ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071892

感想・レビュー・書評

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  • 「仮想世界が現実を侵食」というと今っぽいが、そのゲームは、サイコロを転がして行う野球ゲーム、それも、孤独な会計士であるヘンリーが自分で作った自分のためだけのゲーム。

    20歳の新人投手の完全試合とその後の悲劇により、野球ゲームが彼の精神を犯しはじめるさまはなんともユーモラスでありながら悲劇的。(ドラクエのため、バイトも首になり、大学の単位も落とした友人と同じくらい・・・)
    最後にはヘンリーの姿はおらず、野球ゲームは神話的世界に昇華する。
    これはヘンリーが狂気に陥ったため、あるいはゲームを捨てたため?

    解説によると「創世記を土台にしながら冒涜的にデフォルメしている」とのこと。ふーむ・・・。

    脳内の物語に侵されるヘンリーといえば、シカゴのヘンリー翁を思い出さずにいられない。
    60年以上も誰に見せることもなく自分のためだけに、
    『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジャリニアン戦争の嵐の物語』
    の1万5千頁以上の物語と300枚以上挿絵を描きづづけたヘンリー・ダーガ―。

    1993年の世田谷美術館で、観た彼の絵はびっくりした。
    何なのかわからない衝撃で絵の前で茫然としたほど。
    誰にも見せることを目的としない自分のためだけの創作意欲という何かよくわからないパワー。

    ヘンリー・ダーガーについての新刊http://booklog.jp/item/1/458263477Xが「ユニバーサル野球協会」と新刊書として並んでいたのは不思議な偶然。

    誰がサイコロをふったのか。

  • 「待望の復刊!」的な煽り文句につられて、どれどれ…と手に取った1冊。

    原題は“The Universal Baseball Association, Inc., J. Henry Waugh Prop.”。邦題の『ユニヴァーサル野球協会』と照らし合わせると、「ヘンリーなにがしのこれこれ」と表記される、後半が抜かされている。そこにうっすらと「変だなあ」と思いながら読み始める。なるほどなるほど、忠実に訳出してしまうと、出オチ感でいっぱいになってしまうな、これは。読者を引っ張る邦題としてはベリーナイス。

    実をいえば裏表紙に簡単にあらすじが書かれているのだが、ざっくりいえば、これはタイトルにもある、ヘンリーなにがしが企画した、エアプロ野球ゲームを軸にした小説。ヘンリーが本物の野球のゲームをカウチ+ビール+ポテトチップスでテレビ観戦しているというのではない。試合カードを組み、チームを対戦させて、星取表を作って順位を決めていくという、シミュレーションゲーム仕立ての遊びは、今ふうにいえば『パワフルプロ野球(略称パワプロ)』という理解でさほど外れていない(はず)。

    ただ、このチーム設定およびゲーム進行が微に入り細をうがちまくっていて、鬼気迫るものがある。サイコロに割り当てられたアクションと記録ノートですべてを進めるのはシミュレーションゲームの王道だから許すとしても、選手たちにストーリーをつけ、監督やチームオーナーの心情を斟酌しまくり、『メジャー』をはじめとする野球漫画でも見覚えのあるエピソードを織り込みながらシーズン中のゲームが進んでいくさまは強烈でイタい。毎試合、因縁の対決やらルーキーの晴れの舞台やらてんこ盛り。読んでいるうちに、ゲーム展開がわからなくなってきたので、図でも描きながら読もうかとちらっと思ったが、それではヘンリーとやっていることが変わらなくなることに思いあたった。愛情ゆえだと思うが、過剰設定盛り込みすぎで重たい。そりゃひとりでこんなゲームを運営するのは大変だ。寝不足にもなるし、会社でも怒られるのもわかりますよ、同情しないけど(笑)。

    この主人公の、人生をかけた没頭っぷりには、ヘンリー・ダーガーの生涯と作品を重ね合わせる人も多いように聞くけど、私にとっては、ハードにイカレた(賛辞です)W.P. キンセラ『シューレス・ジョー』という印象を受けた。もちろん、『シューレス・ジョー』のほうが時代がうんと下るので、「野球」という夢になんだか変わった方向で突き進んでいく迷走っぷりとしてはこちらのほうが本家かも。うーん、しかし、根っこは同じとはいえ、この作品と、トウモロコシ畑をぶっつぶして野球場を作っちゃう『シューレス・ジョー』のどっちがクレイジーかと聞かれると、畑のほうがスケールがカラッと乾いてでかいかな、とも感じる。いっぽうで、行動の密度が生むクレイジー加減は、こちらのほうがはるかに濃い。

    「人生の中にある野球、野球の中に見出す人生」的に感想をきれいにまとめられる気もするとは思いつつ、そういうあれこれはガツーンとどこかにかっ飛ばされていしまい、「それにしてもアメリカ人、どんだけ野球好きやねん!」と苦笑いするばかりだったというのが、私の率直な読後の感想です。

  • なにかで紹介されていて読みたいと思っていて読んだ本。単なる野球ものではなく、ユニバーサル野球協会はなんと、架空のリーグ。架空のリーグであるユニバーサル野球協会を舞台に繰り広げられる小説。

  •  期待のルーキー、デイモン・ラザフォードは涼し気な顔でマウンドに立っている。完全試合達成まで後少しだってのに、ちっとも動揺した素振りを見せずに!
     そして、クールな表情のままミットへ投げ込むと、アウトカウントがまたひとつ! さあ、完全試合にまた一歩近づいたぞ! スタンドは大歓声を上げる!
     ……といった具合にこの小説は始まるわけだが、実のところ、これらは試合は現実のものではなく、一人の男の脳内にしか存在しないのだった。

     中年会計士ヘンリーは「ユニバーサル野球協会」という、架空の野球リーグをシュミレートする、自作ボードゲームに没頭していた。
     サイコロを3つ振り、出た目によって、ヒットになるか、三振になるか、はたまたデッドボールになるのか……彼の脳内では架空の野球リーグの、架空の野球選手たちがイキイキと躍動し、試合は盛り上がりを見せていた。
     だが、ある試合中におこったアクシデントによって、現実と空想が混同していく……

     ゲームに熱中しすぎて睡眠不足が続いた上に、仕事中もそのゲームのことしか考えておらず、上の空だったためにミスをしてしまい、上司に叱責されるなど、身につまされるものがありますね、ええ。

     ヘンリーは現代日本に生まれていたら、パワプロで延々オーペナ回しているタイプだと思う。

  • 恐ろしい一冊。想像力も際限がなくなると、現実の境界線がどこにあるのか分からなくなる。
    『ユニバーサル野球協会』とは、ヘンリー自身が考案した野球ゲームの架空のリーグ。サイコロ(これは「ダイス」と訳して欲しかった)をころがして、その出た目によって試合の次の展開を決めてゆく。このリーグには8チームが所属し、各チームは年間84試合を戦う。
    架空の世界のゲームなのだが、選手は言うまでもなく、監督やコミッショナーまで人格と個性を持ち、読んでいるそばから、何がヘンリーの頭の中の話なのか、何が現実の世界での出来事なのか、もう分からなくなる。そして、ある試合の中で万にひとつのある出来事が起きてから、この空想(いや敢えて言えば、妄想)と現実の境界がますます曖昧になる。頭のなかで非常ベルが鳴っているようなのだが、それすらもどちらの世界で鳴っているのか分からない。
    本書が書かれた1968年には、もちろん「バーチャルリアリティ」なんていう言葉は存在しなかったはずだ。しかし、ここで描かれているのはまさに「バーチャルリアリティ」だ。これを自分で正しく支配しないと、ヘンリーのように妄想が爆走する。そんなことをこの時代に警告していたのだとすると、その洞察力もある意味恐ろしい。

  • 2018年5月12日紹介されました!

  • [野球「が」人生そのものだ]野球ゲームに没入するヘンリーは、(ゲームの中で)新人のラザフォードが完全試合を達成したことに有頂天となる。しかし、(こちらもゲームの中で)そのラザフォードが死球により命を奪われたことから(こちらは現実の中で)ヘンリーは鬱状態となり、復讐のために(ゲームの中で)恣意的な操作を加えようとするようになる......。現実と虚構の境目を曖昧にした小説作品です。著者は、ポストモダン作家を代表する一人と言われているロバート・クーヴァー。訳者は、同著者の作品である『ジェラルドのパーティ』等の翻訳も手がけられている越川芳明。原題は、『The Universal Baseball Association, Inc.』。


    奇想天外なストーリーに見えますが、音楽や映画、そしてドラマ等を見てその登場人物に心を重ねたり、ともすれば言動や行動を引き写したりした体験が誰しもあるのではないでしょうか。(もちろんヘンリーばりに影響を受けることはまずないでしょうが)そんな経験に思い当たる節がある方には、ぜひぜひオススメの一冊です。


    どうやってこの話に結末をつけるのだろうと思いながら読んでいたのですが、ラストはあっと意表を突かれると同時に、読後は「それしかないかも」と思わせるものでした。それにしてもこの現代的な内容を持つ作品が、60年代末という時代に生まれていたことに驚かされました。

    〜だが、「辞める」とはどういうことなのか? 野球をか? 人生をか? それらを区別できるのか?〜

    パワプロのサクセスモードで久しぶりに遊びたくなった☆5つ

  • BSフジ「原宿ブックカフェ」のコーナー“コンクラーベ”で登場。
    http://harajukubookcafe.com/archives/971

    下北沢B&B 黒川安莉さんが宇梶剛士さんにプレゼンした1冊。
    『野球が大好きで高校時代野球部に所属していた宇梶さんにご紹介したいのはこちらです。』(下北沢B&B 黒川安莉さん)

    残念ながら、結果は惜敗!宇梶剛士さんの今読みたい本には選ばれませんでした。。

    原宿ブックカフェ公式サイト
    http://harajukubookcafe.com/
    http://nestle.jp/entertain/bookcafe/

  • 1968年刊行のポストモダン小説の新装版。野球ゲームの仮想世界に生きる男。ある日、野球ゲームの試合で事件が起こることで現実と虚構の境界が崩れていく。アメリカ社会における様々な問題をメタファーに物語は複雑になる。

  • 【ネタバレあり】かなり前から存在は知ってたんだけど絶版で手に入らなかったのがやっと読めた。脳内野球リーグを作り上げた男の虚構の野球リーグと現実の境目があいまいになるとか、オタクがその世界に他人を招こうとしてエラい目にあうとか極めて現代的。原書出版が45年前とか信じられん。で、壮大な脳内野球リーグにハマり過ぎて仕事をクビになる男の名前がヘンリー。偶然なんだろうけど、非現実の王国でのヘンリー・ダーガーを思い出す。現実には冴えない中年〜初老の独身男、ひとたびアパートに帰れば壮大かつ現実よりよほど強固で、自分の自分による自分だけのための王国が待っている。ただ、2人のヘンリーが違うのは、ダーガーは死ぬまでこの王国を誰にも見せなかったのに我らが主人公ヘンリーは友人を自分の王国に招待してしまい、ヒドい目にあう。小学生の頃、転校したばかりの学校で新しくできた友人が自宅に遊びに来て、大事にしていたNゲージでレースをされたこととか思い出したりして泣きそうになる。うむ、今こそ読まれる価値があるはず。すべての野球データマニア、すべてのオタク必読の書。

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著者プロフィール

1932年生まれ。トマス・ピンチョン、ジョン・バース、ドナルド・バーセルミらと並び称される、アメリカのポストモダン文学を代表する小説家。邦訳に、『ようこそ、映画館へ』(越川芳明訳、作品社)、『ノワール』(上岡伸雄訳、作品社)、『ユニヴァーサル野球協会』(越川芳明訳、白水Uブックス)、『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』(斎藤兆史・上岡伸雄訳、作品社)、『ジェラルドのパーティ』(越川芳明訳、講談社)、『女中(メイド)の臀(おいど)』(佐藤良明訳、思潮社)、「グランドホテル夜の旅」、「グランドホテル・ペニーアーケード」(柴田元幸編訳『紙の空から』所収、晶文社)、「ベビーシッター」(柳下毅一郎訳、若島正編『狼の一族』所収、早川書房)などがある。



「2017年 『ゴーストタウン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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