カエサル(下)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560082300

感想・レビュー・書評

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  • 本文だけで350ページ以上あるため、なかなか手を出せずにいたら、上巻を読んでから3年近く経ってしまった。カエサルというたった一人の人物について書かれた本だというのに、これほどまでに長いのはカエサルが凄いのか著者が頑張ったのか。おそらくその両方だろう。ちなみに同じシリーズのアウグストゥスは1冊で終わっている。彼のほうが寿命も活躍した期間も長いのだが。

    本書を読むと、カエサルといえども連戦連勝というわけではなかったことが分かる。ガリアでも内乱でも、個別の戦いでは負けたことがあった。また、負けはしなくても命の危険があったのも一度や二度ではない。にも関わらず最終的に勝利を納めるところが、カエサルの凄いところなのだろう。

    しかし、天文学的な借金を始めとする、カエサルの掛け金の釣り上げ方には呆れてしまう。勝ったから良かったものの、もし失敗していたらそこで終わっていただろう。カエサルの偉業は、莫大な掛け金によるギャンブルに勝ったことによって成し遂げたものなのだ。

  • 先見の明のある偉人か、法を無視して権力を独占した野心家か。陰謀と暴力に彩られた政治抗争の時代を生きた現実主義者カエサルを、彼自身の言葉に基づき、等身大の人間として検証する。

  • 読書日:2012年12月1日-17日
    Original title:CAESAR The Life of a Colossus.
    Britania遠征から暗殺の最期までが詳細に描かれています。
    塩野著『ローマ人の物語』では気付けなかった事が改めて解りました。
    暗殺者はCaesarを慕っていた人が殆どという事に驚きました。
    暗殺されずに生涯を全うしたらローマ帝国はどう在り続けたかと思わずにはいられません。

  • 古代ローマ共和制では有力者たちが自らの社会的影響力¨権威¨をかけて激しい競争を繰り広げてきた。

    権威を高めるためには軍事的勝利が一番と言うので、彼らは外部勢力との戦いを繰り返した。

    ローマがその勢力範囲を広げるにつれ、戦場は遠く離れ、兵士としてその戦いに参加していた農民たちは長期間にわたり自らの農地の耕作を放棄する事になった。

    そしてその結果、彼らは極貧状態に陥った。

    一方、有力者たちは公職をめぐる選挙において、自らの名を高めて選挙戦を有利に運ぶ為、私的資金によって公共建築物を建設し、それをローマ社会に寄付した他、様々な買収行為も行ったが、徐々に前任者を上回る業績を上げるのが難しくなってきた。

    また、選挙戦にかかった莫大な資金を回収しようと、公職任期終了後に赴任した属州(植民地)において現地住民を絞りたてると言う問題も発生していた。

    この問題は認識されていたものの、ライバルに自分よりも大きな業績をあげさせまいと有力者たちが牽制しあった結果、彼らは、誰かが社会問題を解決して大きな業績をあげるよりも、問題を放置する方を選ぶようになり、共和制は大きな行き詰まりに直面していた。

    そして、勝者が敗者を徹底的に粛清する血みどろの内戦の時代に突入した。


    カエサルが生まれ育った時代とはこの様なもの。
    彼はこの混迷の時代において権威を求め、権力への階段 ー 一度登ると決して安全には降りれなく、身の安全のためには登るしかない。しかも登れば登るほど更に登らなければいけなくなる ー を登り始めた。


    本書はそんなカエサルの生誕少し前からその死まで、彼の56年の人生を記したもので、
    内戦により多くの有力者が死に絶えたローマにおいて、ライバル達とともに自らの権威を求め、競い、ローマにおいて絶対的な存在となるものの、最後には彼の存在を危惧した有力者たちに暗殺されると言う彼の人生の軌跡を描ききっています。

    塩野七生さんの「ローマ人の物語」以降、日本においても高く評価されることが多いカエサルも、本書においては、(多くの業績もあげてはいるが)¨致命傷¨になり得た過去の失敗から何も学ばなかったと言う、かなり弁明の余地のない失敗をおかしており、2度目におかした同じ様な失敗も(1回目の失敗同様に)致命傷にならなかったのは、ただの幸運と懸命のリカバリーによるものと言う姿も描かれています。


    歴史上、何らかの失敗により人生の途中で表舞台からその姿を消した人物は多くいます。

    私たちは、その人物たちを、その失敗から半ば反面教師的に受け止める場合があります。
    そして、同時にカエサルのような人物とその業績を高く評価します。

    しかし、両者の間に人としての質に何かしらの違いがあったのか?
    また、カエサルですら、弁明の余地がなく、しかもそれが致命傷になりかけた失敗を繰り返したのだから、大切なのは失敗をしないことではなく、失敗からのリカバリーと幸運ではないか?

    本書はこの現実に気づかせてくれる本でした。


    原著の著者が本書の冒頭で述べている様に、本書は大著です。
    著者の経歴に触れると、オックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジにおいて古代史の博士号取得後、大学で教鞭をとり、日本でも「図説 古代ローマの戦い」や「古代ローマ軍団大百科」により、古代ローマ軍事史の専門家として認知されています。

    #「図説 古代ローマの戦い」については以前読んだことがありますが、上記の「ローマ人の物語」(塩野七生著)と一緒に読むと読み応えがあります。

    本書は著者の専門家としての知見や能力が随所に注ぎ込まれており、また、史料がなく不明な箇所については率直にその事を述べ、自らの考えを読者に提示している等、その内容に信頼をおけるものとなっている様に思えます。
    従って、この古代の英雄に興味をお持ちの方であれば、かなりおすすめな本です。


    (繰り返しになりますが)上記の通り大著(上下巻あわせて本文だけで約740ページ。その他、各巻の巻末に原著者による注約、及び下巻巻末に索引、参考資料のリスト、用語集、年表など)であり、読了まで時間がかかるかと思いますが、同時にそれだけの価値は十分にあるとも思います。

    興味をお感じになられれば、是非一読を。

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著者プロフィール

1969年生まれのイギリスの歴史家。オクスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジで学び、キングズ・カレッジ・ロンドンなどで客員教授を務めたのち、著作に専念。古代ローマとローマ軍事史の専門家として知られ、他に『カエサル』(白水社)、『図説 古代ローマの戦い』『古代ローマ軍事大百科』(東洋書林)などの著書がある。

「2019年 『古代ローマ名将列伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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