中二階 (白水Uブックス 122 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071229

作品紹介・あらすじ

中二階のオフィスに戻る途中のサラリーマンがめぐらす超ミクロ的考察-靴紐はなぜ左右同時期に切れるのか、牛乳容器が瓶からカートンに変わったときの感激、ミシン目の発明者への熱狂的賛辞等々。これまで誰も書かなかったとても愉快ですごーく細かい注付き小説。

感想・レビュー・書評

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  • はじめて友達になれそうなアメリカ人を見つけた気がする。
    当然のことではあるが、アメリカ人だからといって「ヘンベーガー!コゥカコーラ!テキサース!」みたいな人間ばかりとは思っていない。しかし、まさかエスカレーターを脚で登ることの是非について1章をかけて悩み尽くしたり、洗面所で同僚と隣り合わせたときの排尿に緊張を覚える人物がいたとは、さすがに意外だった。

    あなたは、「今自分が聴いているこの曲を、世界のどこかでまさに同時に聴いている人間は何人いるだろう?」とふと考えてみたことはあるだろうか。
    または、「今自分が不燃ゴミの袋に放り込もうとしている輪ゴムひとつとっても人知れず改良の長い歴史があり、これが何千何万とベルトコンベヤー的な何かに乗って生み出される工場が少なくともアジア圏内のどこかにあり、そこの工場長や更にその監督責任者がおり、その管理ないし研究に一生を捧げる人もいるんだろうなあ」とふと想像したりしたことは、果たしてあるだろうか。

    上記のような妄りな時間を頻繁に削りだしてしまう(私のような)人は、この本を楽しめると思う。そして、さらに「どんなしょうもないことでも上には上がいる」とあらためて痛感するとともに、妄りな時間は増えるだろう。したり顔の楽しみとともに。成層圏上でアメリカと自分をつないでいる星々の輝きとともに。

  • ああもう、おかしくてたまらない!
    前代未聞の「極小文学」と帯にはある。
    ある男性がオフィスのエスカレータに足をかけて物語は始まり、
    エスカレータが中二階に到着して男性が足を降ろした所で物語は終る。
    ただそれだけの間に男性が考えたこと、そしてその考えを裏付ける経験、理論、また考えたこと、に枝分かれ枝分かれ…しめて191ページ!

    ストロー、トイレのペーパータオル、靴ひも、エスカレータ、ファーマシー、トースト、ネクタイ、ガールフレンド……
    普段は気にも留めない日常生活の光景一つ一つに焦点をあて、それぞれ記憶を探っていく。
    20数年の短い人生の中で蓄積された記憶と、それから得られた主人公独自の理論。
    それが次々と、流れるように出てきてもうなんだか息をつく間もない。
    ありふれたネタのはずなのに(そして主人公が打ち出した理論のいくつかは、実際に自らの生活においても見い出したことがあるはずなのに!)ただただ圧倒されるだけ。



    経験によって巧妙に、そしてかなり精密に理論づけられた、あるあるネタ、って感じかなあ。
    とにかくどれもこれも共感できる。
    だけどどれも本当にくだらないテーマで、それをまじめにまじめにまじめに分析している所が本当にもうおかしくてたまらない。
    ストローとトイレのペーパータオルが特に面白かったかなあ。あと牛乳!

    ニコルソン・ベイカーって初めて読んだけど、頭のなかどんなんなってるんだろー。(こればっかり)
    これ処女作なのね。すげぇ
    他のも読んでみたい。
    訳者のエッセイも面白いみたいねー。
    白水社も良い仕事してるのね!

    とにかく、2011年ファーストヒット。
    今年は日本の現代作家を読みたい。あとやっぱり三島。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「変愛小説集」の「柿右衛門の器」をどーぞ。。。
      「変愛小説集」の「柿右衛門の器」をどーぞ。。。
      2012/04/12
  • 重箱の隅をつついてほじくり返して、とりとめもなく理論的に広げて途中枝葉も広げまくって、結果脚注がとんでもなく長くなって、それは本文を圧迫するほど。脚注の美学。
    今まで、レーズンパンのトーストにバターを塗る時の音についてなんて深く考えたことがあっただろうか。コーヒーの自動販売機の背面パネルに描かれている時代遅れのカップ&ソーサーについて深く考えたことがあっただろうか。理想的なドアノブについて深く考えたことがあっただろうか。いや、考えたことはあってもこんなにも緻密に文章にした人なんていないに違いない。

    そんな些末な事柄の緻密な考察が後から後から出てきて、面白すぎて5ページ/日くらいずつしか読めません。
    当たり前のことを疑問視出来る目を持った人にはたまらない一冊。

  • 極小(ミクロ)文学!

    何かをぐるぐるとしつこく考える人の文章が好き

    “無地背景効果”理論、ミシン目への賞賛、懐古主義への抵抗(〇〇をみると小さい頃に△△を思い出す、、、への)、なんでも自分の中で法則を立てて項目を作って思考するナードっぽさがめんどくさくて愛おしい〜〜〜

  • 一区切り読んではやめて、また読み始める、を繰り返していたので長くかかった。その上本文の注釈が少し小さいポイントで書いてある。本文の途中から始まっていてそれが、本文より長かったりする。珍しい形で、同じページをいったりきたり、また本文から注釈に行かないで迷子になったり、慣れるまで時間がかかった。

    しかし面白い。仕事場のある中二階に上がるエレベーターに向かいながら、最近浮かぶようになった牛乳パックのストローについて考える。ペーパーバッグと牛乳を左右に持てば、ストローが浮かんできては飲みにくいではないか、そのうち紙のストローに変わったが。紙製品の場合は微細な気泡しかつかないので浮かばないのだろう。

    と、このように、様々に物について考察する。靴紐が、左右余り時間を置かないで切れた、どのあたりにどんな風に摩擦が起きて切れるのだろう。続いて、はじめてお母さんに結び方を習って成功した時を思い出す。
    また牛乳が瓶から紙パックになったこと、実にあの菱形に開く口は優れものだ、三角の尖った上部の開き方さえマスターすれば。

    有名なエスカレーターのくだりは様々に拡散した思考がこの作品の特徴を伝えているが、ビルの清掃員が体を動かさずに手すりを拭くことが出来ると言うことなどいい。
    最後にエスカレーターにのる喜びが子供のそれではなく、大人の考察にも耐えるものと考えること。などといっている。

    製氷皿から氷をばらばらに取り出す水の張り方、トイレットぺーパーに絶妙な間隔で入ったミシン目を讃えよう。

    薄いアルミ箔のフライパン上の容器で作るポップコーン、硬いコーンが膨張して花のようなポップコーンになる、これは人類の発明の中でもずば抜けている。

    眠るときの耳栓のこと。耳に水を入れて洗浄するのには驚いた。

    ペンギン・クラシックスの本たちについても、有名な古典を上げてつらつらこまごまと述べている。ユニークで面白い。

    黒い表紙のペンギンで、私が気に入っていたのは、扉のページに翻訳者の略歴が、彼がこつこつと英語に置き換えた歴史上の大人物の経歴と同じ小さな活字で印刷されていることだった。そうやって二つが並んでいると、ドーセットやリースの片田舎で翻訳にいそしむ目立たない人生と暗殺と奸智と謀略に満ち満ちた歴史の中の人生とが同じくらい大きなものに見えてくる。</font>

    と翻訳者についての生活まで想像する洞察力に大いに共感した。こういう人たちによって私たちの文明は支えられていると結んでいる。私もこの本の訳者、岸本さんに深く感謝した。

    最後に行くにしたがって思考は哲学的に深くなっていく、はじまりからの流れ(身の周りのものに対する、使用効果、形状、歴史観察などの微細な部分の発見なり考察)の面白さはこれもいいが、ペンギン・クラシックスの書籍の考察は非常に面白く、ベイカーらしさはこのあたりにもあるように思えた。

    岸本さんはこの本を訳すにあたって、同じ興味を持ったことを披露して、自分を少し「変な人」の範疇にいれているが、この様な好奇心や探究心が文化を推し進める、直球ストライクばかりだと味気ない、変化球の妙味が世界を広げるのではないかと思えた。

  • 前人未到。こんなに「注」の面白い本はない。原書探して読んだら、おんなじ造りでやんの。ビバ・岸本佐知子!

  • 微分していくというか拍と拍の隙間を狙い澄ますような視点。

    ミニマルノヴェル。


    次は止まるくらいゆっくりと読む。

  • 伊坂幸太郎エッセイで印象に残った本として紹介されていた。

  • タイトルだけはずーっと昔から知っていて、何となく手に取る機会がなかった一冊。第一章を読み始めてすぐに、どうしてさっさと読まなかったのか後悔したくらいとびきり面白い。

  • いい意味でクレイジーというか「小説ってこんなに自由でいいんだ!」という新鮮な驚きと面白さに満ちていました。

    翻訳者の岸本さんのエッセイは何冊も読んだことがありますが、そこで垣間見える雰囲気というか着眼点や文章の感じは、この作品から受けた影響がとても大きいんだろうなと感じました。

    作品が持つ魅力については、原作の面白さはもちろんベースにあって、それ以外に翻訳者の力量という要素もありますが、作品と翻訳者の相性という点ではこれを凌ぐものはなかなかないんじゃないかと思います。

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著者プロフィール

1957年ニューヨーク州生まれ。イーストマン音楽学校、ハヴァフォード大学で学ぶ。1988年、『中二階』でデビュー。他の邦訳に『室温』、『もしもし』、『フェルマータ』『ノリーのおわらない物語』(以上白水社刊、岸本佐知子訳)がある。本書の執筆時(32歳)にはまだ駆け出しの若手作家だった。

「2018年 『U & I』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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