シカゴ育ち (白水Uブックス 143 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071434

感想・レビュー・書評

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  • 14編の作品のうち、既読は「冬のショパン」のみ。

    シカゴと言えば、シカゴピザとかシカゴマフィアとか、色々イメージはあろうと思いますが、私のイメージは、冬の寒さと雪。
    映画やアメリカのドラマなどを見ていると、とにかく冬。
    もこもこに着ぶくれた人たちが、身を縮めて歩くシーン。
    歩くだけで遭難しそうなほどの雪。
    野外のスケートリンクでデートする若者。

    調べてみたら、北海道の函館と同じくらいの緯度なんですよね。
    函館はそんなに寒くないし、雪も降らないし。
    月別の平均気温は札幌と同じくらい。
    でも、見た感じもっと寒くて雪が多そう。
    勝手に岩見沢よりやや内陸寄りの地域をイメージしながら読みました。

    あとはフレドリック・ブラウンのエド・ハンターシリーズ(「シカゴ・ブルース」など、シカゴを舞台にしたハードボイルド系ミステリ)を思い出し、そこそこの都会のはずなのにどうしてもうらぶれた感の拭えないシカゴの町を読みました。

    “永遠とは、何かがあることではなく、ないことなのだ。”

    生きているはずなのに、どこか存在感の希薄な、いや、存在感はあるのだが、現実感が希薄な、いや、それとも違うな。
    何か違う次元に生きるような人々。
    永遠の喪失を抱えながら。

    現実はどうであれ、頑なに自分を守り生きていく姿。
    どうしてそれが儚く感じられるのか。
    哀しくも美しい詩のような文章。

    寒くて縮こまった体の中にある、温かな気持ち。
    繊細と同居する強か。
    それは生まれ育った町が作り出したものなのか。

    夏の暑さ、冬のとてつもない寒さ、風の強さ。
    シカゴという街。
    そこに生きる人々への思いが詰まった短篇集。

    一番気に入ったのは、やはり「冬のショパン」

  • シカゴはサウスダウンタウンにて生まれ育ち、NorthIllinois Uの文学教授である著者。
    シカゴの街に一時的でも住む人間として、読んでおこうと思った。
    のだが、短編小説集は苦手なのか、文体がだめなのか、最後まで読み切ることなく、2度図書館から延滞のお知らせが届いた。

    ただ、「冬のショパン」「黄金海岸」「荒廃地域」がお気に入り。というか読めたところ。

    「ヘイ!どう?最近美に陶酔してる?」
    彼の問いは、思いもよらず響いた。私自身にこれから先、何度も問いかけたいなって思う。
    「この空もまた、あたしたちが共有する記憶になるのよ、」
    色んな人と色んな場所に行ったけれど、色んな人と色んなものを観たけれど、
    それぞれはそれぞれだけのもの。

    京都に居を構える者と、観光で来る者それぞれにとって、京都という場所のイメージや抱く気持ちは異なるが、シカゴもまた然りである。

    地元民は4th avenueなんてもってのほか、21st streetだってGold Coastだって行かないよね。

    シカゴダウンタウンで過ごした去年のサンクスギビング休暇を思い出す。
    ゴールドコーストから見える、街側全てが輝いていた。毎日のようにランニングしに来る人々と並んで、私はいかにも地元民ですよ〜という顔をしながら4th avenueからゴールドコーストまで闊歩した。
    あれはやはりただ、浮かれた観光客であり、荒廃したサウス地域には行こうともしなかった。

    著者が過ごしたのはもう何十年も前、今とは様相が大きく変わっただろう。それでもその頃と変わらず今だってスケートボード練習場がある。
    車窓から眺める限り、そこには今でも多くの少年少女がいる。
    バスケットゴールでは3on3が展開されている。
    日本、いや私の地元では、私たちの世代が最後、公園で友達と遊んでいた最後の世代かもしれない。
    バスケットゴールを目指していたのも、私たちが最後だっただろう。

    この本には、なんとなく懐かしさが込み上げる。それはシカゴの街に、ではなく(少しだけそれもあるけど)、子供時代を想起させるからだ。

    街を主題にした小説は、その地と関係あろうがなかろうが、読み手の記憶に無理矢理にでも干渉せざるを得ないよね。

    にしても、私はゴールドコーストが好きだ。いつだって美しい。住もうとは思わないけれど、シカゴ計画は偉大だったんだな。


  • この短編集から霧がかった雨や雪、どこからか音楽の聴こえてくるガードしたのような風景を想像した。

    作者の記憶を通してシカゴの街が見えてきて、行ったことはないその土地のことを想像する。そんな時間を今このご時世に与えてくれて嬉しさと、人と土地の間にあるものを通じて感じる寂しさが重なって、読後じんわりした気持ちになった。

  • 読んでいる時も、好きだなぁ、と思ったのだけど、読み終えて数日経って、もっとしみじみと好きだなぁ、と思う。
    舞台はどれもシカゴであり、大体は作者の記憶が基になっているだろうけれど、登場人物ががっちり共通しているわけではなく、スタイルもそれぞれで俯瞰からの詩に近いものまであるにも関わらず、どの短編にも通じるものがあって心地好い。
    シカゴを通り抜ける風、肌を焼く暑さ、凍えるほどの寒さ、ループを巡る電車の音、ミシガン湖のきらめき、そしてエドワード・ホッパー。
    宝物のような一作。

  • 「音楽の聞こえる話」を特集した『MONKEY Vol.6』のあとがきに、「音楽の聞こえる話」アンソロジー構想のひとつとして挙げられた一冊。そして、これはワタシが「2014不忍ブックストリート 一箱古本市」で購入して積読棚に鎮座させていた一冊でもあった。『MONKEY Vol.6』の余韻が残る中、早速手に取った。
    「荒廃地域」ではロックンロールが、「冬のショパン」ではクラシックが、物語の旋律と合わせるように確かに聞こえてきた。
    でも、この短編集を通してもっとも印象に残ったのは、実は音楽ではなかった。残ったのは、淡々と綴られたどこにでもある日常の風景、どちらかと言うと、音楽を感じない少しもの哀しげな日常の風景だった。特に凝った描写があるわけでもない。でも、生活のにおいや人の息づかいが確かに感じられた。柴田元幸が絶賛する理由は明々白々だ。
    ところで、シカゴの愛称Windy Cityは、本来は「風の街」という意味だったのではない、という話が訳者あとがきに。柴田元幸のあとがきはどれも秀逸だが、またしてもやってくれた。

  • 「いままで自分が訳したなかで最高の一冊」
     これは本のオビに書かれた柴田元幸氏の発言。
     柴田氏の翻訳作品は結構読んできているし、ハズレは殆どないので、いやがうえにも期待してしまう。
     確かに面白い。
     ただ、ほんの少し何かが足りない気がする。
     手放しで「面白い!」とまではいかなかった。
     痒いところにきちんと手が届いているのだけれど、「もうちょっと力を入れてかいてよ」といったところだろうか。
     もう何冊か読んでみたい作者である。

  • 子供だから粗暴で無鉄砲な面もあるんだけど、不思議、彼等の目を通して見た世界も趣味のいい音楽の一部のように感じます。静かな余韻が心地いい一冊。

  • 文章が丁寧でうつくしいかつ、ユーモラス。「なんだか現実までダイベックの世界の延長のように感じられたものである」という訳者のあとがきをみて、私はこの確信を得た。
    →荒川洋治「この世をふかく、豊かに生きたい。そんな望みを持つ人になりかわって、才覚に恵まれた人が鮮やかな文や鋭い言葉を駆使して、ほんとうの現実を開示してみせる。それが文学の働きである」。

  • 訳者の柴田さん関連の本から辿って読みたい本リストに長い間入れていた。

    短編集で、好きだったのは荒廃地域、熱い氷、ペット・ミルクかな。極端に短くて詩に近いような作品もあるけど、そういうのはどうも理解が難しい。

  • どういうきっかけだったかは覚えていないが、中古で買っていて家にあったもの。前の持ち主の方が、大量にボールペンで線を引かれていたため、頭に話が入ってこなかった。残念。

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著者プロフィール

1942年生まれ。アメリカ・シカゴ出身の作家。主要訳書『シカゴ育ち』『僕はマゼランと旅した』、詩集『それ自身のインクで書かれた街』(以上、柴田元幸訳、白水社)

「2019年 『路地裏の子供たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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