舞姫タイス (白水Uブックス 145 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071458

感想・レビュー・書評

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  • 2013年9月13日(金)、読了。

  • 美文!!

  • プルーストがあこがれたアナトール・フランス。プルーストのほうがはるかにすばらしいが。

  • こっちも父のオススメ。

  • 古代エジプトのテバイードのナイル川流域の砂漠にはキリスト教初期の隠者たちが隠栖していた。
    多くの修道士が苦行に励んでいたが、アンティノエの修道院長パフニュスほど功徳の豐かな修道士はいないと言われていた。
    パフニュスはアレクサンドリアの貴族の生まれだが、20歳ごろ改心し世俗を離れて贖罪苦行の日々を送っており、彼を敬愛する弟子たちは24人を数える。
    ある日、パフニュスは、瞑想の最中、アレクサンドリアの劇場でタイスという美しい舞姫を見たことを思いだした。
    見ただけではなく、当時15歳だった彼はタイスに惹かれるあまり彼女の家の近くまででかけたこともある。
    妖艶で美しいタイスは、アレクサンドリアきっての舞姫であり、多くの男たちを惑わし、からだを与える女であった。
    パフニュスはタイスの存在や生き方は人々の墮落の種になっていると考え、アレクサンドリアまで出かけて彼女を聖なる道に導こうと考えるのである。
    暫くぶりで故郷のアレクサンドリアに帰ったパフニュスは、世俗にまみれきった学友を軽蔑しつつ、そんな男たちに取り囲まれているタイスを悔悛させ、女子修道院に預けて、再び砂漠に戻る。
    師の帰還は弟子の祝福を受けたが、ほどなくその地と弟子を捨て、昔偶像教徒によって建てられた廃墟の額に牝牛の角とを生やして微笑んでいる目の細い頬の豊かな女の首ののっている柱にのぼり、その柱上で修行を重ねた。
    柱上での苦行はますますパフニュスの評判を高め、聖者と呼ばれ、崇められ、尊敬された。
    神のお告げで長い間いた円柱を下りたパフニュスは、タイスが死掛けていることを知り、本能のまま走り続けて修道院に会いに行く。
    死の床にあるタイスは、修道院生活で清らかに神に近づいていた。駆けつけたパフニュスは、
    「神も天国も下らぬもの。恋だけがほんとうのものだ。愛している。一緒に逃げてふたりで愛し合おう」とタイスに向かって叫ぶが、聖なるタイスは神の近くへ行ける悦びにふるえつつ息絶える。
    タイスを預かってくれた修道院長に「去れ、呪われたるものよ」と吐き捨てられた名高い聖者のパフニュスは、目もあてられぬほどの醜い形相になったという。
    アナトール・フランスの文体はバルザックよりもはるかに読み易い。
    本書も、『神々は渇く』と同様、一気に読み進んだ。
    パフニュスは15歳でタイスを知る。タイスにとってはその時のことはまるで覚えがない。自分の美しさや今の生活のはでやかさに満足とは相反する気持ちも持ち合わせており、少女のころに洗礼も受けたことのある彼女は、苦行に耐え、自分を救うためにやってきたというパフニュスに導かれて悔悛するあたりはマクダラのマリアに少し重なる。
    パフニュスは、重い苦行を重ねていくが、それは、心の中で燻り続けるタイスへの愛を追い払うためであり、最後にどんな敬虔なことよりも、「男女の愛」という超世俗的な感情こそが真実であると叫ぶ。
    パフニュスは、架空の人物と注訳があるが、10年間の修行のあと、柱の上で36年間修行した聖シメオンをアナトール・フランスは頭に置いていたのでないかと思う。
    また、本書、『舞姫タイス』を原作とし、『タイス』としてオペラになり、この歌劇が成功を収め、アナトール・フランスは、作曲家マスネに礼を述べている。
    この歌劇の中で使われたタイスの瞑想曲 はわたしたちにとても耳馴染みのある曲。

    『舞姫タイス』は北宋社や角川や2001年にアナトール・フランス全集などでも読むことができるが、今回は白水Uブックスのものを読んだ。訳は水野成夫さん。
    解説は明治大学の教授でもあり芥川賞作家の堀江敏幸さん。
    蛇足で書くと堀江さんの作品の中での私のお気に入りは芥川賞受賞作の『熊の敷石』と『ゼラニウム』
    表紙の絵は、我が敬愛するギュスターヴ・モローのパシパエ。
    パシパエは、クレタ王の后で牡牛の通じてテセウスが殺す半人半牛のミノタウロスを生む。
    この絵を表紙にしたのは、世俗で生きている時のタイスの奔放さをはめたのかそれともパフニュスの上った円柱の牡牛を想起したのかはわからないが、随所に散りばめられるギリシア神話のアナトール・フランスの文面に関与しているのかもしれない。

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著者プロフィール

1844-1924年。パリ生まれ。高踏派詩人として出発、その後小説に転じて『シルヴェストル・ボナールの罪』、『舞姫タイス』、『赤い百合』、『神々は渇く』などの長篇でフランス文学を代表する作家となる。ドレフュス事件など社会問題にも深い関心を寄せ、積極的に活動した。アカデミー・フランセーズ会員。1921年、ノーベル文学賞受賞。邦訳に《アナトール・フランス小説集》全12巻(白水社)がある。

「2018年 『ペンギンの島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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