通話 (EXLIBRIS)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090039

作品紹介・あらすじ

『通話』-スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と"僕"の奇妙な友情を描く『センシニ』、第二次世界大戦を生き延びた売れないフランス人作家の物語『アンリ・シモン・ルプランス』ほか3編。『刑事たち』-メキシコ市の公園のベンチからこの世を凝視する男の思い出を描く『芋虫』、1973年のチリ・クーデターに関わった二人組の会話から成る『刑事たち』ほか3編。『アン・ムーアの人生』-病床から人生最良の日々を振り返るポルノ女優の告白『ジョアンナ・シルヴェストリ』、ヒッピー世代に生まれたあるアメリカ人女性の半生を綴る『アン・ムーアの人生』ほか2編。

感想・レビュー・書評

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  • ポラーニョ短編集。
    いくつかの話で「野生の探偵たち」(http://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4560090084)に出てきた”アルトゥーロ・ベラーノ”、
    「2666」(http://booklog.jp/users/junsuido?keyword=2666&display=blog)の”アマルフィターノ”の名前が見られる。
    特に”アルトゥーロ・ベラーノ”は、作者自身が自分の分身として語るときの人物像なのだろう。

    ★★★
    【1. 通話】
    おもに新人作家が語り手となった作品集。


    作家として身を立てようとする”僕”と、尊敬する作家センシニとの文通による交流とその終わり。
     /「センシニ」

    アンリ・シモン・ルプランスは”王子”(ルプランス)の名前とは正反対の冴えない男。
    売れない作家の彼は、戦時中に亡命者の逃亡に携わる。彼は人を不快にさせる何かを持ち、まるで透明人間のように印象に残らない。そんな彼の物語。
     /「アンリ・シモン・ルプランス」

    詩作を通して知り合った”僕”とエンリケ・マルティン。彼とは交流したり離れたり。そして何年も経ち、彼の事を聞いた。
    /「エンリケ・マルティン」

    作家のBは、自分の作品で作家のAを揶揄し批判する。
    しかしAはBの作品を褒め続け、そしてついにBはAとの対面を…
     /「文学の冒険」

    B(男)はX(女)に不幸な恋をしている。前途多難で愛憎相半ばする。遠く離れてもBはXに電話を掛ける。精神不安定なXはBの電話をどのように受け取っていたのか…
     /「通話」

    【2. 刑事たち】
    ヤクザもの、クーデターに巻き込まれた男の話など。


    ストローハットにパリ煙草をくわえた彼はまるで芋虫。彼とは通りで知り合った。彼は北部の出身。そこの生活はまるで自分の躰を丸のみにする蛇のようなんだ。
     /「芋虫」

    ギャングの使い走りの男の過去語り。
    今の生活は悪くはないが、でも何かが違う、何かが懐かしいんだ。
     /「雪」

    第二次世界大戦で、ロシア兵に捕まったスペインの男が助かることになった”一言”とは。
     /「ロシア話をもう一つ」

    殺人者から守って、という女たちと山小屋に籠ったウィリアム・バーンズの過ごしたある一夜、そしてその後…。
     /「ウィリアム・バーンズ」

    俺たちはクーデターの時には収監者たちを拷問したり、補導された娼婦たちと”暇つぶし”をしたりしたさ、でも俺たちは愛国者だ、ひどい事なんてするもんか。
     /「刑事たち」


    【3. アン・ムーアの人生】
    波乱と放浪と挫折の女性たちの人生が描かれた短編4つ。
    「野生の探偵たち」では多くの人物がほんの数ページで自分の人生を語っていました。おそらく背景にはいろんなことがあったであろう人の一生を短編で語るのはこの作者の特徴でしょうか。


    僕とクララは毎晩セックスをしていた、別れても完全には離れられない、彼女が病んでも、自分の身に危険を感じても、彼女から完全に離れられない。
     /「独房の同志」

    18歳の頃のクララは天使のように美しく気紛れだった。
    それから20年、彼女に降りかかった挫折と時間。
     /「クララ」

    私の名前はジョアンナ・シルヴェストリ。ポルノ女優。入院中の私はある人物を探る探偵に人生を語っている…。
     /「ジョアンナ・シルヴェストリ」

    シカゴで生まれたアン・ムーアはその後世界を放浪する。
    多くの男、多くの仕事、麻薬、別れ、精神不安定。
    僕は彼女とメキシコで知り合った。彼女が若い頃に出逢っていたら本気で恋していただろう。
    彼女はアメリカに戻った。もう僕には彼女の人生を辿る術はない。
     /「アン・ムーアの人生」

    ★★★

  • 初ボラーニョ。とてもよかった。これはものすごく好きだ。乾いた淡々とした語り口は、冷たくはなく穏やかで、品がある、というのとはちょっと違う、何だろう、ありきたりな言い方だけど、美しいと思った。ボラーニョ・コレクションが刊行され始めた時点で読めたのは、幸運かもしれない。全部買う。

  • 短篇集。
    読み始めてすぐに、あぁ、この作家は好きだ、と思う。
    柔らかでナイーブな語り口、時折のぞくユーモア・・・・

    冒頭の「センシニ」にまず心を掴まれる。
    スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と40歳も年下の若者との、文通を介しての友情を描いた作品であるが、淡々とした語りのなかに、一度も顔をあわせることのなかった年上の作家への深い敬意と、不如意な生活に対する悲しみとが切々と感じられ、胸うたれる。

    病床にあるポルノ女優が過去を回想する「ジョアンナ・シルヴェストリ」は、彼女が時々使う下品な言い回しにもかかわらず、不思議な光に包まれているような穏やかさに満ちた美しい一篇。

    つかの間の交情の後、すっと通信圏外に去っていってしまうような人々との関わり方も含め、ちょっとしたことで簡単に狂いだしてしまうような当てにならない人生。
    そんな人生の掬い上げ方がとてもいい。

    また、かつて恋人であった女性が癌にかかったことを知らされ泣き出してしまうほど悲しみに暮れている語り手に、その直後日常の瑣事に気をとられた際、彼女のことを一瞬忘れていたこと、“そうした忘却がもはや止めようもないことを悟った”(「クララ」)と言わしめる冷厳な視点もいい。

      Llamadas Telefonicas by Roberto Bolano

  • 【イベント】ロベルト・ボラーニョに捧ぐ
    チリ人作家ロベルト・ボラーニョ(1953-2003)は、現代スペイン語圏文学において最も影響力のある人物とされています。今年没後10周年を迎えるにあたり、《ボラーニョ・コレクション全8巻》が刊行されることを記念し、実際のボラーニョ像に迫るインタビューを収録したドキュメンタリーの上映を行います。その後、ボラーニョ作品の翻訳に携わった野谷文昭氏らを迎え、作家とその作品についてお話を伺います。
    ■日時:2013年9月26日(木)19:00〜
    ■会場:セルバンテス文化センター B1Fオーディトリアム
    □共催:白水社
    □協力:チリ大使館

    下記よりご予約ください。
    http://reservas.palabras.jp/ja/evento/348/ロベルト・ボラーニョに捧ぐ
    http://www.hakusuisha.co.jp/exlibris/2013/09/24/1540.html

    白水社のPR
    「スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と〈僕〉との奇妙な友情を描く「センシニ」をはじめ、心を揺さぶる14の人生の物語。ラテンアメリカの新たな巨匠による、初期の傑作短編集。

    「皮肉とユーモア、不安と恐怖が知性の房を抜ける鮮血となって、文学の心臓を支えている。」堀江敏幸

    「哀しくも可笑しく、戦慄すべき物語……比類なき作家」イグナシオ・エチェバリア、『エル・パイス』紙
    「独創的で、激しく、胸を引き裂くような作品群」J・A・マソリベル・ロデナス、『ラ・バングアルディア』紙
    「チェーホフ、カフカ、ボルヘス、カーヴァー、彼らの作品の完璧な受容が、これらの物語の原点にある……彼はスペインで最高の評価を得るラテンアメリカ作家の一人となった」フェルナンド・ヴァルス、『キメラ』誌
    「近年のチリ文学のなかでもっとも興味深く、もっとも素晴らしい発見」ホルヘ・エドワーズ」
    立ち読み↓
    http://www.hakusuisha.co.jp/topics/09003a.php

  • ボラーニョは「野生の探偵たち」を最初に読んだけど、「通話」を先にした方が良かったみたい。この作家の独特な癖に乗る訓練をこの短編集でした後に長編に向かった方がより楽しめたと思うのです。というわけで、現在「2666」を大いに楽しんでいる最中。
    これからボラーニョを読もうとする人には、通話→2666→探偵の順番がおすすめです。
    とにかく、現在、本当に読む価値のある作家であることは間違いありません。今からボラーニョコレクションの刊行が楽しみです。

  • 南米作家好きにはたまらないのでは。私は大好きでした。
    芋虫と、ジョアンナ・シルヴェストリが特に美しかった。

  • 豊崎由美さんが薦めていたのがきっかけで。

    ひとつひとつの短編の量は少ないのに、すごいインパクト!
    そのとき何を思った、このときどう考えた、とか内面のくどくどしい描写の代わりに、「~をした」「~をした」という動詞の羅列。簡潔に書かれているようだけど、そこには確かに一人の人間の人生があるんですよ、ね・・・。
    頭が悪い人にはもちろん書けないし、読むのも困難な小説だ。私、読むの大変だった・・・。

    改行が少なくてページに文字がみっちり詰まっているのも嬉しい。

  • 『バルの入り口にはいつもジローナの麻薬中毒者たちが大勢たむろしており、地元の不良少年たちが周囲をうろついているのを見かけることもしばしばだったが、アンはサンフランシスコの悪党たち、本物の悪党たちのことを思い出し、僕はメキシコ市の悪党たちを思い出して、二人で大いに笑ったものだが、今となっては、正直、何を笑っていたのか分からない。たぶん自分たちが生きていることがおかしかっただけなのだろう。』-『アン・ムーアの人生』

    ロベルト・ボラーニョの短篇を読んでいたら、混乱、という言葉が浮かんできた。

    舞台となるのはいずれも政治体制が大きく変化した過去をもつ町、そして、一つの町に定住する気配を見せない登場人物。必然的に、ものごとは、そして価値観などというものは一過性のものであり、常に流動的であることを、いやそうであらねばならないことを読む側に想い起させる。しかし混乱はそれだけで生じるようなものでもないだろう。

    何もかもが一方的に向かう言葉、行為、そしてそれがまた過渡的であること。その過度に過渡的であることは混乱を生む一つの要因ではあるけれど、一方的に向かうこと、それこそが混乱の主な理由ではないだろうか、と読み進めるうちに気付く。短篇集に付けられた「通話」の原題「Llamadas teleponicas」=「Telephone call」の象徴的な意味が急に迫ってくる。

    もし人生が、ボラーニョの描くような一方通行の語りかけとそれに対する態度保留でのみ成り立っていたら、と想像してみる。すると能動的に何かを行うことは、まるで砂漠に水をまくような行為であるように感じるだろう。言葉を口にすることのむなしさは容易に想像できる。しかし、病や薬物によって通話圏外に留め置かれた人への語りかけが、同じようなものだと、人は考えたがらないことも、少し想像を働かせてみればわかる。人生に必要なものは会話である、といっても常に相手からの適切な返信が必要な訳でもない。受話器の向こう側の無言は、会話を不成立にするものとは限らない。

    ボラーニョの短篇にある過度に一方通行な言葉は、状況の特殊性に紛れて現実的ではないように思ってしまうこともできるけれど、そこまで考えてみると、これがひょっとするとまぎれもない普遍的な現実ではないか、という思いが徐々に強くなってくる。そこから混乱は始まる。言葉が何か思いを乗せて伝わるものである、という命題に対する不安が大きくなる。

    そしてもう一つの要素。ボラーニョの言葉に含まれる警句の響き。それもまた混乱を生みだす原因の一つである。何か象徴的な出来事が描写され、それに対する冷やかな視線が鋭い批評性を伴って投げかけられる。その視線は通話圏外から急に発せられた言葉のようで小さな驚きを生み、観察の確かさが鋭い刃物をうっかり素手で受けてしまったような気分を喚起する。まるで新橋の夜中に道に寝転がる酔っ払いから自分の悩みをずばっと指摘されたような気分と言ってもよいかも知れない。しかしボラーニョはそこで立ち止まらず、更に一枚上手を取ってすくって投げて見せる。

    すると一体自分は右へ向かって放り出されようとしているのか、はたまた左へ向かって突き飛ばされようとしているのかが解らなくなる。自分自身の考えなどというものが、如何にちっぽけで、文脈の作り出す慣性によって左右され易いものであるのか、そのことを痛烈に思い知らされた思いがする。そして混乱が残る。

    『あるとき、どんな女性が好みかと彼に訊いたことがある。暇つぶししか能のない学生のしそうな馬鹿げた質問だった。ところが、芋虫は質問を真に受けて、じっくりと答えを考えた。ようやく彼は、静かな女、と言った。それからこう付け加えた。でも死んだ人間だけだよな、静かなのは。それから少しして、よく考えると、死んだって静かとはいえないな、とつぶやいた。』-『芋虫』

  • いろんな男と女のエピソードを断片的に。全ての短編にどこか暗い雰囲気が漂っているのが特徴か。南米文学としては比較的読みやすい。「ウディ・アレンとタランティーノとボルヘスとロートレアモンを合わせたような奇才」と解説より。

  • た、多国籍風土…っていうのかな…どうなんだろ…
    どこの国なのかも国境なのかも分からない土地の、砂を噛むような読後感覚
    うーん難しい…

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著者プロフィール

1953年、チリのサンティアゴに生まれる。1968年、一家でメキシコに移住。1973年、チリに一時帰国し、ピノチェトによる軍事クーデターに遭遇したとされる。翌74年、メキシコへ戻る。その後、エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪。77年以降、およそ四半世紀にわたってスペインに居を定める。1984年に小説家としてデビュー。1997年に刊行された第一短篇集『通話』でサンティアゴ市文学賞を受賞。1996年、『アメリカ大陸のナチ文学』を刊行。1997年に刊行された第一短篇集『通話』でサンティアゴ市文学賞を受賞。その後、長篇『野生の探偵たち』、短篇集『売女の人殺し』(いずれも白水社刊)など、精力的に作品を発表するが、2003年、50歳の若さで死去。2004年、遺作『2666』が刊行され、バルセロナ市賞、サランボー賞などを受賞。ボラーニョ文学の集大成として高い評価を受け、10 以上の言語に翻訳された。本書は2000年に刊行された後期の中篇小説である。

「2017年 『チリ夜想曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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