台所のマリアさま (評論社の児童図書館・文学の部屋)

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  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566011366

感想・レビュー・書評

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  • 児童書のカテゴリーに入るのだろうが、大人向けと言える。
    まるで短編映画を見るような感動的な展開で、さすがのゴッデン作品。
    読み終えて一週間ほど経つのに、心に響いた音色がまだやまない。

    主人公は9歳のグレゴリー。7歳のジャネットという妹がいる。両親はふたりとも建築家。
    そこに、子どもたちの世話のために一年契約で雇われている女性がひとり。
    このウクライナ人の女性・マルタは故郷を失っており、いつも悲しげである。
    成績優秀だが誰にも心を開かないグレゴリー少年は、唯一このマルタにだけは心を開く。
    「家に灯りがともり、自分を迎えてくれる者がいる」のは、言葉に尽くせぬ喜びだったし、「母親がまだ帰ってこない時間帯にやりきれない気分になる」グレゴリーにとっては、彼女は「家」そのものだった。ゲームに加わることもなく陽気でもないが、マルタが大好きなグレゴリー。
    だが、そのマルタが悲しんでいる。ここの台所には「いい場所がない」からと。
    「いい場所」とは、幼子イエスを抱いたマリア様の絵。それも金や宝石で飾ってあるらしい。
    グレゴリーはジャネットとふたりで、マルタのために「いい場所」を作ってあげようと考えるのだが・・そもそもどんな絵なのか、描いたものか写真か彫刻か、手作りというならその素材は?
    材料はどこでどうやって調達すれば良いのか、そして費用は?

    それは途方もなく遠い道に見える。だがグレゴリーはやってのけたのだ。
    それも一年契約という限られた時間と乏しいお小遣いの中で。
    読みどころはここの部分で、もう困難なアドベンチャーものと言えるほどの道のりだ。
    何よりも周囲に心を開かないグレゴリーが、その道のりで成長していく。
    他人と言葉を交わして協力をお願いしては関係を築き、感謝の言葉を知り「愛」を知っていく。
    誰かに言われたからでもなく、大好きなマルタを喜ばせたいと東奔西走する姿は、家を求めて得られなかった自分自身の癒しの過程でもあったのだ。

    完成したマリア様の作品の挿絵が現れると、嬉しくてこちらも声をあげてしまうほど。
    両親がまずグレゴリーの部屋に通されるのだが、一部始終を聞いて母親が泣き崩れる場面が印象的。グレゴリーには、母親の涙の意味がまるで分からない。でもきっと成長とともに理解するだろう。自分がどんなに周囲を混乱させ傷つけて来たか。
    子どもを持つ親御さんは、ここは堪らないだろうな。
    マルタに作品を披露する場面も感動的で、グレゴリーの幸福感がしんから伝わってくる。

    あまりに内向的で外界に適応できなかったグレゴリーが、ラストでは大層たのもしい。
    宗教色が強そうな表紙で敬遠されそうだが、内容は少年の心の成長を描いたもの。
    名作なのでもっともっと読まれてほしい。

  • イギリスで、建築家の両親と3つ下の妹ジャネットと暮らすグレゴリー。小さな頃から母を助けるお手伝いさんと暮らして来たが、たびたび変わるため落ち着かない。それが、新しく来たマルタとは気が合い、懐いている。マルタは心に孤独を抱えている。グレゴリーもそうなのだ。そして、マルタが、自分の居場所であるこの台所には何かが足りない、と話した時、それをマルタに与えるのは自分しかいない、と思う。
    そこからのグレゴリーの行動力や変化は両親やジャネットを驚かせ、グレゴリー自身もびっくりするほどだった。グレゴリーとジャネットの会話は、本当に楽しく、仲の良さが微笑ましい。
    台所のマリアさまをもらったマルタの喜びはいかほどか、とこちらも嬉しくなる。素晴らしい作品で、何度でも読みたくなる。

  • 心があたたかくなる話だった。思いやりからの行動はこんなにも力強い奇跡を呼ぶのか。知らない世界に飛びこんで、ハラハラドキドキ…。出来上がった聖母マリア様と、知らず知らずのうちに自分の殻を破って成長していた少年に、涙する。挿絵もとても素敵。とても良い本を読んだ。

  • 長くはない児童書の中に,失われた国への悲しみや祈り,大切な人への思いやりや兄弟家族の愛情,工夫して物を創り上げることなどたくさんの宝物のような感情が詰まっていて,絵の美しさとともにとても心にしみる物語だった.

  • 1976年初版。古い本ですが、内容は決して古びない良い本だと思います。一人の少年の心の内面が丁寧に描かれていて最後にはとても胸が熱くなりました。その子がいなくなっても誰にも気が付かれないような、ひっそり生きている子どもに焦点をあて、そんな子の中にもドラマがいっぱいあること、(特に大人が)外から見るだけではわからないけれど、その子の中ではたくさんの悲しみや寂しさ、悔しさ、喜びが沸き起ということが書かれていてこれぞ児童文学と思いました。始まりはお手伝いのマルタが不幸そうにしていること。内向的な少年グレゴリーは孤独なマルタに同情し、何かしてあげたいと思い、マリア様を作ることにします。そのことを通じて今までにしたことのない経験を(自発的に)し、心が開かれ、成長していきます。私はグレゴリーがマリア様を作る過程がとても好きです。布がうまく合わなかったりした時のがっかり、ひらめいた時の一気に作業が進む集中力、出来上がっていく喜びと楽しさ、そして何か(船の絵)を手放す悲しみと決意。物を(人のために)作るときの心模様が手に取るように伝わってきました。お母さんが泣くところ、マルタが祖国の言葉で祈るところ、グレゴリーの手を紳士の手を握るように感謝の気持ちを込めて握るところ、どの場面も胸が熱くなる素晴らしい結末です。キャンディー屋さんも布屋さんも大人がそっと見守ってくれるところも素晴らしい。
    表紙も活字の組み方も地味で、内容も派手な出来事のない本ですが、とても大切なことが詰まっている一冊です。もっと今の子に手に取りやすく版を変えてくれたらという願いを込めて星4つ。

  • 両親は仕事で忙しく、構ってもらえないグレゴリーは9才にして周囲の人を拒み、部屋には誰も入れないといった閉鎖的な性格に。
    ところが何人目かに来たお手伝いさん‐ウクライナ人のマルタ‐にだけは心を開きます。そして《正しい場所》がないと嘆くマルタのためにある贈り物をしたいと願います。贈り物を探し、そして作っていくうちに、閉ざされたグレゴリーのこころが徐々に開いていく・・・・・・その過程に引き付けられました。
    マルタの辛い過去にグレゴリーが心を寄せていくところもとてもいい。

  • 最後は読んでいて涙が出ました。

  • 子ども心ながら、泣きました。

  • 故郷を追われ、異国で孤独な生活を送るウクライナ人のマルタに、いい場所(心のよりどころ)として、台所のマリア様を手作りしてあげたいと思ったグレゴリー。
    いつもは内向的で、めったに人と話さないのに、材料を手にいれるために様々なお店に出掛けて行く。高級宝飾店に行って全く場違いなのとお金が全然足りないのとですごすごと引き上げたり、帽子屋さんで事情を説明して端切れをもらったり、お菓子屋さんで自分の腕時計をカタにお菓子を買おうとしたり(包み紙が必要なのだ)、とにかくマリア様を作ってあげたい一心で動くのだ。
    そういう経験の中で、人に協力してもらうことを覚えていく…特に妹ジャネットは、いつもお兄ちゃんに邪険にされているのに構わずどこでもついていく。そして、お兄ちゃんにいろんなアイデアを出して事の成り行きは良い方へと進んでいく。ついにマリア様が出来上がって両親に見せる時「全部自分で考えたのよ。どんなに細かいところもよ」と誇らしげに言う。そして「あんたの絵のほうが、博物館にあるのよりずっといいと思うわ」とも。そして、今までだれも入れなかったグレゴリーの部屋にいつでも自由に出入りできるようになっている。
    もちろん、マリア様を贈られたマルタの感激はすごかった。
    人を喜ばせるために動くことで自分もまた喜びを受けとることができる。これを意図せずやれることがいいんだよね。

  • 読み終わって、後書きを読んだ。著者は、植民地下のインド育ちと知った。そうか、インドの台所には、ヒンディーの神様の祭壇があるもんなー。
    と、違うところにリンクしてしまう私。
    古い本だけど、訴えかけるものがある。
    幼少期に、人恋しいときに、そこにいてくれる存在が必要…。ガンガン共働きを推し進める日本は、どうなっていくのかしら。

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著者プロフィール

ルーマー・ゴッデンRumerGodden1907~1998。英国サセックス州生まれ。父の仕事の関係で、生後六カ月で当時英国領だったインドに移り住む。十二歳のときに英国へもどるが、その後もインドとを行き来して暮らした。一九三五年に作家として活動をはじめ、おとな向けや子ども向けに数々の作品を生み出した。作品は長編小説、短編小説、戯曲、詩など多岐にわたる。日本で紹介されている子どもむけの本に、『人形の家』(岩波書店)、『ねずみ女房』(福音館書店)、『バレエダンサー』(偕成社)、『ディダコイ』(評論社、ウィットブレッド賞)、『ねずみの家』『おすのつぼにすんでいたおばあさん』『帰ってきた船乗り人形』『すももの夏』などがある。

「2019年 『ふしぎなようせい人形』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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