神は死んだ (エクス・リブリス)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090275

感想・レビュー・書評

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  • 「神は死んだ」というステートメントは、もはや古臭くて、何のインパクトも持たないように思える。なにしろ100年も前に、神の死は宣告されてしまっているのだから。
    だが、ロン・カリー・ジュニアがこの短編連作で描く世界では、神が死んだという事実は、世界を破滅の淵まで追いやるほどの衝撃を人々にもたらしたようだ。たとえその神が、ディンカ族の若い女として、スーダンの難民キャンプで殺されるほかなかった無力な存在であったとしても。
    聖職者たちは自殺を遂げ、若者たちは無感動に互いを殺し合い、神の肉を食べた犬や子どもを崇め奉るおかしな新興宗教が生まれたかと思えば、それらを弾圧する当局が権威をふるい、「ポストモダン人類学軍」と「進化心理学軍」との間で世界戦争まで勃発する始末だ。いったい、私たちにとって「神」とは何なのだろう? 私たちは今や、神でさえ想像できなかったほどの情報と技術を手にしているというのに。
    その答えは、「神の肉を食べた犬へのインタビュー」の中に示されているように思う。「神」に救済や意味を求めることはできず、ひとは丸裸で孤独なままだ。そこで、問いは次のようなものになる――と、神の肉を食べて人を遥かにしのぐ能力を得てもやはり無力な犬にすぎない犬は言う。この知識を甘受して、それでも生きていけるか?それとも、押し流され、中身を失い、君も抜け殻になってしまうのか?と。
    実際、神が、あらゆることを知りながら他人も自分も救えない無力な存在であるとするならば、それは、なんと人に似ていることだろう。誰にも気づかれずにスーダンで殺された若い女が神だったのだとすれば、誰でも神であり得た。多くの神が無力なまま死んでいき、パウエルのように大きな権力をもつ者にすら何も変えることはできない。この世界に耐えて生きていくのか、それとも最終章のアメリカのように、現実から退行するために神のごとき力を使うのか。
    面白い発想の連作だけど、やや観念的にすぎるかも。もう少し現実にクロスする作品が読みたい。

  • 神聖で全能であるはずの神が無力な人の姿で人探しをし、あっけなく殺される。誰に祈ることもできず…。カラマーゾフの兄弟の「神がなければすべてが許される」という一節からインスピレーションを得た短篇集。「神を食べた犬へのインタビュー」「恩寵」「小春日和」「橋」「神は死んだ」冴えていて胸に迫る短篇だった。連作のセリアとアーノルド母子の話が私にはちょっと物足りなかった気がする。

  • 圧倒されるような連作短編集。一人の無力な黒人女性に姿を変え、難民キャンプに降り立った神が死に、それによって変貌して行く世界が描かれる。神の死が全米を駆け抜けたときの話、その後に荒廃した世界でお互いに銃を突きつけあって全てをおわらせようとする親友たち、神が死んだことで始まった児童崇拝を予防するための精神科医、田舎町の一コマ、神を食べた犬へのインタビュー、ポストモダン人類学軍と進化心理学軍が戦う世界の高校生と母親の対立、兄が殺人犯となった弟、戦争からの敗残兵が見た世界。
    神が死んだ、その後の世界が恐ろしい想像力で描かれる。

  • 感想
    信仰がない世界で何が起きるのか。拠り所をなくした道徳はなんの意味を持つのか。灰色の世界が広がる。これからは自分たちの足で歩く。

  • 神の死後日常が、世界が、かわっていく様が描かれているが、独特な設定を把握するのに時間がかかってしまった。多分、自分の信仰心が薄いためだろう。今までとは違うディストピア小説、という気がした。

  • 作品自体は非常に好み。幻想的な想像力にた依らず、現地で生活していて感じる不穏さ、不透明さ、薄気味悪さ、そういうのの原動は何なのか、と問い詰めた所にこの本の存在があるようで、生きた聖書のような。
    こういう作品を書いてしまえる作者のバックグラウンドが知りたいと思うも、後書きにはなーんも書いてなく、調べてもなーんも出てこなくて。てっきりイスラム系と思って読み進めたが。世の中の新興宗教ってなんで「宗教」って名乗っているの?人を選別するアイテムとして存在するのが宗教?そんなの争いの元って誰でもわかるよね?

  • 文学

  • 神様が本当に死んでしまった世界という誰も思いつかなかった設定。

  •  9編からなる連作短編集。
     ここで言う神とはメタファーとしてのそれではなく、人間の女性の肉体を間借りして、難民キャンプを訪れたら殺されてしまった、ということなので「本当の神さま」がいなくなってしまったことになる。
    「救済のヘルメットと精霊の剣」と「退却」の2編以外には、直接的な内容の繋がりはないが、どの短編も神が死んだことにより引き起こされる悲劇や騒乱を描いている。
     ただ読んでいて思ったのは、ここに描かれている世界は決して神がいなくなったことにより出現した世界ではないな、ということ。
     神が存在しようが不在であろうが、ここに描かれている世界は間違いなく「人間が存在している世界」なのだ。
     それらは、とても印象深い世界であり、とても悲しい世界であり、とても滑稽な世界であり、とても残酷な世界であり、それらは神の有無に関わらず、人間の営みに伴って築き上げられた世界に違いない。
     読んでいてそう思わずにはいられなかった。
     本書は、ユーモラスでもなければ、SFやファンタジーでもないし、ましてや宗教絡みの作品でもない。
     非常に現実的な内容の作品だと思う。
     読み応え充分であり、心の奥深くを鷲掴みにされるような気持にさせられる。

  • 「神は死んだ」ニーチェの言葉が、いま発せられたものだったら。
    神は冒頭でディンカ族の女として現れる。神が、人の形をとって現生する、という設定から、神話の混ざったSF色の物語かと思いきや、パウエル氏が出てきて、なんだこれは、と解明欲求から読み進めていくうちに、ふしぎに物語に引き込まれていく。
    圧倒的に時代は現在なのに、人々は神が死んだと宣告に右往左往する。
    どの短編も、人の死、戦闘、悪意憎悪がデフォルト世界であり、そのなかで人は不条理を受け入れつつそれでもかすかに愛の記憶を覚えていたりする。
    「神を食べた犬へのインタビュー」などは、カフカを思い出したりした。

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著者プロフィール

アメリカの作家。著書に「Everything Matters!」など。

「2013年 『神は死んだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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