持たせるの
ではなく、ここからそれぞれの興味に従って読書歴を進めて
行くための道標のような短編集なのではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『ミイラづくりの女たち』 マルセル・シュウォッブ
弟とリビアの砂漠を旅しているうちに、ミイラづくりを生業にしている女たちの住む町に迷い込んでしまい、弟さえもミイラにされてしまう怖ろしい物語。
シュウォッブは19世紀のフランスの作家。
彼の作品を読むのははじめてだったが、幻想的な怪しい雰囲気を存分に味わうことができた。
エジプトでのミイラづくりは有名で、たくさんのミイラが作られてきたが、この小説は短編にもかかわらず女たちの手でつくられるミイラづくりがやけに生々しく伝わってくる。
昔に読んだミカ・ワルタリの『ミイラ医師シヌへ』にもミイラをつくるさまが描写されていたが、
ミイラを作る場所は、ミイラ工場のごとき印象を受けたような気がするのは記憶違いだろうか。
女たちだけでミイラを作る という設定は、奇妙な妖艶さが加わり、死者を永劫と成すべく再生の手段として受容しつつも、やはり、ミイラづくりがおどおどろしい作業であることにはかわりない。
死体を相手に、手際よく臓物を掻き出してゆく女の腕。
麻布を処理を終えた死体に巻くために曲線を描く女の背中。
丸屋根の白い小さな家の中で行われている神聖な儀式のような工程の横で垣間見る、ミイラづくりの女と弟が交わす接吻の気配が小説に別の息を吹き込む。
マルセル・シュウォッブはユダヤ家系に生まれ、早熟で多くの言語を習得したという。
『二重の心』や『黄金仮面の王』などの短編集があるらしいが、この作品だけを読むとルルーやモーパッサン系の怪奇短編とジャンルが似ている。 -
既読のものもいくつかあったけれど、アンソロでなければ手軽に読めなさそうなマニアックめの作品もあり、それなりに面白かったです。たぶん作品掲載順は作者の年齢順というか発表年順なのかな。序盤はいわゆる19世紀ロマン主義、小ロマン派の作品が多いせいか悪魔もの多め。時代が新しくなるにしたがって、シュールなものやSFぽいものになってくる。なんやかんやでこの手のアンソロ常連のシュペルヴィエルやリラダン、王道のゴーティエがやっぱり好き。
※収録作品( )内は作者生年
「州民一同によって証言された不可解な事件」サド(1740)
「不老長寿の霊薬」バルザック(1799)
「オニュフリユス」ゴーチエ(1811)
「狼狂シャンパヴェール」ペトリュス・ボレル(1809)
「白痴と《彼の》竪琴」グザヴィエ・フォルヌレ(1809)
「悪魔の肖像」ネルヴァル(1808)
「ヴェラ」リラダン(1838)
「オルラ」モーパッサン(1850)
「ミイラ造りの女たち」マルセル・シュウォップ(1867)
「仮面の孔」ジャン・ロラン(1855)
「クレダンの竪琴」ジョゼファン・ペラダン(1858)
「鏡の友」ジョルジュ・ロデンバック(1855)
「静寂の外」クロード・ファレール(1876)
「沖の娘」シュペルヴィエル(1884)
「秘密の部屋」アラン・ロブ=グリエ(1922)
「怪物」ジェラール・クラン(1937) -
訳調も古めかしく古典的な味わいを満喫できた。リラダン「ヴェラ」とジュール・シュペルヴィエル「沖の娘」、 ジェラール・クラン「怪物」が好み。やはりロブ=グリエは睡眠効果抜群だ。
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小さな本だが、18~20世紀のフランス幻想小説の流れをたどることのできる短篇集。
冒頭のサドの短編が「悪魔との取引」という古典的主題の枠内におさまっているのに対し、続くバルザックの「不老不死の妙薬」は、同じ主題に材をとりながらも、ここで描き出されるドン・ファン像は、人生への幻想を制御し、あらゆる価値を哄笑しつつ世界をむさぼる恐るべき巨人、ファウストの同類である。不老不死さえ手に入れながら、自身を聖人として奉る人々を嘲弄し、世界を巨大な喜劇にして見せる圧倒的な幕切れで、本書でもっとも鮮烈な印象を残す作品だ。
しかしこの後に続く小説たちの中からは、超人としての近代人像は姿を消して、眼に見えない存在への脅迫神経症めいた不安、厭世、人をとらえる狂気、未知の存在に対する恐怖などが主題となっていく。近代とは、自己の内部からやってくる不安と恐怖の時代であったのかもしれぬと思わされる。
その他印象に残る作品としては、海の上に浮かぶ蜃気楼のような町のイメージが鮮烈な「沖の娘」(シュペルヴィエル)、まるでカメラが舐めるように殺人の場面を描写する「秘密の部屋」(ロブ=グリエ)、怪物と化した夫と同一化する妻を、激しい緊迫と恍惚のうちに描いた「怪物」(ジュラール・クラン)など。 -
2010年7月11日購入
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イギリス編につづいて。
「・・・ぼくは罪悪を愛するがね、男爵、ぼくは罪悪を欲するが、ぼくの運命は罪悪を罰することをぼくに強いるのだ。」(初・澁澤龍彦とサド。イメージと違った)
「州民一同によって証言された不可解な事件」 D=A=F・ド・サド 澁澤龍彦訳
(豪華。)
「不老長寿の霊薬」 オノレ・ド・バルザック 高山鉄男訳
「オニュフリユス」 テオフィル・ゴーチエ 井村実名子訳
(くどい。でもつらくない文章とか台詞)
「狼狂シャンパヴェール」 ペトリュス・ボレル 私市保彦訳
(マッチ売りの少女を今思い出した)
「白痴と≪彼≫の竪琴」 グザヴィエ・フォルヌレ 田村穀訳
(濃い。)
「ヴェラ」 A・ド・ヴィリエ・リラダン 滝田文彦訳
いいですか、彼がやって来たのです。(好き。SFってことになるのか。水と牛乳。不気味)
「オルラ」 ギ・ド・モーパッサン 入沢康夫訳
「―そう、ようやくのことに!」(死都ブリュージュのあの人。こっちの方が好きだ。終わり方がばっさり、えげつないくらい容赦ない)
「鏡の友」 ジョゼファン・ロデンバック 森茂太郎訳
「ついに、もう手の打ちようがなく、どうしても彼女に死を与えられないことがわかると、波は涙と詫びの大きなつぶやきをあげながら、彼女を家に連れ戻した。」(ミステリ。謎が深まって解ける構成が。情景を理解するのに時間がかかった。評判いい理由がわかった。読んでショックを受けたくらい)
「沖の娘」 ジュール・シュペルヴィエル 窪田般弓爾(漢字出せなかった)
「彼女は身ぶるいして、笑った。
「食べられてしまうって、どんな感じかしら?」 」(すごく良かった。こんな話とは思わなかった。悲しい。二人も教授も怪物も。SF。心細くなる)
「怪物」ジュラール・クラン 清水茂訳 -
85年発行の白水Uブックスで名前の通りフランス産幻想小説のオムニバス。
サドの「州民一同によって証言された不可解な事件」にはじまり、バルザック、ゴーチエ、モーパッサンなど全16編。
一編一編に注解、訳者の解説付き。哲学的なものから寓話的なものまで、300ページあまりで色んなテイストの話が読めて得した気分。全体的に少女趣味が強い印象。 -
持っているのはこの本じゃないですが、シュペルヴィエルの「沖の娘」の窪田般弥訳を探したらこれだったので。堀口版(「沖の小娘」)よりも窪田版が好き。
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ものによっては読みにくかったりするものの、題名を聞いて読んでみようと思う人なら大抵の掌編を気に入るはず。