逆さまゲーム (白水Uブックス 125 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071250

作品紹介・あらすじ

本書は、現代イタリア文学の旗手アントニオ・タブッキが、見事に「逆さまゲーム」でありながら、頭脳的なゲームにおわることなく、ふかい人間的な感動をともなう世界をノスタルジックに描く。

感想・レビュー・書評

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  • 表題どおり、それまで見えていたものがくるっと反転して終わる短編が集められている。理に勝ちすぎず、静かな感動や驚きを残して終わる話が多いのが好ましい。最初の「逆さまゲーム」、「カサブランカからの手紙」、「芝居小屋」が特によい。また、最後の「オリュンピアの一日」に出てくる「《時間》についての話」はタブッキが生涯追求していた時間と記憶というテーマが端的に表れていて興味深かった。

  • 本屋さん店頭で「須賀敦子没後20年」フェアやってたので足を止め、そういえばタブッキのこれだけまだ読んでなかったっけと思い手に取る。どんでん返し・・・というほどではないけれど、おもにオチで読者の思い込みを裏切るささやかな「さかさま」が用意されている短編集。

    表題作含め、前半三作「カサブランカからの手紙」「芝居小屋」が面白かった。というか、オチがわかりやすくて良かった。「土曜日の午後」あたりはちょっと謎解きが難しい。どう解釈すればいいんだろう。冒頭の自転車の人物がお父さんなのか???

    「小さなギャツビイ」はフィッツジェラルドへのオマージュらしく、フィッツジェラルドを読んでいればもっと楽しめるのかも。「空色の楽園」はイケバナが趣味で浮世絵を買ったりするご婦人が出てくるので日本人むき。

    「行き先のない旅」は実在の詩人ディーノ・カンパーナが主人公。精神病院を出たり入ったりしていたというこの詩人の、無垢で無邪気な感性が短い中にぎゅっとエピソードとしてまとめられていて、彼が夕焼けの色彩を音楽に例える冒頭からしてとても美しい。

    「オリュンピアの一日」はこちらも実在の詩人、古代ギリシャのピンダロスが体験するオリュンピア(現代のオリンピック)の一日。まあ言ってしまえば夢オチなのだけど、古代ギリシャというのがなんかいい。

    ※収録
    逆さまゲーム/カサブランカからの手紙/芝居小屋/土曜日の午後/小さなギャツビイ/ドローレス・イバルーリは苦い涙を流して/空色の楽園/声たち/いくつかの短篇(1981~1985年)(チェシャ猫/行き先のない旅/オリュンピアの一日)

  • ラストで話しがひっくり返るような短編を集めた本、なのだが、どんでん返しへの期待はすっかり忘れ、唯々タブッキの文章に溺れそうになりながら読んだ。静かな文章は焦らすように私の中に入り込んで、いつの間にか心臓をぎゅっと掴まれている。

    美しい思い出、起きてしまったこと、会えない人、いつか歩いた街。あるいは切望しながら遠くにあるもの。そういう事柄を想うときの心を灼くような、悲しいのか愛しいのかも判らずに涙が零れ落ちるような、心の奥にあって激しい昂ぶりをサウダージと言うのだろうか。

  • 現代イタリアの作家。雰囲気は良いけど、状況がつかみきれない話もあったり。
    須賀敦子って翻訳もしてたんですね。

  • インド夜想曲の流れで読んでみる。

  • 期待して読み出したが、どの短編も面白くなかった。

  • タブッキの中ではわりと好きな作品。

  • 表題作、行ったこともないポルトガルに居るような気分にさせられる。太陽の下の、目を焼くような白さと、それを避ける全てが佇んでいるような影の濃さ。亡くなったマリアの姿を「ぼく」の思い出の中に、その足跡を影の中に辿ってゆくような感覚。

  • <結末で、まぶたがぐりんと引っくり返される感覚。>


    ものごとの、なんのことはない裏側

    という、ロートレアモンの言葉が最初に記された短編集ですが……、

    入口でちょっと手こずりました。
    「なんのことはない裏側」にたどりつくには、ちょっとしたコツがいるらしいのです。どこが「なんのことはない」だ!(笑) タブッキの文章は読者が内容に集中しようと力むとすっとそらすような調子があるから、のめりこもうとしてはダメ。かと言ってぼんやりと眺めるような種類の本でもないですし……。「じゃあ、一体どうすればいいのだろう?」と思ったりして、緊張感を強いられました。

    それが、一ページ一ページ、スキャンするみたいに文字を追っていったら、ある時点から急にタブッキの味が分かるようになったんです。それまで全く良さの分からなかった、手のつけようがなかった本が、あちらのほうからいきなり自分をとりこむような感覚がありました。
    『逆さまゲーム』といってもゲームの意味が違うのは承知しているけれど、一定の経験値がたまったらファンファーレが鳴り響いて、レベルが一つ上がったようなものかな。とにかくタブッキを読めるようになったのでとても嬉しいです。未だにつっかえつっかえ読んでいるとしてもね……。

    この短編集を、私はものごとを反対側から見ようとした人たちが、日常から脱落していく作品の集まり、だと思っています。
    あらすじは、あるといえばあるのだけれど、それ自体はどうということもないかな……。

    たとえば、『土曜日の午後』という作品があります。これ、正直、事件の全体像はつかめません。
    奇妙な静けさに満ちた家庭で勉強中の少年は、何かが自分から隠されている気配を感じ取ります。秘密というのはどうやら父親にあるらしいけれど、その父はついに登場せず、いつになく若くうつくしく装った母親が化粧を直しています。少年は声をかけられずにいる。ブルーベリーの味が「ぼくのまわりの世界ぜんたい」を「侵蝕」した、という場面で、話はちぎれ飛ぶように終わっています。オチがない。

    表題作『逆さまゲーム』は、もう少し親切に書かれているかも。平たく言えば、主人公の恋人か、それに近い関係にあった女性・マリアが死ぬ話です。
    生前にマリアが主人公に話していた素性は嘘、すべてが逆さまでした。マリアの夫と自称する男は冷たい調子で、主人公がマリアのことを全く理解していない、きみが知っているのはフィクションだと言い放ちます。
    しかし、主人公は、マリアが死によって自分の裏側に到達したのだと考えるのです。「そのとき、ぼくはもうひとつの、別の夢のなかにいた」との言葉を響かせて、小説は締めくくるというのとは違った終わりをむかえます。
    その、結末になっていない結末が訪れた瞬間。ふっと話が途切れて、自分がどこかに脱落しちゃうような感覚が……。

    こうした短篇小説には不思議にしずかな緊張感が漲っていて、初めは強い不安に襲われ、作品がこちらを拒んでいるような印象を持ったくらいでした。
    作中では、消失点(ヴァニッシング・ポイント)という言葉が使われています。このポイントを超えて裏側に行くのは、誰でもというわけにはいかないようなのですけど、読んでいる間に少しずつ近づいていきます。

    それには、何が起きたのかを探るのではなく、結末でまぶたがぐりんと引っくり返される感覚を、ただ味わう、味わおうとせずに味わうしかないのでしょうね。

    (2003年3月10日)

  • 「カサブランカからの手紙」がまったく感動的で、耳の奥でとびきり甘いヴォラーレが流れているくらいだ。

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著者プロフィール

1943年イタリア生まれ。現代イタリアを代表する作家。主な作品に『インド夜想曲』『遠い水平線』『レクイエム』『逆さまゲーム』(以上、白水社)、『時は老いをいそぐ』(河出書房新社)など。2012年没。

「2018年 『島とクジラと女をめぐる断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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