ある家族の会話 (白水Uブックス 120 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071205

作品紹介・あらすじ

イタリアを代表する女流作家ナタリア・ギンズブルグの自伝的小説。舞台は北イタリア、迫りくるファシズムの嵐に翻弄される心やさしくも知的で自由な家族の姿が、末娘ナタリアの素直な目を通してみずみずしく描かれる。イタリア現代史の最も悲惨で最も魅力的な一時期を乗り越えてきた一家の物語。

感想・レビュー・書評

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  • この小説(回想録?)には何度も、「ふりをしている」という表現が出てくるとおり、作者ナタリア・ギンズブルグは鋭い洞察力で知人や友人たちの本質を見抜いている。その視線は、不慮の死を遂げた自身の夫に対してさえ向けられる。

    中でも息を飲んだのが、終盤になって、自殺した著名な小説家パヴェーゼについて「人生を愛していなかった」と書くときの、まるで著者自身がすでにあの世にいるかのような筆致だ。自殺が正しい選択ではなかったと言いたげであると同時に、パヴェーゼの人格では致し方がなかったという諦念もがないまぜになり、頬にナイフを当てられたような、なんとも緊張感のある文章が刻み出される。

    またすばらしいのが須賀敦子氏の翻訳で、イタリア語は理解できないけれど、俗語や地口や方言などがきっと巧みに訳されているのにちがいないと手に取るようにわかる。脱帽。

  • 著者の家族の物語。うるさくて口が悪くて偏見がすごいお父さん。嫌だったけど最後の方、歳とって若干丸くなったのが寂しかった。
    登場人物の人柄がとても丁寧に描かれていて、それが当時の世相と相まって、映画を見ているような感じです。
    ただいかんせん登場人物が多くて、似たような名前の人がいて、読み進む度「これ誰だっけ?」と戻ることが多かったので、疲れました。

  • 再読。初読時にはぎょっとしたお父さんの癇癪が今回はお約束ギャグのように感じられておかしかった。随筆などではギンズブルグは父の癇癪に辟易していたことを書いているから、おかしなおこりんぼに描いている点でも、やはり本書は小説なのだろう。

    読書会記録: https://dokushobus.blogspot.com/2022/09/24.html

  • 須賀敦子が翻訳した作品を読みたくて。

    この小説を通して、須賀敦子自身が描きたかったものが見えた気がする。
    家族の会話、半径3メートルで紡がれる文化、個別的なのに普遍的。

  •  20世紀イタリアの激動を体現する作家ナタリア・ギンズブルグの代表作『ある家族の会話』(1963)を読んだときに感じた、不思議なシンクロニティが忘れられません。

     喫茶店で読書したくて本書を携えていくと、程なくして隣のテーブルに着いたのは、お元気そうなご高齢の女性2人組★ 明太子クリームスパテッティ(イタリアには存在しない)をズズズ……と啜りながら、気のおけないおしゃべりに花を咲かせてたのですが、知り合いの家庭のお噂を大声で、秘密なんて一つもないご様子。良くも悪くも日本は平和だなぁと感じる光景でした☆

     つまりは「うるさいな」というのが本音だったのですが。
     そこで読み始めた本書は、おばあさんとは言わないまでも、おばさんと呼ばれるであろうお年頃の女性の、おしゃべり文体で織り成される小説だったのです★
     家族や友人同士の間で交わされた会話が、さらにおしゃべり調で再生され、躍動的な印象。それでいて保たれる品格は、須賀敦子の訳業が醸し出すニュアンスかもしれません。

     不機嫌で文句ばかりのカミナリ親父と、朗らかで歌を口ずさむのが好きな母親のもと、それぞれ異なる性格に育った兄弟姉妹達。家庭の会話は「あいつはロバだ」のように、家族だけに通じる符牒的なセリフの反復で成り立ってます★
     ただし、このイタリアおしゃべり一家の物語は、「あの時代」の到来と終焉を映す鏡なのです。ファシズム、半ファシズム、ナチズムなど、剣呑なワードが当然のものとして登場。主人公とその夫は出版社勤めで思想を持つ人々であり、夫はさらっと(?)獄死します。
     しかし、流刑や刑務所がなつかしいだの、「え!?」と驚くようなセリフがまぎれこみ、時折どうやら冗談っぽくも使われ、湿っぽくならずすぐ乾く★
     嵐が通り過ぎた後は被害者ぶることなく、生活とおしゃべりを何が何でも復元させる強靭さが、本作の魅力にもなっているのです。

  • トリノ大の教授だった厳格な父親と、プルーストを愛読する自由で明るい母親を持ち、典型的なブルジョワ家庭で育った著者の記憶をもとに語られる家族の歴史。ファシズムが台頭し、ドイツに占領される第二次大戦のさなかを、反ファシズムで生き抜く人々の様子が淡々と描かれている。家族や友人が逮捕され、流刑になり、拷問の末亡くなっているが、家族の中の日常的な会話や出来事が中心に語られていて、筆致に悲観的なところはなく、それがかえってその時代の重さを感じさせる。

    家父長制の時代の父親像は、ちょっと向田邦子の描いた厳格な父親を彷彿とさせる。妻や子供たちの”不出来”を口では罵っても、常に気にかけ心配し、他人への礼を尽くす父親は、ちょっと愛らしくもある。そんな彼を支える妻は、夫に何を言われても軽く受け流すだけでなく、確固たる信念も持っていて、文学も政治も父親の意見に唯々諾々と従うだけでなく、しっかりと自分を語れる自由を持っている。

    エイナウディやオリベッティという有名な会社を担った初期の人々が、ファシズムとの闘いに深い関係を持っていたことを、この本で初めて知った。

  • 20世紀初頭のイタリア、トリノ。頑固で短気な大学教授の父と楽天家でおしゃべり好きな母のあいだに生まれた五人のきょうだいは、親に気に入られる者も反発する者もいながら大人になっていく。やがて国はファシズムに支配され、戦禍が身近に迫ってくる。家族の瑣末な会話を通して紡がれる、戦時下を生きた人びとの物語。


    他人の家のこまごました話を読むだけのことが、なぜこんなにも豊かで楽しくなるんだろう。帯には「心優しくも知的で自由な雰囲気」と書いてあるけど、この「知的」部分を担っているはずのお父さんが開幕からとにかくギャースカうるさい(笑)。反ファシズムだけど有色人種や使用人には差別的なことを普通に言うし、家族を自分の所有部だと思ってるし、そんな父の言うことを子どもたちは全然聞かない。つい長谷川町子の絵柄を思い浮かべながら読んでしまうようなにぎやかさ。
    ユダヤ系なのもありオリヴァー・サックスの家を連想したりもしたが、ナタリアはオリヴァーより10年以上世代が上の人だからでもあるのだろうか、サックス家と違いレーヴィ家の父は女子教育に熱心ではなかったようだ。お母さんと姉のパオラは文学と演劇とファッションを愛したというから、出版社に勤め小説家になったナタリアは彼女たちの影響下にいるのだろう。
    ファシズム政権は一時的なものと思い、食卓で茶化すネタにしていたレーヴィ家だったが、国外へ亡命する友人を助けたのを皮切りに兄・父・義兄が次々投獄され、兄の一人はイタリアへ戻れなくなってしまう。最初は反ファシズムを貫いた名誉の証と思っていたが、やがて家族は分断され、遂にはナタリアの夫になったレオーネが獄中で亡くなることになる。レーヴィ家が思想を翻すことはなかったが、戦争は家族に深い傷を残した。
    本書では、レオーネの反ファシズム運動については最小限しか触れられない。その代わりナタリア自身が疎開先でどう過ごしたかや、レオーネが始めた出版社の同僚たちの姿を活写することに徹している。このエイナウディ社にはチェーザレ・パヴェーゼも勤めていて、終盤は彼のエピソードがぽつぽつ語られる。パヴェーゼに見出されたカルヴィーノもここからデビューしたという凄い出版社なのだが、この小説に描かれているのは信念を持って仕事をする普通の人たちがファシズムに抗う姿だ。そして、最後まで口うるさく、滑稽なほど亭主関白にふるまおうとするお父さんもそういう〈普通の人〉なのだと思うと、読み終えるころにはなんだか愛おしく感じられてしまうのである。

  • 自分たちの家族だけに通じる、「それを聞けば、たとえ真っ暗な洞窟の中であろうと、何百万の人込みの中であろうと、ただちに相手がだれであるかわかる」ことば

    ファシズムの時代を生き抜いたある家族の物語。

  • お話の切れ目というものが全くない。澱みなく続く会話を追っているうちに気がつけば次から次へと場面が、季節が、時代が移り変わっていく。ある家族の春秋の追い方として非常に面白く、かつ自分自身がその渦中に身を置いているような現実感があった。お父さんの「ロバどもが!」という口癖がしばらく頭の中にこだましそうである。

  • ほとんどが作者の体験。
    ムッソリーニが台頭してきた時代のイタリアの家族の物語。父親が偏屈。戦時なのにそれを感じさせない日常生活。きっとギンズブルぐも辛いこともたくさんあっただろうにと思った。記憶にないことは書かれていない小説。「美しい夏」のパヴェーゼが友人として登場したことに「おお」となりました。

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著者プロフィール

1916~91。シチリアのパレルモ生まれ。『ヴァレンティーノ』でヴィアレッジョ賞、『ある家族の会話』でストレーガ賞。ほかに『モンテ・フェルモの丘の家』『マンゾーニ家の人々』など。エッセイや戯曲も多い。

「2018年 『小さな徳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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