失踪者 (白水Uブックス 153 カフカ・コレクション)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071533

感想・レビュー・書評

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  • 連続読書会が本日終了しました。
    参加者皆様ありがとうございました!

    カフカの未完小説。
    カフカ本人が「出版しないでくれ」と言って友人に渡した原稿をカフカの死後にその友人が出版してしまったという。カフカは出版する準備をしていない原稿なので、書き直し箇所や矛盾箇所もある。カフカ本人はアメリカに行ったことはない状態で書いたので、アメリカの地理などの書き方にはちょっと疑問もある。
    カフカは当初は「アメリカ」という題名を考えていたが、日記かなにかに「失踪者」にするという記載があったので、出版した友人は最初は「アメリカ」、その後「失踪者」に変更したようだ。

    未完なんだけど、最後の「断片」が、カフカらしい悪夢迷宮感もありながらも、気持ちがすっきりして読後感は良かった。(大団円という意味ではない)

    ●関連映画
    「階級関係-カフカ「アメリカ」より-」
    https://eiga.com/movie/42151/

    フェデリコ・フェリーニ「インテルビスタ」
    https://www.kinejun.com/cinema/view/11879

    【第一章 火夫】
    <女優に誘惑され、その女中に子供ができてしまった。P1>
    なんてぇ始まり方だい 笑

    17歳のドイツ青年カール・ロスマンは、両親にニューヨークへ追いやられる。ニューヨーク港に着いたときに傘を忘れたことに気が付き、船旅で顔見知りになった青年にトランクの番を強引に頼み込み、船の下の階へと降りてゆく。
    <いくつもの小さな船室や、つぎつぎ現れる小階段や、たえず脇へそれていく廊下や、書物机がぽつんと放置されている空き部屋(P6)>を巡り歩いているうちに迷子になったカールくんは、ある部屋で船の火夫に会う。火夫が言うには、上司に働きに見合わない安月給でこき使われて人間としても屈辱的扱いを受けていると知って「船長にねじ込みましょう!ヽ(`Д´#)ノ 」と、火夫を連れて船長室に乗り込んでいく。
    …なお、青年に預けたトランクは「もう上に上る道がわからないし、時間も経っちゃったし、結果的に失くしてしまった、あーあ」という態度。いや、勝手に預けたのはあんただろう、当然傘のことはとっくに思案の外。
    船長室には、船長の他に士官と、役人と、ステッキを持った紳士がいた。上司から火夫へのパワハラを訴えるカールくん。しかし肝心の火夫は口下手な上、当該の上司から「あいつの勤務態度が悪いんだ」と反駁されてしまって、なんだかカールくんの空回り。そこでステッキを持った紳士がカールくんに話しかけてくる。紳士はエドワード・ヤーコブという上院議員。なんと、カールくんの母の兄、つまり伯父さんだったのだ!いわゆる「米国に渡って消息不明となっていた親族はアメリカで大成功していた」の実例。火夫の訴えの場は、エドワード・ヤーコブの乱入により「親族の感激の対面」となった(伯父さんの本名はヤーコプ・ベンデルマイヤーのはずで、カールくんは改名したのかと訝しむ)。そしてカールくんはヤーコプ伯父さんに身元引受人になってもらってアメリカ生活を始めることにする。
    火夫など最初からいなかったようだ。ヤーコプ伯父さんは火夫の代わりになっていれるのだろうか?それは疑わしいことだった。


    【第二部 伯父】
    伯父さんの家で恵まれた生活を送っているカールくんくん青年。NYのマンションのベランダで外を見ながら<この騒然とした ニューヨークの街をぼんやりと眺めて暮らすなどのことは、旅行者には許される。(中略)しかし、こちらに住み着く人間には身の破滅になりかねない。(P48)> カフカはアメリカに行ったことはないので、このあたりは想像で書いたんですよね。
    この章はあまり話が進まない。
    伯父の事務所の様子が書かれるが、挨拶は禁止であり、機械も多く、回転式の抽斗?などなんか機械的で人間味が感じられない。「代理業」「仲介業」をやっているらしいが詳しくはわからない。
    カールくんくんは、伯父さんのビジネス友達のポランダー氏、グリーン氏、そして社交界の付き合いとしてマック氏と知り合う。
    私はカフカ原作の映画、オーソン・ウェルズ監督の『審判』を見たことがあるんだが、この映画で「静かな廊下の扉を開けたら部屋の中は大騒動」「オフィスに机がずらーーーーーッと並んでいてただただ仕事している非人間的な描写」があるんだが、それを思い出しながら読んだ。

    【第三部 ニューヨーク近郊の別荘】
    第二部で、カールくんは伯父さんのビジネス友達のポランダー氏の別荘に招待された。なぜかかなり嫌な顔をする伯父だが、カールくんはぜひともというポランダー氏の誘いを受ける。
    ポランダー氏の別荘には、娘のクララがいる。そしてやはり伯父ならびにポランダー氏のビジネス友達であるグリーン氏も来ている。
    最初はこの招待を楽しもうとしたカールくんだが、グリーン氏の態度、そしてクララの態度にどんどん腹が立ってくる。しかもクララとマック氏は結婚しているらしい?家に帰って伯父ともっと親しくなろうと決意するカールくんをグリーン氏が「24時まで待ちなさい」という。
    そして24時に、カールくんがグリーン氏から渡されたものは…。

    …おお、なんか面白くなってきた、つまりカールくんがややこしいことになってきた 笑
    この章は、カールくんの心境の変化や、グリーン氏やクララのカールくんへの態度が不条理なんですが、私がこの本を「カフカだ」と意識しすぎて読んでいるせいか不条理を受け入れてしまっています。
    建物がどれも迷路的に書かれていますね。一章の船、二章のヤーコプ伯父の事務所やマンション、そして三章ではポランダー氏の別荘。
    ちょいと笑える描写もある。若い女性クララとロマンスみたいなものが始まるのか?と思ったら真逆で、カールくんはクララに柔術で抑え込まれてしまうし、夜中の12時に鐘が鳴るし、一章で紛失した傘とトランクが戻ってきて帽子も追加されるし。

    【第四部 ラムゼスへの道】
    行く宛もないカールくんは食堂兼宿屋で二人の男と同部屋になる。すでにベッドに入っている彼らに「お名前と国籍を教えてくれませんか」と問う。この二人はアイルランド人のロビンソン、フランス人(色黒ということなのでアルジェリア系とか?)のドラマルシュ。NY郊外バターフォードに仕事を探しに行くという。カールくんは彼らと一緒に行くことにする。
    前章の最後を読み、ついにカールくんは自立するか!と思ったんだが、まったく自立していなかった(苦笑)。労働者二人と行動をともにしながらも、自ら「カモでーす」丸出しのうえ、信用しているんだかしていないんだか、行動も考え方もなんとも中途半端。
    結局食べ物を買いに行った(もちろん全額カールくん支払い)ホテルの女中に誘われて、一人でホテルに向かうことになった。二人の労働者には持ち物を泥棒されて喧嘩別れでありながらも「そっちが謝るなら許すよ?」という態度で…大丈夫か、だから舐められるんだぞ。
    この章は、「移民国家アメリカ」なのか、多国籍になってきた。カールくんが二人にまず「名前と国籍」を聞くとか、アイルランド人は信用がならないといわれているが、カールくんにはアイルランド人のロビンソンのほうがなんか親しみを感じたとか、そして二人からは「これがドイツ人野郎ってもんだ」と言われるとか…、当時の各欧州国家のイメージなのだろうか。
    ホテルの女中はカールくんを純粋に心配しているようなのでホテルに移ったのは良かったけど、しかしカールくんの人を見る目はないというのは今まで散々書かれてきたので、この先大丈夫なんだろうか。
    この話の不安定さは、章ごとに何かを無くしたり違うものを手に入れている、「所有物の揺れ」に、も現される。
    この章では家族との繋がりも少し出てきた。カールくんをアメリカに追いやった両親はカールくんに「手紙を書け」と言った。母は心配してトランクに食べ物を持たせていた。カールくんのトランクには家族写真が入っていた。そしてカールはNYから離れることを「港に近いNYから離れることは、故郷に帰りずらくなること」ことで躊躇っている。
    <カールはあれやこれや、故里のことを思い出した。いおのままNYを出て、内陸部に入ってしまって良いものだろうか。NYは海に面しており、いつ何時でも故里目指して出発できる。(…中略…)故里に帰ることを思えば不便なところの方がいい。余計なことを考えず。しっかり働いて、何かを掴むことができるだろう。(P120)>
    …ところで、この章の「ラムゼス」ってどこ?

    【第五章 ホテル・オクシデンタル】
    前章題名の「ラムゼス」は、ホテル・オクシデンタルのある村の名前だった。
    カールくんはロビンソンとドラマシュと分かれてホテル・オクシデンタルのエレベーターボーイとして働くことになった。
    この章は案外平穏。調理主任の中年女性や秘書娘のテレーゼに面倒を見てもらっている。カールくんは女性からは心配されたりちょっかい出されたりするタイプなのかもしれない。レネルというアメリカ人先輩エレベーターボーイともまあうまくやれるようになった。
    それでも、エレベーターの上昇下降ではスピード感もあり違う世界を行き来ししているかのように感じ、またエレベーターボーイ共有寝室のごちゃごちゃぐたぐたした様子が自分と他人との境界が曖昧になる。
    その反面、テレーゼが身の上、幼い頃に母が亡くなった話を語るあたりはこの『失踪者』のなかでは異質なくらいに情緒的だった。

    カールくんの年齢で疑問。冒頭で「17歳」と書いてあるが、この章では「来月16歳になる(P150)」と言っている。この『失踪者』は未完で終わったのでカフカもいくつかのバージョンを考えていたのかな。
    ※読書会ではカールくんは15歳の顔、16歳の顔、17歳の顔それぞれ持っていると思って読んで良いのでは、という意見と、当時の15歳はいまより年齢が上だったはずだから大人扱いだという意見をいただきました。

    【第六章 ロビンソン事件】
    第五章でちょっとは落ち着いたカールくんくんだが!このまま落ち着くことはなかった!しかしカールくんも対応が悪い!カールくんのあほーーーヽ(`Д´)ノ
    第三章で知り合い、カールくんをカモにした二人組のうちアイルランド人ロビンソンがホテル・オクシデンタルに現れカールくんに金をねだる。このときのカールくんの対応が非常に悪かったために、不祥事を起こしたエレベーターボーイとしてホテルをクビになる。
    会話も噛み合わないしホテルの上司たちからは目をつけられている。しっかりしろカールくん!と思いつつ、前章で「カールくんは今15歳?」と判明したので、この対応の悪さもちょっと仕方ないかと同情するようになった。

    全章に機械的というか非生物的な描写がある。この章では門衛主任の部屋で六人の門衛がいて六台の電話があり、一人が電話を取ると次の人に回していっている。この場面は人も機械も多いのになんだかとても無機質な感じがした。
    そしてカールくんがロビンソンとともに乗った車は町に呑み込まれていく。

    ※読書会ではカールくんは15歳から17歳の顔を持っているとしたら、ロビンソンやドラマシュはいくつなんだろう?という話になった。登場したときは、二人のほうがカールくんより年齢が上だと思っていたけれど、もしかしたらカールくんと同じくらいの年齢の浮浪児青年かもしれない。この三人の関係は「年下無防備旅行者をカモにした」のか、「若いもん同士の絡み合い」なのか?
    ※前章までは「不条理」だったけれどこの章は「理不尽」。

    【第七章?】P224〜これ以降は章題もない。カフカのメモという感じ。

    第六章でホテルオクシデンタルを追い出されたカールくんとロビンソンだが、タクシーから降りるときに支払いで騒動を起こして警察沙汰になってしまう。それを収めたのはドラマシュ(色黒フランス人)だった。どうやらドラマシュは歌手ブルネルダの愛人(ヒモ)、ロビンソンは召使いになっているようだ。そしてブルネルダとドラマシュの暴君ぶりが嫌になったロビンソンが「代わりの召使いとしてカールくんを連れてこよう」とホテル・オクシデンタルに現れたらしい。ということは第六章の騒動は計画されたものだった!第六章読んだときはカールくんの対応の悪さが目立っていたが、どうやっても逃れられなかったのね。
    本書には迷宮じみた建物や、人間の匂いがしない機械仕掛けの道具が出てくる。この章の舞台であるアパートも「狭くて長い通路、いくつかの中庭、一つの階段を登ると他の階段がありそれぞれがほんのわずかずつ方角がズレている」ので、自分がどこに向かっているのかも、どこに行くのかもわからない構造になっている。
    カールくんは「召使いなんてバカにするな」と突っぱねようとするが、アパートに閉じ込められてしまう。
    そしてアパートの下の道路では選挙活動によるカーニバルも行われている。しかし閉じ込められているお陰でその騒動もなんか遠い出来事のように感じられる。

    <まわりで何が起きているのか、もうさっぱりわからない。P272>(ドラマシュの台詞)
     主人公を振り回している男に分からないなら、主人公にも、読者にはもっとわからないよ!笑

    アメリカに着いてからのカールくんは、行き着くまま、流されるままのところがある。しかしこの章の最初では、逃げようとしたり出ていこうとしたり意思を見せる。ロビンソンの泣き言には
    <きみをバカにした人の言ったことは信じて、ちゃんとした人間の言うことは信じないんだね P263>
    とエラソーなことが言えるようになっている。

    それでも徐々に流されていく。身一つで外に出たってどうしようもない、ここを足がかりにしてから出たほうがいいのかな。
    そして閉じ込められてたブルネルダのバルコニーで、カールくんはお友達??ができた。隣のバルコニーで勉強をしている学生のヨーゼフ・メンテルさんだ。
    冷静なヨーゼフさんとの会話場面は、この小説始まって以来やっと言葉が通じるまともな会話が交わされた!!
    ヨーゼフさんをみてカールは、ドイツの両親の家にいた頃を思い出したり、本当は勉強したかったんだよなってことを考える。しかし故郷でできなかったことを今の自分が異国でできるだろうか。

    ※読書会で他の方が持っている版では「隠れ場所」という章題がついているらしい。その章題はカフカではなくて出版した友人が付けたもの。
    ※ところどころドタバタコメディ要素というか落語要素がある。カフカは不条理理不尽で書いたのではなくて笑いながら書いたのかもしれない?実際にカフカ自身は『変身』を音読しながらゲラゲラ笑っていたそうな。

    【起きろ起きろの章】P298〜
    ※読書会で「この章は章題がないので『おきろおきろの章』と呼ばれています」とのこと。

    ブルネルダの召使いになることを決めたカールくん、ここに留まると決めたならば仕事を覚えよう。仕事といってもブルネルダとドラマルシュのわがままの相手をして振り回されるっていうことなんだけど。
    起きてすぐの仕事はブルネルダをお風呂に入れて洗うことなんけど、なんだかもうぐっちゃぐちゃ。
    ブルネルダたちはアパートでも騒動を起こす爪弾きもののようだ。カールくんが調理場に料理をお願いしに行っても相手にされない。何しろもう午後の4時なのに「朝食を作ってくれ」というんだから料理人に相手にされないのも当たり前だ。こんな感じで、昼近くに起きて、部屋で大騒ぎしてドラマルシュとブルネルダが癇癪起こして、部屋が散らかりまくっているうちに時間が立つという生活をしているようだ。
    カールくんもすっかりその一行に馴染んでしまったのか、時間感覚も世間の人との感覚もズレてしまっている。自分の要望を押し通し、食事でも量をぶんどることにそれほど嫌悪感を見せていない。読者としては「ずいぶん馴染んじゃったが、流されていたカールくんが自分の意志で残ったんだよね」という気持ちはする。

    ※読書会で「ジブリ」「ブルネルダの身体がデカすぎる、怪物か?」という意見が出て、すっかり「千と千尋」の映像が浮かびました。
    ※ブルネルダを洗う場面も、朝ごはんを整える場面も、形は整えているのに扱いはぞんざいと感じた。

    読書会メンバー総意:カフカの小説は考察してもお手上げ\(^O^)/

    【断片】
    章の題名もないいくつかのエピソード。カフカはこれを本編とどんなふうに繋げるつもりだったのだろう?
    「警察に示す書類」「身分証明書」が出てくるのだが、アメリカ人の証明のようなものかな。だからカールくんは持っていない。

    断片①ブルネルダの出発
    ある朝カールくんは病人用の手押し車にブルネルダを乗せてアパートを出発する。なぜ、どこに行くかは書かれない。ブルネルダの身体が巨大ということは書かれていて、読書会でも「バスルームの場面は、千と千尋の神隠しみたい」という感想が出ました。いままでは室内の出来事だったのでまだ大袈裟に書いているだけかなと思ったのですが、この断片では大きすぎて一人では移動できず手押し車(リアカーのようなものを想像した)を押してもらわないと動けない。それでアパートの階段を降りるだけで2時間かかる。外に出てもブルネルダが「人に見られるのは嫌」と恥じるので、隠しながら進む。
    目的地の建物に着いたら、管理人からは「よくおいでになりました」と迎えられ、ブルネルダも快く迎えられたらしい。なにしにきた?

    断片②
    街角のポスターを目にするカールくん。「オクラホマ劇場で要員募集!クレイトン競馬場で選考会実施!」そこでカールくんは行ってみることに。このオクラホマ劇場は世界で一番大きな劇団であり、とにかく巨大な組織として書かれる。どの街にも宣伝隊がいて、常に人を募集して選考会だけで丸一日(子供や赤ちゃん連れも参加して、全員雇う)、多くの窓口をたらい回しされ、多くの人々をかき分けて多くの窓口をたらい回しにされ、膨大な料理が振る舞われる。
    まるで世界中の人すべてを参加させるような組織で、「もしかして私もオクラホマ劇場の一員なのか?」と思ってしまう。
    カールはオクラホマ劇場で、ホテルオクシデンタルにいたファニーと、ジャコモと再会する。二人も転職していた。


    断片③
    オクラホマに向かう二日二晩の電車の旅で、カールくんはアメリカの大きさを実感した。山岳地帯の崖と渓谷を通り抜ける。水の冷気を感じたという場面でこの断片、この小説は終わり。

    ===
    この小説は映画化されていたんですね。映画ではオクラホマ劇場に一員として、オクラホマに向かう場面で終わっているらしい。
    「階級関係-カフカ「アメリカ」より-」
    https://eiga.com/movie/42151/
    フェデリコ・フェリーニが、カフカを撮ろうとする、という映画もあるんだって。
    https://www.kinejun.com/cinema/view/11879


    この断片集ではカールくんが身体も心も身軽に感じた。本編でも度々書かれていた、人がいっぱい、町を行ったり来たり、ややこしい建物をぐるぐるまわるというのは断片でも書かれるが、閉塞感はなくて読み物として「どんな建物だー」などと楽しく読めた。
    カールくんは、オクラホマ劇場選考会では偽名を語る。自分で勤め口を得て満足する働きをしてから本名を名乗りたいという。カールくんは名前も変えてアメリカにまじろうとしている?
    カールくんは私が感じたように自由になったのだろうか。ファニーやジャコモに対しても頼もしく接しているように感じた。ブルネルダたちは全く出てこないので、召使から抜け出したのか、ブルネルダのところに行かなかったという流れも考えていたのか?

    最後の断片は、不可思議な描写はあったけれどなんだか普通の青春小説のようだった。
    カールくんが「失踪者」から「アメリカに根ざした人」になっていくのか。それはらカールくんの「失踪者」は終わりこの後は、アメリカ人になったよ、と思えば、「失踪者」としては物語が終わったのかもしれない。

    ※読書会で。
    オクラホマ劇場の章が一番好き。ぐるぐる回っていたのがラストですーーっと抜けた感じ。ラストのカールくんは(私の発言「失踪者でなくなりアメリカ人になった?」に対して)「または本当に失踪仕切った」のかな?と思った。偽名だし、いままでこだわっていた荷物や服のことも全く気にしていない。カールくんは広大なアメリカに完全に失踪した。
    ⇒カールくんが、我々読者から、登場人物から完全に失踪したとしても、カールくんの自分の意志でがあるなら彼のその後はそんなに心配せずにいられる感じがします。
    ※人生とはこんなふうに断片のつながり。ちょっと出会ったり離れたり。幸せでもあり不幸せでもある。
    ※未完小説だが読後感は良い。

  • かつては「アメリカ」のタイトルで出版されていたカフカ未完の長編。ドイツ人の少年カールはメイドを妊娠させた咎でアメリカへと追放される。船旅の終わりに巻き込まれる奇妙な火夫と船長らのいざこざは、独立した短編「火夫」としても発表されているらしい。その船上で金持ちの血縁ヤーコブ叔父さんに思いがけず見出されたカールは、しばらくは叔父さんの許で英語やピアノ、乗馬のレッスンに励むが、ある日叔父さんの友人グリーン氏とポランダー氏、その娘クララらの策略(?)で、叔父さんに捨てられてしまい・・・

    ここからカールの終わりなき彷徨が始まる。なりゆきで同行することになったフランス人ドラマルシュとアイルランド人ロビンソンは最初は親切だったもののそのうち本性を現したので喧嘩別れ。親切なホテルの調理主任に拾われてエレベーターボーイとして働きだすカールだが、ドラマルシュらとの腐れ縁が切れずホテルもクビにされてしまう。ドラマルシュは肥満した元歌手ブルネルダのヒモのような生活をしており、召使としてこき使うためにカールを軟禁。それでもカールは真面目に働こうとするところで物語は途切れている。

    基本的にはカフカらしい不条理満載の物語なのだけど、登場人物が皆ちょっとづつ変で、しかしその異様さは、不条理を通り越して逆に「現実にこういう人いるいる」感もあって怖くなった。カール少年は、賢いようで抜けているし、しっかりしているけど騙されやすい。でも基本的には働き者で、与えられた任務を全うすることに喜びを感じるタイプっぽい。不本意な仕事を押し付けられながらも、少しでも効率よくそれをこなそうと考えるあたりは前向きなのだけど、いかんせん流され体質なのでもどかしい。

    カールその後のエピソードと思しき「断片」も収録されており、どうやらカールはブルネルダに気に入られて二人で引っ越しをするが、その場面だけで前後はなく、次の断片ではすでにカールは無職でひとりぼっち、劇場の求人募集に応募する。おかしな面接の様子が延々続くもののどうにか採用されたカールが汽車に乗り込んでまた断片は終わる。どうやらこの調子では、カールは終わりなき就職と失業を繰り返していくんじゃなかろうか。これは「労働」に関するなんらかの寓話だったのかしら。

    未完ではあるけれど、そもそもカフカゆえ、完結していたところでスッキリ納得のオチがついていたとも思えず、そういう意味ではぼんやりフェイドアウトしていくこの未完成の感じこそが、一番完成形に近いのかもしれないですね。

    • 淳水堂さん
      yamaitsuさんこんにちは

      一章ずつの連続読書会で、参加者皆さんと読み進めました。
      >未完ではあるけれど、そもそもカフカゆえ、完...
      yamaitsuさんこんにちは

      一章ずつの連続読書会で、参加者皆さんと読み進めました。
      >未完ではあるけれど、そもそもカフカゆえ、完結していたところでスッキリ納得のオチがついていたとも思えず、
      ⇒これ読書会のみなさんも言ってました!最後の「オクラホマ劇場」断片が素敵でこれだけで小説書けそうだし、いままでのぐるぐる回って閉じ込められた感じからすーーっと抜けていくような感じもあるので、これで終わりって言われても納得って。

      >そういう意味ではぼんやりフェイドアウトしていくこの未完成の感じこそが、一番完成形に近いのかもしれないですね。
      ⇒その後に関しては「”失踪者”の物語はここで終わり」という意見も。それには「”失踪者”ではなく”アメリカ人”になった」という私と、「完全に失踪仕切った」という意見とが。どっちにしろラストは案外スッキリしていたからまあいいや。
      2023/12/17
    • yamaitsuさん
      淳水堂さんこんばんは~(^^♪

      読書会されたのですね!東京にいたら私も参加したかったなあ(笑)カフカはとくに、ひとりでぐるぐるしてても...
      淳水堂さんこんばんは~(^^♪

      読書会されたのですね!東京にいたら私も参加したかったなあ(笑)カフカはとくに、ひとりでぐるぐるしてても答えが出なさそうなので、いろんな人の意見を聞くと楽しそうですね。

      「失踪者ではなくアメリカ人になった」というの、なんかわかります。うまくいえないですけど、個が消えて集合の一部に溶け込んでしまう感じ。ただそれこそが「失踪」だという捉え方もできるわけで・・・うーん、奥が深い。
      2023/12/17
  • アメリカ“で”失踪するのではなく、アメリカ“に”失踪する少年の物語。
    私たちを縛る現実というルール。
    それはあまりにも当たり前にそこに存在し、私たちは縛られているという事実すらも忘れてしまいそうになる。
    透明で恐ろしいシステムの内部に組み込まれて生きているということに、私たちはまだ気づいていないのかもしれない。

  • とても不器用かと思うと要領がいい。
    頑固かと思うと従順。
    上昇志向はあるけど、誠実でいたがる。
    すごく矛盾を抱えた言動ばかり。
    正直、この主人公は捉えきれない。
    周りの人の誤解や決めつけ、我田引水もひどいけれど、何を狙ってその言動に至ってるのか想像できる分、まだ理解できる。

  • 本書は、かつては「アメリカ」という表題で知られていたけれども、カフカ自身が予定した「失踪者」のタイトルで、かつ、ブロート編集時には採られなかった草稿、断片も含めての訳出です。
    審判、城とはちょっと雰囲気が違いますね。最終盤で、主人公がふっと異国の地アメリカで消えてしまう〜失踪者になる〜のを、追いかける不思議な物語です。

  • カフカ三大小説の中で、この小説の主人公は唯一、自分の目的と言うものを持っていない。故にカフカ小説の推進力が、もっとも露骨に感じられる。

  • 20世紀文学を代表するプラハ出身のユダヤ人作家フランツ・カフカ(1883-1924)の長編小説、1912-1914年執筆。カフカの死後、友人の作家でありシオニストだったマックス・ブロートが遺稿を編纂し出版する際に『アメリカ』というタイトルが付けられ――そこにはシオニストとしての思想的政治的傾向が本作品の解釈に及ぼした影響があるのだろう――、それ以来長らくその題名で通っていたが、カフカ自身が生前に『失踪者』というタイトルを予定していたことが彼の日記などから明らかとなり、現在ではこの名で呼ばれている。

    故郷を追放された17歳のドイツ青年カール・ロスマンが遍歴する異国アメリカ。そのアメリカを、カフカ自身は生涯訪れることはなかったようだ。ここでアメリカとは、高度に発達した資本主義とそれを実体化して駆動させているヴェーバー的な意味での巨大で無機質で目的合理的なだけの官僚機構の網の目が行き渡った、及びそうした資本主義を可能にする即物的匿名的な殆ど暴力と云ってよい感性が充満し切った、20世紀初頭の近代化した「大都市」の隠喩であろう。そこでは、人間の人間性は、肉体も思考も労働力として商品化され消費され廃棄されるだけである。『失踪者』には、そんな「大都市」の様相がそこここに描写されている。

    「あらゆる事物から発光する光が、すべてを運び去り、また運んでくるぐあいで、眺めていると目がチカチカしてきた。まるで大通り全体を大きなガラスが覆っていて、それがたえまなく巨大な腕で粉みじんに砕かれているかのようだった」「自分と相手と、また世界に向けてのような愛嬌を振りまいた」「こちらではなにしろ、おそろしく事が速くすすむ」「歩道といわず、車道といわず、たえまなく方角をかえながら渦巻状の風が起こり、騒音が追いかけてくる。人間が起こすのではなく、何か見知らぬものから発生する音のようだった」「両側の巨大都市は、すべてが空っぽで役立たずに据えつけられたようで、大小とりまぜた建物にも、どこにも何のちがいもない。地上の道路には、いつもどおり人々の生活があるのだろうが、上はうっすらと靄がたなびいているだけで、それはじっと動かず、ひと吹きで追い払えるようにも思える」

    これらは、ヴァルター・ベンヤミンがゲルハルト・ショーレム宛の『カフカについての手紙』の中で次のように記しているのと符合する「ぼくにいわせれば、この現実はすでに、<個人>にとって経験可能な限界を、ほとんど越えてしまっている」。

    本作品は未完であるとされている。しかし、如何なる結末で以てこの青年の遍歴にピリオドを打つことができるのだろうか。破滅によって? それはただの現実そのものであって小説とするに値しない。救済によって? それは繕う気の無い出来の悪いハリボテの如き欺瞞だ。結末など無いのだ、結末など不可能なのだ。「オクラホマ劇場」が登場する最後の30ページほどの断片部分は、確かにそれまでの水銀のような空気の鈍重さを感じさせることはない。それまでとは明らかに物語の雰囲気を異にしている。そこにはどこか「天使」に手をとられて導かれた理想世界を思わせるところがある。しかしこの「オクラホマ劇場」というものが何物であるのか、どこかチグハグで――資本主義社会機構の戯画を思わせる採用窓口――、どこまでも漠然としていて――「世界で一番大きな劇場よ」――、そしてついぞ明確に語られることはない。語ることができないのだ、語ることができてしまってはいけないのだ、語られた途端それは語ろうとしていた当の何かと決定的に断絶してしまうのだ。

    なぜなら、20世紀という時代精神にあっては、希望は、それに対する諦めが倦怠へと擦り切れてしまったような遣り切れなさの不安を予感させることによってしか、その「冷気」を暗示することによってしか、語ることができなくなってしまったのだから。帰るべき「故郷」など、既に失ってしまっているのだ、予め存在しないのだ。

    よって本作品は、未完であるよりほかに在りようが無かった。

  • ヨーロッパの故郷から単身アメリカにやられた少年が、子供のまっすぐな目線のまま社会の波に揉まれていくその落差にはらはらしつつ、擦れることなく大人になって欲しいといつの間にか見守る気持ちになっていました。人物の描写が特に面白いです。なかなか安楽に辿りつけないけれど、きっとうまく行くよねと脳内補完。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/758477

  • アメリカだか失踪者だか。
    冒頭のシーンが有名な未完作。
    冒頭以外の記憶が薄い。なんか追いかけっこしてたような。

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著者プロフィール

1883年プラハ生まれのユダヤ人。カフカとはチェコ語でカラスの意味。生涯を一役人としてすごし、一部を除きその作品は死後発表された。1924年没。

「2022年 『変身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

フランツ・カフカの作品

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